徒然なる中・短編集(元おまけ集)その2   作:VISP

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鬱CLAMP時空で推しを守るために戦うチート転生者(外道度マシマシ)のお話


オレが守らねばならぬと覚悟してる転生者 原作:CCさくら

 友枝町という町がある。

 とある漫画・アニメ作品の舞台となった町であり、大きなお友達にはよく知られた町だ。

 

 「Gysaaaaaaaaaaaaaaaa!!]

 

 夕暮れ時、或いは黄昏時とも誰ぞ彼時とも言われる時間帯にて

 ある日本の首都圏に近い静かな住宅街の一角、人気が不自然に消えた通りにて、人知の及ばぬモノが蠢いていた。

 胴回りが大の大人が両腕でも抱えきれない程の太さを持った、明らかに現代の自然と物理法則を超えた大百足。

 それが咆哮を上げながらその長い胴体を縦横無尽に駆動させ、暴れまわる。

 その長さたるや、その巨躯から想像もつかない速さにより常人ではとても推し量る事は出来ないだろう程には長い。

 それが無人の大通りで暴れまわり、破壊を巻き散らす様は文字通りこの世のものとは思えない。

 それもその筈。

 この大百足は元よりこの世の者ではない。

 通常の物理法則の彼方、あちら側の存在なのだ。

 そして、そんな存在が全力で暴れる事で身を守り、抵抗を続ける相手もまた、この世ならざる者に他ならない。

 

 「…………。」

 

 それは、まだ10代になったばかりの少年の姿をしていた。

 それは、黒髪黒目の多少容姿が整っただけの子供の姿をしていた。

 それは、そんな姿をしていながらも、暴れ狂う大百足に対峙して傷一つ付いていなかった。

 

 「Gysaaaaaaaaa!!]

 

 まるで嵐の夜に荒れ狂った河川が如き顎と爪、甲殻が織り成す濁流を前に、少年が軽やかな身のこなしでその殆どを避け、いなし、極稀にある命中する一撃を右手に握った符で展開する結界にて防いでいく。

 その嵐が如き暴威を往なし続ける様は、まるで五条大橋の牛若丸が如く重さを感じさせない、舞を思わせる軽やかな動きだった。

 

 「…………。」

 

 そんな少年の眼差しは、徹頭徹尾凪いでいた。

 人が生身で、個人ではとてもではないが太刀打ちできないだろう原始の暴威を前にして、その瞳は波一つない湖面のそれだった。

 

 「Gyyyyyyyyyyyyy!!]

 

 それが癪に障ったのか、人外故の矜持か、大百足は更にその動きを荒々しく、猛々しく変化させる。

 だが、それは同時に守りを捨てたのと同義だ。

 攻撃に重きを置く故に、守りは疎かになる。

 狩りや殺戮ばかりで戦闘の経験が薄い、或いは考える能がない百足らしい行動だった。

 

 「そこ。」

 

 一瞬だった。

 敵を近づかせない防御から、敵を排除するための攻撃への移行に生ずる一瞬の隙。

 只人では決して突けない刹那に近い領域を、その少年は文字通り射貫いた。

 

 伝承において、俵藤太こと藤原秀郷は琵琶湖に通じる竜宮に棲む大蛇の化身の女性から助けを乞われ、三上山の大百足を退治した。

 百足が襲ってきた時、それは松明が二、三千本も連なって動いているかのようだと形容され、三上山を七巻半する長さだったという。

 藤原秀郷は八幡神に祈念し、唾をつけた矢を放って射止め、更にズタズタに切り捨て止めを刺したという。

 

 「まぁ、この位なら唾だけで十分だよね。」

 

 瞬きの間に無数の符が弓と弦、矢を構成し、矢の先端を一舐めしてから番え、放つ。

 既に照準を終え、ただタイミングを伺っていた少年から放たれた一射はまるで最初からそう決まっていたかの様に狙い違わず大百足の頭部を射抜いた。

 

 俵藤太の大百足退治には文献で差異や諸説がある。

 大蛇は小男の姿で現れて早々に藤太を竜宮に連れていき、そこで百足が出現すると藤太が退治するとも、三上山ではなく比良山であるとも。

 そもそも助けを乞う者が大蛇ではなく竜、龍神であるともされている。

 結局はどれも水棲生物で、水に連なる者であり、龍神と言われるからには穢れ≒毒気の類も嫌うと推測される。

 これに対し、百足は陰陽五行思想において土剋水、水を吸い込む土に属し、本草綱目には「性よく蛇を制し、大蛇を見るとその脳を食らう」、春秋考異郵では宗均という人物の注釈にて「蝍蛆(ムカデの別名)は土より生まれ、水に属する蛇を土剋水の理で蛇を制することになる」とも言われている。

 

 それらを踏まえた上で、この大百足に止めとなる一撃は何だろうか?

 

 「ばーん。」

 

 陰陽五行において、水に相克するのは土であり、土に相克するのは木である。

 頭の甲殻をかち割り、その内部に到達した符で形作られた矢は唾と共に内に秘められた木の術式を発動させた。

 直後、頭からその総身へと木の根が伸び、張り巡らされた。

 

 「Gygy…!?」

 

 びくん!と大百足はその総身を戦慄かせると、途端にその動きを止めた。

 瞬く間に大百足の総身が柔い内側から木の根に食われていく。

 巨大な鑢か裁断機という先程までの暴れぶりは鳴りを潜め、僅かに身震いするのみとなる。

 やがて数十秒もする頃にはその動きも完全に止まり、遂には関節部から木の芽や根が覗いてくる有様だった。

 

 「まぁ、運が無かったって事で。」

 

 五行における相克とは、順送りに相手を討ち滅ぼす陰の関係を指す。

 逆に相生とは、順送りに相手を生み出して行く陽の関係を指す。

 五行相生において、木は燃えて灰となり、土へ還る。

 放たれた二射目により、全身を木の根に成り代わられていた大百足は五行の通りに灰となり、直後に術によって呼び寄せられた風によって散らされた。

 

 「何処の誰かは知らないけどさ」

 

 零落していたとは言え、恐らく元は名のある土地神か山の神だったのだろう。

 それが信仰を、民草を、土地を失い、知恵も力も零れ落としながら、何の因果かここに来た。来てしまった。来れてしまった。

 単なる百足として余生を過ごすならば見逃す可能性もあったが、挙句の果てに失った力を補填しようと力のある人間を食らおうとした。

 だから滅ぼされた。

 塀や電柱、アスファルトの舗装に僅かな傷が残っただけで、猛威を振るった大百足は何の痕跡も残せずに消滅した。

 

 「この町で暴れるのなら容赦はしない。」

 

 少年の名は桜塚星史郎。

 本来ならばこの町に存在しない転生者である。

 そして、猛烈なCCさくらの過激ファンであった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 切っ掛けは些細な事だった。

 この界隈ではよくある話で、前世から何かしらの因縁を引き継ぐのはよくある事だった。

 自分の場合、それがこの世界の人間ではなく、妙な記憶を持った人間だったというだけで。

 それが致命的に、この世界での生まれに合わなかった。

 血で血を洗うこのオカルト界隈において、平和な世界で穏やかに生き、死んだ人間の記憶は異物に過ぎたのだ。

 幸いというべきか、不幸というべきか、今世における桜塚星史郎の肉体性能は極めて高かった。

 それこそ然るべき手順を踏めば、怪異や魑魅魍魎と殴り合い、術で滅ぼす事が容易であり、同じ陰陽師すらも屠れる程に。

 そう、桜塚星史郎の生家、桜塚家は陰陽師だ。

 桜塚護という陰陽道の大家にして暗殺者集団の一族、その跡継ぎとして生まれたのが星史郎だった。

 星史郎は歴代最高と言われる才能を母親を筆頭とした一族によって徹底的に磨かれた。

 本人の意思を無視して行われた過酷な、常人ならば確実に幾度も死亡しているであろう荒行が物心つく前から続けられた。

 歴代当主も行ったそれを、星史郎は見る間に吸収していき、それがより一層母達からの荒行を加速させた。

 そこには母達なりの愛情があったかもしれない。

 立派な子に、強い子に育てという、親が子に対して向ける至極当たり前のものが。

 だが、史上最速で一族の秘技を体得していく星史郎の中には、只管に憎悪と憤怒しかなかった。

 陰陽師として、暗殺者としての生き方しか知らない桜塚家の者の愛情は、平和で穏やかな生き方を知る星史郎には殺意を肥やす燃料にしかならなかった。

 

 故に一族の秘技全てを会得した時、星史郎は一族全てを陰陽師として、暗殺者として再起不能になる程度に叩きのめした後、出奔した。

 

 殺さなかったのは温情ではない。

 出奔と同時に警察への通報を行い、過去の暗殺稼業の証拠もある程度揃えておいた。

 流石にオカルトのみの仕事は無理だったが、どうしても金銭の授受や死体の遺棄は証拠が残る。

 全ての罪を裁けないが、それでもあの屑共が塀の中にいれば多少は世の中がマシになるだろう。

 今までの仕事の報復で殺されるならそれまでの事と、それ以降は完全にノータッチだ。

 同時にあいつらと同じ所には落ちたくないという思いからの行動だった。

 出奔後も陰陽師は兎も角、暗殺者として仕事をする気は更々無かったのもそうした理由からだ。

 そして生家を出て、未だ1990年代のこの世界の日本を旅する内に知ったのは、この世界が現代版ダークファンタジーのそれで間違いないというものだった。

 呪術廻戦とかで有名だが、日常の陰に隠れたオカルトを用いた悪人や魑魅魍魎から表社会を守るため、或いは私利私欲のためにオカルト界隈の人間や人外が跳梁跋扈しているのだ。

 桜塚家はその中で活動する一つに過ぎず、世界は変わらず腐ったままだった。

 国内最大手と言えども金だけで動く暗殺集団が一つ減った所で、世界は変わらずダクファン風味だった。

 星史郎はその事実に深々と溜息を吐いた後、さくっと頭を切り替え、星史郎基準で適度に陰陽師の仕事を受けながら生活する事にした。

 幸いにも電子機器やサブカルチャー分野の進歩は彼の記憶通りの速度を維持しており、転生前の彼の好みの文化も何れ育ってくれるだろうから、それを楽しみにしつつその守り手になる予定だった。

 そんな星史郎の思惑と異なり、フリーの陰陽師というクッソ怪しいクソガキの元へと仕事は山の様に舞い込み続けた。

 何故かって?この世界でまともに公権力側で力持ってる陰陽師が殆どいない、というか絶滅危惧種なのだ。

 先天的才能を始めとした職人芸的個人技能が幅を利かせる業界で、安い給料で動く者は基本的にいないし、倫理観が終わってる奴らの方が多い。

 星史郎はそんな中で若いながらもしっかりした倫理観と職業意識、何より天与の才覚を持った類稀な人材だった。

 だからこそ、仕事を始めてから暫くすると公権力側からの依頼が絶えなくなってしまった。

 他なら金を積まれても実力的にNG、或いは機密保持等のデリケート過ぎてNGな依頼でも過不足なく熟してくれる。

 序でに刑務所に服役中の桜塚家の人間が吐かない諸々の情報も教えてくれると至れり尽くせり。

 取り込み等の一線を越える様な真似さえしなければ、一般人の常識の範疇で親切となればそりゃ頼りにもされるだろう。

 オカルト業界、否、この世界全体へと悪態をつきながら、それでも滅びるのはそこに暮らす者として困る星史郎は日々頑張って仕事を消化し続けた。

 そんな時だった、依頼の帰りに立ち寄った星史郎が友枝町の存在に気づいたのは。

 

 「うっそだろオイ」

 

 友枝町。そこは前世からファンであるCCさくらの舞台だ。

 ちなみに横浜がモチーフだが、東京タワーが出てくる事から正確な住所は東京都港区友枝町と言われている。

 え、こんなクッソ治安終わってる世界で優し過ぎるとすら言われる世界が原作通りに上手く運ぶか?

 答えは当然NOである。

 一体自分が幾人幾体もの悪党や魑魅魍魎、時にまつろわぬ神や神話に知られる神格を凹してきたか。

 もう数えるのも億劫になってる放射性廃棄物共に内心で悪態をつきながら、この町に敷かれた極めて精緻な結界と木之元家を調査していく。

 同時に仕事ばっかよこしてくる公安伝いでこの町を管轄としている月峰神社の宮司にアポを取って訪問、神社やこの町の所以を聞かせてもらい、頭を抱える。

 宮司曰く、この町を守る大結界は月峰神社で管理しているものの、設計者であるクロウリードによって敢えて手を入れられない部分がある。

 また、何れこの町でクロウリード最大の遺産たるクロウカードとその担い手が現れると予言も残されている。

 月峰神社最大の仕事はその時が来るまでこの町を守り、新たな担い手の成長を見守る事にあると。

 

 「で、守れるんです?」

 「私の口からとても…。」

 「いやどう見ても人手足りてないですよね?」

 「…………。」

 

 渋々口を開いた宮司によると数年前、跡取りの一人娘が海外留学してしまい、結界無しでは悪党や魑魅魍魎の侵入はとてもではないが防げないとの事だ。

 実質的な主力を欠いた一族と地元の関係者では撃退が限界で、とてもではないが結界のメンテナンスにまで手が回らず焦っているのが現状だった。

 なお、木之本家はそうした地元の関係者の家系の一つなのだが、病で亡くなった木之本撫子さん以降直系一族で有力な才能持ちはいない(という事になっている)そうだ。

 

 「見た感じ、既に生まれてますね後継者。まだ覚醒してないし、カードも封印状態みたいですけど。」

 

 いや、まだ候補と言うべきかなと続ける星史郎の言葉に、宮司は茶を吹いた。

 やべぇ【機密保持】すべきか?という考えも過ったが、一瞬で返り討ちに遭う未来しか見えなかったので止めた。

 

 「んー…宮司殿、これは提案があるのですが。」

 「聞きましょう。」

 「俺を雇いませんか?」

 「ふむ?」

 

 星史郎は己への長期的依頼を出す事を提案した。

 しかも、カードとその新たな担い手候補には基本的に手出ししない事を条件にして。

 

 「無論、報酬は頂きます。生活費と学費含むこの町での滞在の支援です。出来れば大結界の情報も欲しいですけどね。」

 「前者は兎も角、後者に関しては言うまでも無いですな。」

 

 古いオカルトの名家にとって、伝来の秘宝や秘術の類は門外不出なのは言うまでもない。

 それが自分達の稼業の仕事道具であり、企業秘密であり、時に認識災害等を防ぐための安全措置でもあるから、機密に対する扱いは表社会の比ではない。

 それを教えろと言うのは命を握らせろと言っている事に等しいし、場合によってはその場で殺し合いに発展する事もある。

 

 「まぁダメならダメで拠点設営のための霊地の購入か賃貸契約でも良いんですけどね。」

 「星史郎殿、何故そうまでしてこの町に拘るのです。その気になれば何でも手に出来そうな貴方が。」

 「いや、単にこの町の穏やかさが気に入っただけですよ。」

 「あ、あー…」

 

 当代の桜塚護となる筈だった目の前の少年に宮司は疑念を抱いたものの、途端に淀む星史郎の目に逆に納得した。

 時折いるのだ、大結界の外側のクソみたいな浮世に疲れ、穏やかな大結界の中へと移住してくる者達が裏も表も問わず。

 だからこそ首都近郊という事もあって、友枝町は繁栄を続けてこれたと言える。

 この町にさえ住めれば、数多くのオカルト事件に巻き込まれず、平和に暮らす事ができる。

 僅かでもその意味が分かる者は積極的に移住し、波風立てぬように溶け込もうとするため、必然的に多くの資産がこの町へと流れ込み、豊かになるのがこの町が辿ってきた歴史だ。

 戦中の空襲すらも防ぎ切った大結界の力は本物であり、今なおその秘儀を暴こうと思う者も多い。

 この少年もまた、歳の割にそういった世に知られぬケガレの中で生まれ、生きてきた者達の一人であり、大結界に守られたこの町の穏やかさに惹かれた者の一人だという事だろうと宮司は結論付けた。

 

 「事が事故にすぐに返答は出来かねます。一度持ち帰り、関係者で協議してから返答させて頂きます。」

 「分かりました。一旦この場は失礼させて頂きます。あ、連絡先はこちらでお願いします。」

 

 そう言って名刺を渡した後、星史郎は退出した。

 そして連絡待ちの間、賄賂とばかりに町に侵入しようとする悪党や魑魅魍魎を目につき次第サクッと始末していく。

 これから長い付き合いになるかもしれないので、これは前払いのサービス兼商品の宣伝という訳だ。

 結果、町の外周にいた有象無象を苦もなく殲滅し終えた三日後、依頼の受託と共に小さいながらもそれなりの霊地に立つ雑居ビルが星史郎へと貸し出される事となった。

 同時に貸しが山程ある公安のオカルト部門によって「桜坂星史郎」という少年の戸籍が友枝町に登録され、出張しがちな両親と共に引っ越してきたというカバーストーリーが設けられる事となった。

 

 「さーて、色々準備するか。」

 

 推し活のためにも可能な限り堅気には迷惑をかけず、仕事はきっちりこなして気分よく生活する。

 その点に関してはこれまで通りだが、前世よりも倫理観が仕事していない星史郎のそれは一般的な術者のそれとは一味違う。

 にっこりと美少年が笑みを浮かべるが、その内心は実に桜塚護らしいものだと、今はまだ誰も知らなかった。

 

 

 




この後、雑居ビルの屋上で保健所から引き取った大量のわんにゃんと餌付けしたカラス等を身代わり兼呪術の触媒なんかにしつつ、友枝町で健やかに暮らすさくらちゃん達を守るべく悪党を根切していく生活が始まります。
綺麗な桜の下には死体が埋まっているというお話でした。
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