これは、その藍華が書き留めた膨大な日誌や報告書の中で、「恥ずかしい日誌、禁止!」と、自ら封印した日記風日誌の、とある一日の記録を紐解くものである。
朝のルーティン失敗からツイてない中、ウンディーネのお仕事体験を三大妖精ソックリのミドルスクール生、アイシア・フェリーラ、アルテナ・ロフレンス、
この後、一体どんな華麗なる一日が待ち受けているのであろうか?
昨晩、私は夢を見た。
三大妖精の目の前で、まるでアテナさんの様に盛大にコケて、バンツ丸出しになった所をアル君と
いや、今考えれば、変な夢ではなかったのかもしれない。
現に私の目の前に、かの三大妖精に良く似ていて、それでいて性格がスワップされた三人が現れたのは、きっとこの事を予知していたのかも。
そうなると、次に注意すべきは、『盛大にコケて、バンツ丸出しになる』という、何とも恥ずかしい事態だ。
常に気高く、いかに華麗な振る舞いで物事に対処するか。
それは、姫屋の社員である以上は当然に求められる能力だし、特に私は、小さい頃からそういった教育を受けて来た。
そんな私が……あの灯里や後輩ちゃんじゃあるまいし、どうしたらあの夢のような事態に陥ると言うのだろうか?
いや、むしろ、コケてパンツ丸出しになるのは灯里で、ポニ男にラリアットを食らわすのが後輩ちゃん、という可能性もある。
ポニ男なら灯里の所に出没するのは珍しくないだろうし、もしや、朝電話した時には、既にいたのだろうか?
それと、あんなにオール捌きが上手な後輩ちゃんなら、あのちっこい身体にほっそい腕でも、でっかい腕力を秘めているのではないだろうか?
そんな事を考えていると、着替えを終えた三人が戻って来たようで、支店長室の外から声が聞こえて来る。
程なくして、ドアがノックされた。
「はいはーい。どうぞー」
「失礼します」
「お、おお……」
これが、灯里が言うところの、『ステキング』ってやつ?
かの三大妖精(のソックリさん)が、全員姫屋の制服を着ている。
もしこれが、本物の三大妖精だっだとしたら……。
「写真よ! 写真撮って!」と、ミーハーで恥ずかしいセリフを連発しちゃって、
そんな気持ちを抑え、あくまでも私は、穏やかな表情を崩さずにいた。
多分写真や動画は撮るのだろうし、後で撮って貰えばいいだろう。
何よりもまず、華麗に、支店長であることを強く意識して振る舞わなければ。
「エヘヘ、どうでしょう?」
「うん! これでみんなも、今日は立派な姫屋の一員ね!」
少し照れながら訊ねてきたアイシアちゃんに、私は満面の笑みで答える。
すると、三人が「わあ……」と、感嘆の声を上げて、お互いを見合い、そして少し恥ずかしそうに笑う。
ああ……
今すぐに「大丈夫。さあ、藍華お姉さんに全てを委ねていいのよ♡」と言って抱き締めたい。
そんな気持ちを抑えながら、三人話しかけようとしたのだが……。
「……あれ?」
何となくだが、アルテナちゃんだけ、少しソワソワしている様子なのが気になった。
「アルテナさん」
「はい」
「もしかしてなんだけど、制服、ちょっとキツ目だったりしないかな? 大丈夫?」
「えっ? い、いえ、そんな事は……」
そんな反応のアルテナちゃんを見て、アイシアちゃんが、横から口を挟む。
「ああ、すいませんね。コイツ、ちょっと胸が皆よりもデカイんですよ」
「ちょ、ちょっとアイシアちゃん!」
「へへっ、いいじゃないか、別に減るもんじゃあるまいし」
「本当にアルテナちゃんは、お胸がポヨンポヨンしているものね~」
「もう、
「ふふ、ごめんなさ~い」
内容だけなら、何となーく三大妖精がしそうなやり取りなので違和感はない。
がしかし、アイシアちゃんが、アリシアさんソックリの声で『コイツは胸がデカイ』などと言っているのには大いなる違和感がある。
結局、違和感が一周した後に、あらゆる方向に向かっている感じだ。
「あの、こちらこそごめんなさいね。本店で用意したものだから、そのサイズしかなくって」
「すみません、ご心配をおかけしてしまって。時間も限りがありますし、本当に私は大丈夫ですから……」
「そう……もし苦しくなったら言ってね」
私はそれ以上、この話はしないようにした。
決して、プロポーションには若干の自信がある私の制服を貸して、それでも胸がキツいとか言われたらショックだからとか、そういう事ではない。
誰かの制服を貸してもいいけれど、2時間という制限のあるなか、今から合うサイズを探しているような暇は無いからだ。
「じゃあ、早速始めましょう! まずは、支店の中でのお仕事からやってもらいます。とにかく明るく、元気良くお願いね!」
「「「はいっ!」」」
「…………」
「あ、あの、支店長?」
「……えっ?」
ふと我に返ると、
「どうかしましたか?」
「う、ううん、何でも無いわ。ちょっと考え事をしてただけよ」
「そうですか、ならいいんですけど……」
「さあさあ、早く行きましょ?」
実を言うと、元気一杯の返事を聞いて、一瞬ではあったが、私は胸を撃ち抜かれたかの様に、軽く萌え死んでいたのだ。
しかし、あくまでもその事は、私の中だけに留めておくことにする。
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「それじゃあ、まずは、ロビーガールのお仕事ね。ここに立って、ご来店されるお客様のご案内をしてもらいます」
支店は駅に近い事もあり、ツアーで来る団体さん等が中心なので、本店と比べると、比較的お客様が出入りする頻度が高い。
なので、お客様が受付に溜まって、混乱したりしないように、整列をしてもらったり、ロビーに誘導したりする人が必要なのだ。
「ご案内の仕方はさっき教えた通りなんだけど、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ! なあ、アルテナ、
「ふええ……ちゃんと出来るかなあ」
「あらあら、大丈夫よ
「そうだぞ
「う、うん……」
「まあ、完全に一人って事はないから、何か困った事があったら、付き添いのお姉さんに確認して貰えばいいから。明るく元気良くやりましょう!」
「「「はいっ!」」」
こうして、『未来のお仕事体験会in姫屋』はスタートした。
付き添いは
最初は、
ああ……いいな。
自分も同じような経験はしたけれど、もし、姫屋で灯里と後輩ちゃんに出会っていたら、私達三人もこんな感じになっていたのだろうか?
「貴様、本当にそんな事を考えおるのか?」
「えっ?」
「考えてもみろ。もし二人が同じ姫屋にいたとしたら、貴様は二人の先輩になってしまうのじゃぞ?」
「それは、そうかもしれないけど……」
「そもそも、貴様はあの二人の天才っぷりを見て何とも思わんのか? むしろ、貴様の支店長の椅子も危うかったかもしれんのじゃ!」
「ええっ? でも……」
「我に口ごたえするな! まあ、我とて奴らに負けはしないだろうが、別の問題もある」
「問題?」
「アリシア殿、アテナ殿はどうなるんじゃ? 今のような関係にはなってないのではないか?」
「確かに……」
「貴様のそういう甘い考えが、我と貴様を、未曾有の危機に陥れさせるのだ!」
「そう……それは大変かもしれないわね」
「分かったか! 分かれば我を敬え、ひれ伏せ!」
「はいはい。じゃあ、今日もお仕事頑張りましょうね」
「う、うむ……」
という、人間界でバイトする魔族とバイト先の店長さんのようなセルフ脳内問答をしてから、改めて三人の様子を見る。
なかなかやるわね……。
たった30分程度ではあったが、終わる頃には、普段、
次に、ゴンドラに乗り降りするお客様の補助を体験してもらったが、これも、
さすがは倍率が高かっただけの事はあって、優秀な生徒が来た、ということか。
「三人ともすごいわね! 短い間なのに、まるで社員みたいな応対をするんですもの。ビックリしちゃった」
素直に褒めると、アイシアちゃんがニコッと笑う。
笑顔だけ見ると、やっぱりアリシアさんそのものだ。
「ありがとうございます! アルテナ、
「うんうん、今のところは上手く行ってるわね。合同練習の効果はテキメンだったわ、うふふ」
同じく笑顔のアルテナちゃん。しかし、
「私は、ドジっ子で、二人に助けてもらってばかりで……」
「あらあら、そんなことないわよ、
「そうだぞ、何もミスしたわけじゃないんだ。藍華さん、そうですよね?」
「えっ?」
シュンとする晃さんなんて見たことがなかったので、鬼もこんな顔をするのか、と見入っていた所を急に振られた私は、少し面くらう。
「ああ、そうね。そうよ、
「はい~……」
「別に、お仕事は、一人で出来ればそれでいいって訳じゃないわ。最終的には、お客様ひとりひとりに『楽しかったな、また乗りたいな』って、素敵な気持ちを持って貰うのが、一番大切なんだからね」
同じ事を灯里が言ったら、きっと私は、『恥ずかしいセリフ、禁止!』と突っ込んでいた事だろう。
しかし、そんな私の恥ずかしいセリフによって、
「そうですか~」
「そうそう!
「だってさ、
「うふふ、良かったわね、
「うん……うん!」
イヤだちょっと何なに? 何なのコレは!?
もしかして、これが青春ってやつ!?
ああ……何だかいい、スッゴクいい!
私はまた、萌え死ぬ寸前で、意識がどこかに遠のいてしまいそうだった。
「あの……」
「うひゃいっ!」
「大丈夫ですか?」
見ると、不思議そうな表情のアイシアちゃん他二名がいたので、何とか取り繕う。
「あ、あの、ごめんなさい。じゃあ最後は、外で操舵の体験をして貰うので、準備をしましょう!」
「「「はいっ!」」」
そう、ここまでは良かった。
このお仕事を引き受けて、本当に良かった、そう思ったのだけれど……。
まさか、この後あんな事になろうとは、その時の私は予想だにもしなかったのである。