ダークエルフ押しかけ妻JKは、惚気るのを我慢できない   作:和鳳ハジメ

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高校の頃、隣の席のダークエルフが可愛かったという甘酸っぱい思い出がフラッシュバックしたので書きました。
……え? エルフなんて居ないだろ? そんな馬鹿な、街を歩けばOLしてるライトエルフやメイド喫茶の呼び込みしてるシルキーを見かけるよね? あれ?



第1話 雨に濡れたダークエルフを拾った結果

 

 

 狭いアパートの一室にて、シャワーの音が響いていた。

 部屋の中には若い男が一人が、青い顔をして頭を抱えて踞っている。

 

「ヤベェよ、マジかよ、どーすんだよこの状況…………」

 

 二日酔いで頭が痛む中で彼、浅野省吾(あさの・しょうご)は昨夜の事を非常に悩んでいた。

 

(うあああああああああっ!! なんで俺はっ、俺はっ!! 手を出さずに良かったというべきか、いやむしろ、その方がまだマシだったじゃねぇかっ!!)

 

 若い男の部屋に響くシャワー音、つまりもう一人居るわけで。

 ――つまるところ、やらかしてしまったのだ。

 

(終わった…………、俺の人生終わった……グッバイ、教師人生……へへっ、懲戒免職でクビ……いや最悪、裁判沙汰で借金?)

 

 昨夜は、久しぶりの合コンだった。

 彼好みの薄幸巨乳人妻風美人達とセッティングが成功した、奇跡の合コン。

 なお、結果は惨敗。

 

『ごめんなさい、顔が怖いヒトはちょっと』『歴史教師? 堅苦しそうね、いや悪口じゃないんだけど』『ごめんなさいね、夫が居るのよ』

 

(なんで人妻が来てるんだよっ!! 堅苦しそうで、顔が怖くて悪かったなっ!!)

 

 相手はかなり美人揃いであったが、悉く他の男にお持ち帰りされ。

 気づけば省吾は一人、ビールを片手にコンビニの前で飲んでいる始末。

 

(あ゛ーー、もう、なんで声かけちゃったかなぁ。いやでも声かけるだろう? だって俺のクラスの子じゃん、なんかやけ酒してたじゃん、傘も差さずに濡れっぱなしだったじゃねぇか…………)

 

 酔っていたとはいえ、己の行動は教師として適切だった。

 少なくとも、その時までは。

 深夜に雨の降る中、傘もささずに泥酔している受け持ちの生徒が居たなら、担任として声をかけずにはいられない。

 事情を、聞かずにはいられない。

 

(どうして……どうして、こうなってしまったんだ……)

 

 省吾の目の前には、区役所の深夜受付で手渡された記念の皿。

 そう『結婚記念』の皿だ。

 

「いやあり得ないだろ、酔った勢いで教え子と結婚するとかさぁ! 教師のする事じゃねぇだろっ!!」

 

 ごろごろと転がるが、目の前の皿が消える訳でもなし。

 むしろ、二日酔いの頭痛が悪化する始末。

 省吾が盛大に溜息を吐き出し、体を起こした瞬間であった。

 ぺたぺたと素足の音、そして。

 

「――、シャワーお借りしました浅野センセっ! あ、違いますね、……おはようございます省吾さん。えへへっ、何だか照れくさいですねっ」

 

「ああ、うん、おはようジプソフィラさん」

 

「もうっ、夫婦になったんだから省吾さんも名前で呼んでくださいよぉ。……あ、そういえばYシャツ借りました、後で洗濯しておきますので、洗濯が必要な服があるなら出しておいてくださいねっ」

 

「なんでこの状況を速攻で受け入れてるんだよっ!?」

 

 省吾は盛大に目を反らしながら、思わず叫んだ。

 シャワーの水気でしっとりしている銀髪、艶やかな褐色の肌、Yシャツの胸部を押し上げる巨乳、形の良い臀部はチラチラ見えて。

 そして、――――その耳は長く尖っていた。

 

 そう、浅野シオン(旧姓ジプソフィラ)はダークエルフである。

 高尾山が異世界セレンディアと地続きになって、約半世紀以上。

 なんだかんだで共存の道を歩み、今では彼ら異種族の姿は珍しくもなく。

 ともあれ。

 

「あのなぁジプソフィラ、お前に全部の責任を押しつける気は無い。これは大人として、社会人として、そして教師として俺の落ち度だ」

 

「でもセンセ、泥酔していたのは私も同じですし。年齢を言い出せば私の方が年上ですよ? だって今年で百四十歳ですもん。それに向こうに帰れば、結構良い感じの地位に居ますし……おあいこにしません?」

 

「うぐっ、それでも俺は教師でお前は生徒だ! いくら俺が学校でやる気の無い不良教師と言われていても、その一線だけは譲れん!! だからすまないが、これから離婚届を出しにいく。着いてきてくれ」

 

「え、いやですよ。何を言ってるんですか省吾さん」

 

「そうだろう、そうだろう。それがあるべき姿――――って、今なんて言った?」

 

「だから『いやです』って。私は省吾さんと離婚する気は無いですよ?」

 

「…………はぁああああああああああああっ!?」

 

 不思議そうに首を傾げるダークエルフに、省吾は目を丸くした。

 いったいシオンは何を言っているのだろうか、酔った勢いで結婚してしまった。

 ならば戸籍に×がついてしまうのは仕方がない、二人の関係性を考えても今すぐ離婚届を出すべきであり。

 

「まぁまぁ聞いてくださいよ省吾さん、確かに酒の過ちで結婚しました。しかし結婚は結婚、今の私は省吾さんの幼妻っ!! これはレアですよ! 全国の男性教師が羨むシチュエーションですよ!! ぐっと来ませんか? 朝起きたらセーラー服にふりふりエプロンを来た巨乳の美少女ダークエルフがご飯を作っているんですよっ!!」

 

「もっと熟れた感じになってから出直してこい」

 

「そんなバカなっ!? 美形揃いダークエルフ、いいえエルフ種全体で見ても上位に余裕で入る私がアウトオブ眼中っ!? 性欲はあるんですか省吾さんっ!?」

 

「そりゃあ、俺だって性欲はあるぞ? 昨日だって合コンの帰りだったからな。カノジョ作ってイチャイチャとか普通に憧れるわ」

 

「でも惨敗したんですよね?」

 

「そういうお前は、友達の結婚式に呼ばれて万年独り身が寂しくなってやけ酒してたんだよな?」

 

「ああっ、それを言いますか省吾さんっ!? 知ってるんですからね、数学のエリーダ先生に言い寄って相手にもされてないって事をっ!!」

 

「テメっ!? なんでそれ知ってんだよっ!?」

 

「え? むしろなんで噂になってないと思ってるんですか? あの美人で有名なエリーダ先生の百人目の被害者なのに」

 

「逆にあの人にコクった奴が学内に百人も居るのがスゲェよっ!? つーか俺は食事に誘っただけだフられていない……」

 

「でも断られたんですよね」

 

「ぐぬぬっ…………」

 

 悔しがる省吾に、しゃがみ込んでニマニマ笑うシオン。

 その体勢が故に、彼女の暴れん坊な胸の谷間が見え。

 彼は思わず舌打ちして、顔を反らした。

 

(あーもう、どうしたら説得出来るんだ……)

 

 疑問は尽きない、そもそも何故こんなに距離が近いのだろう。

 そして、勘違いでなければ好感度の高さは何だ。

 

(確かにコイツはクラスの中心人物で、誰にでも分け隔て無く親しく接して、そりゃもう勘違いする男子が続出してるがなぁ)

 

 彼女と彼の関係は、あくまで担任教師と生徒の関係だ。

 特段、何かがあった訳ではなく――否。

 

(…………もしかして、気づいているのか?)

 

 平凡な人間、浅野省吾の唯一の秘密。

 だが、見た目に分かることではなく、言動から簡単に判明する事でもない。

 冷や汗が一つ、だが悟られる訳にはいかない

 

(今は、説得する事だけに集中しろっ。俺の教師人生の為にも――――ああ、成程?)

 

 この手があったかと、省吾はシオンの両肩を掴んだ。

 その華奢な肩の感触に一瞬惑いそうになったが、意識から追いやって。

 

「ふぇっ!? だ、ダメですよ省吾さんっ、こんな朝から……」

 

「勘違いすんな聞け、聞くんだシオン」

 

「えぇ~~、まぁ良いですけど」

 

「離婚しよう、……これはお前を思っての事なんだ」

 

「………………胡散臭いですが、理由を聞きましょう」

 

 省吾の真剣な眼差しに、シオンは頬を赤らめながら澄まし顔。

 

「いいか、お前が考えるより事態は深刻なんだ。生徒と教師の結婚、しかもお前は在学中、この先に受験する際、或いは大学に通っている時、そして就職する時に非常に不利に働くだろう」

 

「さっきも言いましたが、故郷ではそれなりの地位ですし。一生働かずに済む財産もありますし、大学受験せず高校を卒業したら悠々自適に暮らす予定でしたよ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「まぁよく考えろ、この事が学校中にバレてみろお前は好機の視線に晒されて虐められるかもしれないんだぞ!!」

 

「学校の生徒達の殆どは、私より年下ですし。こっちの人間以外は顔見知りの様なものというか、おしめを変えてあげた者も居るぐらいですし。――それに、ダークエルフだけで見ても私より強い人は居ませんよ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 交わる視線、しかめっ面の省吾とは正反対にシオンは自慢気な笑顔。

 えっへんと胸を張って、誉めて誉めてと言わんばかりに期待の眼差しを彼に向ける。

 

「…………」

 

「センセ、いえ省吾さん? もうお話は終わりですか? ならそろそろ朝食の支度をしないと、学校に行く時間が押しちゃいますよ?」

 

「…………」

 

「省吾さーん? 聞いてます?」

 

「…………んもおおおおおおおおおおおおっ!! 何なんだよテメェ!! ツベコベ言わずに離婚しろよおおおおおお!! 俺の職が無くなるのは自業自得だけどさぁっ、お前はまだ未来があるだろぉ!! 折角こうして日本の高校に通ってるんだからさぁ、大学行って好きなことを学べよっ!!」

 

「――――えっ!? あれっ!? まさか本気で心配してくれてたんですかっ!?」

 

「本気で悪いかよっ!! 給料泥棒みたいな教師だが、その本分までは見失ってねぇっつーの!!」

 

 ぜーはーぜーはー、と息を切らして叫ぶ省吾にシオンは目を丸くして。

 てっきり、我が身可愛さに離婚を申し出ているのだと思っていた。

 

(ああ、嗚呼……この人は――――)

 

 胸がうずうずと、バクバクと高まる。

 自然と笑みがこぼれる、胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じる。

 ――花開く様に、シオンは微笑んで。

 

「ああ、やっぱり私と省吾さんは結婚する運命だったんですねっ!!」

 

「おい、俺の言葉を聞いていたか? ちゃんと理解したか?」

 

「勿論ですっ! 一字一句間違いなく暗唱出来ますっ!! さっきの言葉は深く脳裏に刻みました後で日記にも書いておきます、一族にも手紙で伝えましょう……素晴らしい教師が居るとっ!!」

 

「ちょい待ちっ!? なんでそんなに感動してるんだよっ!?」

 

「こうしては居られません、離婚なんて絶対にダメですっ、ええっ、ええっ、ええっ!! これはもう一生かけて添い遂げるべきだと私の魂が叫んでいるんですよ省吾さんっ!!」

 

 するとシオンは己の親指を噛み切って血を出すと、躊躇無く省吾の口に突っ込む。

 彼女の瞳はどろりと暗く濁って、その肢体は淡く光り輝いて――

 

(マジで輝いて――魔法っ!? なんの魔法を使う気なんだよっ!? くそっ、力が強くて逃げれねぇっ!?)

 

「『天より見守る我らが太陽の父神よ、その妻である月の女神に告げる――』」

 

(なんだこの呪文っ、聞いたことがねぇ!! 太陽神? 月の女神? あっちの創世神話の夫婦神に何を…………ま、まさかっ!?)

 

 省吾は思い出した、彼の大学時代の専攻はセレンディア史。

 高校で教えているのも、異世界セレンディアの歴史であり。

 

「『我は誓う、この者と聖なる契りを結ぶ事を……。この者が命尽きるとき、そして我が命尽きる時――』」

 

(バカじゃねぇのコイツっ!? 何考えてるんだよっ!? あっちでも廃れた黴のはえた儀式しやがってっ、寿命を分け与える上に片方が死んだら相手も死ぬ呪いみたいなヤツじゃねぇかっ!!)

 

 理解してしまった、シオンがやろうとしている事が。

 そして、己が彼女を止める手段が無い事も。

 

「『――――我らの魂を以て、ここに聖婚は結ばれる』」

 

 呪文を唱え終わった瞬間、光が溢れて天高く上っていく。

 そして光が収まった後、シオンはうっとりした顔で熱く囁いた。

 

「ふふつか者ですが、どうぞ宜しくお願い致します省吾さん。幾久しく、輪廻の先まで――――」

 

(マジかよおおおおおおおおおおおおおっ!?)

 

 こうして、日本人の歴史教師・浅野省吾と高尾山の先から来たダークエルフ・シオンは永遠に結ばれた。

 法律以上の、世界の法則で結婚してしまった。

 唖然とする彼の額にキスをすると、彼女はルンルンで朝食の支度を始める。

 

(はぁ…………本当に、バレてねぇんだよ、な……?)

 

 その後ろ姿を、省吾は険しい目つきで眺める。

 ――――彼には、誰にも知られていない秘密があった。

 それは、前世の記憶がある事。

 その前世で、千年以上前に邪神から異世界セレンディアを救った六大英雄の一人であった事。

 

(いきなり聖婚なんかして何を考えているッ。ティザ・ノティーサ・カー・ジプソフィラっ!)

 

 その記憶が告げていた、名前は違うともシオンは同じ六英雄の一人で彼と共に戦った仲間であると。

 

(はぁ……今世は静かに暮らせると思ったんだけどなぁ…………)

 

 警戒しなければならない、彼女がこうして側にいるという事は世界に危機が訪れたのかもしれない。

 その危機に、省吾の力が必要なのかもしれない。

 

(けどなぁ……、今の俺は完全に一般人なんだぞ? それに前世に記憶はあくまで情報。地続きの様な感覚だがあくまで別人だってのに)

 

 見定めなければならない、彼女の目的を、その裏に隠された何かを。

 省吾は、深く深く溜息を吐き出して。

 

「ふんふんふーん、うへへへへ、省吾さんとけっこんーーっ!」

 

「…………おい、間違っても俺たちが結婚した事は誰にも言うなよ。絶対に秘密だ、俺が許可を出すまで匂わすのも禁止、お前も夫がいきなり無職とか嫌だろう?」

 

「はいはーい、大丈夫ですって。もー、家までセンセっぽい事を言わなくても良いんですよ?」

 

「家だろうが何処だろうが、俺は教師だってーのッ!!」

 

 ともあれ、誰かの手作りの朝食は久しぶりだと。

 少し浮かれ気味で、大人しく完成を待つことにしたのだった。

 

 

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