ダークエルフ押しかけ妻JKは、惚気るのを我慢できない   作:和鳳ハジメ

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第12話 夫の弟は騎士さま

 

 

 粛正騎士、それはセレンディアにおいて邪神討伐より数百年後。

 六大英雄の一人である、ケットシー妖精種の勇者『星詠み』ロテクの予言と、同じく六大英雄の『大賢者』ホルワイトの言葉に従い発足した国際武力機関である。

 

 異種族間の共存共栄の先、『人間』を『異種族』が(恋愛的な意味と性欲的な意味で)勝手に支配しない様に、監視し。

 時には武力を以て鎮圧にあたる、今では二つの世界を股に掛け活躍する集団なのだ。

 

(まさか、重児が騎士になんてなってるとはなぁ……)

 

 夕食をしながら話でも、とちゃぶ台を囲み三人は見た目和気藹々と。

 鎧を脱いだ弟は、数年前に高尾山で見送った時より逞しくなっていたが。

 大怪我をした様子もなく、兄としては一安心である。

 

「セレンディアに留学して魔法を学んでいたお前が、どうして粛正騎士なんかになってんだ?」

 

「いやぁ、僕ってば意外と魔法の才能あってね。留学が終わったらウチに来ないかって誘われてさ。……そうそう、子供の頃に兄貴が教えてくれた剣術あったじゃん? あれスゴい役に立った、どこで覚えたのアレ?」

 

「アレか? まぁ良いじゃねぇか。つーかよ、せめて一言連絡くれても良かったじゃねぇか」

 

 省吾は誤魔化したが、その剣術というのは前世の時に使っていたそれ。

 まだティムと省吾の境目が曖昧だった頃、気紛れに教えたものだった。

 そんな理由を察せる訳がなく、ほろ酔いの重児は兄へ素直に謝罪した。

 

「ごめんごめん兄貴、忙しかったし色々と機密でさぁ……」

 

「あ、コップ空ですね。はいお代わりのビールですっ」

 

 私ったら夫の家族にも気を使う良いお嫁さんっ、とルンルン気分のシオン。

 重児もまた、素直にコップを差し出したが。

 

「ありがとう義姉さ――いや、まだ僕は認めてないぞッ! 兄貴から離れるが良い!! 例え伝説の六大英雄の一人、失恋未練の若作りババァと言えど負けるもんかッ!!」

 

「私の扱いどうなってるんですかっ!? これでも騎士団の成立に協力したんですよっ!?」

 

「それは伝わってますが、ロテク様とホルワイト様の遺言で『あの拗らせダークエルフは絶対に何かやらかすから、いざとなったら頼む』と。それぞれ言い伝えられてる」

 

「くっそぉ知識バカの癖に突撃案しか出さなかったバカの癖にっ!! 星詠みの癖に『予言は覆すもの(キリッ)』って毎回裏目ってドツボにハマってたお調子者の癖してっ!! なに律儀に仲間思いしてるんですか!!」

 

 うがーと吠えるシオンに、実は疑い半分であった重児も。

 冗談や聞き間違いではなく、兄嫁が伝説の六大英雄の一人かもしれないと思い始め。

 

「…………ねぇ兄貴、もしかしてシオンさんは本当の本当に六大英雄のティザ様なのかい?」

 

「信じられないだろうがマジだ」

 

「ちょっと省吾さんっ!?」

 

「くッ、もしかしてこれがその時なのですかロテク様ホルワイト様ッ!! こんな事なら事前に応援を呼ぶべきだったッ!!」

 

「応援呼んで何する気ですかっ!? こっちは悪い事は何もしてませんっ!!」

 

「は? 兄貴を騙してるだろ? ティザ様といえば同じく六大英雄の一人『勇者』ティムの死を受け入れきれず狂気と正気の狭間で長年旅してるって」

 

「んんんんんんっ!! ちょっと自分でも否定しきれないのが痛いですっ!!」

 

(ま、普通は転生してるなんて考えないだろうし。こんなもんだよな)

 

「もうっ、省吾さんも納得した顔してないでっ! 何か言い返してくださいよぉ……」

 

 ぶすっと省吾の右腕に縋りつくシオン、それを見た重児は兄の左腕を掴んで。

 

「そのまま引っ張り合ったら怒るからな」

 

「大丈夫ですっ、その時は省吾さんの腕が延びる前に重児さんを消し炭にします」

 

「安心してくれ兄貴、例え今は引いても必ず裁判で罪を明らかにしてみせる。顔の良い女は皆なにか企んでいるんだッ! そうに違いないッ!! 高校の時に付き合ってた樹理もッ、向こうで付き合ってたシェリスも! それから大学時代に同棲まで行った可憐も!! 皆、男をアクセサリーや財布としか思ってないんだ!! なんだよ本命と付き合う為の当て馬とか!! 貴方の匂いは好きだったけどやっぱり二番目とか!! おろろおおおおおおおおおおおおおんッ!!」

 

 酔いもあって号泣し始めた重児に、シオンは同情の視線。

 省吾といえば、慰めるように弟の肩を叩き。

 

「お前……女運悪いの治ってなかったんだな。魔法でなら治せるかもって留学して、成果なかったんだな…………」

 

「兄貴ッ!! 僕の理解者は兄貴だけだよッ!! 母さんは兄貴と比べて顔が良いんだからとっとと女捕まえて結婚しろとか言うしッ!!」

 

「うーん、俺には一ミリも無かった言葉だな」

 

「父さんは父さんで孫を催促してくるし!! 今日は兄貴が結婚してた? 飲まずにいられるか!!」

 

「親父……それも一回も聞いたことねぇなぁ……」

 

「お労しや省吾さん、重児さん……」

 

 兄弟格差に遠い目をする省吾、悲しみのあまりぐいぐい酒を飲み干す重児。

 

(省吾さんの怖面と違って、普通にイケメンなのに女運のない人なんですねぇ)

 

 結婚前は寂しい独り身だったので、思わず共感と同情を覚えたシオンであったが。

 ともあれ、己への重児の態度に納得も行く。

 彼女は見た目かなりの上質な美少女、しかも彼が警戒すべき異種族なのだ。

 

「これからは良い出会いがありますって、ね? 私もこうして省吾さんと出会った訳ですし」

 

「そう! それだよ兄貴! なんで結婚なんてしてんのさ! 何時! 結婚式に呼んでくれなかったのッ!?」

 

「安心しろ、一週間まえに泥酔した勢いで結婚したばかりだからな。家族の中で最初に知ったのはお前だ」

 

「そうか! 僕が最初!! …………――――え? 一週間前? 酔った勢い?」

 

 思わずぎょっとして目を丸くする重児は、思わず立ち上がり叫ぶ。

 

「なんでそんな事になってんのさッ!?」

 

「いやー、俺も予想外だったぜ。まさか泥酔したまま教え子を拾って、そのまま二人で飲み直した挙げ句に市役所に走り込んで結婚届だしちまうとかさ」

 

「予想出来る訳がないよッ!? というか普通にそれ翌日離婚案件じゃないのッ!? っていうか教え子って言った? 言ったよねッ!?」

 

「落ち着けよ重児、俺もまぁ悩んだけどさ。コイツとなら良いかなって。それに聖婚までしちまったし」

 

「はッ!? 異種族でもかなりの重度のヤンデレでもしない聖婚したのッ!? 取り返しのつかないってレベルじゃないッ!?」

 

「えへへっ、照れますねぇ……」

 

「照れる所かそこ?」

 

 暢気に笑いあう二人を、重児は信じられないと愕然と見つめ。

 そも兄は重児にとって最高の兄だが、万年童貞もやむなしの非モテ男。

 そして相手は曰く付きも曰く付き、死んで大樹に変わっても独身と噂されていた伝説のダークエルフだ。

 

(くッ、僕は騙されないぞ! 何か普通に良い感じの新婚夫婦に見えるけど僕だけは騙されないぞッ!!)

 

(なーんて思ってんだろうなぁコイツ)

 

(やっぱ省吾さん大好き人間の重児さんとしては、納得いきませんよねぇ……)

 

 省吾は苦笑して、シオンはキラリと瞳を輝かせて思案中。

 夫が産まれた時からストーカーしていた彼女である、勿論の事、弟である重児の事もある程度は調べており。

 

(しかし……初めて知りましたけど使えますねコレ。良い感じの女の子を重児さんに引き合わせれば『流石だよ義姉さん! 兄貴に相応しい女性は義姉さんしかいないッ!!』ってなるんじゃないですか?)

 

 となれば、早速動かなければならない。

 間千田高校に赴任するという事は、兄を慕う弟が夫の昼休みを独占しても不思議ではなく。

 

(くふっ、ぐふふふっ、そうっ! これは決して私利私欲ではありませんっ!! あくまで義弟を心配する兄嫁としてっ! 省吾さんのお嫁さんとしてっ! 他の子を巻き込んでラブラブ・ランチタイムと洒落込もうではありませんかっ!!)

 

 理論武装は完璧、弟のやけ酒を水で付き合う兄の姿を見ながら。

 夫に作る、初めてのお弁当メニューを考えるのであった。

 

 

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