ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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藍華・S・グランチェスタは、一人前(プリマ)ウンディーネとして、また、姫屋カンナレージョ支店の支店長として、日々起きる問題に悪戦苦闘しながらも、充実した日々を送っていた。
これは、その藍華が書き留めた膨大な日誌や報告書の中で、「恥ずかしい日誌、禁止!」と、自ら封印した日記風日誌の、とある一日の記録を紐解くものである。

朝のルーティン失敗から立ち直ったかと思いきや、秘蔵のプリンを食べられた上にお説教までされてしまい、テンションダダ下がりの藍華。この後、一体どんな華麗なる一日が待ち受けているのであろうか?



(藍華編)その 華麗なるステップとスワップは……(3)

ああ、疲れた……

 

私は自分の席に戻り、突っ伏していた。

 

まさか、朝からあんな事で三十分以上もお説教を喰らうとは思わなかった。

 

……おかしい。

 

私の記憶が確かならば、そもそもショルダータックルなどした覚えはないのに。

 

決して、あのプレミアムプリン2個を食べられた恨みで補正された訳ではないと思うが、あの体幹最強の晃さんが倒れてしまったのは想定外だった。

 

きっと、一瞬の油断というか、虚をつかれたのだろう。

 

そうだ、灯里に聞いてみなきゃ……。

 

結局、あの鬼軍曹状態の晃さんからは、今日の午後に実施される、『未来のお仕事体験会』について、何も聞けないまま帰られてしまった。

 

ピンチヒッターとして予定を押さえられていた灯里なら、大体の事は知っているに違いない。

 

「♪でんわ~え、でんわ」

 

売り子の様な歌を口ずさみながら、灯里電話をかける。

 

…………出ないわね。

 

コール音は鳴るのに、一向に出る気配はなく、留守電にもならない。

 

そういえば、ARIAカンパニーの留守電の自動メッセージの声は、未だにアリシアさんのままらしい。

 

以前は、ポニ男の様な(マニア)が、その声を聴きたいが為だけに、大した用もなく、わざと営業時間外に電話をかける、という事もあったらしい。

 

私ですら、営業時間内にしかやったことがないと言うのに、全く迷惑な話だ。

 

休み? それとも、どこか出かけてる? そう思っていたところへ、電話がつながった。

 

「ハア、ハア……はい、ARIAカンパニーです」

 

「あ、灯里?」

 

「ああ、藍華ちゃん?」

 

「だ、大丈夫?」

 

「うん、ごめんなさい。あう……うんっ……ちょ、ちょっと……さっき起きたばかりで……」

 

「ああ、もしかして、起こしちゃった?」

 

「あっ……はひっ……そんな事は、ないよ。今日は……んんっ……休みなんだ」

 

「ねえ、何か息が荒いけど、ホントに大丈夫?」

 

「大丈夫んっ……あっ」

 

「そうは思えないんだけど……」

 

「ご、ごめん……それで、なあに?」

 

「ああ、そうそう。今日の『お仕事体験会』の事って、灯里がピンチヒッターの予定だったって聞いたからさ」

 

「あ、藍華ちゃんが……やっ……やるの?」

 

「そーなのよー。何かさっき急に言われたんだけど、アリシアさんのご推薦だって言われてさ。そりゃやるでしょうよ」

 

「はひっ、そっ、そうなんだ」

 

「でさー、そこでなんだけど、灯里は、今日の体験会の概要書とか貰ってる?」

 

「んんっ! うん」

 

「悪いんだけど、ちょっと見せて貰いたいからさ、今から行ってもいい?」

 

「あっ……うん……あっ、イヤッ……」

 

「えっ?」

 

「ち、ちが……あっ! ダメですうっ!」

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だからっ! 後でメール送るからごめんもう切るね!」

 

「あ、あの、灯里?」

 

ええーーーっ!? 何? 今の何?

 

 

『妙だな……』

 

『どうしたの? グラン君』

 

『いや、寝起きのはずなのに息が荒いし、妙な声を出していた。しかも最後は、ひどく慌てているようだった』

 

『あれは、トイレに行きたくて、ガマンしてたとかじゃないんですかねえ』

 

『エス彦君、サイテー』

 

『ええっ? どうしてですか?』

 

『バッカじゃねえの? それだったら、先にトイレに行って、後でかけ直せばいいじゃねえか』

 

『チェス太の言う通りだ。それに、仮にトイレに行きたいのを我慢していたとしても、藍華が行きたいと言うのを、ダメだと拒否する理由が無い』

 

『そうだよねえ。じゃあ、何だろう? 風邪とか?』

 

『いや、灯里以外に、誰かがいた可能性が高い』

 

『って言う事はですよグラン君、まさか男……』

 

『エス彦君、サイテー』

 

『ええっ? どうしてですか?』

 

『いや、エス彦の言う事も、あながち有り得ないって事もない』

 

『えっ? それじゃあ……』

 

『ああ、そいつに脅されて、電話に出る様に言われたのかもしれないな』

 

『俺、もみあげ姉ちゃんの事だから、蒲焼き作るのに、鰻の掴み取りでもしてんのかと思ったぜ』

 

『いや、ボクはてっきり……』

 

『エス彦君、サイテー』

 

『まだ何も言ってないじゃないですか!』

 

『おいおい……。とにかく、灯里さんの身に何かが起きているのは間違いなさそうだ。様子を見に行こう!』

 

『『『オーッ!』』』

 

という、謎の組織の薬の副作用によって身体が小さくなっちゃったハイスクールの生徒が、プライマリースクールに通いながらクラスメイトと少年探偵団を結成しちゃう、推理マンガの様なセルフ脳内問答をして、状況を整理する。

 

そして、やはり灯里の身に何か危険なことが起こっているかもしれない(決して興味本位ではない)ので、行って確かめよう、という結論に至ったのだ。

 

待ってなさい、灯里。この藍華さんが、いま覗き……じゃなかった、助けに行くからね!

 

そう思って、急いで仕度をしてからドアを開けると、見習い(ペア)の子達が、まさに堰を切ったようになだれ込んできた。

 

「ちょ、ちょっと?」

 

「支店長、この前提出したゴンドラのメンテナンスのスケジュール表、変更したいって人がいるんですが、どうしたらいいですか?」

 

「支店長、業者さんから入口のレイアウト変更の見積書が来たんですけど、急ぎで見て戴けませんか?」

 

「支店長、今度のクルーズイベントの件なんですが、全体の打ち合わせはいつにしましょうか?」

 

「支店長、本店からこの前のお客様対応に関する報告書の催促が来てるんですけど……」

 

「あ、あの、そんないっぺんに言われても……」

 

タジタジになっている所へ、追い打ちをかけるように、山盛りの書類を持った子が現れる。

 

「支店長、決裁書類をお持ちしましたぁ!」

 

「ええっ? そんなに!?」

 

「またまた支店長。これは昨日の分ですよー。今日の分はこれからお持ちしまーす!」

 

「あは……あはは……」

 

____________________

 

 

ああ、疲れた……

 

私は自分の席で、再び突っ伏していた。

 

まさか、朝から仕事が怒涛のように押し寄せるとは。

 

結局灯里の所には行けないまま、お昼を回ってしまった。

 

……おかしい。

 

何だか今日は、朝から色々な事が起こり過ぎじゃない?

 

もしかして、昨夜見たあの変な夢は、何かこの事を暗示していたってこと?

 

いや、そんなこと考える前に、資料チェックしなきゃ。

 

灯里から資料の添付されたメールが来ていたのを思い出す。

 

メールでは、朝の会話については一切触れられていなかったが、いつもの如く、恥ずかしいセリフ満載の文面だったので、少し安心する。

 

返信メールで、お礼がてら、最後に『恥ずかしいメール、禁止!』と突っ込んでおこう。

 

外に出る時間もないので、買って来て貰ったお昼を急いで食べながら、概要書を確認する。

 

なあんだ、大したことなさそうじゃない。

 

前半は、簡単に水先案内業界についてのレクチャーをした後で、ウンディーネの普段の一日を、実際に仕事場を見て貰いながら教えたり、お客様のご案内をして貰ったりする。

 

後半は、外に出て、私をお客様にして、練習用のゴンドラをこいで貰ったり、観光案内をして貰う……という、まさに入社したての見習い(ペア)の子達がやるような内容だ。

 

お昼を食べ終わり、一息ついていると、ドアがノックされる。

 

「はいはーい。どうぞー!」

 

「失礼します」

 

「どうしたの?」

 

「あの、ミドルスクールの制服を来た方が三人、支店長を尋ねていらっしゃっているんですけど……」

 

時計を見ると、まだ約束より15分程時間があるようだった。

 

きっと、早目に行くように言われたのだろう。

 

「ああ、ごめんね。言うの忘れてたんだけど、今日は、ミドルスクールの職業体験会の予定が入ってたのよー」

 

「あ、はい。それは知ってます」

 

「えっ?」

 

「今朝、支店長が来る前に、晃チーフから概要書と生徒さん達用の制服を渡されましたから。『よろしく頼む』って……」

 

「えっ?」

 

概要書と制服? いや、そーゆーのは私に渡せよ!

 

と、心の中で思ったが、渡したのは晃さんだし、私が言わなかったせいでもあるので、突っ込みは入れない事にする。

 

「ああっ、そうだったの。ごめんね、私からもきちんと言わなきゃって思ったんだけど……」

 

「いえ。それで、どうされますか?」

 

「ああ、こちらにお通しして」

 

「いいんですか? きっと驚きますよ?」

「え? どして?」

 

「あ、いえ……。では、皆さん、中へどうぞ」

 

いやもうそこにいるんかい!

 

……と、突っ込みたかったが、恥の上塗りになるので黙っていた。

 

程なくして、懐かしい、ミドルスクールの制服姿の少女が入って来る。

 

「「「失礼しまーす!」」」

 

「はいはーい! こんにち……はあっ?」

 

どういうコト!? どうなってるの!?

 

その三人は、どういう訳か、かの三大妖精と瓜二つだったのである。

 

「「「今日はよろしくお願いしまーす!」」」

 

深々とお辞儀をして、直った三人を、まじまじと見る。

よぉーく見たら、多少は似てない部分もあるかもしれないが、フォルム、髪型、肌や眼の色など、ほぼ三大妖精そのものだ。

 

いや、ミドルスクールの学生なので、まるで、謎の組織の薬の副反応によって身体が小さくなっちゃった大人の三大妖精が、ミドルスクールに通いながら一人前(プリマ)ウンディーネを目指している、という感じだ。

 

「あの、支店長?」

 

「えっ? ああ、ちょっと、ごめんなさいね。貴女はもう外していいわよ。ありがとうね」

 

「はい、でも、制服に着替えなくて、いいんでしょうか?」

 

「あ、そっか! ごめん、じゃあちょっと、三人とお話したいから、少しだけ外で待っててくれない?」

 

「あっ、はい。分かりました」

 

何となくだが、『やっぱそういう反応になりますよね』とでも言いたげな表情をしていた。

 

とにかく、ビビっていても始まらない。アリシアさんのご指名なのだから、何があってもやり遂げなければ!

 

気を取り直して三人に話しかけた。

 

「姫屋カンナレージョ支店へようこそ! 私は、今回皆さんの『お仕事体験会』を担当する、藍華・S・グランチェスタです! みんな、今日はよろしくね!」

 

あえて、支店長など、威圧的に感じるであろうワードを出さず、フランクな感じにしたところ、少しだが、空気が和んだような気がした。

 

「ええっと、じゃあまずは、自己紹介をしてもらっても、いいかしら?」

 

私が促すと、ミニサイズのアリシアさんが、一歩前に出た。

 

「じゃあオレから。8年生のアイシア・E・フェリーラって言います。宜しくお願いします!」

 

次に、ミニアテナさんが前に出る。

 

「同じく8年生の、アルテナ・ロフレンスと申します。よろしくお願いします」

 

「ええっと、わた…うわあっ!」

 

最後に鬼……ではなく、ミニ晃さんが前に出ようとして、何故かコケそうになり、すんでの所で踏みとどまった。

 

「あの、ごめんなさい。私は、(あきな)・リローグです~。よろしくお願いしま~す」

 

「おい(あきな)。何年生かぐらいは言えよ」

 

「あれ~? 言わなかった~?」

 

「あらあら、(あきな)ちゃんったら、うふふ」

 

なんじゃこら? どうなってんのコレ?

 

三人のやり取りを、脳をフル回転して整理する。

 

アイシアさんの外見はアリシアさんで、性格は晃さん。

 

アルテナさんの外見はアテナさんで、性格はアリシアさん。

 

(あきな)さんの外見は晃さんで、性格はアテナさん。

 

うん、なるほど。いや、なるほどって?

 

特に、アリシアさんがオレって言うのは……。

 

整理は出来たが、私の中では混乱が続いていた。

 

「すいません、(あきな)も、オレやアルテナと同じ8年生で、みんな同じクラスなんです」

 

「あっ? えっと、あーっ、そうなんだ。だからみんな仲良さそうなのね?」

 

「まあ、仲がいいって言うか、いつもドジっ子の(あきな)を、二人で見守ってるって感じだよな? アルテナ」

 

「あらあら、そんなことないわよアイシアちゃん」

 

「そうね。私、確かにドジっ子だけど~、いつもって訳じゃ~」

 

「いーや、いつもだろ? この前なんてオレやアルテナがいなかったら、校舎が倒壊してたかもしれないんだぞ?」

 

「ええ~? そうだっけ~?」

 

「ほらほら、アイシアちゃんも(あきな)ちゃんも、支店長さんの前なんだから、もうその辺にしましょ?」

 

「あ? ああっ、すいません……オレ達、いつもこんな感じなんです、エヘヘ……」

 

テレるアイシアちゃん。アリシアさんだと思うと、なかなかのレア度である。

 

「ええっと……そろそろいいかな? じゃあ早速、始めましょう! じゃあとりあえず、制服に着替えてきてね!」

 

「「「はい!」」」

 

「よぉし! アルテナ、(あきな)、気合い入れて頑張ろうぜ!」

 

「アイシアちゃんったら、うふふっ」

 

「頑張…うわっ!」

 

「おっと! おいおい(あきな)、しっかりしろよ?」

 

「うん、ごめんなさ~い」

 

三人を見送った後、残された私は、思わずこう叫んだ。

 

「うおおっ! ややこしいーーっ!」

 

しかし、これはまだ、今日という一日の、ほんの序章に過ぎなかった事を私は知るよしもなかったのである。

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