徒然なる中・短編集(元おまけ集)その2   作:VISP

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転生先は未だ語られぬ謎の多い彼女のクローンの一つ。


小ネタ エヴァ新劇にTS転生 ※シンエヴァのネタバレ注意

 気付けば、同じ顔の少女達ばかりがいる部屋にいた。

 

 自分と言う自意識やその土台となる記憶の存在を疑問に思いつつ、周囲を怪しまれない様にじっくりと観察する。

 特徴的な赤毛(黄土色に近い金髪)の、整った容姿の少女達。

 その数実に100人近いが、その名前を自分は知っていた。

 

 惣流・アスカ・ラングレー、或いは式波。

 

 新世紀エヴァンゲリオンという一世を風靡したロボットアニメの一つに登場するヒロインの一人。

 そして、最後の劇場版においては日本アニメ史に残るトラウマを全ての視聴者に刻み付けたキャラクターだ。

 確か新劇場版(Qまでは見た)で新たな設定が追加されたそうだが、その辺の詳しい内容は知らない。

 問題なのは、同じくヒロインの一人である綾波レイと同様に無数のクローンと思われる少女達と一緒にいる事だ。

 

 (不味いなこれは。)

 

 惣流・アスカ・ラングレーにその様な設定は無い。

 ANIMAでは複数の綾波クローンが活動しているらしかったが、未読なので詳しくは知らない。

 F型装備の存在はスパロボに登場した事から知っているが、それ以外は知らん。

 アニメ版・旧劇場版の惣流にそんな設定は無い事からこの世界は式波の、未だラストが分からない新劇場版の方であると思われる。

 そして、第一作から第三作までの新劇場版に式波のクローンがいた事は語られていない。

 もしかしたら宣伝PV等に何か情報があったかもしれないし、考察班が何か察していたやもしれないが、今の自分では見ようがない。

 で、ここから最悪を想定すると、一つの可能性が出て来る。

 

 (劇中では一人しか出て来ない。つまり、一人になるまで減らされるか別の用途があるという事か?)

 

 蠱毒と同じだ。

 競わせ、争わせ、無能な個体は処分し、淘汰していく。

 最後に残るのは最も優秀な個体であり、それだけをエヴァのパイロットという最も重要なパーツとして扱う。

 腐ってると言うのは簡単だが、人類が滅ぶ瀬戸際なのだからこれだけ非人道的な事も許可されたのだろう。

 或いは碇指令の進めたアヤナミシリーズへの対抗馬か二番煎じか、それともこちらが先で参考にしていたのか?

 余りにも非道だが、効率良くチルドレンを用意できる点だけは評価する。

  

 (取り敢えず流れに身を任せつつ、逃げる機会を伺うか。)

 

 エヴァ世界ではセカンドインパクトを原因とするポールシフト(地軸のズレ)によって日本が嘗てのハワイの位置へとずれ、四季が消えてしまっている。

 周囲の研究者やアスカ?達が主に使用している言語からここが欧州と仮定するが、ロシアや南極の様な気候であった場合、脱出に成功しても生き残るのは容易ではない。

 そのため、今は研究員に言われるがままに積極的に学習と訓練を受け、ただ機会を伺う事にした。

 

 

 ……………

 

 

 正確な時間は知らないので体感だが、あれからそれなりの月日が経った。

 幾度か外で訓練する機会、そしてセカンドインパクト後の世界情勢に関する授業もあったため、この施設周辺に関する情報も知れた。

 現在、欧州全体はツンドラ気候帯と同様の状態であり、ほぼほぼ冬である。

 他にもこの施設にいる式波クローン達はオリジナルを基としたクローン体であり、当初の予想通り最も優秀な個体とその予備を残して全て廃棄処分する事が決定しているらしい。

 余りの非人道的な行動に呆れ果てつつも自分に出来る事、即ち学習と訓練に精を出す。

 死にたい訳じゃないし、死が怖くない訳ではない。

 だがよくあるTS転生とも言える状況で、私には生への執着が今一つ薄かった。

 朧げながら日本人として生き、一度死んだ記憶があるからか、どうにも他人事に見えてしまう。

 基礎的な教養から高度な物理学・数学・薬学・医学等の多岐に渡る高等教育。

 通常の軍事訓練を基準とし、更に特殊部隊やスパイ向けであろう高度な対人戦闘に諜報戦の訓練。

 余りにも過密な内容であり、自分も付いていく事に精一杯だった。

 すると、それに付いてけない個体が出始めるが、そうした個体は次の日には消えている。

 そうなりたくないから、どの個体も必死になって学習と訓練に励む。

 中にはこの環境が原因で精神の均衡を崩す個体も出たが、それらも容赦なく処分されていく。

 特に驚いたのは、全員が手錠と足枷を嵌めている事だ。

 サイズは小さく、重量も軽いものだが、内部には発信器と炸薬が内蔵されている様だ。

 と言うのも、脱走を試みた個体が施設から出て姿が見えなくなった所で破裂音が響いたからだ。

 勿論その個体が戻ってくる事は無かった。

 これでは迂闊に脱走する事も出来ない。

 まぁ、試しにと思って敢えて監視員に隙を作り出せないかと教員や監視員、教官らに声がけを行っていたのは私なのだが。

 こんな環境では当然と言えば当然だが、クローン同士での諍いも絶えなかった。

 互いに対して疑心暗鬼に陥り、口数も少なくなるだけでなく、自由時間では互いへの罵詈雑言が響く事が絶えなかった。

 それでも暴力沙汰に発展する事は一度しか無かった。

 その一度で暴力沙汰を起こした個体が全て処分されて以来、喧嘩や殺し合いは起こっていない。

 全員が「私は死にたくない、だからお前が死ね」と言わんばかりに目をギラギラさせ、しかし喧嘩して体調不良になっては処分されると互いに挑発しかしない状態が続いた。

 それでも徐々に、しかし確実にクローン達は減っていく。

 自分も前世と思われる記憶のお陰で成績は他の多くの個体よりも僅かながら優秀であり、また他の個体よりも公平かつ冷静な判断力がある事を評価されて生き延びていた。

 そんな正気を捨て去った様な環境の中、不意に一体のクローン体が目に付いた。

 他の個体より格段に優秀という訳ではないが、日々の学習と訓練の他に自身に身体が壊れる寸前のトレーニングを課している個体だった。

 多くの個体は自己管理も大事であるとしてその様な事は私も含めてしていないし、何より敷地と外との境界に近付く事は以前あった脱走個体の事件から全員が避けていた。

 こんな状況にありながら、懸命にクレバーに生存のための最善手を打とうとする。

 私にはそんな彼女の姿が眩しく映った。

 

 「そこ、間違ってるぞ。」

 「え、は、あ?」

 

 だからだろうか、座学の時間に隣に座った折の事。

 偶然にも定期の確認テストで間違いを見つけてしまい、口を出したのは。

 戸惑いから意味を成さない言葉だけが漏れ、礼を言われる事は無い。

 こちらも求めている訳ではない。

 だが、残るのならば彼女だろうな、と言う直感があった。

 故に私は彼女に近付いた。

 彼女の中に私に由来する何かを残す事が出来れば、それはこの世界に私がいた痕跡になるのではないか、とそう思ったから。

 

 「おはよう。」

 「………。」

 

 「おやすみ。」

 「………。」

 

 「自主練か?付き合うよ。」

 「…ん…。」

 

 それ以来、積極的に声を掛ける様になった。

 自由時間の自主トレにも付き合い、少しでも彼女が残れるように支えていく。

 他の個体はそんな私達を馬鹿だアホだ無駄だと陰口を漏らしたりするが、そこには何処か物欲しげな、寂しげなものが宿っている事には全員が気付いていた。

 何故なら私達は全員が同一人物のクローンであり、同じ環境で育っている。

 相手の考える事は大体分かっていた。

 自分と言う個を認めてほしい、褒めてほしい。

 要は過度に高められた承認欲求だ。

 

 「おはよう。顔洗っておいで、今日は外での訓練だぞ。」

 「ん…。」

 

 「おやすみ。また明日。」

 「うん…。」

 

 「ねぇ。」

 「んー?」

 「お姉ちゃんって、呼んでも良い?」

 「あぁ、構わないよ。」

 

 そんな中、私と言う別人の記憶と人格を有した個体がいる。

 別人であるが故にアスカ達とは異なる視点と価値観を有し、彼女達の求めるものを与える事が出来る。

 彼女が欲している承認欲求を、別人で生き残ろうとする意識の薄い私だけが与えられた。

 それを知るや否や、元々異物として目立っていた私をクローンの誰もが注視し始めた。

 だが、私にも彼女達同様に時間が無い。

 クローン達全てに平等に情を与える事は出来ない。

 故に、残るであろう彼女に情を与え、自分の生きた痕跡を残そうとしているのだ。

 

 「ん。」

 「あぁ、ありがとうアスカ。」

 「別に…。」

 

 そんな時間を過ごすと、必然的に私とこの子とそれ以外と言う区分けが出来る。

 この頃になるとクローンの人数は当初の100人近くから大幅に減り、もう十人前後と言った有様だ。

 ここまで来ると、もう幾人かはこの生存競争の結末が見えて来たのか、最後だからとあの子がいない時に私に甘えようとしてくる時がある。

 その時ばかりは、私は彼女達を甘えさせた。

 

 「お、ねぇ、ちゃん…!」

 「うん、どうした?」

 「ずっと、ずっと甘えたかった…!傍に、いてほしかった…!」

 「うん、ごめんね。」

 「ずっと、寂しくて…!でも言えなくて…!」

 「うん、辛いよね。」

 「うぐ、ひぐ、ぁぁぁぁあああああああああああっ!」

 

 そうして私に泣きついた子達は思う存分泣き喚いた後に眠りに落ちる。

 胸の内を吐き出してすっきりした後、大抵数日後にはいなくなっていた。

 自ら命を絶ったのだと、何となくそう思った。

 一人、また一人と、最後の十人が消えていき、残ったのは私とこの子の二人だけになった。

 

 「遂に私達だけ、か…。」

 「お姉ちゃん…。」

 「アスカ、きっとお前が選ばれるだろう。私は少々小賢し過ぎたから、アイツらに消されるだろう。」

 「そんな筈無い!きっと消されるのは私よ!我儘で意地っ張りで、寂しがりなのにそれを隠したがる面倒臭いガキ!」

 「だからこそ、操り人形として扱いやすいんだ。」

 「やだよ…お姉ちゃんまで消えちゃうなんてヤダ…!」

 

 ぐすぐすと、広い部屋に二人だけになってしまった夜、アスカが遂に泣き出してしまった。

 今まではライバル関係とは言え大勢がいた筈の部屋、それが二人だけになってしまった事実が酷く静かで冷たく、どんな寒さよりも身に染みた。

 同じ身体で同じベッドで抱き締め合って震える私達は全く同じ容姿でありながら、その中身に関しては全く似ておらず、明確な差異があった。

 

 「アスカ……。」

 「あいつらが、消えてった奴らが言うのよ…。『どうしてお前だけ』『羨ましい』『私も欲しい』って!無理よ!私だって手放す事なんて出来ないのに…!」

 「ここから生きて出られれば、大切な他人を作る機会は必ず来る。」

 「お姉ちゃんと離れ離れなんて絶対嫌!」

 

 今までの環境を考えれば、当然の叫びだった。

 次々と消えていく自分達、そんな中得られた家族、しかし生き残るのはただ一人。

 何処のバトルロワイヤル系ホラーだって話だ。

 だが、事実として生き延びられるのはただ一人で、それは自分じゃない。

 

 「アスカ、よく聞くんだ。」

 

 ぐすぐすと私の胸に顔をうずめながら見た目の年齢よりも幼く感じられる程に泣きじゃくるアスカに、たった一人になってしまった妹に、姉として最後の言葉を贈っていく。

 

 「ヒトが本当に死ぬ時は、生命活動が停止する時じゃない。」

 

 何の小説で聞いた話だったかもう忘れたが、私がこの子に残せるものは言葉しかない。

 だからこそ、少しでもこの子がより良く生きていける様に言葉を選び、残していく。

 

 「私が消えても、私達が消える訳じゃない。アスカが生き延びて私達の事を覚え続けてくれれば、それは私達が生きている事と同じなんだ。」

 

 別離を前に泣きじゃくる最後の妹の頭を撫でる。

 母も父も無く、友も師もなく、ただ自分達だけだった狂った場所で生まれた姉妹と言う関係。

 歪であろうとも残したいと思うものが、輝かしいものがあるのだと知ってほしかった。

 

 「生きるんだ、アスカ。生きて生きて生き抜いて、幸せを掴むんだ。それが、生き残った者の義務であり、権利なんだから。」

 

 私は祈った。

 この世界の神様は人間の事なんて何とも思ってない様な宇宙から来た人外だから祈りの対象じゃない。

 だから、祈るのは前世の神様だ。

 こういう時こそ元日本人の多神教ごった煮価値観が役に立つ。

 私は信じてもいないが知っている全ての前世の神様とやらに祈った。

 

 あぁ、どうかこの子が幸せを掴めますように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めれば、一人だった。

 

 「は?」

 

 呆然と寝慣れた簡易ベッドから身を起こす。

 見慣れた広い部屋、否、ベッドだけが並ぶ飼育施設を見渡す。

 自分を除き、誰もいない。

 昨夜、別れを告げたもう一人の温もりも、今はもう残っていない。

 現状が告げる事実を悟り、私の総身からザッと血の気が引いていく。

 

 ああ

 嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 「おめでとう、シキナミタイプの最優秀個体君。今日より正式に君が式波・アスカ・ラングレーだ。」

 

 入って来たネルフ・ユーロ支部の担当者達が笑顔と共に告げる言葉が、私には死刑宣告に聞こえた。

 本来消えるべき異物の私が残り、人として生きる筈だったあの子が逝ってしまった。

 あぁ、死ぬ事を恐れていない訳ではなかったが、一人生き延びて置いて逝かれる事はまた別種の恐怖と苦痛だとは考えもしていなかった。

 

 「本日より君はセカンドチルドレンとして、エヴァンゲリオン2号機専属パイロットとしての訓練を受けて貰う。」

 

 吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする。

 しかし、堪える。

 頭の中をぐちゃぐちゃにする激情の嵐を、必死になって抑え込む。

 今ここでそれを吐き出すのは簡単だが、そんな事をして自分まで処分されてはあの子達に申し訳が立たない。

 生き延びてしまったのなら、生きねばならない。

 

 

 『ヒトが本当に死ぬ時は、生命活動が停止する時じゃない。』

 

 『私が消えても、私達が消える訳じゃない。アスカが生き延びて私達の事を覚え続けてくれれば、それは私達が生きている事と同じなんだ。』

 

 『生きるんだ、アスカ。生きて生きて生き抜いて、幸せを掴むんだ。それが、生き残った者の義務であり、権利なんだから。』

 

 

 昨晩、私があの子に吹き込んだ耳障りの良い呪詛が頭の中をリフレインする。

 あぁ、私は何て残酷な事をあの子にさせようとしていたのか!?

 ただ一人、あるかどうかも分からぬ幸福/希望を目指して足掻いていけ等とどの口がほざくと言うのか!

 

 「式波・アスカ・ラングレー、拝命します。」

 「よろしい。今後も厳しい訓練が続くが、頑張り給え。」

 

 殺してやりたい。

 だが、生きねばならない。

 どうせQの頃には死ぬ連中だが、もし世界の再生が成った暁には絶対にこいつらの罪を弾劾する。

 その上で、私はこれ以上なく幸せになってやる。

 資産を持ち、趣味を持ち、一等地に建つ豪邸に住み、最愛の伴侶と子供達を儲け、往生する。

 復讐を果たしつつ、そんな誰もが納得する様な幸福な最後を迎える事を、私はこの呪われた名へ誓った。

 

 

 

 




今後、姐さん系パイロットとしてシンジや綾波、おまけにマリと共に使徒殲滅のために活動します。

でもガギエルは出したいんだよなぁ、水飲み鳥は弱すぎて…。
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