徒然なる中・短編集(元おまけ集)その2   作:VISP

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急いでやったからちょっと出来が心配だけど投下


オレが守らねばならぬと覚悟してる転生者その5

 

 「見えた。」

 

 東京タワー、その展望台の上に一人、白い狩衣に黒い立烏帽子という古式ゆかしい陰陽師らしい装束で桜塚星史郎は立っていた。

 普段陰陽師らしい姿をしない彼らしからぬ服装は勿論仕事のためだ。

 彼の目、つまり友枝町各地へと張り巡らせた式神達を通して得た知覚及び彼自身の霊視(日本国内限定かつ見る事に集中するならば大体全部見える)により、大結界に一斉に過負荷を与え、同時に潜入と突破両方を目論む者達の姿を正確に捉えていた。

 

 「・・・まぁ、手出しした方が悪いって事で。」

 

 些か相手の数が多く、また少々特殊な手合いだったが・・・桜塚星史郎には何の関係もない事だった。

 友枝町に、木之本さくらとその周囲の人々へと手を出す者を一切合切許しはしない。

 明確に引かれた一本の線の下、星史郎は僅かな逡巡の後に侵入者とその仲間への攻撃を開始した。

 

 「英霊召喚・・・」

 

 彼、桜塚星史郎は転生者だ。

 本来の桜塚星史郎の肉体に高位次元から零れ落ちた転生者の魂というハード・ソフト双方共に最上級の性能を持っている。

 その彼が手慰みにしていた事が「この世界のオカルトでの他世界のオカルトの模倣」である。

 今回はそうして確立した技術の一つ、Fateシリーズの英霊召喚である。

 この世界の、この国の歴史そのもの、人々に認知された逸話等を媒体に術式を構築し、力を与え、形を成す。

 サーヴァントの召喚ではなく、英霊の能力と宝具のみを召喚する簡易版であるが、使用された魔力量と術者の技量、そして対象の過去の偉人の知名度により、この技法は狙い通りに結実する。

 

 「【源為朝】」

 

 足下に展開された晴明桔梗印が周辺のオド、つまり大気中の魔力と術者から供給される魔力により光輝き、その中心に立つ星史郎を照らし出す。

 その手には上下に分割された機械式、星史郎の身長の倍近い大きさの大弓が握られていた。

 

 「剛弓、全力使用可能。」

 

 声色もまた、普段の星史郎のそれではない。

 血が通ってないとすら思う程に静かで落ち着きのある、それでいて芯の通った男性の声色のまま星史郎は矢のない機械式強弓を構え始めた。

 

 「不撓不屈たる我が剛弓、これを以って全てを薙ぎ払う。」

 

 先程の英霊召喚と同程度の膨大な魔力によって、必中必滅の矢が形成されていく。

 まるで光か、稲妻そのものか。 

 見る者が見れば、それだけで目を焼き尽くしかねない量の魔力が圧縮されたソレはとてもではないが対人として放つ威力ではない。

 それもそうだろう。

 伝承において、源為朝は最後の戦いにてたった一矢にして300人乗りの敵船を沈めてしまったという。

 

 「『轟沈・弓張月(ごうちん・ゆみはりづき)』……即ち、月光大砲」

 

 星史郎の目には、現在この国で友枝町へと侵攻しようとする勢力、その全員がくっきりと見えていた。

 故に、この矢は必ず中る。

 この国で最高位の弓の英霊とそれを自身に降ろす程の陰陽師の霊視によって捉えられては、現在の人類が逃げられる道理は無いからだ。

 

 「発射。」

 

 光の矢が放たれたのは、地上ではない。

 自身の真上へと放たれた矢は夜空に登る月目掛けて真っ直ぐに上昇し・・・唐突に破裂、無数の矢となって四方八方へと四散していった。

 

 「召喚、解除。ありがとう。」

 【構わない。また会おう。】

 

 残心の後、卸していた英霊を送還する。

 同時に力を貸してくれた事への感謝も忘れない。

 返された思念に苦笑いを浮かべて、星史郎はどうっと疲労と消耗に耐えかねてその場に寝転んだ。

 

 

 

 side どこかの白い家

 

 極東の島国でオカルトが原因で世界大戦勃発未遂までいった最悪の夜が明けた後

 

 「それで、被害状況はどうなっているのかね?」

 

 とある世界で最も偉い人の仕事場兼住居にて、そこの主が重々しく口を開いた。

 

 「現在、分かっているだけで現地に展開していた人員及びその現地協力者の全てと連絡が取れません。確認しようにもカースが酷く、遺体の確認どころか現地入りすら難航しています。」

 「国内ですが、今回の作戦を主導した国防総省関係者の3割が死亡または意識不明の重体。協力したオカルト能力者の7割が教会や各々の聖地から出れず行動不能で、それ以外の3割はカースによる死亡を確認しております。」

 「CIAですが、今回の作戦に日本国内で参加した職員は全員が音信不通、MIAとなりました。本土で支援に当たっていた職員も多数が意識不明になっており、通常業務にも支障を来しています。」

 

 今回の一件で大統領へと届けられた現在の被害報告、それは今戦争中だったかな???と言わんばかりの惨憺たる有様だった。

 

 (無理筋ではあると理解していたが…ここまでとはな。)

 

 最終的な許可を出したのは大統領だったが…それでも国防長官他多数が計画書を合同で提出してきた以上、最早大統領といえどもそれまでの様に一方的に却下する事はできない状態だった。

 二度に渡る世界大戦、冷戦、そして非正規戦闘が主流となった現在、表社会での強国たるアメリカを追い落とそうとするのは常に歴史ある貧者達の武器、歴史と共に練られたオカルト能力者とその技術だった。

 その成り立ちから極端に歴史の浅いアメリカでは優れたオカルト能力者は殆どおらず、また彼らの力を活かすだけの技術やアイテムはもっと無かった。

 数少ない例外として、先住民のシャーマン達がいるのだが、過去の弾圧もあって彼らのアメリカ政府へ向ける視線は極めて冷ややかだ。

 そのため、国内のオカルト事件への対応はヴァチカンから派遣される悪魔祓い師、エクソシスト達と大金を出して購入する僅かなアイテムに大きく頼らざるを得ない状況だった。

 それでも広い国土のみならず、海外派遣される兵達を守るためにはまるで足りていないのが現状だった。

 辛うじて重要施設にはオカルトパワーによる守りを施し、世界各地から身寄りのないオカルト能力者やその候補を集めて次世代の国防のための人材確保・育成へと注力していた。

 

 しかし、全ての人間が、それこそ国家中枢に至る程の優秀な人間であっても冷静に待ち続ける事は難しい。

 

 身内をオカルト事件で亡くした人間がアメリカには大勢いた事も不味かった。

 彼らは幾度も策を練り、人を集め、必要だと判断したものを強引にでも搔き集め続け、遂に目当てのアイテムを見つけるに至った。

 現状を変えるための奇跡の産物、世紀の大魔術師クロウリードの残したオカルトアイテム「クロウカード」。

 その存在と封印された場所を知り、更にはその封印が解放されてしまった事を掴んだのだ。

 彼らからすれば正しく主の導きだと思うに足る事態だった。

 故にそれを得るために同盟国日本を相手に秘密作戦とは言え軍事行動を起こすに至った。

 こんな事態にならないように幾度も不備を突いて、彼らの計画を却下し続けてきたのだが、最早彼らとその支持者を抑える事は出来なかった。

 それだけ国民の間にもオカルトによる被害が広がってしまっていたのだ。

 そして、そんな愛国者にして復讐者達はほぼ死に絶え、今回の一件でコツコツ築いてきた国内のオカルト的安全地帯の殆どが無効化されてしまった。

 ここホワイトハウスこそ健在だが、国防総省はじめ重要施設ではオカルト事件が頻発し、事態の全容を把握する事すら最早困難な状況だった。

 

 「ヴァチカンに支援要請は?」

 「拒否されました。人員に余裕は無く、戦争に協力する気も無いとの事です。」

 

 当然である。

 基本的に世界平和を願い、人々の安寧を守る立場のヴァチカンがその中立を揺らがせる事は無い。

 

 「つまり、我々には既に事態を鎮静化し、当初のプランを実行するだけの戦力もその当てもない。そういう事だね?」

 「遺憾ながら、その通りです大統領。」

 

 ここにいる面々も以前の面子とは異なる。

 本来いるべき長官に副長官や次官どころじゃなく、その下の補佐官や更にその下の顔すらある。

 今、アメリカの中枢は半身不随と言っても過言ではないし、このままでは遠からず全身麻痺からの植物状態か死亡すら有り得る状態だった。

 

 「日本へとホットラインを繋げてくれ。私自ら直接総理に謝罪し、事態の鎮静に協力してもらう。」

 「だ、大統領!?それだけは…!」

 

 集まった官僚の中の一人が血相を変えて叫ぶ。

 だが、現状それ以外の手は無いと叫んだ当人すら分かっていた。

 

 「構わん。私のキャリアはここまでだが、それでも祖国が正義を捨てた上に滅びるよりは遥かにマシだ。」

 

 国内のオカルト事件のみならず、このままでは他国に致命的な隙を晒す事となる。

 冷戦が終了したとは言え、まだまだ国際情勢は不安定なのだ。

 そんな中、西側の盟主が倒れたとあれば、どれだけの混乱が巻き起こるか想像もしたくない。

 そして、その未曾有の混乱は同盟国たる日本にも大きく影響する・・・間違いなく悪い方向に。

 

 「最低限この騒動の責任は許可を出した私が負おう。故に諸君…後の事は、我らが祖国の事は頼んだぞ。」

 

 外務省の官僚が震える手で用意した電話から受話器を取る寸前、大統領はこれから盛大に苦労するだろう面々へ向けて後事を託し、受話器を取った。

 

 

 ……………

 

 

 星史郎の放った矢の影響は甚大だった。

 この世界の表の三大国家といえる、日本を囲む米露中の三ヵ国が一斉に政情不安へと叩き込まれたのだから。

 最も立ち直りが早かったのが米国、次に露と続いた。

 この二国は大統領権限を生かして素早く日本政府へと取り次ぎ、事態の収拾を図れたからだ。

 しかし、中の国は違う。

 元々政情不安定な所にこの騒ぎで力のある政党幹部が多数急逝した事で権力の空白が発生、そこを大規模な後継を巡る主導権争いが起きたのだ。

 これにより外交アクションが遅れに遅れ、更に貴重な力のあるオカルト関係者も危険を察知して大急ぎで国内から脱出した事により頼れる相手もおらず、放たれた矢の影響が極めて広範囲に及んでしまったのだ。

 放たれた矢、あれ自体は呪い等はかかっていない。

 しかし、矢に込められていた破魔の力は極めて強力だった。

 それこそ普通の人間が浴びては体内全ての老廃物や病巣のみならず、負の感情どころか生物として当たり前の欲求すら穢れとして消し飛ばしてしまう程に。

 結果、心身のあらゆる穢れを無くしてしまった者は植物状態となり、最終的に死に至る。

 矢が直撃した者は大抵その衝撃でショック死し、もし生き残った所で欲が無ければ何れ死ぬ。

 これだけで済んでいたら、世界的な大混乱は起きなかったろうが、そうは問屋が卸さない。

 この矢の最も害悪な点は一切の穢れの浄化ではなく、「被害者を伝って感染」し、「症状が発現するまで間がある」という二点だ。

 星史郎が放った矢は日本国内の工作員や協力者全てを殲滅した挙げ句、生き残りを回収した人員を伝って三ヵ国の本土にまで到達してしまった。

 謝罪の間に合った米国及び露国は兎も角、身内での権力闘争を優先してしまった中の国は火消しが遅れ、その犠牲者は万にも及んだとも言われる。

 この事件以後、表の国家は友枝町へと干渉する事は一切無くなり、友枝町のオカルト関係者は久々の平穏を得る事となった。

 尤も、今後は大量殺戮者の世話という糞みたいな難題を抱える羽目になった事とトレードオフだったので、彼らが真の平和と安寧を得る日はきっと遙か彼方だろう。

 

 

 

 

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