次で打ち切りかな、TWLシースのネタ。
シースの存在を危惧する声は茨の谷の内外を問わず、世界中に存在した。
それらがシースと自身の耳に入る事を女王が事の他気にしていたため(一部の妖精がいなかった事にされた等)、誰もが大きな声で言う事は無かった。
が、意見としては確かに存在しており、女王自身もシースがこれ以上作品の執筆以外で世界に多大な影響を与える様な行動をとる事を危惧していた。
下手な形で影響力を持ち過ぎると、また戦乱の時代となった時に周辺各国全てから狙われる可能性もある事から、信頼しているリリアに客観的な立場からのシースの調査を命じた。
(ま、調査だけなら予想以上に簡単じゃったな。)
リリアは幼げな外観に反し、戦乱の世を最前線で生き抜いた勇敢にして老練な軍人である。
魔法・策略・物理戦闘のどれにおいても優秀であり、思想面も問題無し。
そんなリリアから見たシースは分かり易く「権勢にも縁者にも一切興味の無い隠遁した賢者」であった。
情こそあるものの、子供達の保護も当初は助手の確保が狙いだったと当人から聞いているし、その子孫や新たに拾われた子供らも知っている。
マレウスの世話を投げ出さないのも人並みには持っている倫理観と理性によるものであり、それ以上の感情は持ち合わせていない。
加えて、故郷である茨の谷そのものにすら殆ど執着を持っていない事は驚きであった。
(ま、幼少期の話を聞く限り、同じ妖精達すら仲間とは見ておらんようじゃしのぅ。)
物心つくかも怪しい時分から生来持って生まれた不具によって嘲笑され、自らに毒を盛ってくる様な者達を同胞と思え、等とはリリアは口が裂けても言えなかった。
本来味方である筈の女王ですら、夫を亡くしたばかりの頃で多忙だったとは言え部下からの報告任せで実態を把握しておらず、知ったのはシースが完全に心を閉ざした後と来た。
自分だったら反乱の一つや二つ起こしてもおかしくないのー、とリリアは率直に思った。
不具にして万智の白竜シース。
戦乱の時代を終わらせた希代の賢者が身内にも故郷にも情を持たず、ただただ空想の中にしか目を向けていないとは何とも皮肉なものだった。
王宮を出た不具の第二王子の噂は聞いていたが、当時から国境付近≒最前線勤務で遊び人だったリリアには関係の無い話であった。
が、今はその関係の無かった第二王子の邸宅で過ごしているのだから人生とは分からぬものじゃと改めて思った。
(問題はこの報告書、そのまんま出して良いものかのぅ?)
上司にして自国の最高権力者(基本無表情で優秀だけど身内に激アマ)に「お宅の次男さん、貴女にも国にも微塵も関心持ってないですよ」と素直に言えるだろうか?いや無理(反語表現)。
くしゃみで城壁に穴開けるマレウスの育児(ほぼシースと二人三脚、食事の手配のみ使用人任せ)だけでも結構な重労働であるのに、その上更に長年の上司の心に止め刺す様な報告書を上げろと?
しかし、客観的な報告書は女王自身の命令であり、それを改竄するのは王命を蔑ろにするも同義である。
(うわー今更ながらこれは酷い。なんで戦中よりも頭使わんといかんの???)
変えるも地獄、変えぬも地獄。
王命か、上司のメンタルか。
余りに酷い選択肢に、リリアは生まれて初めて神経性胃炎を患い、胃薬を使用した。
そして後日、リリアが胃痛を患いながら書いた報告書は王命通りに事実のみを書き、女王へと直に提出された。
それを見た女王は内容を時間を掛けて熟読し、念入りに二度見した後、灰も残さず燃やし尽くした。
「次期王位継承者としてマレウスを指名し、シースからは王位継承権を剥奪します。」
「お待ちを。それではマレウスにもしもの事があった際に…。」
「貴方とシースの下にいてもですか?そんな者がいれば、私の苦労も今よりは少なかったでしょうね。」
「この世界の何処かにそんな臍曲がりがいるやも知れませぬ。例え本人が望まぬとて、目に見える形の権力は身を守る力となります。」
「…………。」
「シース殿が谷の外に出る事となれば、その身柄を巡ってまた戦争が始まりましょう。軽々な行動は控えなされませ。」
執務室にて、その身を豪奢な椅子に沈ませながら、女王は視線を虚空へと彷徨わせた。
「私は、あの子を愛そうとしました。」
思い出すのは、シースが未だ生まれたばかりの頃だった。
兄王子よりも脆弱で、しかし余り大声で泣きもせず、赤子とは思えぬ程物静かな子。
不具であろうとも腹を痛めて産んだ可愛い我が子に変わりなく、しかしこの腕で抱いてやれたのは数える程しか出来なかった二人目の我が子。
「夫亡き後、一人の母として二人の我が子を見守るのと女王としての政務を両立するのは私には無理でした。だからせめて夫が愛してくれたこの国を荒廃させず、次代へと問題なく継承する事こそが女王としての私に出来る事でした。」
だが、それは兄王子に対してのものであり、シースに向けたものではない。
今更王どころか王室関係者向けの教育すらまともに受けていないシースに王位に就くように言うのは土台無理であるし、その原因を考えれば恥知らずにも程があった。
「ならばせめて、私はあの子の願いを叶えたかった。少しでも母子らしく我儘を言ってほしかった。」
そんな関係が構築できる可能性は、しかし彼女自身の能力不足と何より臣下の無能、シース自身の諦めの良さによって永遠に断たれてしまった。
残ったのは、ただただ熱の無い、無感情で今にも切れそうな繋がりだけ。
その繋がりすら、シースにとっては煩わしく感じているかもしれない。
「シースは陛下の事を憎く思ってはおりません。」
「それ未満の無関心だと言うのでしょう?」
「いえ、殆ど会う事の無い親戚の人みたいな感じですじゃ。」
関心は殆どないけど偶に会ってはお小遣いくれる(我儘聞いてくれる)所とか、マジでそっくり。
好きの反対は憎悪じゃなく無関心と言うけれど、それに限りなく近い何かだった。
「………………………シースの王位継承権剥奪は無し。しかし、後継者はマレウスを指名します。」
「御意。」
女王はぐったりと疲れの滲む声でそれだけを告げた。
……………
シースが拾い、育成した孤児達は通称「シースの子供達」と言われている。
全員が例外なくシースに大きな恩義を抱き、尊敬・崇拝・狂信している彼らはシースの忠実な手足として活動している。
彼らを見分ける方法は簡単、全員が持っている親指サイズの透明度の高い水晶の下がったペンダントを例外なく所持している。
このペンダントの水晶にはシースの魔力が浸透しており、様々な効果を発揮して持ち主を庇護していると言う。
そんな彼彼女らの主な仕事内容はシースの出版業と生活、孤児育成のサポートである。
彼彼女らは使用人として、出版社勤務として、教師や保育士として週休二日(有給・緊急時の休み有り)として今日もシースの屋敷を中心とした小さな城塞都市で働いている。
「シース様…。」
「相変わらずお美しい…。」
(うっとりしながらガン見)
が、中にはこんな奴らもいる。
シースの生活圏である屋敷の使用人達は特にシースに熱烈な感情を向けている者達で構成されており、もしもの時はその身を盾としてシースを守る覚悟を全員が当たり前の様にしている。
まぁ警戒の厳重な拠点に引き籠るドラゴンに害を成すのは生半可な方法では無理なので、そんな機会は今の所無かったが。
(どうにかお情けを…。)
(一度でも良いから…。)
(想像しただけで…うっ。)
こんな感じの連中だが、しっかり仕事は熟しているのだ(目逸らし)。
そんな彼彼女らが現在、最も敵視している者がいた。
「おじうえ。」
「む、どうした?」
「え、かいた。」
そう、誰あろう次期妖精王たるマレウスである。
本来なら茨の谷の王宮で育てられる筈のマレウスは、赤子の頃にはここシースの屋敷にて育てられた。
未成熟で碌に魔力をコントロールできないドラゴンの面倒は基本的に同種がするしかない。
が、女王は公務で多忙であり、両親は既に死亡済み。
必然的にその役目はシースへと回って来た。
それから20年近くシースの屋敷へ勤務する使用人らはマレウスに近付かないように隠れて仕事をするしかなく、それ即ちシースの側にいる時間が大幅に減る事を意味していた。
仕方ない事情があるとは言え、使用人達にとってマレウスはシースを自分達から取り上げる悪魔みたいな存在だった。
とは言え月日が経つのは早いもので、マレウスも物心がつくと、彼の主な住処は予定通り王宮となり、屋敷から基本いなくなった。
だが、そこは魔力有り余る妖精王の末裔、あっさりと高度な筈の転移魔法を習得すると毎日の様に通ってくるようになり、使用人達は再度恨みと嫉妬と憎しみと怒りで歯ぎしりした。
「これは…あぁ、私と母上か。」
「ん。おじうえとおばあさま。」
「ちゃんと特徴を捉えて上手く描けているな。上手だぞ。」
「ん。」
(あ~~心がぴょんぴょんするんじゃ~~。)
だが、幼子相手にしか見せないシースの穏やかかつ静かな笑みを見てしまえば、そんな不満は残さず浄化されていった。
価値を図る事すら馬鹿らしいシースの笑顔に、使用人達は今日も浄化されて精一杯働くのだった。
……………
マレウスの誕生から実に200年近い月日が流れた。
シースの子供達が粗方代替わりし、マレウスが大凡十代後半程度にまで育ち、その背はもうとっくにシースを追い越して久しい。
マレウスが大凡の魔力制御訓練を修了し、当初の予想以上にシースに懐いたマレウスはシースの屋敷へ戻る事を望んだ。
シースはこれを「女王を独りにすべきではない」と説得するも、マレウスは「ならば叔父上も共に参りましょう」と反論される。
シースはこれに対して王宮にも茨の谷にも特に思い入れは無いが、お前は次期王(ほぼ本決まり)なのだから女王の下で学んで来なさいと強引に送り出した。
が、これに不満を覚えたマレウスは嫌な事があるとしょっちゅう転移魔法によってシースの下を訪れ、静に彼の書いた書籍を読み、間を置いてリリアが迎えに来るのが日課となった。
マレウスの周りにはシースとリリア、女王だけだったが、徐々に人が増えていった。
マレウスの下に名家たるジグボルト家から人と妖精のハーフである子供セベクが将来の側近候補として派遣された。
まだまだ幼いセベクを、眼をキラキラさせるマレウスとリリアと共に育てるのは情操教育としては最適だった。
それは何時か寿命の差で来る別れも含めての事だ。
大抵は犬猫によって学ばせる命の尊さを臣下である少年で学ばせるのは酷な事だが、マレウスの周囲で彼より短命かつそこそこ長く生きられる者が限られるので仕方ない。
そこに、つい最近リリアが拾ってきた人間の子が加わった。
シルバーと名付けられた少年は多少睡眠障害のケがあるものの深刻なものではなく、スクスクと育っていった。
養い親となったリリアの指導の下、幼いながらもセベクと並び鍛錬する姿は傍目から見てもほっこりとするものがあり、シースはついつい二人を題材にしたほのぼの兄弟ものの短編を書きあげてしまった。
こうして月日が過ぎた頃、マレウス(とお付きのリリア)がNRC、ナイトレイブンカレッジへと入学する事となった。
目的は社会見学、序に有能そうな人材のスカウトです。
茨の谷は兎角閉鎖的な貴族社会だが優秀な人材は大歓迎、また他に行き場の無い者を受け入れる事には積極的なお国柄だったりする。
「では行ってくる。」
「お土産は期待せんといてくれ。」
「ハ!来年には我々も行きます故、今年はどうかお気を付けを!」
「いってらっしゃいませ…ぐぅ。」
従者の少年2人はまだ年齢が達してない&入学希望を出していなかった事もあり、今回は見送る側だった。
「いってらっしゃい。身体に気を付けて。」
「叔父上こそ、どうか健やかに。」
この頃になると、シースはすっかりこの4人に気を許していた。
女王に対しては未だに塩どころか虚無虚無砂対応なのだが、幼い頃から共に過ごしたが故に彼らとの仲は良好だった。
「さて、君達二人に予言を出しておくか。」
「ゑ」
「叔父上、それは大丈夫なものなのか?」
基本、妖精の出す予言とかって碌なものではない。
まぁ大抵が将来起こる災難を見通して準備させるためのものなのだから仕方ないのだが、特にその力の強いシースの予言とか、ほぼほぼ確定事項と言っても差し支えない。
「大丈夫なものだよ、お前達にとっては。」
「それならば、まぁ…。」
これで超☆厄ネタとか言われてたら、流石のマレウス(現時点で魔法士として世界ランク上位5位入り)でも聞かないでおく事を選択していた。
その位、千里眼を持つシースの予言とは事象を確定させる力があるのだ。
「NRCの廃墟、そこで何れ面白いものが見れるだろう。」
「面白いもの?」
「具体的な内容は差し控える。その方が面白いからな。」
戸惑うマレウスにニヤ、と珍しく悪童の様な笑みと共にシースはマレウスに告げた。
内容としては余りに些細、しかしこの世界が何処であるのかを知る彼からすれば、とても意味のある予言だった。
「さ、そろそろ向かうと良い。くれぐれも怪我をしたりさせたりしないようにな。」
もう間も無く、原作が始まろうとしていた。