ARIA The CONVERSATION   作:辰巳しおん

9 / 44
もしも、わたしの通り名が〈アクアマリン〉じゃなかったら、いったいどんな通り名になっていたかなあ?
『そりゃあ〈逆漕ぎクイーン〉よね!』
『いやいや〈友達プリンセス〉です!』
『それより〈ステステキング〉かな?』
『それなら〈もみもみガール〉では?』
『じゃあ〈はひっとぷいにゃん〉は?』
『そこは〈ほへっとぷいきゅあ〉で!』
ふたりとも……



その ウンディーネの通り名は……(3)

「それじゃあいい加減に本題へ……と言いたい所だけど、やっぱりこの話は、やめたほうがいいかもよ?」

 

「と、いいますと?」

 

「こういう記事で、一切触れられてないってことはさ、普通は本人が言いたくないのか、何か事情があって言えないかのどちらかよ」

 

「ただ、記事には『過去に使われた通り名は、ウンディーネミュージアムのデータベースに載っているから調べてみては』とありますが」

 

「それはさ、逆に言えば、そこまでしないとわからないって事じゃない? 後輩ちゃんも、わざわざウンディーネミュージアムに行って調べる程、暇じゃないんでしょ?」

 

「確かにそうですが……」

 

「言いたくないってのはさ、通り名を言うこと自体が恥ずかしいとか、通り名にまつわる嫌な思い出があるとかだと思うんだけどね……。灯里はどう思う?」

 

「ほへっ? はほ、ははひは……」

 

「あのねえ。何で今さらあんたがパフェ頬張ってんのよー」

 

「灯里先輩、でっかい空気読んでください」

 

「ご、ごめん。アイスがとけてきたし、急にお話がはじまったから、急いで食べなきゃって……」

 

「ああ、そうですか。それはそうと、灯里はグランマと会う機会も多いんだし、聞いたことはないの?」

 

「うん。そもそも、そんな話になった事がなくて……ごめんなさい」

 

「別に、灯里先輩も誰も、悪いわけではないのですが」

 

「でも、よくよく考えてみればさ、グランマは、トッププリマとして活躍してた時に、姫屋を辞めて、ARIAカンパニーを設立した訳でしょ?」

 

「うん。アリア社長と出会ったこととか、ARIAカンパニーを設立した時のお話は、この前アリシアさんの先輩だった方のおうちに行った時、アリシアさんがグランマに聞いてたよ」

 

「おお。それは具体的にどの様なお話だったのですか?」

 

「ええっと、確か……」

 

「あーダメよ灯里。ここで詳しく話さなくていいわ。だってアリシアさんだって知らなかった程なのよ? グランマも、ARIAカンパニーの関係者だけだから、話をしてくださったのかもしれないしさ。アリシアさんだって、きっとそうでしょ?」

 

「うん、そうかもしれないね。アリスちゃん、ごめんなさい」

 

「いえ、私の方こそすいません」

 

「とにかくさ、いくら当時の姫屋が業界最大手だったとしても、突然、業界でも超レジェンド級の社員から『会社を辞めて独立しまーす』って言われたら、さすがに『ハイそうですか』とは言えないと思うわ」

 

「うん。わたしも、もし社員さんがいて、急に『辞めます』って言われたら、『お仕事を辞めたいって気持ちに、どうして気づけなかったのかな』とか、『わたしに何か至らない所があったのかな』って、とっても悲しくなるかも」

 

「お? なんか経営者っぽい発言が出たわね。その上、グランマぐらいの方なら、ご指名のお客様も山ほどいたでしょうし、私が経営者だったら、号泣しながら全力で止めたわね、きっと」

 

「藍華先輩が泣くのは、皆さんでっかい見慣れてるので、あまり効果は無いと思いますが?」

 

「ぬなっ……ま、まあ私の事はともかくさ、その時はかなり揉めたんじゃないかしら。もちろん、グランマご本人も、相当の覚悟があったと思うから、最後は姫屋の方が折れたんでしょうけど」

 

「最後は、でっかい円満退社という事ですか?」

 

「ま、表向きはね。ただし、色々な条件付きだったんじゃないかしら」

 

「条件?」

 

「普通なら、『営業所は姫屋から離れた場所に作る』とか、『姫屋の社員を引き抜きしない』とかね。それから『姫屋時代の通り名は使わない』っていうのも、あったかもよ?」

 

「なるほど。それで現役なのにも関わらず、通り名を使えないという可能性もあったと……」

 

「まあ、推測だけどね。でも、条件を全部飲む位じゃないと、円満退社って訳にはいかないと思うわ。もしそこで、何か遺恨が残っていたら、今、私があんた達とこうして話をする事すら無理だったかもよ?」

 

「えーっ? なんでー?」

 

「考えてもみなさいよ。私達も、アリシアさん達も、なーんにも知らない人からすれば、ライバル会社の社員同士なのよ?」

 

「そういえば、最初にアリスちゃんと会った時も、そんな話をしてたね」

 

「私も、灯里先輩や藍華先輩がいなかったら、他の会社の人とここまでお話はしないと思います」

 

「それが、こうやって普通に会って、話ができるって言うのは、そういう偉大な人が払った大きな代償があってこそ、成り立ってるのかもしれないのよねえ……」

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あのさあ? こんな話してると、何だか暗くなっちゃわない? 何か別の話をしましょ。ね?」

 

「それでは、私達の通り名について話しましょう」

 

「えっ? 私達の?」

 

「はい。それではまずは私の通り名〈オレンジプリンセス〉から。アテナさんに聞いたところ、会社の偉い人と相談して『次世代のオレンジぷらねっとを牽引し、ゆくゆくは、女王(クイーン)と呼ばれるような存在になって欲しい』という期待の想いを込めて、つけたのだそうです。はい、それでは灯里先輩」

 

「わたし? わたしは、アリシアさんがつけてくれたけど、理由までは聞いてないや」

 

「はい。そうではないかと思い、私が調べてみました。ちなみにですが、灯里先輩は、アリシアさんからどの様に通り名を伝えられたのですか?」

 

「えーと、たしか『ありがとう。私の〈アクアマリン〉』って言われたような。でも、その後すぐに、引退とか、結婚とかのお話になって、それどころじゃなくなっちゃって……」

 

「ほほう。それはそれは……」

 

「なに? 何かあるの?」

 

「はい。〈アクアマリン〉というのは、ARIAカンパニーの制服の色でもある、青色の宝石ですが、それは、生命の源である海を象徴し、怒りや葛藤などの悪い感情を洗い流してくれると言われています」

 

「はへー、そうなんだ」

 

「つまり、アリシアさんにとって、灯里先輩がそういう存在だったのでは? だから『ありがとう』と」

 

「……ほへっ?」

 

「ちょっと待った。あのアリシアさんに、何か心の葛藤があって、しかも灯里がそれを洗い流す存在だったって言うの?」

 

「ま、先程の藍華先輩と同様、推測ですけどね」

 

「まっさかぁ。アリシアさんと? この? 灯里が? ないわー。アクア中の水が全部無くなってもないわ。『ありがとう』も何かの聞き間違えじゃないの?」

 

「そ、そこまでいわなくても……」

 

「もし、そうでないとしても、〈アクアマリン〉は、友人・家族など、様々な対人関係に潤いをもたらすと言われています。友達作りの天才である、灯里先輩を象徴した通り名、とも言えますね。はい、では次に、藍華先輩」

 

「私? 私はその、晃さんが考えてつけてくれたのよ? 先輩の晃さんが〈クリムゾンローズ〉で、その後輩の私が〈ローゼンクイーン〉。詳しい由来は聞いてないけど、薔薇つながりで、これから姫屋を支えて行く身だってことよ。おかしい?」

 

「おかしいとまでは言いませんが、ただ……」

 

「ただ?」

 

「〈ローゼン〉と〈クイーン〉は、異なる言語から構成されています。普通なら、〈ローズクイーン〉や〈ロージズクイーン〉、又は〈ローゼンケーニギン〉とするところですが、恐らく語感、呼びやすさ、言い換えれば、親しみやすさを重視したのではないかと」

 

「そ、そうよ! さすがは晃さんでしょ!?」

 

「それ以外にも、以前、姫屋の支店に皆で集まった時、晃さんが『やっぱり通り名は〈泣き虫セレナーデ〉にすれば良かった』と言っていました。『やっぱり』ということは、実は他にも沢山の候補があったのではないですか?」

 

「うぐっ…… あ、あれー? そんなこと、あったかしらねー?」

 

「あれ、おもしろかったねえ。わたしは、晃さんがその場で思いついた冗談だと思ってたけど」

 

「これも推測ですが、晃さんは、姫屋の跡取り娘に相応しい通り名をと、語呂や語感も含めて、様々な通り名を考えに考え、悩みに悩まれたのではないでしょうか?」

 

「そりゃ、そうかもだけど、でも……」

 

「あーっ!」

 

「どうしました? 灯里先輩」

 

「そういえば、アリシアさんも、前にそんなことを言っていたような……」

 

「えっ? アリシアさんもこの話を知ってるの!?」

 

「うん、でも、次の日が昇格試験って言われて、それどころじゃなくって……」

 

「アリシアさん、も? もしや藍華先輩は、他にも候補があったのかどうか、ご存じなのでは?」

 

「ああ、えっと……いやっ、し、知らないわよ! ちょっと驚いただけ!」

 

「まあいいですけどね。でも、もし本当に〈泣き虫セレナーデ〉だと言われたら、いくら相手が晃先輩でも『恥ずかしい通り名、禁止!』とでっかい突っ込みを入れたと思いますが」

 

「あ、当たり前でしょ? 大体そんな推測は禁止よ、禁止」

 

「先に推測で話をしたのは、藍華先輩ですけどね」

 

「あら、そうだっけ?」

 

「……ま、何にしても、せっかく晃さんが考えてつけてくださった通り名なんですよ? 意識しないと使わないと言わず、でっかい意識して使うべきだと思いませんか?」

 

「あっ? ああ、それは後輩ちゃんのいう通りね。晃さんのつけてくれたこの通り名、自分から積極的に、使っていかなきゃね!」

 

「でも、通り名って、まるで宝石箱のように、いろいろな人の、キラキラとした素敵な想いが、たくさん込められているんだねえ」

 

「恥ずかしいセリフ、禁止!」

 

「えーっ?」

 

「しかし、私の推測が正しいなら、藍華先輩の通り名に、どんな候補があったのか、でっかい興味深いのですが……」

 

「(うわ、それ来ちゃったか……)」

 

「はて? 誰か来たのですか?」

 

「ちっ、違うわよ! 大体、他にいくら候補があったって、最終的には今のに決まったんだし、それはいいじゃない!」

 

「いえ、私が晃さんなら、通り名のいち推し候補として〈禁止姫〉を挙げたでしょうに、でっかい残念だと思いまして」

 

「うふふ。わたしが晃さんなら、藍華ちゃんに、どんな通り名をつけようかな」

 

「もう! 勝手に人の通り名を考えるの禁止! これ以上の会議も禁止! 全部禁止ーっ!」

 

 




こうして、第ニ回目の合同会議は、無事(っていってもいいのかな?)にお開きとなりました。
そうそう。わたし達が帰ろうとした時、用事を済ませたアル君が『僕のとっておきのダジャレを言いに来ました』と言って戻って来たんだけど……。
どうなったかは、今度アクアに来た時に、藍華ちゃんに聞いてみてね。


灯里さん。
アリシアさんがつけてくれた灯里さんの通り名って、とっても素敵な意味があったんだね!
ところで、灯里さんは将来、もし後輩さんができて、その人が一人前(プリマ)になったら、どんな通り名をつけてあげるのかな?
その人には、藍華さんから『恥ずかしい通り名、禁止!』って、突っ込まれないような、素敵な通り名をつけてあげてね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。