神転して理想の生活を送りたかっただけなのに   作:名も無き二次創作家

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スィナー:
オリ主、転移者、実質的にヒロインの感情を奪った。

アリス・ジェーン:
ヒロイン、感情がなくなった。


はやくお家に帰りたい

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましが鳴った。

寮の壁は薄いから、早く止めないと迷惑になる。

相変わらず寝起きは最悪だ。

怠いが、ランニングをする必要がある。

学校が始まるまでに毎朝10キロ走ると決めているので急いで支度をしなければいけない。

職人は身体が資本。

体力なんて幾らあっても足りないのだから10キロでも少ないかもしれない。

少しずつランニングの距離を伸ばしていかないといけないな。

 

アリスはまだ寝かせといてやる。

こんな朝早くに叩き起こしたら可哀想だ。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

言い忘れていたが、パートナーである職人と武器は原則同室に住む。

登校時間になったので彼女を起こし、彼女の身支度を整える。

 

感情がないということは、髪が跳ねてて「恥ずかしい」という気持ちも「身ぎれいにしたい」という気持ちも一切抱けないということだ。

 

そして「好き」という感情もない。

 

お気に入りの髪飾りもないし、こだわりの髪型もない。

流行のファッションを楽しみたいという気持ちもなければ季節に合わせた服装をしたいという気持ちもない。

ただただ俺の指示に従い、ただただ俺にされるがままになる。

彼女の髪をとかすときも、彼女の服を選ぶときも、着させるときも。

 

その行為のすべてで “俺が彼女から奪ったモノ” を再確認させられる。

 

 

今日も相変わらず、いつもどおりの朝だ。

 

 

 

すべての支度を終え、彼女と手を繋いで登校する。

別に死武専に行くだけなら手を繋ぐ必要はないのだが、どんな時間も無駄にはできない。

()()()()()()()()の時間など俺には存在しない。

付き合わせるアリスには悪いが、この鍛錬は基本的に武器の協力が必要だ。

 

 

歩きながら、俺は彼女に魂の波長をゆったりと送る。

彼女がそれを少しだけ増幅してスローペースで送り返してくる。

それを緩やかに繰り返す。

 

 

本来は瞬間的、もしくは一時的に行う魂の共鳴。

それを常に行い、個々の魂を鍛えると同時に最大共鳴率や共鳴速度を上げていく。

俺のチートのおかげで元々の共鳴率が高いので、そんな無茶苦茶なことをしても魂に負担がかかり難いのがありがたい。

 

 

この鍛錬のためにできるだけ手を繋ぎながら日常生活を過ごし、両手を使うときは一度離してまた繋ぐと同時に瞬時に魂の共鳴を始める。

共鳴速度を上げる鍛錬として考えれば、一時的に手を離して共鳴を中断するのも悪くない。

 

スムーズに、素早く、安定して共鳴率を上げる。

最初は先生方に「なにやってんの」と訊かれたが、もう訊いてくる人は教師生徒問わずいなくなった。

すっかり“いつもの光景”になったようだ。

 

これまた言い忘れていたが、俺のパートナーであるアリス・ジェーンは低身長の美少女だ。

シルクのようにきめ細かい金髪と、瑞々しくぷにぷにすべすべな真っ白の肌。

口数が少ないが故の大人し目でミステリアスな雰囲気。

それでいて小動物のような愛くるしさも併せ持つ。

それらが重なり、死武専の中でも大変な人気を誇る。

まあ、チート(特典?)のおかげで俺もパートナーとして釣り合う見た目をしているが、それと男どもからのやっかみがあるのはまた別の話だ。

 

最初はやっかみも酷かったが、今は落ち着いてきている。

鍛錬の邪魔にならないモノはすべて無視したし、鍛錬の邪魔になるモノはすべて徹底的に排除したからだ。

ここは死武専。

多少のケンカが問題になることもない。

 

もし俺が鬼神すら余裕で倒せるほど強かったら全て無視しても良かった。

でも残念ながら俺はまだまだ弱い。

そこら辺にいる悪人程度に負ける気は無いが、原作が進むにつれてもっと格上の敵が出てくる。

だから、弱い俺には時間が無い。

主人公補正のない俺とアリスが生き残るためにはどれだけ鍛錬をしたってしたり無いのだ。

日常生活を送りながら魂の共鳴をし、休み時間に素振りなどの鍛錬をし、悪人が出ればクエストを受けて人の道を外れし魂をいただきに行く。

すべての時間が未来のための鍛錬だ。

それを邪魔されると将来的にアリスが死ぬ。

 

アリスの願いの一つが「デスサイズになること」である以上俺はそれを死んでも叶える。

だが、そうなると派手に動かなきゃいけないし悪人を狩るほど自然と名声が上がり魔女の目にも付きやすくなる。

「デスサイズになること」と「強い相手と戦い続けること」はイコールなのだ。

俺はアリスを死なせないためにも、使える時間のすべてを捧げて強くならなくてはいけない。

職人1人での鍛錬なんてたかが知れてるから、アリスにも付き合ってもらわなきゃいけないのが申し訳ないが。

 

共鳴によって聞こえてくる彼女の声はむしろ鍛錬漬けの生活に協力的だが、それは彼女に感情がないからだろうか。

俺のせいで待望だった「楽しい青春」の日々を……、友達と遊んだり駄弁ったりする日々を送れなくなってしまったからなのだろうか。

 

 

いったん気持ちを切り替えよう。

今からクエストだ。

討伐対象は『追い剥ぎディック』。

いつもの悪人狩りだ。

人の道を外れ、鬼神の卵と化した魂。

死神様のリストに載った以上その魂を回収しなければいけない。

というのは建前で、合法的に人間の魂をいただける貴重な機会だ。

デスサイズを作るために99個も集めなければならない悪人の魂。

そちらから差し出してくれるなんて、ありがたい。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

『健全なる魂は 健全なる精神と 健全なる肉体に宿る』

 

魂と肉体は深く繋がっており、魂が人の道を外れると肉体も人の形から外れることが多い。

目の前の『追い剥ぎディック』も例に漏れず、ゴボウのような胴体と屈強な下半身、ナイフを掴み(むち)のようにしなる腕を持っていた。

 

「アリス」

 

彼女の名前を呼び、変身を促す。

それに応えた彼女がレイピアへと姿を変えて、俺の右手におさまる。

右足を前に出して半身(はんみ)になり、構える。

 

瞬間、ディックがその強靱な足腰を使って素早い踏み込みを行う。

繰り出されたのは右腕のなぎ払い。

もしこれをくらえば、俺の身体は派手に鮮血をまき散らしながら切り裂かれてしまうだろう。

 

当然避ける。

 

だが今度はやつの左手が来る。

 

勿論避ける。

 

やつが左右の腕を使い、素早いラッシュを始める。

 

俺は前後左右にステップを踏みながらアリスでいなし、弾き、隙を待つ。

レイピアは、よくフェンシングに使う武器と間違われることがある。

俺もアリスと出会うまでは混同していた。

 

しかし、この子を握ってわかったことが幾つかある。

まず、フェンシングの武器ほど細くないし、しならない。

刃がついていて、斬撃も繰り出せる。

そして根に近い部分は意外に重くがっしりしているため、敵の攻撃を安定して受け止めることができる。

前世ではなんとなく「長細くてすぐ折れそうな剣」と思っていたが、イメージほど簡単には折れない。

 

まあ、流石に普通の剣よりかは折れやすいけど。

そこは職人の腕の見せ所だ。

 

ナイフ攻撃を空振ったディックが、僅かに体勢を崩す。

その隙を逃さず、ゴボウのような胴体に神速の突きを繰り出す。

だがヤツはわざとバランスを崩してさらによろけ、突きを避けた。

本来ならその程度の動きで躱せる速度の突きじゃないが、ディックの身体はゴボウ並みに細い。

 

本当は斬撃を出したかったが、位置関係と体勢的に難しかった。

それで相手の身体の細さを無視して突きを放ったのだ。

結果、外したが。

 

……本当に、まだまだ俺は弱いな。

 

わざとよろけたディックが、そのまま身体を捻ってナイフの一撃を俺に繰り出す。

金属音と共に、武器が宙を舞う。

終わり、か。

 

 

 

 

()()()()()()()()()どこかに跳んでいく音”を聞きながら、構える。

 

多くのレイピアの(つば)は曲線になっており、一見すると豪華な装飾に感じる。

だがその実体は「相手の武器を絡め取り、場合によっては折る」為に存在する立派な戦闘機構だ。

その鍔でディックの持つナイフを絡め取り、遠くに跳ばした。

それじゃ、いくよアリス。

 

魂の共鳴

 

 

 

── 白光剣(びゃっこうけん) ──

 

 

 

 

魂の波長が一瞬で何十倍にも増幅され、レイピアが太く変形する。

 

共鳴率が上がれば上がるほど武器と職人は真価を発揮するが、特に武器は形を変えることもできるようになる。

例えば刃のついた武器だとブレードの部分が肥大化することが多いし、鉄砲系だと大きくなって大砲みたいになる。

 

アリスはレイピアの魔武器でありブレードがあるので、例に漏れず刀身が肥大化した。

その刃幅(ははば)は人間の横幅か、あるいはそれ以上もある。

これで、今度こそ避けられまい。

 

 

 

 

鋭く踏み込んで、横薙ぎに一線。

 

 

 

 

斬撃ならレイピアでもよかったかもしれないが念には念を入れて白光剣を使った。

レイピアは「斬撃できる」ってだけで「斬撃に向いている武器」というわけでもないしな。

 

 

「アリス、お疲れ様。はいこれ」

 

彼女に回収したディックの魂を喰わせる。

これで人間の魂が80の大台に乗った。

このペースで行けば、来年にはアリスをデスサイズにできそうだ。

 

 

俺は改めてこいつをデスサイズにすると誓いながら、急いで家に帰るための準備をする。

早く帰って鍛錬をしなければ。

遊んでる暇はない。

 

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