ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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水無灯里は、一人前(プリマ)ウンディーネとして、また、かのグランマの設立したARIAカンパニーの後継者として、日々起きる問題に悪戦苦闘しながらも、充実した日々を送っていた。
これは、その灯里がアイちゃんとのメールのやり取りにおいて「やっぱりちょっぴり恥ずかしいから、送らないでおこうっと」と、自ら封印したメールに書かれた、とある一日の様子を紐解くものである。

穏やかざる朝を過ごしながらも、何とか危機を乗り切った灯里だが、この後一体、どんな行雲流水なる一日が待ち受けているのであろうか?


(灯里編)その 明鏡止水の心を曇らすものは……(2)

「アリア社長~。大丈夫ですか~?」

 

「ぷ……ぷいにゅ……」 

 

今、私の前には昨日食べた激辛中華まんでお腹を壊し、すっかりテンションが下がっているアリア社長がいます。 

 

ただ、朝起きた時と比べると、お手洗いに籠るような事もなくなって、だいぶ顔色も良くなってきたみたいです。

 

きっとAQUA中を照らしている暖かいお日さまが、「がんばれ、がんばれ」と応援してくれているからに違いありません。

 

「朝ごはんはどうしましょう? 食べますか?」

 

「ぷいにゅっ」

 

「そうですよね。何か食べないと、元気も出ませんよね」

 

とは言うものの、いつも食べているような、しっかりした朝ごはんを食べる訳にもいかなそうです。

 

「うーん……そうだ! あのサンタさんのお店の、アレを作ってみましょうか?」

 

「ぷいにゅっにゅー?」

 

「いえ、フライドチキンじゃないですよう」

 

「にゅ?」

 

「サンタさんがいる、中華のお粥屋さんです」

 

「ぷいにゅっ!? ぷいにゅにゅぷいっ」

 

「えーっ? しばらく中華はイヤですか~?」

 

「ぷいっ」

 

中華粥なら、消化にもいいし、具材を入れたら栄養もあっていいかな、と思ったのですが、もう中華はこりごり、というアリア社長。

 

「うーん……。じゃあ、お粥はお粥でも、ミルク粥にしましょうか?」

 

「ぷいにゅっ!」

 

「ふふ、分かりました。じゃあ早速作りますね」

 

「ぷいにゅーっ!」

 

そこには、いつもの食いしん坊さんなアリア社長がいたのでした。

 

作るものも決まったので、早速キッチンに向かいます。

 

「それでは作りましょう!」

 

「ぷいにゅ!」

 

「まずは、鍋でオリーブオイルを熱して、刻んだタマネギが焦げないように、じゅうじゅう炒めて……」

 

「玉葱の色が変わったら、牛乳・水・コンソメを入れ軽く煮立たせて……」

 

「ごはんを入れたら、弱火で5分程、ことこと~、ことこと~」

 

「次は、とろけるチーズを加えて混ぜて、全体がとろとろ~っとなってきたら、あと少し」

 

「最後はちょっぴり黒胡椒、ぱらぱらっとふって、味を整えたら……完成でーす!」

 

「ぷいにゅーっ!」

 

こうして、ほわほわと優しい香りの、ほかほかなミルク粥が出来ました。

 

「それでは、いただきまーす!」

 

「ぷいにゅっ!」

 

「熱いので、ヤケドしないように気をつけてくださいねー」

 

「にゅっ!」

 

「……どうですか? アリア社長、お味は」

 

「ぷいにゅっ!」

 

「美味しいですか? 良かったです~。実はこのお粥の作り方は、この前パンとミルクを届けてくれた、黒いつなぎのシルフのお姉さんに教わって……あっ!」

 

「ぷいにゅ?」

 

「大変! 教わると言えば、藍華ちゃんに頼まれたメールしてないや! アリア社長、食べててくださーい!」

 

ひょっとしたら、藍華ちゃんがまだかまだかと不安に、なっているかもしれません。

 

私は急いで、隣の部屋にあるパソコンを起動して、藍華ちゃんにメールを打ちました。

 

______________________

 

藍華ちゃん

 

今日は、お日さまがとっても元気な、いいお天気だね。

 

さっきは、慌てて電話を切っちゃって、ごめんなさい。

 

ちょっぴり遅くなってしまいましたが、アリシアさんから貰った、添付資料付きのメールを、まるまる転送します。

 

でも、参加する生徒さんって、どんな気持ちなんだろう?

 

もし私が生徒さんなら、ワクワクして、宝石のように目をキラキラさせながら、いっぱい質問とかをして、藍華ちゃんをタジタジにさせちゃうかもです。

 

どんな生徒さんでも、藍華ちゃんらしい、元気一杯、夢一杯の、素敵な「未来のお仕事体験会」になるといいね。

 

それでは、今日の藍華ちゃんが、とっても素敵な一日を過ごせますように。

 

灯里

 

______________________

 

「これを、送信……と」

 

メールが送信トレイから消えたのを確認して、ようやく一息つきました。

 

でも、今日の午後にやるのに、資料を貰ってないって、どうしてなんだろう?

 

そんな疑問が浮かんだのですが、程なく「ぷいにゅ! ぷいにゅ!」と、ダイニングから大きな声がしました。

 

慌てて見に行くと、目を爛々と輝かせておかわりを要求する、いつもの食いしんぼさんのアリア社長がいたんです。

 

「だ、大丈夫ですか? またお腹を壊さないでくださいねー」

 

「ぷいにゅっ!」

 

そんなアリア社長を見て安心したのと同時に、私の疑問の種は、タンポポのようにふわふわと、どこかへ飛ばされてしまったのでした。

 

朝食のあと、アリア社長は外へおでかけ、一方の私は、今日までずーっとやろうと思いながら、できなかった事を、遂に実行に移す事にしました。

 

それは、ARIAカンパニーの大掃除です。

 

一人前(プリマ)に昇格して、このARIAカンパニーを引き継いで、毎日くるくると目が回る程忙しくて、ちょっぴりキツくなった制服すらも、なかなか新調できずにいた私(※)。

 

そんな私が、目下最大の目標と思っていたのが、このARIAカンパニーの大掃除だったんです。

 

「よーし、やりますよーっ!」

 

そう思って、お店のシャッターを開けたのですが……

 

「よう!」

 

「はひっ!?」

 

何と、暁さんがいるではありませんか。

 

「シャッターが閉まっていやがるから、てっきり自慢のもみあげが無くなったか何かのショックで、寝込んでいるのかと思ったぞ、もみ子よ」

 

「だからこれはもみあげじゃありませ~ん」

 

何度も同じ説明はしているのですが、みんな信じてもらえないようです。

 

思いきって、違う髪型にした方がいいのでしょうか?

 

「大体、朝電話をしたんだが、留守番電話にならんのはどういう事だ?」

 

「えーっ? すいません、何時頃ですか?」

 

「5時だ」

 

「ご、5時……。何か急ぎのご用ですか?」

 

「用? そんなものは、アリシアさんの留守番電話のメッセージを聞く為に決まっているだろう」

 

「それは、果たして用事なんでしょうか?」

 

「フン! 冗談に決まっているだろう。もみ子よ、もう少し空気を読んだ方がいいぞ」

 

「はへー……」

 

「大体、『いつまでもこんな所で立ち話も何ですから、ちょっと中でお茶でもどうですか?』とはならんのか?」

 

「あっ、それもそう……ですかね?」

 

「お前が心配で、わざわざ来てやったのだから、当たり前だろう?」

 

「はひ」

 

ひとまず、暁さんをお部屋へとお招きします。

 

「むむっ? この乳の匂いは何だ?」

 

「ああ、さっき、ミルク粥を作ったので、多分その匂いだと思います」

 

「ミルク粥だと!?」

 

「はひっ! ごめんなさい、こういう匂いは嫌いでしたか?」

 

「大……好きではない。好きではないが、もし余っているのなら、食べてやらん事もないぞ?」

 

「ああ、ごめんなさい。実は、全部アリア社長が食べちゃいましたので、余ってはいないのですが……」

 

「そ、そうか……。むむっ? あれは?」

 

見ると、今朝私が思わずアリア社長に投げてしまった、大頭頭というお面が転がっていたのです。

 

「はひっ! ごめんなさい、今朝はちょっぴり色々な事がありまして……」

 

私が恐る恐る、貰った相手である暁さんを見ると、意外にも、満足げな顔をしています。

 

「ちゃんと使ってくれたのか、これは何よりじゃあねえか」

 

「ほへ?」

 

「かぶったんだろう? あれを」

 

「は、はあ……。かぶったというか、かぶせたというか……」

 

「あれは本来、祭りの盛り上げ役がかぶるそうだからな。さぞかしフィーバーしたんだろ?」

 

「フィーバーって……ええっと、まあ、そうかもしれません」

 

「実はあれを買わ……いや、決してチャイナドレスの綺麗なお姉さんに買わされた訳では断じてないのだが、家にもう一つ、買ってあるのだ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

私がちょっぴりジトッとした目で見ると、暁さんは少し焦った顔をしています。

 

「そ、そうだ。せっかくだから、そのもう一個も、お前にやろう」

 

「えーっ? そんな……」

 

「なあに、礼は要らん。元々、藍華(ガチャペン)の奴にやるつもりだったんだが、えらく恐縮されて、受け取らなかったものだからな」

 

「それは、断られたのでは……」

 

「まあそんな事はどうでもいい。とにかく早くお茶を出してくれ。あと、お茶菓子もな」

 

「はひ。そうでしたね」

 

お茶とお茶菓子を出すと、暁さんは、まるでお腹を空かせたアリア社長のように、チョコレートやクッキーをバリバリ食べ出しました。

 

「それで、ご用件は何ですか?」

 

「うむ。単刀直入に言う。もみ子よ、今晩俺様をここに泊めろ」

 

「……はへっ?」

 

「聞こえなかったのか? ならばもう一度言ってやる。もみ子よ、今晩俺様をここに泊めろ」

 

「えーっ? どうしてですか?」

 

私が驚いているのを、不思議そうな顔をして見る暁さん。

 

「何だ、嫌なのか?」

 

「いや、嫌とかそう言う事ではなくてですね……」

 

「何だそれは。嫌なのか、嫌じゃないのか、どっちなんだ?」

 

「いや、ですから……」

 

「嫌なのか?」

 

「いや、そうではなくて……」

 

「嫌じゃあないのか?」

 

「うーん、何て言えばいいのでしょうか?」

 

「つまり、嫌と言う程ではないのだな?」

 

「……そ、そうなるかもです」

 

「そうか、では宜しく頼む」

 

そう言いながら、お皿の最後のお菓子を口に投げ入れる暁さん。

 

「あの、まあ……でも、どうしてですか?」

 

「うむ。実は今晩、こちらで宴会があるのだが、生憎空中エレベーターがメンテナンスで、6時に終わってしまうのだ」

 

「それは、元々分かっていたのでは……」

 

「だが、運の悪い事に、兄貴、ウッディ、アル共に、今日家に泊めるのは難しいと言うではないか!」

 

「それは、みんなに断られたのでは……」

 

「しかし、いくら一人前のサラマンダーである俺様とて、この時期の野宿は辛い」

 

「それは、ホテルに泊まればいいのでは……」

 

「そんな金があったら、ワザワザ俺様がこんな所に頼みに来る訳無いだろうが!」

 

「それは、そうかもですけど……」

 

「案ずるな、もみ子よ。お前が相手なら、心配するような間違いなど、起こるハズなど1ミリも無い! あるわけが無い!」

 

「それは、そもそもが間違っているのでは……」

 

「とにかくだ、宴会が終わるのが夜10時、そこから朝一番の空中エレベーターが動く6時迄でいい。俺様を泊めるのだ、もみ子よ」

 

「それは、うーん……」

 

「もしどうしても何かが心配だと言うなら、いつものドタバタ女3人組で集まってもいいぞ」

 

「それは、ちょっぴり考えますが……」

 

「よし、じゃあ決まりだな。では宴会が終わり次第直ぐに、泊まりに来てやるから、安心して待っていろ」

 

「は、はひ……」

 

私の返事を確認した途端、暁さんは席を立ち上がりました。

 

「じゃあな! ♪おっれっは~、サラマンダー……」

 

お腹が満たされたのか、上機嫌なのかはわかりませんが、暁さんは歌を歌いながら行ってしまいました。

 

何だか、大変な事になってしまったような気がします。

 

ひとまず午後にでも、藍華ちゃんとアリスちゃんに、今晩集まれるか聞いてみなきゃ……。

 

そんな事を考えながら、私はひとまずARIAカンパニーのお掃除に取りかかったのでした。




※もし、お時間があれば、第1章「その 成長の重みを知る者は……」をお読みください
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