このツイステットワンダーランドにおいて、茨の谷はある種の聖域として知られている。
最も古き妖精達の住まいにして、妖精王達の加護厚き地。
普段は纏まりの無い、自由で無垢で気儘で優れた魔法を持つ妖精達の頼る最後の砦。
そして、妖精達の守護者である妖精王とその一族の住まう地でもある。
茨の谷の妖精王とその一族はグレートセブンが一角、茨の魔女を祖とする一族であり、妖精種の中でも特に希少なドラゴン族である。
彼ら一族は皆強大なドラゴン族であり、更に人類とは桁違いの強力な魔法を行使する。
滅多に外界に姿を見せる事は無いが、嘗ての戦乱の時代から現代までにおいて間違いなく最強の種族だろう。
そんな茨の谷を統べる妖精王とその一族とはどの様な者達なのか?
茨の魔女を祖とする彼らだが、その数はとても少なく、現在生きている者は三体のみ。
一体は現妖精王であり、マレウスの祖母にあたる。
戦乱の時代から続く永い治世を支える手腕は本物であり、世間からの認知度も高い。
一体は次期妖精王、マレウス・ドラコニア。
現妖精王の孫に当たり、未だその精神面こそバブちゃん扱いされる男だが、その実力と才能、各種知識は魔法・物理共に本物である。
そして最後の一体、現妖精王の次子にしてマレウスの叔父であるシース。
しかし、彼を王族として認める妖精達は少なく、寧ろ人気度で言えば茨の谷の外でこそ高いという変わり種だ。
人呼んで白竜シース。
彼は生まれつき妖精王の一族特有の黒い鱗を持たず、更には脚が無い不具のドラゴンである。
真っ白な肌と三対の翼、人型に近い構造の上半身、そして脚の代わりにある尾と本来の尾の合計三本でゆっくりとしか歩行できない。
その姿を見た多くの妖精達は彼をハゲだ、出来損ないだ、王の一族に相応しくないと嘲け、嗤った。
だが、彼はとても穏やかで思慮深い性質をしており、王位は自身の生誕前から兄王子のものである事を物心つく前から理解していた。
彼は母親に願って城から出て、自らのための屋敷を茨の谷の外(ただし近場。それ以外母が反対したから)に貰い、そこで一人住まう事にした。
シースは運動は苦手だったが、別分野において優れた才覚を有した。
彼は研究者であり、芸術家であり、優れた魔法士だったのだ。
彼は分野を問わず多くの知識を修めており、多くの医学書や学術書、そして物語や絵物語を執筆した。
それらは世界中で共通語と各地方語に翻訳され、各地で流通された。
専門家も唸る学術書から子供が喜ぶ童話、そして無数の音楽。
絵と台詞が一体となった漫画も彼が世界で最初に考案し、執筆し続けている。
また、世界中のあちらこちらで戦乱が続く中、彼はこれはと見込んだ他種族の子供(不遇な者限定)を妖精族十八番の誘拐で自らの屋敷へと保護し続けた事でも知られている。
そんなシースへの評価は極めて高いか、極めて低いかの二択になっている。
彼の広めた知識や娯楽によって生活が豊かになり、命を助けられた国や地域は多い。
だが、それと同時に彼の広めた知識によって戦術や兵器が発展して戦乱がより凄惨かつ長く続いた事がその理由だ。
彼が「文明の育成者」とも言われるのはこの辺に由来している。
とは言え、そんな人々からの評価が彼に届く事はほぼ無い。
外界から彼の屋敷へは許可なく入る事は勿論、その声や手紙を届ける術はほぼ存在しないからだ。
例外として、身内たる妖精王一族とその側近はフリーパスが与えられているが、それを除けば彼が保護した子供達、通称「シースの生徒達」のみが立ち入りを許されている。
それでも彼への手紙(ファンレターや専門家からの質問や感想等)が途絶えた事は一日たりともない程に、彼の各種作品は世界中で愛され続けている(その殆どは検閲で処分されるが)。
秘密のベールに包まれた不具にして万智の白竜シースが有名なのは、こういった理由があるからだ。
そんな特異な暮らしをしている白竜シースが実は異世界からの転生者であり、肉体が不具である代償としてか、並行世界の観測すら可能な千里眼を持っている事は誰にも知られていない。
……………
目覚め、自意識を持って直ぐにここが異世界であると判断した。
何せ己の姿が以前のソレとは大きく異なっていたからだ。
両足ではなく尾が生え、頭には角が生えている。
おまけに周囲の人々は角があったり、牙があったり、加えて超能力なのか魔法なのか何だかよく分からん力を行使して暮らしているのだ。
そりゃーもう直ぐに分かってしまったのだ。
そしてこの世界では自分が異物である事も直ぐに分かった。
既に家の跡継ぎには五体満足な兄がいて、母親は公務で忙しく、周囲の世話役の者達はこちらに向ける視線に込められた侮蔑を隠そうともしない。
「ああ嫌だ、視界に入れたくもない!」
「何で兄王子はあんなにハンサムなのに、弟はこんなんだろうね!」
「女王様も全く会いに来ないし、捨てるつもりなんじゃない?」
ぺちゃくちゃと仕事もせずにお喋りばかり。
こっちの世話も放置するアホな召使い達に呆れつつ、情報収集のためにその話に耳を傾け続ける。
そんな感じで、偶に会う女王と一部の教師達を除けば半ば以上放置されながら、自分ことシースは育っていった。
そして大凡300年が経過した頃の事。
その間、育てられた、と言う感じは一切無い。
教師達も仕事かつ暇であるから教えてくれるのであり、当然ながら兄王子がいればそちらが優先される。
仕事をしない召使い達に関しては余りに役立たずなのできっちり上役に報告して以来、顔を見る事が無くなった。
日々の暮らしも衣食住はしっかり提供されるし、それ以外の細々とした事は魔法で解決できるようになるとすっかり快適になった。
とは言え、先天的な障害を持った王族とか王家の汚点とされる事は必須だし、目立たないように過ごすのは自室を除けば城のとても大きな書庫のみとなっている。
散歩とかピクニック?
この場所、茨の谷は基本霧と雲が濃く、天気の良い穏やかな日は数える事しかないし、雨の日にはしょっちゅう落雷があるのでそういう屋外での活動には向いてないのだ。
なので、常に視線避け・人避け・気配遮断の魔法を用いて書庫に通う事位しかする事が無い。
なのに、この世界の書籍は一部レパートリーが少ない。
異世界という事もあって全く違う所が多いのに、幾つも類似点が存在している。
妖精・人類・獣人・人魚と多種族が暮らす割には戦争の数は少なく、文化も牧歌的なものが多い。
文明としては専門の魔法士と言う程ではないが魔力があるために魔法頼りが多く、まだまだ発展途上なのだ。
そのためか、前世の地球程に文化の坩堝とでも言うべき多様性が無いのだろう。
特に小説や童話の類は教訓を伝える系を除けば、ほぼ全てがハッピーエンドのみの勧善懲悪系で占められているとか異常としか感じられない。
「仕方ない。書くか。」
幸いにも、自分は嘗て物書きだった。
基本的には二次創作だったが、少ないながらも一次創作も書いていた。
物書きはレポート課題や書類作成の経験もあるし得意だ。
これならばこの世界では全く見かけない系統の作品を書く事も出来るし、何だったら前世の作品をそのまま引っ張って来ても良い。
更につい最近目覚めたユニーク魔法など、そのためにあると言っても良い代物だ。
著作権の問題に関しては…こっちから作者や制作会社に何かしらの加護でも与えれば対価としては十分だろう。
いい加減、食器が鉄製品(普通の妖精にとって鉄は猛毒)な環境は嫌だし、本当の意味で安らげて趣味に没頭できる場所が欲しいのだ。
そうとなれば早速行動開始である。
母親である女王と会い、茨の谷から出ていく事を願った。
衣食住に関しては魔法でどうにかなるし、何だったら大気中の魔力のみでどうにかなるのが妖精族の強みなので問題はない。
国としては不具を抱えた王族が自発的に出ていくと言うのは十分益になるだろう。
兄王子の即位と結婚も間近なので、その前に要らないものは処分すべきと言う連中もいるしね。
「ダメです。」
「え」
「ダメです、絶対。」
が、何故か女王はそれを拒否して、考え直すように言って来る。
なので、上記の理由を告げると、不満げだった顔からストンと表情を無くして、女王は転移魔法で去っていった。
数日後、結局国外と言っても直ぐに戻ってこれる位置に女王が本気で各種防衛魔法を込めた大きめの屋敷(小さい城)を建設してくれたので、まぁ結果オーライだろう。
「さて、書くか。」
ちまちまとノートに書くのも何だったので、自分の思考をそのまま文章として書き出す自動筆記の魔法道具を使用しつつ、ずっと文章を書き続ける。
内容は多種多様で、小説から歴史、科学知識に文化風俗と何でもあり。
次々埋まっていく羊皮紙を纏めていくのも魔法で直ぐに出来るので、有り得ないハイペースで本が出来上がっていく。
同時、何か困っている事は無いかと月一で顔を出してくる女王に城の書庫には無い本をお願いしておく。
その間に更に執筆を進め、数年で100冊近い本が出来上がった。
「シース、書いた本をどうするつもりですか?」
「んー、女王陛下が構わなければ出版するつもりです。」
「ふむ…どこかの出版社と話をしたりは?」
「あ、忘れてた。」
そう言う訳で、出版社との交渉その他は女王(正確にはその家来)へとブン投げる事となった。
この時、殆ど我儘らしい我儘を言わない次男(意図せずネグレクト気味)のお願いに女王が本気を出して各国語版が出版され、後のこの世界の文明の発展に大きな影響を与える事になるのを、この時の僕は知らなかった。
さて、大量の文章を執筆していると、どうしても誤字脱字と言うものが出て来る。
魔法で防ごうにも、単なる誤字脱字ではなく文章的な誤りとかはやはり人がチェックしないといけない。
だが、嫌われ者の不具の王族の手伝いをしようなんて奇特な輩は茨の谷には存在しない。
なので、外から雇用する必要がある。
「よし、こんな時こそユニーク魔法。」
自分のユニーク魔法「
単純な読み書きと四則演算が可能な、身寄りが無くて困っている者(出来れば若い)。
前者は絶対条件だが、後者は妖精族でドラゴンな自分の手伝いをする上であれば良いな程度のものだ。
「お、来た来たこれかな……おっふ。」
条件に合致した者を感知し、視線を絞った先にいたのは今にも死にそうな子供だった。
明らかに栄養失調で今にも死にそうな浅黒い肌と黒髪黒目の子供。
顔形は多少整っていると思われるが、骨と皮ばかりの手足と空っぽなのにぽっこり膨らんだお腹の落差がその子供が重度の飢餓状態である事を物語っていた。
汚れて破け、僅かに残った布地はそれなりに質の高かったであろう事が伺えるため、恐らくは没落した有力者の関係者と言った所だろう。
労働力としては(少なくとも即座には)全くならないだろう、今にも消えそうな命だった。
ユニーク魔法でこの世界のグロ映像も見ていたとは言え、こうしたものは慣れそうにない。
「右見てー左見てー…よし、親とかはいないな。それじゃ回収ー。」
見捨てるのも忍びないからと、さくっと魔法を使って子供を誘拐した。
例え偽善と分かってても、自分はこんな死にかけの子供を見捨てる様な下衆じゃないと自分に言い訳する様に、自室に転送された子供に次々と手当のための魔法をかけていく。
病人のための検査魔法により、死にかけの原因は長期の栄養不足、飢えによるものだと判明した。
一応医者に診せる事を予定に入れつつ、飢えて死ぬ前に薄めのスープを飲ませてやろうと台所に向かうのだった。
これが鱗と脚の無い、しかし慈悲深き万智の白竜シースとその最初の生徒の出会いであった。
女王…家族大好きで優しいけど口下手。執筆に当たってどうしてもモルガン(FGO)寄りになってしまう。
家臣達の余計な真似により、シースからは何の感情もない他人を見る目を向けられ傷心中。
現在、ちょっと国内のお掃除&シースの我儘を叶え中。
シース…転生した事もあって超ドライ。前世の世界のあらゆる分野の本(歴史書・学術書・医学書・推し作品等)を千里眼でコピーして執筆したりしてる。
代わりに作者・制作会社には念入りに生涯健康の加護や厄除けの加護(ドラゴン基準)を遠隔でかけている。
そのため、本来なら死の運命にあった作者やスタッフとかが助かってたりする(例、クレ○んの白○先生、京○ニのスタッフ等)。
兄王子…ちょっと鈍いけど普通に家族思いのドラゴン。家臣達に弟に会わせてもらえずしょんもり。