ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

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わたし、水無灯里は今、ARIAカンパニーを任されて以来、まるで、出口のない迷路をさまようような、とってもどんよりとした、重苦しい雰囲気の中にいます。
それは先程から、アリア社長と干しいもスティックをもきゅもきゅと食べつつ、海に沈む夕日を観ながらたそがれている、アイちゃんが口にした『あれ』についてのお話なのですが……


その 摩訶不可思議な名前の正体は……(1)

愛「灯里さーん! ただいまーっ」

 

灯「おかえり、アイちゃん」

 

社「ぷいにゅーっ」

 

愛「ちょっと、練習頑張り過ぎちゃいました、えへへ……」

 

灯「そう、じゃあお腹が空いたでしょう。お夕飯まではまだ時間があるから、何か軽く食べる?」

 

愛「はい! そうしまーす!」

 

灯「ええっと、今あるのは、干しいもスティックに、芋けんぴ、大学いもに、スイートポテト、芋ようかん、それから……」

 

愛「うわあ、お芋尽くしですね! では、干しいもスティックを戴きまーす!」

 

社「ぷいにゅっ!」

 

愛「アリア社長も食べます?」

 

社「ぷいにゅにゅっ!」

 

愛「うふふ、分かりました。……あ、そうだ」

 

灯「うん?」

 

愛「あの……灯里さん!」

 

灯「はひっ?」

 

愛「おやつを食べる前に、どうしても灯里さんにお聞きしたい事があるんです!」

 

社「にゅにゅっ?」

 

灯「あー……うーんと、あの、何だか大変そうなお話なら、お夕飯でも食べたあとで、ゆっくり聞くとしましょうか?」

 

愛「ダメです!」

 

灯「えーっ?」

 

愛「と、言うことでは無いんですが、どーしても、どぉーしても早く聞いておきたいんです!」

 

灯「そ、そっか。じゃあ、話してくれる?」

 

愛「はい、実は、さっきの合同練習の時に、あずさちゃんから聞いたんですが……」

 

___________________

 

あ「よーし、じゃあちょっと休憩にしましょうか」

 

愛「や、やった~」

 

ド「今日のあずさちゃん、何だか気合が入っているわね」

 

あ「そりゃあそうよ。私達だって、いつまでも半人前(シングル)のままってわけにはいかないんだから」

 

愛「でも、特に今日は特に気合が入ってるって感じがするけど……」

 

あ「まあね。昨日、支店長と話をしたら、私も早く一人前(プリマ)になって、名実共に支店長を支えなきゃ、って思っただけよ。あんた達だって、そうでしょ?」

 

愛「そりゃあ、そうだけど……」

 

ド「それにしても、藍華さんとのお話って、何かあったの?」

 

あ「えへへ……実は昨日ね、支店長室から見習い(ペア)のコが、何だか慌てた様子で出ていったワケ」

 

愛「うわあ、何かトラブルでもあったのかなあ?」

 

あ「ドアもしっかり閉めずに行っちゃったから、相当慌ててたんでしょうね。何かあったのかなって思って、開いたスキマから支店長室をコッソリ覗いてみたんだけど、何だか呪文みたいな言葉をつぶやきながら、机の中からモバイルノートパソコンを取り出したの」

 

ド「それが、どうかしたの?」

 

あ「いや、私も別に、それ自体は『ふうん』って感じで、そこまで気になったワケじゃあ無いのよ? 無いんだけど、ノートパソコンを、こう、しかめっ面して見てたから、支店長があんな顔するの、珍しいなって、やっぱ気になっちゃってさー」

 

愛「結局、気になったんだ……」

 

あ「まあそうなんだけどね。それで、こりゃ何かあったと思って、『失礼しまーす!』って言ってから入ったら……ああ、タイミング的にはドアを開けながらだけど、支店長ビックリして、慌ててノートパソコン閉じて、ご丁寧に指まで挟んじゃってさー」

 

ド「何だか、藍華さんらしくないわね」

 

あ「でしょ? だから、『大丈夫ですか?』って聞いたら、『もう! 突撃禁止!』って言われちゃった」

 

愛「それ、怒られてるんじゃ……」

 

あ「えっ? そう? いつもと変わらない感じだったし、きっと内心は怒ってないから大丈夫よ」

 

愛「そ、そうなんだね」

 

ド「以上、終わり?」

 

あ「いやいや、こっからが本題よ。その時に、『何か、見ちゃまずかったですか?』って聞いたら、『あんたが見るにはまだ早いし、見た所でなーんの意味もないわよ。まあ、あんたが一人前(プリマ)になって、私を補佐できるレベルになれたら、教えてあげなくもないけど』だって」

 

愛「ふうん、あずさちゃん、大変なんだね」

 

あ「はあ? 何ノンキな事を言ってんの? まずは、あんた達が頑張ってくれないと、あたしが一人前(プリマ)になれないじゃないのよう!」

 

愛ド「ええっ!?」

 

あ「だって、考えてもみなさいよ。私達三人は、何のために合同練習してるワケ?」

 

愛「そりゃあもちろん」

 

ド「一人前(プリマ)になるため……よね?」

 

あ「でしょう? つまり、あんた達が一人前(プリマ)になれないっちゅーことはだ、同じ練習をしている私だってなれないってことなのだ!」

 

愛ド「ええっ!?」

 

あ「まあ、私も、支店長から直々に指導を受けているし、二人だって、会社を代表する一人前(プリマ)から指導を受けているんだから。よっ………」

 

愛ド「よ?」

 

あ「……っぽど、期待されてなきゃ、フツーはそんな事にならないのよ? キミ達は、それが分かっているのかな?」

 

ド「確かに、もしアリス先輩のご指導で、一人前(プリマ)になれなければ、アリス先輩も『私は後輩指導も出来ないでっかいダメダメ一人前(プリマ)です』と落ち込まれて、私はシベリア送りです……」

 

あ「そう! そして特に愛野アイ! あんたよ!」

 

愛「私?」

 

あ「あんたがもし、一人前(プリマ)になれなかったら、灯里さんは、ARIAカンパニーはどうなるのよ!」

 

愛「そ、それは……」

 

あ「グランマやアリシアさんから、『あらあら、灯里ちゃんには、一人前(プリマ)を育てるのは、ちょっと難しかったかしら?』とか何とか言われて、傷心の灯里さんは経営権を剥奪され、失意のどん底に叩き落とされて、人知れず寂しく一人前(プリマ)を引退、なんて事になっても、良いワケ?」

 

愛「そ、それは言い過ぎなんじゃ……。でも、私がなれなかったら、別の社員を入れて……ああっ! それじゃあ私が、ARIAカンパニーのお荷物になっちゃう!」

 

あ「そう! だからこそ、皆で頑張って、一人前(プリマ)にならなきゃならんのだ!」

 

ド「そ、それは分かったけど、何だか、話がズレてない?」

 

あ「にゃはは……そうだったかも。とにかく、支店長が見てたのが何だったのかなーってさ、それを知るには、早く一人前(プリマ)にならなきゃダメって話よ」

 

ド「でも、藍華さんは、『一人前(プリマ)になって、補佐ができるようになったら』って言ってるのよね?」

 

あ「そうよ? それが何?」

 

ド「って事は、水先案内のお仕事をひと通りやっている灯里さんなら、それが何なのか知ってるんじゃない?」

 

あ「ああっ!」

 

愛「確かに……」

 

ド「もし気になるなら、こっそり聞いてみたらどうかな?」

 

あ「それアリ! よくぞ気付いたアーニャちゃん!」

 

愛「えっ、でも……」

 

あ「あら、何か?」

 

愛「普段、パソコンを使ってお仕事してる時は、ご予約の受付確認とか、お客様のお礼のメールに返信したりとか、そういう事しかしてないような……」

 

ド「それは、藍華さんと同じで、アイちゃんには見せたくないだけでは……」

 

愛「でも、私が作業中の灯里さんの後ろを通っても、別に画面を隠したりしないよ? 『何してるんですか?』って聞いても、全部丁寧に教えてくれるし……」

 

あ「ふうん、まあ普段灯里さんほとんど一緒にいるあんたがそう言うんじゃ、灯里さんは知らないのかもね」

 

愛「そ、そんなことないよ! きっと知ってるってば」

 

あ「いや、まあホラ、姫屋ってそれなりに歴史もあって、規模も大きい会社だし、そういう会社ならではの、特別な何かがあるのかもしれないしさ」

 

ド「でも、グランマだって、元々姫屋にいたんだから、それを引き継いだアリシアさんから引き継いだ灯里さんが、知らないって事はないんじゃない?」

 

愛「そうだよ。でも、もし灯里さんが知ってても、灯里さんに聞いたことが藍華さんにバレたら、あずさちゃんが怒られるんじゃない?」

 

あ「にゃにゃっ!? た、確かに、それもそうね。まあ、灯里さんが知らなかったら、それこそ支店長に聞かれて、ドツボにはまりそうだし……やっぱりいいわ」

 

ド「確かに、知らなかったらそうなるかもね」

 

愛「そんな訳、ないもん……」

 

あ「えっ?」

 

愛「灯里さんはすっごい優秀で、優しくて、私が一番尊敬してるウンディーネなんだから、知らない訳ないもん!」

 

あ「ああ、いや、勿論灯里さんは優秀だし、私も尊敬はしてるわよ? でもそれとこれとは話が別じゃ……」

 

愛「いや、絶対知ってるもん! そうだ、賭けてもいいよ。もし灯里さんが知らなかったら、私が恥ずかしい格好して、二人を載せて、ネオ・ヴェネチアを一周してあげるよ!」

 

ド「アイちゃん……それは、乗っている私達の方が恥ずかしいような気が……」

 

あ「あ、あはは……な、何だか、ヘンなスイッチ、押しちゃったみたい……」

 

愛「とにかく! 聞いてみるから、期待して待っててよね!」

 

あ「わ、分かったわよ」

 

愛「さあ、休憩終わり! 練習しよっ!」

 

あ「えっ? あ、いや、まだ休み初めてから5分も経って……」

 

愛「ダメです! 早く一人前(プリマ)にならなきゃ! そのためにも練習練習!」

 

あド「ええ~っ」

 

___________________

 

愛「と、言う訳なんです」

 

灯「はへー……。ちょ、ちょっぴり大変そうな約束して来たんだね……」

 

愛「灯里さんなら、知ってて当然ですよね!?」

 

灯「ええっと……そもそも、あずさちゃんは、一体何を知りたかったのかな? 名前とかが何も分からないと、さすがに……」

 

愛「ああっ! そうでした! あずさちゃんから、藍華さんがつぶやいていた『何だか呪文みたいな言葉』っていうのがヒントかもって、教えて貰ったんですけど……」

 

灯「それって、どんな言葉?」

 

愛「はい、それが……『ウンナマコン』って言ってたそうなんです」

 

続く

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