これは、そのアリスがにおいて「これは、でっかい不思議すぎる出来事なので、詳細はあまり語らないようにしましょう」と、自ら封印した事件簿の、不思議な一日の様子を垣間見るものである。
自分ソックリの同姓同名のお客様をご案内を終えるも、不思議な言葉を投げかけられたアリス・キャロルに、どんな不思議な出来事が待っているのだろうか?
リーンゴーン、リーンゴーン、リーンゴーン……
今頃、藍華先輩は3時からのおやつタイムをとっているはずです。
確か昨日、大好物のプリン、しかも、朝から並ばないと買えないという、『プレミアムパッチンプリン』が2個手に入ったと、興奮気味にお話されていたので、今日はでっかい全力でそのおやつタイムを楽しんでいるのだと思います。
そう思った私は、少し邪魔をしてしまって申し訳ないと思いながら、藍華先輩がいるであろう、支店長室への直通電話をかけました。
ああ、時間があまりありません。
話したい事が沢山ありすぎているせいか、気持ちだけが高ぶってしまいます。
「はい、もしもし?」
ザザッ……
出たっ! 出ましたっ!
「たっ、たっ、大変ですっ! 藍華先輩!」
「はあ? どしたの?」
「灯里先輩から来たメール、ご覧になりましたか?」
「えっ? 何の?」
「まだ見てないんですか? では、決して驚かないで下さいね?」
「はあ」
「な、ななな、なんとっ! あの灯里先輩がっ! きっ、今日、ARIAカンパニーでお泊まり会をしませんか? っという内容なんですっ!」
「へえ、そりゃまた何で?」
「それが、三人ではないから大変なんじゃないですか!」
「あら、そうなの? 他に、誰か……」
プリンを食べた後のはずなのに、何だかでっかいテンション低めな気がします。
『未来のお仕事体験会』というのは、そんなにも疲れるイベントだったのでしょうか?
そんな事を考えていると、急に、愛華先輩の声色がパッと明るくなりました。
「それって、もしかして、アリシアさんとかっ!?」
「いいえ、違います!」
そう私が断言すると、再びテンションダダ下がりの愛華先輩。
まあ、当たらないでしょうけど……。
「じゃあ、晃さん…な訳ないし、グランマとか?」
「違います!」
「んもう、誰よ一体」
「何と……、その名も、ARIAカンパニーお泊まり会、with暁さんなんですよ!」
「暁さ……って、ポニ男!?」
今度は、驚き半分、怒り半分、という声色になりました。
「なっ、何でポニ男がARIAカンパニーに泊まるの?」
「そこは私も謎なので、先に灯里先輩に尋ねてみたのですが、はっきりとは分からず仕舞いなんです! これって、怪しくないですか?」
「そう……」
「それから、先程、愛華先輩が私の後輩の三人といた時に、私とそっくりのお客様をご案内していたの、気がつかれましたか?」
その時です。
ザザッ……
という、雑音が聞こえて来たのですが、その時は話すのに夢中で、特に気にかけませんでした。
「そのお客様、藍華先輩から見て、でっかい怪しい感じがしませんでしたか? ご予約のお名前はアリスキャロルさんという、どこか違う
「……」
「ああ、それから今日、その不思議なお客様の同乗者の方、と言っても、その不思議なお客様とは関係のないお客様から、『ARIAカンパニーを案内して欲しい』という珍しいご要望がありまして、ご案内はしたのですが、何故か灯里先輩はいらっしゃらなかったんです」
「……」
「やはり、今日の暁さんとのお泊り会の準備をする為に、買い出しにでも行かれたのでしょうか?」
「……」
ひとまず自分の話を、全てした後で、私は藍華先輩からの反応が全く無い事に気が付きます。
「あれ? 藍華先輩? 聞こえてますか?」
「……」
反応がありません。何だかブツブツと声が聞こえるので、電話が切れている訳ではないと思うのですが……。
「藍華先輩!」
「……はふぇ? アリシアひゃん?」
「アリシアさん? あの、藍華先輩、どうしたんですか? 急に」
「えっ? ああっ、あの……そう! 何だか、耳障りな話だなって。そうよ! あのアリシアさん好きを拗らせて、迷惑ばかりかけてるポニ男と一緒に、何で灯里と私達二人が一緒に一晩過ごさなくちゃいけないのよ!」
「ですよね。でっかいあり得ませんよね。では、その件は私と藍華先輩は欠席という事で……」
「いや、行くわよっ!」
「ええっ?」
行かないのに行くとは、一体何なのでしょうか?
「だって、私達が行かなかったら、灯里とポニ男が二人で過ごす事になるじゃないの!」
「た、確かにそうですが、あの暁さんと灯里先輩に限って、何か間違いが起きるとは、とても……」
「そんなの分からないでしょう? そりゃあさ、もう灯里とポニ男は、一緒にツイスターゲームとかやっちゃってる仲かもしれないけどさ、それとこれとは話が別よ!」
「ツイスターゲーム!? ……って、はっ? えっ?」
意味不明の話に、私は混乱してしまいました。
「そうよ! ツイスターゲーム! 今朝一緒にやっていた可能性があるのよ!」
「は、はあ……。そう……なんでしょうか?」
私が首をかしげると、藍華先輩は苛立ちを隠せずにいるようです。
「だーかーら! 後輩ちゃんはオコチャマだから分からないかもしれないけどさあ、とにかく灯里は貞操の危機にあるワケよ!」
「えっ……ええーっ!? その、ツイスターゲームというゲームでですか!?」
「決まってるじゃないのよう! 大体、もし狼状態になったポニ男が暴走して、灯里に乱暴しちゃうとか、とにかく灯里の身に何かあったらどうするワケ?」
「そ、それは……」
「だから、お泊まり会には行かないけど、ARIAカンパニーには行くわよ! 灯里の安全が確認できるまで、外で見張らなきゃ、気が済まないわ!」
「えっ? この冬に……ですか?」
思わず本音が漏れてしまいました。
日中暖かいとは言え、夜は凍えるような寒さです。
「あーら、嫌なら別に後輩ちゃんは来なくていいわよ。ま、今や業界大注目の
悪役令嬢のような藍華先輩の言動に、私は少しムッとしてしまいました。
「むむむ。私はでっかい大丈夫です!
私がそう言い返すと、少したじろぐ藍華先輩。
「へえへえ、そんなこともあったかしらねー。ご忠告どーも。でも、本当に、忙しいなら、無理しなくていいわよ?」
「いえ、灯里先輩の為ですから! しかし、当の灯里先輩にはどの様に言えばいいのでしょうか? まさか、ウソはつくわけには……」
「あら、『明日は仕事の都合で、朝早く起きなきゃいけないから』って言えばいいでしょう? 別に、朝早く起きればウソにはならないわ」
「なるほど、さすがは藍華先輩! 悪……いえ、こういう時の知恵はお見事ですね!」
「何だか言葉通りに受け取れないような……まあいいわ。今日の夜、ARIAカンパニーに行きましょ!」
「はいっ」
「それからさ、今回のミッションは、灯里をポニ男から守る事だけど、場合によっては、私達も襲われるかもしれないわ。だから、制服や私服じゃなくて、ある程度護衛・防衛が出来る服装・装備で行きましょ!」
「分かりました! 何でもいいですか?」
「まあ、甲冑に槍とか、そういう現実離れしてる物じゃなければ何でもいいわ」
甲冑なんて……と思いながらも、私は一瞬、甲冑姿の私と藍華先輩がARIAカンパニーへと突撃する姿を想像してしまいました。
「はい! あっ! この後またお客様なので、それではまた夜に」
「うん、よろしくね!」
ハァー……
思わずため息が漏れてしまいました。
いつもの藍華先輩っぽい感じで終わりましたが、最初の元気のなさ、突然の「アリシアさん」発言に、灯里先輩の貞操の危機だと言う「ツイスターゲーム」という謎のゲーム……。
謎は深まるばかりです。
しかし、それについて考えてもいられない状況に気が付きます。
灯里先輩にお返事をしなければならないのに、次のご案内時間が迫っていたのです。
ただ、電話をした場合、灯里先輩が出れば、つい色々聞きたくなってしまうかもしれないのです。
そう思った私は、メールで欠席の連絡をする事にしました。
灯里先輩
先程はお誘いありがとうございました。
お泊り会の件ですが、明日の朝早くから予定があるので、申し訳ありませんが、欠席致します。
またの機会にお誘い戴けたらと思いますので、よろしくお願い致します。
よし、これで良いですね。
メールを送った私は、すぐに制帽をかぶり直して、お仕事へと戻ったのでした。
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それから、夜までのご案内をつつがなく終えた私は、急いで寮へと戻りました。
こういう時に限って、ご案内の最後が寮から遠い場所になってしまうのはお約束なのでしょうか?
パタパタと部屋へと向かおうとする私に、二人の人物が立ちはだかります。
「あら? アリスちゃん?」
「こ、これはアトラさんに
私が挨拶すると、アトラさんが不思議そうな顔をしながら、こう言いました。
「一体どうしたの? 忘れ物でもしたのかしら?」
「忘れ物? いえ、忘れ物などはしていませんが」
そう言いながら杏さんを見ると、これまた不思議そうな顔をしています。
「えっ? でもさっき……」
「すみません、ちょっと急いでいまして。横、失礼します」
「あっ、アリスちゃん!?」
私は、二人の横をすり抜けると再び部屋に向かって走り出しました。
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「あれ?」
部屋の前まで来た所で、私は少しだけドアが開いているのに気が付きます。
私はきちんと部屋を出る際にドアを閉めたのですが、アテナ先輩が戻っているのでしょうか?
ドアを閉め忘れるなんて、やはりアテナ先輩はドジっ子ですね。
そう思いながら、私はドアを開けて、こう言いました
「アテナ先輩、ドアはきちんと閉めないと……」
と、そこまで言い掛けて、私は言葉を失いました。
そこには、オレンジぷらねっとの制服を着た、それでいて、明らかにアテナ先輩ではない背丈の女性が、背をこちらに向けて立っていたのです。
「あなた、一体何者ですか!?」
「……」
「答えなさい!」
少し強い口調で言うと、その女性から意外な反応が返って来たのです。
「……今日は、ARIAカンパニーをご案内いただき、ありがとうございます」
「えっ?」
その女性が、くるりとこちらを振り返りました。
「わ、わ、わ、私!?」
「どうしたんですか? 私とそっくりの、アリス·キャロルさん」
そうです、それは、昼間出会った、アリスさん(仮)だったのです。
「な、な、何で……」
一歩引きながら、部屋の様子を見渡しましたが、アテナ先輩はまだ戻っていないようです。
「灯里先輩の、怪しい怪しい、暁さんとのお泊り会……。でっかい心配ですよね」
「どっ、どうしてそれを!?」
ナゼ?? どうして??
灯里先輩、藍華先輩しか知らない筈なのに!
「しかし、アリスキャロルさん。もうすぐ、お時間になりますので、今日は、お休みいただきます」
「どういう事ですか!? 事と次第によっては……あれっ?」
逃走経路を確認しようと、開いているドアの方をチラッと見た私が、視線を元に戻すと、目の前にいたはずの、アリスさん(仮)の姿はありません。
「どっ、どこ?」
「フフッ……でっかい大丈夫です」
耳元から聞こえる、その声に気が付いた時にはもう、アリスさん(仮)が私の後ろに回り込んでいたのでした。
程なくして、ドアがパタンと閉まる音も聞こえました。
「ムムッ! ムーッ!」
アリスさん(仮)は、強い力で私の口をふさぐと、スプレーのようなものを取り出しました。
まさか、私はここで……。
「それでは……アリス·キャロルさん。どうぞお休みください……」
シューッ……
吸い込んではいけないと思いながらも、私の抵抗が及ぶ訳もなく……。
ああ、灯里先輩、藍華先輩……。
意識の薄れゆく中、私はただただ、灯里先輩と藍華先輩の無事を祈り続けたのでした。