ダークエルフ押しかけ妻JKは、惚気るのを我慢できない   作:和鳳ハジメ

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第13話 ランチタイム・ラブコメ

 

 

 高校に粛正騎士が赴任する、というのは特段異常事態ではない。

 異種族が日本の高校に通い始めて約三十年余り、当初は異種族を狙った犯行を阻止する為に、各県庁に最低五人が配置されていたが。

 次第にそれは、異種婚に伴うトラブル防止及び解決の為に、中学や高校へ割り振られていった経緯がある。

 

(そういや、去年は隣の高校に美人の女騎士が赴任したって噂になってたっけか)

 

 故に、弟・重児は顔の良さもあって(主に女生徒から)諸手を挙げて歓迎されたが。

 問題はそこではなく、昼休みである今この時。

 シオンによって、強引に職員室から連行されているという状況である。

 ――省吾は抵抗するのを諦めて、大人しく廊下を進み。

 

「シーオーンー? 説明しろ?」

 

「はい浅野センセっ!! 折角なので重児さんに我が校の生徒と馴染む機会を作ろうと思いましてっ! でも重児さん一人では緊張するでしょ? 故にっ!! 兄であるセンセも呼んでっ、クラスの代表である板垣さんと四人で今日はランチタイムですっ!! 教室に席を作っておきました!」

 

「ふむ、筋は通っているな。じゃあドコまで私利私欲だ?」

 

「こんな絶好の機会見逃せる筈がありませんっ!! 私はもっともっと省吾さんとイチャイチャしたいんですっ!! 具体的には手作りお弁当でラブラブなランチタイムとか!!」

 

「職員室でラーメンの出前頼んでくるわ」

 

「のわあああああああっ、待って待って省吾さんっ!! 偶には学校でもイチャイチャしましょうよぉ、ちゃんと名目は果たしますからぁ~~~~」

 

「ちッ、しゃーねぇなぁ……」

 

 本音はともあれ、シオンの言うことは至極まっとうだ。

 兄として、弟が学校に馴染む手助けもしたい事ではあるし。

 省吾はしぶしぶといった顔を作り、教室の扉を開くと。

 

「――――どうか、お名前を聞かせてくださいお嬢さん。僕は浅野重児、粛正騎士団の騎士で年は二七、年収は一千万円です」

 

「えぁっ!? あ、あのっ、その……て、手を離してくださぃ…………」

 

「………………おいシオン? 教室間違ってないか?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? どういうシチュなんですこれっ!?」

 

 思わず省吾は真顔、シオンも驚きに目を見開き二人して教室が間違っていないか確認する。

 そう、とにかく兄である彼にとってとんでもなく衝撃的な光景であった。

 女運の無さから女性不信の気がある重児が、省吾の教え子を口説いているなんて。

 

「悲しい事を仰らないでくださいレディ、僕には分かる、君は運命の人だ、君みたいな天使の様な女性に初めて出会ったんです。分かっていただけますか?」

 

「あ、あのっ、て、天使……ですから、ハーフですけど」

 

「なんとっ!? つまり貴女はご両親の愛の象徴な訳ですねっ!! 嗚呼、貴女もさぞ愛情深く心まで美しい女性なのでしょうね…………」

 

「あぅ……、そんな恥ずかしい事を言わないでください……照れてしまいます騎士様……」

 

「僕の事は重児と、貴女の名前は?」

 

「メリッサ・板垣……です」

 

「ではメリッサとお呼びしても良いかな運命の人よ」

 

「――――っ!? ~~~~~~っ!?!?!?」

 

 省吾が止める間も無く、重児はメリッサの手の甲にキスをして。

 彼女は顔を真っ赤に茹で蛸状態、クラスの女子達は黄色い声をあげて。

 

「ふむ、では解説をしよう。異種族と人間の間の子の種族的特徴はどちらかに偏るんだ。それ故に、両親の特徴を二つとも受け継いだハーフは一種の愛の象徴、吉兆として受け止められていて――――」

 

「ちょっと省吾さん? 目の前の光景が衝撃的なのは理解出来ますが現実逃避で授業始めないでくださいよっ!?」

 

「現実逃避させてくれッ!! なんで重児が板垣口説いてるんだよッ!! つーか年齢差考えろよッ!! 自分の職業忘れてるんじゃねぇよ重児ッ!!」

 

「あ、兄貴居たんだ」

 

「っ!! た、助けてください浅野先生!!」

 

「――っ!? 行かないでメリッサ! メリッサアアアアアアアアアア!!」

 

「はーいよしよし、メリッサは私の後ろに隠れててくださいねー。じゃあセンセ、確保したんで後ヨロです」

 

 省吾達の姿を見て、即座にシオンの後ろに隠れたメリッサ。

 重児は運命の天使に逃げられ膝から崩れ落ち、クラス中の視線が省吾に集まる。

 

(いやいやいやッ!? 俺もどう収拾付けたらいいか分からねぇってんだよッ!!)

 

 そもそも、出足から予想外なのだ。

 昨晩は酔いどれて、前後不覚になるまでこれまでの恋人達への不満をこぼしていた弟がだ。

 今まで顔の良さ故に、何もせずともモテモテだった羨ましい程のモテ男の弟がだ。

 

(…………そういや、コイツが自分から攻めに行くの初めて見たわ)

 

 それ程までに本気なのか、一目惚れしたとでも言うのだろうか。

 女運の悪さ故に無自覚に嗜好がねじ曲がり、女子高生趣味に目覚めたとでも言うのだろうか。

 

(けど、人間ってそんなに変わるもんか? 何か原因があるんじゃ――――うん? ゲッ! これはまさか……)

 

 慌てて弟とメリッサを繰り返し見て、何かを確認する省吾。

 その間で重児はノロノロと立ち上がり、決意を秘めた瞳で省吾を睨みつける。

 

「…………みっともない所を見せたね兄貴、申し訳ないが退いてくれないか? メリッサと話がしたいんだ」

 

「ったく……落ち着けよ重児。俺には今のお前が正気には見えない。そんな奴を大切な教え子に会わせる訳にはいかねぇな」

 

「ははっ、確かにそれは言えてるね。今の僕はたった一目見ただけで心を奪われた――愛の騎士っ!! でも安心して欲しい、僕だって紳士だ強引な事はしないよ」

 

「紳士は普通、十も年下の高校生を出会って即座に口説かないし。手の甲にキスとかキザったらしい事もしないぞ?」

 

「…………そうか、言っても無駄な様だね。ならば兄と言えど容赦はしないっ!! 力付くでも僕はメリッサと話す!!」

 

 腰の剣を抜いた重児に、教室内は緊張が走る。

 このまま流血沙汰になるのか、省吾の隣のシオンが無言で臨戦態勢に入った事も緊迫感を加速させて。

 だが省吾は極めて冷静に、推測した事実を話した。

 

「お前がそう言うなら、こっちとしても相応の対処をさせて貰う。――だがその前にな、気づいているか?」

 

「何をだい兄貴?」

 

「学校だからって油断してんじゃねぇよバカ野郎!! つーかメリッサもだテメェいきなり何してんだよッ!! アホかテメェらッ!!」

 

「はいっ!? メリッサもですかっ!? 説明プリーズ省吾さんっ!!」

 

「いやシオンは気付よ! もっとよくメリッサを見ろッ!! つかお前らも誰か気づいて止めろよ――――『キューピットの矢』が刺さってんじゃねえかッ!!」

 

 瞬間、全員の視線がメリッサに集まり。

 

「――――てへっ?」

 

「は? 何してるんですかメリッサっ!? さては一目惚れしたのは貴女の方ですねっ!? 速攻で確保にかかりましたねメリッサっ!? 流石天使! 私達の中でも肉食系と名高い種族だけありますよっ!?」

 

 途端、教室の空気はダレる。

 天使族の強引なやり方は有名であり、異種族間の恋愛トラブル発生率一番も天使族であるからだ。

 

「ぼ、僕のこの気持ちが……偽物だったとっ!?」

 

「いやまぁ『キューピッドの矢』は相思相愛か、運命レベルで相性の良い相手じゃないと効果が薄いがなぁ……、後でお説教と反省文だぞメリッサ」

 

「そんなっ!? どうかお慈悲を浅野先生!! わたしはただ運命の相手を見つけたので結ばれる過程をショートカットしようとしただけなんです!!」

 

「一番ショートカットしちゃいけない所をカットしようとしてんじゃねぇっ!! 停学や警察沙汰にしないだけマシと思えよ!! 初犯だから手加減してんだぞ!!」

 

「ううっ、シオンさん~~~~! どうにかなりませんか!?」

 

「天使族のアレは、天使族が見た目だけは高嶺の花なんで素直になれない恋人が続出して、それを何とかする為のものですからねぇ……、今回は使い方を間違ったって事で素直に叱られてください」

 

 ああ、なんという時代だろうか。

 恋人達の秩序を守るべき粛正騎士ですら、餌食になる異種族大婚活時代。

 ともあれ省吾としては、これで一件落着だと思ったのだが。

 

「――――まだだっ!! この気持ちが例え彼女に植え付けられた物だとしても!! 効果があったという事は僕こそが運命の相手だという事!! そこを退いてくれ兄貴!!」

 

「今日は帰ってクソして寝ろバカ野郎ッ!! 一晩おいてまだ言えるなら考えてやるよ!! つーか忘れんなよここは日本だ!! 教え子で未成年との恋愛を教師である俺が見逃せる筈がねぇだろうが!!」

 

「……親御さんには今日中に挨拶に行く、だから退いてくれ。今の僕は――――本気だ」

 

 再び剣を構える重児、難しい顔をして鎮圧しようとするシオン。

 ――その光景に、省吾は激しいデジャブを感じた。

 そう、あれは遙か昔。

 弟では無く妹、シオンもまだ今より幼くて。

 

(…………相手は確か、同じ村に住んでたショタ狼男だったか?)

 

 彼女もまた、重児と同じく男運が無く。

 挙げ句の果てに、狼男が運命の番を誘うフェロモンに負けて。

 

(嗚呼――――懐かしいな、あの頃の『僕』は付き合いたければ『僕』を倒せって立ちふさがったっけ)

 

 それで気絶させ、冷静さを取り戻させたのだ。

 ならば今回も、そうするべきだろう。

 ――己がティムなのか省吾なのか、分からない事も気づかずに重児を見据えて。

 

「『今の君は言っても聞かないようだね』」

 

「君? どうしたの兄貴?」

 

「――――省吾、さん?」

 

「『よろしい、ならば僕も力付くで君に対抗しよう』」

 

「んんんっ!? ちょっと兄貴? いきなり僕だなんてどうしたのさっ!?」

 

(まさかこれって、……省吾さんっ!?)

 

 状況を理解したシオンであったが、今の彼を無理矢理止めていいものか判断が付かず。

 重児としても、近くの机から一五センチ定規を剣の様に構える兄に困惑しか無く。

 

「『君が真に愛を誓う騎士だというなら、恐れずかかってくるが良い』」

 

「気でも狂ったのか兄貴っ!? 俺のはミスリルの剣だぞっ!? プラスチックのそんな短い定規で――っていうか兄貴こそ正気に戻ってどうぞっ!?」

 

「『来ないなら、――こちらから行くぞ』」

 

「え? マジ? 兄貴マジなのっ!? ああもうっ、たんこぶは覚悟してよっ!!」

 

 剣では無く鞘で、と省吾が踏み込むタイミングを予測して持ち変えようとする重児であったが。

 

(『遅い』)

 

 省吾/ティムは、彼の腕が一ミリも動かぬうちから見切る。

 時を超えて世界を救った天才剣士の技術と経験が復活し、省吾をティムへと変えていく。

 

(『こちらで産まれてから剣の鍛錬は怠っていたが、これぐらいが良いハンデというものさ』)

 

 見える、重児の動きは幼き頃の省吾が教えたものがベースとなっているが故に。

 

(『体の動かし方にはコツがあるんだ、そして僕はそれを体得した』)

 

 見える、騎士の剣などそうそう構造も使われている金属だって変わる筈がない。それがミスリルというなら何度も切ってきた。

 

(『金属を切るにはコツがあるんだ、初見だったら二撃必要だったけど。僕は運が良い』)

 

 見える、確信する、プラスチックの定規でミスリルという世界最硬度の金属がバラバラになる光景が――。

 引き延ばされた体感時間、それに着いていく者が一人。

 

(あの動きっ! やはりティムの天剣!?)

 

 セレンディアには魔剣という概念がある、それは魔法が付与された強力な剣という意味ではなく。

 ――必殺の技、熟練の剣士が長きに渡る人生戦いの末に編み出す再現不可能、防御不可能の妙技。

 

 ならば天剣とは?

 それこそはティムのみが扱える、動作の一つ一つが魔剣を上回る絶技。

 魔法も使わず、切れない物を、そして概念すらも斬り裂けるデタラメ。

 

「――あれっ!? いきなり兄貴が消えたぁっ!?」

 

「後ろっ! 後ろです重児さん!!」

 

「そんなバカな――――って、はいいいいいいいいいいいいいっ!? どうなってのこれっ!? 何したの兄貴っ!? つーかこれ直るのっ!?」

 

「『ははっ、久しぶりだったけど。僕も中々やるもんだね』」

 

 重児が振り返った瞬間、剣も鞘も、そして鎧も縦横無尽に切り裂かれ落下する。

 彼は気づかなかったが、省吾の手にしていた定規はさらさらと粉の様になって。

 ――天剣に、プラスチックという素材が耐えきれなかったのだ。

 

「凄いです省吾さん!! 流石は私の省吾さ――って、ええっ!? 何で倒れ――――」

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおッ!! いきなり無茶したからスッゴい痛いッ!? なんだコレ痛すぎるぞッ!?」

 

「痛いとかそういう問題じゃないよ兄貴っ!? マジで何したのさっ!? 足が変な方向に曲がってるし、なんか全身の骨が折れてるっぽいけどなんで気絶しないで喋れてるのっ!? いつの間に人間止めてたのっ!?」

 

「そんな事より誰か治癒魔法くれぇ!! いや保健室だ保険の天竺(てんじく)先生の所まで連れてってくれ早くぅ!! 痛みで脱糞しそうなんだけどぉッ!?」

 

「あわわわわっ!? ピトニア来てください私と一緒に治癒魔法!! そして男子はカーテン使って即席タンカを作って運びますよ!! ああもうっ! どーしてこんなヘンテコな事態になってるんですかああああああああああああ!!」

 

「うーんダメだなこりゃ、意識落ちるわ――――」

 

 省吾が意識を喪ったのを見て、慌てて救命作業に入る生徒達。

 彼としては、熟練の技で体内を選んで壊して無茶したので致命傷ではないという認識故に平気で会話していたのだが。

 そんな事に気づける筈がなく、誰も彼もが大慌てで行動し。

 

「――――クハハハッ、これで大丈夫であろう!!……しかし見事なモノだな、一見重傷に見えるが低レベルの治癒魔法で治せる壊し方をしているとは。…………はて? 盟友ショーゴにそんな芸当が出来たか?」

 

「あ、そこまで分かるんですね天竺先生」

 

「フハハハッ、あちら出身の狼男であるがショーゴとは幼馴染みにして親友! いや盟友と言っても過言ではない!! さぁ――後はこの誇り高き余! 天竺蒼依(※彼女募集中!)に任せて授業に戻るのだシオン様――いえシオンさん」

 

「はい、ウチの省吾さんをよろしくお願いしますっ」

 

 保険室に運び込まれた省吾は、保険医・天竺によって即座に完治。

 後は目覚めるのを待つだけ、とシオンは退出し。

 

「久しぶりの再会がこれか盟友……、ったく余の前でそんな無防備に眠るとはな」

 

 ねっとりと視線を省吾に向け、天竺はべたべたと彼の手を触り始める。

 

「カハッ、ハハハハハッ、渡さんぞ貴様は――盟友、お前はオレのモノだ」

 

 ベッドで眠る彼に、間千田校の残念美形男と言われる天竺は。

 湿度の高い視線を向け、艶めかしく己の唇を舐めたのだった。

 

 

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