連載休止 チームフォーマルハウトの旅路、黄金の軌跡と語られた伝説 作:里見レイ
「......っ」
ウマ娘が練習終わりに汗を拭くという至って日常的光景の中に彼女がいる事は果たして非日常なのか。西川が併走タイムを記録する中、キンイロリョテイは黙って額の汗を拭っていた。
「リョテイさん、お疲れ様です。暫くは食事制限もあって辛いと思いますが、私も頑張りますので」
リョテイの傍にはトーホーアートの姿があった。彼女名目上は別のチーム所属なのだが、先日その所属先に休部届を提出したらしい。少なくとも、来月のリョテイの未勝利戦までは協力してくれるそうだ。
「アートさん、今日もありがとうございます。お陰で彼女のトレーニングも桁違いにはかどっていますよ」
西川はそんな彼女に礼を言う。アートがいなければ、恐らくキンイロリョテイはずっとサボり魔だっただろう。
「トレーニングの時の成績は、ライアンと大差ありません。もしかしたら、いずれG1で彼女の走る姿を見る事が出来るかもしれないね」
「それは間違いないと思いますよ、トレーナーさん。だって、本来リョテイはあたしより速いんですから」
リョテイと併走していたメジロライアンも会話に加わる。汗の似合うウマ娘選手権でもあれば、ファイナリストには残れる似合いっぷりだ。
「ライアン、そんなものなのかね......」
タブレットを見ながら不安になる西川。確かに、リョテイのタイムはライアンに匹敵する。しかし、各ハロンでのラップタイムはかなり乱れ気味だ。これがレースとなると、かなり支障が出そうである。
「トレーナーさん、心配なのはあたしも同じですよ。けど、たまにはリョテイのレースも信じてみてはどうですか? きっと、あたし達を驚かせた勝利をプレゼントしてくれますよ」
ライアンのまぶしい笑顔。彼女なりに裏でリョテイと話しているのかもしれない。
「信じるよ、リョテイも君も。君たちが勝てば僕の指導が大丈夫だと証明できるしチームの名声も上がる。そうすれば、君たちや他のチームメンバーの評判だって......」
突如として、西川の口調が重苦しくなる。それを見て、慌てだすライアン。
「と、トレーナーさん! 大丈夫ですから。あたしがダービーを取ればメジロの人間もあたし達をちゃんと評価して下さいますしリョテイや他のメンバーの評判だって叩かれなくなりますから!」
ライアンは知っている。西川が周りのトレーナーから問題児・不良の巣窟と言われている事を。そして、そこにライアンが所属している為にあらぬ噂が立っているという事を。
「ら、ライアン。そこに関しては僕の責任だから君がそれを気にしなくても......」
自身の弱音を実質聞かせてしまった事もあり、西川は焦った。トレーナーが自分に纏わる負の感情をウマ娘に見せてしまっては彼女たちに余計な気を使わせてしまう。それは本番の時のパフォーマンスにも響いてしまう為、本来は隠しておくものだった。
「ごめん、変な気を遣わせた。データの整理をするから各自整理運動をして解散でいいよ」
逃げるように西川は練習場を後にした。
「......」
少し遠くでこの光景を眺めていたキンイロリョテイは、素早くスマホを操作していた。
「......はあ、サポートするはずのトレーナーが気を使われるって何してるんだろ?」
西川は、部室に戻った後記録したタブレットを机に置いてそのまま座り込んだ。
チームフォーマルハウト、設立数か月の新鋭チームという事を差し引いても彼らの評判は悪かった。
まず、チームリーダーのキンイロリョテイの素行。授業はほぼ寝ている事がほとんどな上に食堂では他のウマ娘と喧嘩を起こしがち。練習にも参加しない上にメジロのお嬢様を連れ出して良からぬ悪事を働いているともっぱらの噂だ。
次に、メイショウドトウ。彼女はキンイロリョテイに連れられる形で前のチームから出奔、裏切り者のレッテルを張られてしまう。。更には引っ込み思案な性格が災いし世間では勘違いからなる悪い話が立ちまくり。酷い話だと、前のチームでは己の我がままが押し通らず都合のいい新人トレーナーをハニトラで堕として操り人形にしているという物まである。
そして、メジロライアンとサクラバクシンオー。元より「性格が名門のような気品がない」と言われていた上にこの真っ黒な噂のあるチーム所属だ。他二人程ではないが変な噂が少しだけ立っている。
最後に、謎の五人目ウマ娘。彼女もまた名門軍団出身なのだがかなり距離を置いているらしい。その上、彼女は学園の一部屋を占拠して授業にも禄に参加しない実質不登校児。噂と言うよりは本気で近寄りがたいウマ娘となっている。
それを束ねる西川も、傀儡だとか反逆因子と言ったネガティブな単語が囁かれている。彼の気苦労も、大体だがお分かり頂けるだろう。
「とりあえず、データは既に彼女に送っておいたしなあ。後は、ダービーに向けての選手データの分析か。とりあえず、まず考えたいのは皐月を取った......」
「私の事かな、リョテイのトレーナーさん?」
西川がパソコンを開いた直後、彼の耳元で噂の声が聞こえた。
「シャインブライアンさん!? いつの間に?」
彼は驚きを隠せなかった。
「ついさっきですよ。どうやら、お悩みのようで?」
「ええ、最近になって僕たちを噂で判断して接する人が増えまして。貴方方以外の方とも合同練習をしようと試みたのですが失敗続きなんですよ」
彼にしてみれば、練習相手の変化は各メンバーにいい刺激となると考えらしい。ただでさえ自前のメンバーで練習する者が少ないので、間違ってはいないだろう。
「......噂や世間の評判は、無視して大丈夫だと思いますよ」
少し間があり、シャインブライアンから返事があった。
「私、どうやら皐月賞を取ったのにダービーでの応援が少ないみたいなんですよ。しかも、三番人気にも入らないようで」
「そう、聞いてはいます。しかし、うちの○○○○は貴方の事を高く評価しているようですよ」
「それは、ありがとうございます。しかし、世間は世間です。結局大多数の言う事が通説となってしまいます。例え、自分をよく知る人から認められてもね」
西川の周りをゆっくりと旋回するシャイン。静かな足音と重い口調が西川に染みていく。
「つまり、世間からの評判や噂なんてそんなもの。気にして悩んでいる方が損なんですよ」
「しかし、対人関係に苦労しますよ。貴方は『評価されてない』一方で私たちは『悪い印象が付く』なのですよ。ゼロと-では大きく違います」
西川の反論。評判と噂の違いもあるのだろう。
「そうですね。ただ、『周りからの眼』という概念の派生と言うのは同じです」
旋回を止めたシャインブライアン。彼女の目に写るのは果たして何なのだろう。
「とにかく、私は貴方がリョテイやライアンを一流のウマ娘に育て上げると確信しています。ダービーでのライアンとの対決、楽しみにしてますよ」
そう言い残して、彼女は去っていった。
「......侮れないなあ。リョテイが彼女をチームに連れて来なかった事が悔やまれるよ、ドトウみたいにさ」
気持ちを切り替えデータ分析に励む西川。
キンイロリョテイ未勝利まで、あと二週間。
最近もまた、忙しさがぶり返してきてます。隙を見て描きたいです。
感想、お待ちしております。
里見レイ
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