『そりゃあ〈逆漕ぎクイーン〉よね!』
『いやいや〈友達プリンセス〉です!』
『それより〈ステステキング〉かな?』
『それなら〈もみもみガール〉では?』
『じゃあ〈はひっとぷいにゃん〉は?』
『そこは〈ほへっとぷいきゅあ〉で!』
ふたりとも……
「それじゃあいい加減に本題へ……と言いたい所だけど、やっぱりこの話は、やめたほうがいいかもよ?」
「と、いいますと?」
「こういう記事で、一切触れられてないってことはさ、普通は本人が言いたくないのか、何か事情があって言えないかのどちらかよ」
「ただ、記事には『過去に使われた通り名は、ウンディーネミュージアムのデータベースに載っているから調べてみては』とありますが」
「それはさ、逆に言えば、そこまでしないとわからないって事じゃない? 後輩ちゃんも、わざわざウンディーネミュージアムに行って調べる程、暇じゃないんでしょ?」
「確かにそうですが……」
「言いたくないってのはさ、通り名を言うこと自体が恥ずかしいとか、通り名にまつわる嫌な思い出があるとかだと思うんだけどね……。灯里はどう思う?」
「ほへっ? はほ、ははひは……」
「あのねえ。何で今さらあんたがパフェ頬張ってんのよー」
「灯里先輩、でっかい空気読んでください」
「ご、ごめん。アイスがとけてきたし、急にお話がはじまったから、急いで食べなきゃって……」
「ああ、そうですか。それはそうと、灯里はグランマと会う機会も多いんだし、聞いたことはないの?」
「うん。そもそも、そんな話になった事がなくて……ごめんなさい」
「別に、灯里先輩も誰も、悪いわけではないのですが」
「でも、よくよく考えてみればさ、グランマは、トッププリマとして活躍してた時に、姫屋を辞めて、ARIAカンパニーを設立した訳でしょ?」
「うん。アリア社長と出会ったこととか、ARIAカンパニーを設立した時のお話は、この前アリシアさんの先輩だった方のおうちに行った時、アリシアさんがグランマに聞いてたよ」
「おお。それは具体的にどの様なお話だったのですか?」
「ええっと、確か……」
「あーダメよ灯里。ここで詳しく話さなくていいわ。だってアリシアさんだって知らなかった程なのよ? グランマも、ARIAカンパニーの関係者だけだから、話をしてくださったのかもしれないしさ。アリシアさんだって、きっとそうでしょ?」
「うん、そうかもしれないね。アリスちゃん、ごめんなさい」
「いえ、私の方こそすいません」
「とにかくさ、いくら当時の姫屋が業界最大手だったとしても、突然、業界でも超レジェンド級の社員から『会社を辞めて独立しまーす』って言われたら、さすがに『ハイそうですか』とは言えないと思うわ」
「うん。わたしも、もし社員さんがいて、急に『辞めます』って言われたら、『お仕事を辞めたいって気持ちに、どうして気づけなかったのかな』とか、『わたしに何か至らない所があったのかな』って、とっても悲しくなるかも」
「お? なんか経営者っぽい発言が出たわね。その上、グランマぐらいの方なら、ご指名のお客様も山ほどいたでしょうし、私が経営者だったら、号泣しながら全力で止めたわね、きっと」
「藍華先輩が泣くのは、皆さんでっかい見慣れてるので、あまり効果は無いと思いますが?」
「ぬなっ……ま、まあ私の事はともかくさ、その時はかなり揉めたんじゃないかしら。もちろん、グランマご本人も、相当の覚悟があったと思うから、最後は姫屋の方が折れたんでしょうけど」
「最後は、でっかい円満退社という事ですか?」
「ま、表向きはね。ただし、色々な条件付きだったんじゃないかしら」
「条件?」
「普通なら、『営業所は姫屋から離れた場所に作る』とか、『姫屋の社員を引き抜きしない』とかね。それから『姫屋時代の通り名は使わない』っていうのも、あったかもよ?」
「なるほど。それで現役なのにも関わらず、通り名を使えないという可能性もあったと……」
「まあ、推測だけどね。でも、条件を全部飲む位じゃないと、円満退社って訳にはいかないと思うわ。もしそこで、何か遺恨が残っていたら、今、私があんた達とこうして話をする事すら無理だったかもよ?」
「えーっ? なんでー?」
「考えてもみなさいよ。私達も、アリシアさん達も、なーんにも知らない人からすれば、ライバル会社の社員同士なのよ?」
「そういえば、最初にアリスちゃんと会った時も、そんな話をしてたね」
「私も、灯里先輩や藍華先輩がいなかったら、他の会社の人とここまでお話はしないと思います」
「それが、こうやって普通に会って、話ができるって言うのは、そういう偉大な人が払った大きな代償があってこそ、成り立ってるのかもしれないのよねえ……」
「……」
「……」
「あ、あのさあ? こんな話してると、何だか暗くなっちゃわない? 何か別の話をしましょ。ね?」
「それでは、私達の通り名について話しましょう」
「えっ? 私達の?」
「はい。それではまずは私の通り名〈オレンジプリンセス〉から。アテナさんに聞いたところ、会社の偉い人と相談して『次世代のオレンジぷらねっとを牽引し、ゆくゆくは、女王(クイーン)と呼ばれるような存在になって欲しい』という期待の想いを込めて、つけたのだそうです。はい、それでは灯里先輩」
「わたし? わたしは、アリシアさんがつけてくれたけど、理由までは聞いてないや」
「はい。そうではないかと思い、私が調べてみました。ちなみにですが、灯里先輩は、アリシアさんからどの様に通り名を伝えられたのですか?」
「えーと、たしか『ありがとう。私の〈アクアマリン〉』って言われたような。でも、その後すぐに、引退とか、結婚とかのお話になって、それどころじゃなくなっちゃって……」
「ほほう。それはそれは……」
「なに? 何かあるの?」
「はい。〈アクアマリン〉というのは、ARIAカンパニーの制服の色でもある、青色の宝石ですが、それは、生命の源である海を象徴し、怒りや葛藤などの悪い感情を洗い流してくれると言われています」
「はへー、そうなんだ」
「つまり、アリシアさんにとって、灯里先輩がそういう存在だったのでは? だから『ありがとう』と」
「……ほへっ?」
「ちょっと待った。あのアリシアさんに、何か心の葛藤があって、しかも灯里がそれを洗い流す存在だったって言うの?」
「ま、先程の藍華先輩と同様、推測ですけどね」
「まっさかぁ。アリシアさんと? この? 灯里が? ないわー。アクア中の水が全部無くなってもないわ。『ありがとう』も何かの聞き間違えじゃないの?」
「そ、そこまでいわなくても……」
「もし、そうでないとしても、〈アクアマリン〉は、友人・家族など、様々な対人関係に潤いをもたらすと言われています。友達作りの天才である、灯里先輩を象徴した通り名、とも言えますね。はい、では次に、藍華先輩」
「私? 私はその、晃さんが考えてつけてくれたのよ? 先輩の晃さんが〈クリムゾンローズ〉で、その後輩の私が〈ローゼンクイーン〉。詳しい由来は聞いてないけど、薔薇つながりで、これから姫屋を支えて行く身だってことよ。おかしい?」
「おかしいとまでは言いませんが、ただ……」
「ただ?」
「〈ローゼン〉と〈クイーン〉は、異なる言語から構成されています。普通なら、〈ローズクイーン〉や〈ロージズクイーン〉、又は〈ローゼンケーニギン〉とするところですが、恐らく語感、呼びやすさ、言い換えれば、親しみやすさを重視したのではないかと」
「そ、そうよ! さすがは晃さんでしょ!?」
「それ以外にも、以前、姫屋の支店に皆で集まった時、晃さんが『やっぱり通り名は〈泣き虫セレナーデ〉にすれば良かった』と言っていました。『やっぱり』ということは、実は他にも沢山の候補があったのではないですか?」
「うぐっ…… あ、あれー? そんなこと、あったかしらねー?」
「あれ、おもしろかったねえ。わたしは、晃さんがその場で思いついた冗談だと思ってたけど」
「これも推測ですが、晃さんは、姫屋の跡取り娘に相応しい通り名をと、語呂や語感も含めて、様々な通り名を考えに考え、悩みに悩まれたのではないでしょうか?」
「そりゃ、そうかもだけど、でも……」
「あーっ!」
「どうしました? 灯里先輩」
「そういえば、アリシアさんも、前にそんなことを言っていたような……」
「えっ? アリシアさんもこの話を知ってるの!?」
「うん、でも、次の日が昇格試験って言われて、それどころじゃなくって……」
「アリシアさん、も? もしや藍華先輩は、他にも候補があったのかどうか、ご存じなのでは?」
「ああ、えっと……いやっ、し、知らないわよ! ちょっと驚いただけ!」
「まあいいですけどね。でも、もし本当に〈泣き虫セレナーデ〉だと言われたら、いくら相手が晃先輩でも『恥ずかしい通り名、禁止!』とでっかい突っ込みを入れたと思いますが」
「あ、当たり前でしょ? 大体そんな推測は禁止よ、禁止」
「先に推測で話をしたのは、藍華先輩ですけどね」
「あら、そうだっけ?」
「……ま、何にしても、せっかく晃さんが考えてつけてくださった通り名なんですよ? 意識しないと使わないと言わず、でっかい意識して使うべきだと思いませんか?」
「あっ? ああ、それは後輩ちゃんのいう通りね。晃さんのつけてくれたこの通り名、自分から積極的に、使っていかなきゃね!」
「でも、通り名って、まるで宝石箱のように、いろいろな人の、キラキラとした素敵な想いが、たくさん込められているんだねえ」
「恥ずかしいセリフ、禁止!」
「えーっ?」
「しかし、私の推測が正しいなら、藍華先輩の通り名に、どんな候補があったのか、でっかい興味深いのですが……」
「(うわ、それ来ちゃったか……)」
「はて? 誰か来たのですか?」
「ちっ、違うわよ! 大体、他にいくら候補があったって、最終的には今のに決まったんだし、それはいいじゃない!」
「いえ、私が晃さんなら、通り名のいち推し候補として〈禁止姫〉を挙げたでしょうに、でっかい残念だと思いまして」
「うふふ。わたしが晃さんなら、藍華ちゃんに、どんな通り名をつけようかな」
「もう! 勝手に人の通り名を考えるの禁止! これ以上の会議も禁止! 全部禁止ーっ!」
こうして、第ニ回目の合同会議は、無事(っていってもいいのかな?)にお開きとなりました。
そうそう。わたし達が帰ろうとした時、用事を済ませたアル君が『僕のとっておきのダジャレを言いに来ました』と言って戻って来たんだけど……。
どうなったかは、今度アクアに来た時に、藍華ちゃんに聞いてみてね。
灯里さん。
アリシアさんがつけてくれた灯里さんの通り名って、とっても素敵な意味があったんだね!
ところで、灯里さんは将来、もし後輩さんができて、その人が
その人には、藍華さんから『恥ずかしい通り名、禁止!』って、突っ込まれないような、素敵な通り名をつけてあげてね!