藍「そりゃあもちろん、素敵な景色を見たり、美味しい物を食べたりしたいなーって思うからよ」
ア「それもありますが、『非日常を味わう』というコトの消費をするためです。それは同時に、ガイドブックや旅行カバンを始めとするモノの消費にも繋がり……」
藍「そーゆー難しい話は禁止よ、禁止。で、灯里はどう思っているわけ?」
灯「やっぱり、出会いや発見があるからじゃないかなあ?」
藍「うんうん、例えば?」
灯「雨の神社で、静かに歩くお嫁さんの一行に出会ったりとか、迷いそうな山奥で、お菓子の家に住むおばあさんに出会ったりとか……」
藍「うんうん……うん?」
ア「それは、夢の様な旅ですね……」
藍「後輩ちゃん、それって……」
ア「はい。これはオレンジぷらねっとが全面協力した、『ウンディーネと行く ぐるっとまるっとネオ・ヴェネチア観光 プレミアムスペシャルパーフェクトガイド』です」
灯「あ! これ、この前本屋さんで沢山売ってた!」
ア「はい。全国の書店や宇宙港などの売店や、Amanon、AKUTEN、Ahhoo!ショッピング、オレンジぷらねっとのホームページ又はゴンドラ船内で、あまりの人気に一時出荷停止になる程、絶賛好評発売中なんですよ」
藍「へ、へえ……。なんか、その営業スマイルに定型文みたいな言い方が、なーんかうさんくさいけど……。本自体はちゃんとしてるんでしょうね?」
ア「そこはご心配なく。ネオ・ヴェネチア定番の名所やお店から始まり、かなりマニアックな場所まで、でっかい簡潔かつ網羅的に紹介している、ネオ・ヴェネチア情報の全部が一杯詰まった、まさにとっておきの一冊になっているんです」
藍「あっそ……。でも、そーゆーのって、お高いんでしょ?」
ア「と、思われるかもしれませんが、なんと!」
藍灯「うえっ!?」
ア「現在、高額下取りチャレンジキャンペーンという事で、ご購入の方には、ご家庭にある古いガイドブック、ネオヴェネチア以外の物でも何でも、このガイドブックの半額で下取りしているんです!」
灯「えーっ!? 実質半額で手に入るってこと!?」
ア「はい! この機会に是非ご検討ください!」
藍「ちょっと! 私達に宣伝してどーすんのよ! で、灯里は何でそんなガッカリしてんの?」
灯「はひっ? そ、そうかな?」
藍「ところで、その表紙のキャラクターは何なの? 何だかアテナさんと後輩ちゃんに似てるような気もするけど……」
灯「はい! はい! それ私知ってる! 『グロちゃん』と『キャロちゃん』だよね?」
ア「流石は灯里先輩。よくご存知ですね」
藍「グロちゃんにキャロちゃん? な、なんか、すごいネーミング……って、え? 待ってよ、それってまさか……」
ア「はい。モデルはアテナ先輩と私ですが、何か?」
藍「ぬなっ……」
灯「うわあ! やっぱりそうだったんだ! たまに出てくる、観光名所にまつわる二人のやり取り、とっても面白いよねえ」
ア「そうでしたか? 載っているのは、実際のアテナ先輩と私の会話を忠実に再現しただけなので、どこが面白いのか、私にはでっかい謎ですけどね」
藍「ちょっと灯里、そこまで知ってるって事は、あんたまさか、買ったんじゃないでしょうね?」
灯「はひっ!? そ、それは……」
藍「……買ったのね?」
灯「は、はひ……。あの、ちょっぴり面白そうだなって思ったんだけど、タワー積みされてて、立ち読み出来る感じじゃなかったから……」
ア「お買い上げありがとうございます! でも、灯里先輩に読まれるのはでっかい恥ずかしいですね……」
藍「あんなに宣伝っぽい事言っといて、今更それ言う?」
ア「買って戴くのと、読まれるのは違いますからね。ああ、それから、3冊以上お買い上げの方には、アテナ先輩又は私のプリントサイン入りクリアファイルまで付くという『まとめ買い応援キャンペーン』も実施していますので……」
灯「へえ、じゃああとで本屋さんに……」
藍「やめんか!」
ア「やはり、出来れば事前学習用、観光用、予備用、保存用、買い逃した方への贈答用、プレミアがついた時の
藍「はいはい、そこまでそこまで。ガイドブックの話はもういいから、さっさと本題に入ってちょーだい」
灯「えーっ? もっと聞きたい事が沢山あるんだけどなあ……」
藍「そんなのより、今は灯里の持ってきた暗号もどきの解読が先よ! って、何で私が言わなきゃいけないのよう!」
灯「あ、そうだったね。ちょっぴり忘れてたよ」
藍「ったくぅ。よくそんなので、ARIAカンパニーの運営が務まるわよねえ……」
ア「あのアリシアさんが、あのグランマが創設したARIAカンパニーを支えられない人を後継者にする訳ないじゃないですか」
藍「ま、そりゃそうよね。あのモチモチポンポンと一蓮托生なんて、灯里ぐらいにしか出来ないか」
灯「あはは……。褒められてるんだよね、わたし」
ア「そろそろ本題に戻りましょう。私の推察では、このメモは、全て観光名所をさしているのではないかと思います」
藍「どうしてそう思うわけ?」
ア「はい。ではまず、この『しろいぞう』と、『きふじん』です。『しろいぞう』と聞いて、先輩方は何か思い浮かぶものはありますか?」
藍「『しろいぞう』なんて、この街の至るところにない?」
灯「『しろいぞう』っていう場所だよねえ……」
藍灯「うーーーん……」
ア「先輩方。そんなに深く考えられてしまうと、日が暮れてしまいます。こちらをご覧下さい」
藍「あら、これはリアルト橋? 何で?」
ア「はい、では灯里先輩。解説のこの部分をお読みください」
灯「ええっと、世界中からの観光客が訪れる、その大理石で出来た美しい橋は、別名『白い巨象』と呼ばれており……あっ!」
藍「『しろいぞう』って、そういう意味なのね!」
ア「はい。恐らくは、ですが」
藍「そっかぁ。私はてっきり、『白い石像』の事だと思っちゃった」
灯「わたしは、『白いぞーっ!』って叫びたくなるような建物かと思っちゃった」
ア「ああ、流石は先輩方。そのでっかい想像力には感服致します」
藍「いや、そーゆーのを無表情・無感情で言わないでよ。何だか悲しくなってくるわ」
ア「はて、そんな気は微塵もありませんが、ご気分を害されたなら失礼致しました。では、次の『きふじん』にまいりましょう」
灯「もし、同じ様に観光名所の別名だとしたら……」
藍「これはもちろん、あそこしか無いわね」
ア「はい。先輩方のご推察の通り、壮麗な景観、その姿の美しさから、別名『水辺の貴婦人』と呼ばれている、『サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会』の事だと思われます」
藍「だとすれば、『たいちょう』っていうのは、サンティ・ジョバンニ・エ・パオロ広場にある、騎馬像のことかしら?」
ア「はい。教会の広場にある、ヴェネツィア共和国に仕えたベルガモの傭兵隊長、コッレオーニの騎馬像ですね」
灯「じゃあ、『しにせかめん』は、仮面屋さん『カ・デル・ソル』のことかな?」
ア「はい。やはり老舗、という点からして、サン・ザッガリア教会の近くの運河沿いにある仮面専門店、カ・デル・ソルの事でしょうね」
藍「うんうん。だんだん調子出てきたわね。次は、『こどもおうさま』って、何かしら」
ア「はい。王様と言えば、イタリア統一の初代国王である、ヴィットリオ・エマヌエーレ2世の騎馬像があります。推測ではありますが、2世なので、こどもと表現されたのではないでしょうか?」
灯「この『さかなたくさん(はやく!)』は何だろう?」
ア「魚がたくさんあると言えば魚市場です。はやく! と言うのは、恐らく早い時間帯、遅くとも午前中でないと、魚の市場が終わってしまうからではないでしょうか?」
藍「凄いわね! もう3分の2が分かっちゃったじゃない」
ア「当然といえば当然です。どれもこのガイドブックには載っていますからね。という事で、藍華先輩もおひとつ如何ですか? 今なら従業員価格でお譲りしますよ」
藍「いやだから要らないってば! 大体、オレンジぷらねっとの関わったガイドブックを、ライバル会社の
灯「はひっ!?」
ア「やれやれ、私は消費者心理を刺激しているだけなのに、こうしてブレーキをかけるから景気がよくならないのですね」
藍「景気の話をする場じゃないんだから! 早く続きをやるわよ!」
灯「えっと、あとは『ししうえいじん』『8○6』『わにからてんごくまで』の3つだね。この最後のわにって、もしかして、あれの事かな?」
ア「ええ、恐らくは。ベネチアの守護聖人で、龍を退治をした伝説がありながら、ネタ被りを回避すべくワニを踏みつける像にしたという、聖テオドロス像でしょう」
藍「じゃあ、そこからてんごくまでって言うのは? 宇宙港の事かしら?」
ア「それも考えられますが、ドゥカーレ宮殿の二階、代表議の間にある、ティントレット作の絵画『天国』の事ではないでしょうか?」
灯「つまり、聖テオドロス像の下でお客様をゴンドラから降ろして、ドゥカーレ宮殿までご案内するってこと?」
ア「はい。最後に書いてありますし、そこでご案内終了、という事だと思われます」
藍「よっしゃあ! あと2つ!」
灯「この『ししうえいじん』って、何だろう?」
ア「恐らくは、獅子とは文字通り、かつてのヴェネツィアの守護聖人サン・マルコの象徴とされた、翼のある獅子像の事でしょうね。その上に偉人、つまりえらい人の像があると思われます」
藍「でも、翼のある獅子の像なんて、至る所にいるんじゃないの?」
ア「いえ、先程気がついたのですが、このメモに書かれている場所は、基本的にゴンドラでご案内が出来る場所なのです。そう考えると、場所は限られてきます」
灯「あ、それなら……、アリスちゃん、それ、ちょっぴり貸してくれる?」
ア「はい、どうぞ」
パラパラ……
灯「もしかしたら、ここじゃないかなあ?」
藍「どれどれ? あら、ダニエーレ・マニン像?」
灯「うん。よく、ご案内の待ちあわせ場所にも使われてるし、この獅子の像って、翼をひろげていて、とっても大きいサイズで目立つんだよねえ」
ア「そして、上に立つのは、かつてヴェネチアがナポレオンにより制圧され、オーストリアの支配を受けていた19世紀半ばに、独立運動の指揮をとってベネチア臨時政府の大統領となった、ダニエーレ・マニンの像です」
藍「なるほど、獅子の上に大統領、つまり偉人かあ。それが答えってこと? 何かあっさりしすぎじゃない?」
ア「別に、こってりする必要はないと思いますが?」
藍「いや、そういう意味じゃないわよ。ラーメンじゃないんだから」
ア「とにかくあと一つ『8○6』ですね」
灯「これは思い浮かばないよねえ」
藍「そうねえ。8に関するもの? うーん……タコ? あーでも悪魔の意味だし、場所とは関係ないかぁ」
ア「悪魔? それは藍……いや、何でもないです」
灯「書いた人のオール番号かな?」
ア「しかし、ARIAカンパニーは少人数で、創設以来8人どころか6人もいなかったのでは?」
灯「そっか、私も見た事ないや」
藍「むしろ、8○6だから7とか?」
ア「しかし、これまでも、比較的シンプルに場所を表していましたので、謎解きのような要素はないと思いますよ」
藍「言われてみればそうよねー。でも、8と6にまつわる場所なんて、ある?」
ア「住所でも無さそうですしね」
藍ア「うーん……」
灯「まさに八方塞がりだねえ……」
藍「ネガティブ発言、禁止!」
灯「えーっ?」
ア「……ん? 灯里先輩、今何と?」
灯「その、八方塞がりって……」
藍「それがどうしたのよ?」
ア「タコ、八方……はっ!?」
藍「何か分かった?」
ア「もしやこれは、建物の形を表しているのでは?」
灯「ほへ? どういうこと?」
ア「
灯「そんな建物、あったっけ?」
ア「それは……。とりあえず、こちらのガイドブックを片っぱしから……」
藍「あーっ!!」
灯「はひっ!?」
藍「ちょっとその本貸して!」
ア「何か思い浮かんだのですか?」
パラパラパラッ
藍「……ふふーん! やっぱり、これだったわね!」
ア「むむ? これは……サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会?」
藍「ほら、説明を読んでみなさい」
ア「はい。サルーテ岬に立つ教会。
灯「あーっ! 藍華ちゃんすごーい!」
藍「ま、私にかかればこんなもの、朝飯前って事よ」
ア「さすが藍華先輩。よく分かりましたね」
藍「うん、いいわよ。私は褒められて伸びるタイプだから、もっと褒めていいのよ。オーッホッホッホ!」
灯「八角形の周りに6つの礼拝堂って意味だったんだねー」
藍「まあ、実の所、ここは
灯「あっ、そう言えばそうだったね」
藍「あの時は緊張のせいか、何だかいつもより早く漕いじゃって、後で晃さんからダメ出しの嵐だったなー……」
ア「あれは大分前のお話ですよね? そんなに印象深かったのですか?」
藍「だって〜。ご案内の間中、滅茶苦茶鋭い眼光で、『お前ミスすんなよ』オーラも凄くて……。あれは
灯「そ、それは大変だったね……」
ア「その様子が目に浮かぶようです」
藍「あーんもう! 灯里のせいで、何だか色々な事を思い出して気分が沈んで来ちゃったじゃないのよう!」
灯「はひっ!?」
藍「こーなったら、甘いパフェでも頼んじゃうんだからね! もちろん灯里のおごりで」
灯「えーっ!?」
藍「あら、誰かに奢った方が、同じガイドブックを何冊も買うより、よっぽど有益じゃない?」
ア「ふふふっ。ご心配には及びません!」
灯藍「えっ?」
ア「今から30分以内にご注文戴ければ、分割払いもOKですし、金利手数料は全てオレンジぷらねっとが負担しますので……」
藍「だからもう! 同業者へのセールス禁止ーっ!」
そんなこんなで、色々な事がありましたが、無事(?)、
私の先輩ウンディーネさんの残したメモは、ネオ・ヴェネチアの素敵が沢山詰まった場所を教えてくれました。
そうそう、メモを見つけるきっかけになった、十年ぶりのお客様。そのお客様がいらっしゃった時に、このお話をしたところ、メモに書かれた場所は、そのお客様が来られた際に、ご希望をされた場所だったそうなのです。
なので、お客様も、わたしも、何だかとっても素敵な気分になってしまいました!
今度、アイちゃんにもこのガイド……じゃなくて、素敵な場所の魅力を、沢山ご案内できるといいな。
灯里さん
私もそのガイドブック、