エヴァ初号機パイロットことサードチルドレン、碇シンジ。
私から見た彼の印象は「何処にでもいる内向的で繊細的な部分のある普通の少年」だった。
しかし、彼は間違いなく非凡な所も持ち合わせている。
エヴァに初めて乗った時、普通なら喚き散らして逃げようとしてもおかしくはない。
だが彼は乗り、状況に流されてとは言え三体もの使徒を殲滅している。
同じ状況で同じ様な育ちの人間が同じ様にシンクロに成功して搭乗したとして、同じ結果を出す事は先ず無理だと断言できる。
奇跡と言うには簡単だが、彼が今私と共にいる確率は本当に低い。
それこそ初号機の初期起動成功率と同じ位だろう。
そんな低過ぎる確率を覆すには、彼が何かしら特筆すべきものを持っていると言う事も出来る。
転生者としてエヴァ世界を俯瞰している私だからこそ、彼が何を持っているかは分かっている。
それは主人公補正だ。
世界そのものからのバックアップであり、斯くあるべしと人生に知らず強固なレールを敷かれるこれは上手く使えればあらゆる可能性を引き当てる事が出来る。
まぁこのエヴァ世界に限って言えば余り当てにならない。
だってこの世界、主人公に対して優しい所か厳しい事で有名だし、何より基本的にセカンドインパクトから14年で滅亡するしね!
使徒殲滅失敗か、人為的なものかは兎も角、サードインパクトを防ぐ事は基本的に出来ない。
出来るとするならば、ニアサードインパクトの様なゼーレや碇司令らの想定していないタイミングでインパクトを発生≒エヴァの疑似シン化覚醒を行う事位だろう。
マジでゼルエル戦で疑似とは言えシン化覚醒まで行ったのはビックリである。
スゲーよ庵野監督は…とか言いたくなる。
とは言え、加持リョウジらがヴーセを奪取してAAAヴンダーを建造する準備が未だ整ってないのにそんな事をした所でただ滅びの過程が少し異なるだけで結果は同じとなる。
そんな状況で、式波・アスカ・ラングレーが妹達を救うためにはどうするべきか?
はっきり言うと、シン劇場版の結末に持っていく以外思いつかない。
散々悩んだが、これしか無かった(白目)。
やはり中身私ではアスカの頭脳と肉体とは言えダメだった。
これ以外で何か計画の根幹を揺るがす様な真似をしてしまえば、それこそ早期に排除されて終わる。
何せ私は式波シリーズの一体に過ぎず、その気になれば幾らでも替えの利く駒でしかない。
綾波シリーズの様な碇司令からの思い入れも無い(あっても一山幾らで使い捨てられるが)。
加えて、私が救いたい妹達は既に普通に殺されて証拠残さず処分か、一部がエヴァのコアとして融合状態だ。
地球規模での魂の救済でも無ければ、妹達をどうにかする事は出来ない。
第一、例え全員のサルベージに成功したとして、その後どう暮らしていけと言うのだ?
全員同じ顔と名前の少女達(戸籍無し)、止めに戦闘訓練は受けてるが情緒方面は未成熟とかどう考えても厄ネタにしかならん。
ふつーにゼーレやネルフに消されるだけだ。
だからと言って、人類補完計画等と言う老人方のダイナミック集団自殺を肯定する気は無い。
私は私であり、妹達は妹達である。
妹達を不幸にした者達はどんな意図・立場に関わらず敵だ。
私達は姉妹であり、家族である。
それが全てとは言わないが、今の私の根幹を成すとても重要な事なのだ。
だからこそ、碇シンジの頑張りに依る所が大きいとは言え個人の事情に多少配慮してもらえるシン劇場版の結末を望んでいる。
あの平和な世界はそれまでの新劇場版と地続きでありながら、使徒もエヴァもインパクトもない。
妹達との関係が心配ではあるが、その辺は私が胸の内を何れ彼に語れば考慮してくれるだろう。
何?クッソガバガバ過ぎるだって?
HAHAHA確かに!
自分でも無茶があるなー失敗の可能性の方が高そうだなーとか思ってる。
でも、一戦闘単位に過ぎない私に出来る事なんて多くないんだ。
真希波・マリ・イラストリアスだって御歳(検閲済み)歳になってまで碇ユイとの約束のために頑張って戦ってたが、戦局に寄与出来たのは空白の14年とQ、シンのみ。
ゼーレとネルフが強力な権限を有していた頃、補完計画そのものへ干渉する事は不可能だった。
十分凄いしヴィレには必要不可欠な人だが、自分の意志で世界を変える機会を得る事は終ぞ無かったし、そんな事もしなかったし出来なかった。
況やただの消耗品である私では言うまでも無い。
故に現状、私は新劇場版の流れに則った行動を取り、あの比較的マシなラストへと辿り着く事を望んでいる。
(だってのに、どうしてリストラされたガギエル君が来てるかなぁ。)
初代アニメのセル画喪失と言う制作側の悲劇から人気者なのにリストラされてしまったガギエル君。
新劇場版では影も形も無かったコイツが現れた事に、私は表に出す事こそ無いが結構な驚きと苛立ちを覚えていた。
つい先日、仮設五号機により封印から逃れた使徒が相打ちになったと報告を受けて安心していた所にこの船旅が決まったため、この世界が一体どっちよりなのかと戸惑いも大きかった。
今は取り敢えず、内心の鬱憤はコイツにぶつける事にしよう。
私こと式波はそう考え、エヴァ2号機を起動した。
なお、私と共にエントリープラグに入ったシンジ君は男女の体格差のあるプラグスーツ(特に肩幅とウェスト、そして股間)が辛い上にデザインが破のテストスーツ、所謂スケスケ仕様だったため、顔を真っ赤にして縮こまっている。
なんでこんなもん渡したかって?
勿論自分が着たくないから押し付けたに決まってるじゃないか。
……………
「System start.日本語をベーシックに切り替え。簡易チェック…問題無し。」
自分ではまだまだぎこちないし他人任せな所のあるエヴァの起動シークエンスを式波が一人でこなしていく様を、シンジはプラグスーツの恥ずかしさを堪えながらじっと見ていた。
式波・アスカ・ラングレー。
エヴァ2号機パイロットになるべくずっと厳しい訓練を続けてきたセカンドチルドレン。
葛城ミサトに真面目で自分に厳しい才女と聞いてコチコチの軍人を想像していたシンジにとって、式波は他の同年代に比べて驚く程丁寧な物腰の少女だった。
才覚に溢れ、人柄も良く、鍛錬を怠らない。
少し交流しただけで自分とは全く異なる人種だ、とシンジは結論付けた。
それが実は単なる仮面である事に、彼が気付く事はまだまだ先だった。
「シンジ君、これから旗艦へ移動するよ。」
「旗艦って、オーバーザレインボー?」
「あそこはアンビリカルケーブルがあるし、艦そのものも一番頑丈だ。他では申し訳ないが足場にもならない。」
「分かった。僕は何か出来る事ある?」
正直、無いだろうな…とシンジは思った。
この状況で自分はシンクロ率を下げるだけの異物だ。
現に2号機に乗った時から、ずっと
これが恐らく2号機からの拒絶反応なのだろう。
先日、友人2人を使徒戦の最中に救助してエントリープラグに乗せた際にも初号機のシンクロ率は目に見えて大きく落ちてしまった。
それを今は不可抗力とは言え自分がやってしまっている。
早い所旗艦に行き、降ろしてもらった方が式波のためだろう。
「では、2号機を応援してくれ。頑張れってね。」
「へ?」
しかし、返って来た答えはシンジの想像を遥かに超えた内容だった。
「頑張れって…。」
「これは私の持論だが…エヴァにはそれぞれ固有の人格がある。兵器とは言え人造人間だからね。」
シンジは唖然とした。
日本で短いながらも訓練や実戦に臨んだ際、誰にも言われなかったが漠然と感じていた事を当たり前の様に言われた事に。
「報告を聞いた所、零号機は知らないが初号機は君に対してかなり過保護で優しい。対してこの2号機は甘えたがりでね。単に命令しても従ってくれない。褒めたりお願いする必要があるんだ。」
「えぇ…。」
正直、戸惑いしか無かったがこういう所もエヴァと長く向き合ってきたが故の考えなのだろう、とシンジは納得し切れずとも理解した。
「が、頑張れ…頑張れ…。」
で、人の話はマメに聞くシンジは恥ずかしく思いながらもちゃんと応援し始める。
すると、明らかに先程から感じていた2号機からの威圧感、拒絶反応が徐々に薄れていき、息がしやすくなる。
ギリギリ辛うじて何とか2号機のコアがシンジを認めた瞬間だった。
「シンクロ率60%で安定…よし。エヴァ2号機、起動する!」
真紅の機体色と4つの眼と言う特徴的な見た目の2号機が、固定ロープを引き千切りながら、可能な限り輸送船を揺らさないようにゆっくりと立ち上がる。
機体を覆い隠していたシートをマントの様に羽織った姿はさながら歴戦の戦士か旅人と言った趣だ。
『エヴァ2号機の起動を確認!』
『何だと!?起動許可は出していないぞ!』
『ナイスよアスカ!そのままこっちに移動して!』
『おい、勝手な真似はするんじゃない!』
『今は使徒殲滅が最優先です!』
何か通信から艦長と葛城二佐がゴチャゴチャ揉めているのが聞こえてくるが、それに参加していては手遅れになるので、式波は必要な事だけを端的に述べた。
「艦長、申し訳ありませんが緊急時につき2号機はこれより対使徒戦闘を開始します。今から2号機はそちらへ着艦しますので、外部電源の用意と甲板の人員の退避を願います。」
『えぇい…許可する!乗員は速やかに外部電源の用意と退避急げぇ!』
本来なら指揮系統とか対使徒戦限定の特権とかもっと色々あるし揉めるのが常なのだが、そこそこ長い航海の間、船上で軍人達と割と熱心に交流していた事もあり、艦隊の人員から式波への好感度は低くは無い。
敵を前にして揉めている場合ではないと歴戦の海の男である艦長らも理解しているし、そういう命令もあるため一先ず矛を降ろしてくれた。
「シンジ君、多少揺れるが舌を噛まないように注意してくれ。」
「え?」
グッと2号機が身を屈め、跳躍した。
しかも、それは単なる跳躍ではない。
もしこの時、原作アニメ版の様に護衛艦を次から次へと飛び移っていた場合、艦隊に損害を、それなりの数の死傷者を出していた事だろう。
しかし、一時世話になった人達を足蹴にする様な真似を式波は嫌った。
故に、原作でアスカがやった事を自分でもやった。
「跳ぼう、2号機!」
2号機のフェイスガードが開き、4つの丸いレンズの内側にある眼が応える様に輝きを増す。
その足元に一瞬だけATフィールドが展開され、外部からの防御のための反発力が推進力へと転化、その巨体を大空へと飛び立たせた。
『『『『はぁァァァ!?』』』』
通信から驚愕の叫びが聞こえてくるのを無視しながら、式波は着地先であるオーバーザレインボーの甲板へ意識を集中する。
着地失敗も勿論だが、落下速度そのまま着地にすれば如何に大型の原子力空母と言えども沈没しかねない。
それに他の艦より頑丈と言えども衝撃を与えないに越した事は無い。
「着地する!」
『各員、対衝撃姿勢!』
2号機は甲板への着地の寸前、再びATフィールドを推進力として正面に展開して落下速度を大幅に軽減させた。
その上で四肢と関節を用いて衝撃を吸収しながら着地する。
可能な限り艦に衝撃を与えないようにと配慮した結果だったが、エヴァの質量から想像できない程に軽やかな動きにこれを見ていた全ての人員が度肝を抜かれた。
「外部電源に切り替え完了。」
「でも、どうするの?武装が無いよ。」
「だがやるしかない。」
手早く背中にアンビリカルケーブルを接続すると、目視で使徒を探す。
『アスカ!3時方向に目標確認!』
「来たか!」
盛大に水飛沫を立てつつ、途中にあった艦を粉砕しながら巨大な白鯨にも似た使徒、魚を司る天使の一体たるガギエルが迫り来る。
「ATフィールド、全開!」
対する2号機はガギエルに対し静かに両手を翳し、ATフィールドを最大出力へと持っていく。
すると、2号機どころかオーバーザレインボーの艦体を覆う程の巨大かつ目視可能な程の高出力のATフィールドが展開された。
先程の推進用とは異なる、広域防御のためのATフィールド。
それにガギエルが一切の減速なく真正面から衝突、轟音と巨大な水しぶきが上がる。
だが、2号機のATフィールドはガギエルのATフィールドを意にも介さない程に強固だった。
鰭を振るい、前に進もうとするが、オーバーザレインボーに比肩する巨体は一向に前進出来なかった。
ならばと目の前のATフィールドに噛み付くもののその程度ではビクともせず、寧ろ急所たるS2機関を晒すだけだった。
「貰った。」
静かに呟くと同時、右肩のニードル発射機構から放たれた7本のニードルがガギエルのATフィールドを貫き口内へ、その奥にあるS2機関とその周りに突き刺さった。
同時、突然の急所へのダメージに驚いたのか、ガギエルは身悶えしながら海中へ潜航して逃げていく。
「やはり火力不足だな。」
使徒を倒すには近接戦闘がベストだが、装備が固定武装のみの丸腰ではしょうがない。
故に次善策を取るべく、式波は通信を繋げる。
「艦長、申し訳ないですがこちらは見ての通り火力不足です。貴方方の手をお借りしたい。」
『言ってみたまえ。』
「次の突撃で私は目標を拘束します。その際、目標のATフィールドを中和して通常兵器でも攻撃が通るようにしますので、止めをお任せしたい。」
『無茶だ。こうも水面が荒れていては誤射で本艦諸共沈みかねん。』
先程からガギエルの突進で艦隊には既に何隻も被害が出ている。
その上巨体で水中・水上移動としては有り得ない速度で移動するため、周囲の海は快晴時なのに荒れに荒れている。
この状態で味方艦のすぐ傍で停止中の敵を正確に攻撃する?
一発所か何発も誤射される未来しかない。
「この艦への攻撃はこちらのATフィールドで防御します。この艦隊の練度なら短時間耐えるだけで十分かと。」
『艦長、私からもお願いします。』
『あぁもう…!総員、本艦を中心に距離を取って包囲!照準を本艦に合わせ、2号機が目標の拘束に成功次第攻撃開始!友軍の仇を討て!』
ミサト一尉の真摯な言葉に、頑固な海の男である艦長も遂に根負けした。
そこから先は流石は重要任務を任せられるだけはあると言うべきか、とてもスムーズに艦隊が陣形を整えていく。
空母を中心としたかなり広い輪形陣とも言うべき陣形は対人類戦なら無能の誹りを受けるだろうが、今はたった一つの役割を遂行さえ出来れば問題は無い。
『目標、11時方向に確認!真っすぐ旗艦に向かってきます!』
『アスカ、頼んだわよ!』
「2号機、頼んだ!」
「2号機、頑張って!」
通信からの警告を受け、式波とシンジが同時に2号機へと語りかける。
同時、再び2号機のフェイスガード展開と眼が発光し、性能以上の力を発揮する。
ガギエルの再びの突進は可視する程の強力なATフィールドを纏ってのものだった。
先程よりも遥かに威力の増加したその一撃は、通常ならばエヴァと言えども危ないものだったろう。
しかし、今ここに居るのは通常のエヴァではない。
世界初の二人乗り、ダブルシンクロ状態の式波タイプの最優秀個体と主人公補正持ちである。
二人の意を受けた2号機が展開したATフィールドは先程のそれよりも更に巨大で強固であり、ガギエルのフィールドアタックを受け止めてみせた。
「反発力、反転!」
直後、先程の様に逃がさないために2号機のATフィールドから発せられていた反発力が反転し、フィールドに引っ張られる力が発生する。
自身のATフィールドも中和され、更に身動きも出来ない状態に焦ったガギエルが遮二無二暴れて脱出を試みるが、ビクともしない。
『各艦、撃てェい!』
艦長の号令一下、国連太平洋艦隊残存戦力の攻撃がガギエルへと降り注いだ。
無数の銃弾と砲撃がガギエルの白い巨体へと突き刺さり、肉を破って臓腑や骨に到達し、次々と引き裂き、叩き潰し、爆散させていく。
薄紅色の海の其れとはまた異なる色濃い赤が散らばるが、無数の銃弾と僅かな砲弾と共に2号機のATフィールドに遮られ、空母が血化粧を被る事は無かった。
やがて構成質量の3割以上を吹き飛ばされたガギエルは遂にコアへ致命打が入ったのか、十字状の爆炎を上げながら爆発四散した。
「「『『『『『『ぃいやったーー!!』』』』』」」
こうして、式波と2号機の初陣は終わりを告げたのだった、
……………
ネルフ本部内にて
「所で、彼女はよろしいのですか?」
壊滅直前にベタニアベースより回収した「ネブカドネザルの鍵」の極秘輸送任務を終えた後、加持リョウジはふと碇司令へと質問を放った。
それはつい先程、第7使徒殲滅に成功したエヴァ2号機とそのパイロットの事を指していた。
ネルフ・ユーロ支部所属のエヴァ2号機と式波・アスカ・ラングレー。
加持は未だ知る由もないが、彼女は式波シリーズの最優秀個体であり、それに恥じないだけの性能を持ち、そして戦果を上げた。
それも初陣で使徒相手に圧倒的と言っても良い程のものをだ。
後ろ暗い老人方のお仲間である碇ゲンドウがどの様な反応をするのか、加持は気になったからこそこうして話を振ってみた。
「君の気にする事ではない。」
「おっと藪蛇でしたな。では失礼。」
それはあっさりとあしらわれて終わり、それから振り返る事もなく加持は退出した。
しかし、僅かに漏れ出る動揺の気配からあの碇ゲンドウが無関心ではなく気にしている相手であると分かっただけで彼には十分な収穫だった。
「碇、どうするつもりだ?あの性能、こちらの予定には無いぞ。」
「あれは単なる道具だ。然るべき時まで使い、適当な時に廃棄する。」
「そう簡単に行けば良いがな。」