神転して理想の生活を送りたかっただけなのに 作:名も無き二次創作家
ではこの小説がぴったりです。
安心してお読みください。
共鳴率が80を超えない。
チートで共鳴率が底アゲされているのに、どうしても80%が限界だ。
くそ、まだ修行が足りないのか……ッ!
もしかしてチートの効力が切れてる?
いや、そんな感じはしないけど……。
「まーたやってるよ」
「もう病気だな、あれは」
「なにかに取り付かれてるんじゃないの?」
「こっわ、目がイッてるよ」
ヒソヒソと此方を遠目に見ながら囁くモブたちがいる。
うるさいなあ。
無視だ無視。
今日は風が涼しいな。
そこの木は顔みたいな模様がある。
朝部屋に鍵かけたっけ?
……ダメだ。
どうにも集中できない。
息を吐き出し正面を向くと、こそこそ話していた奴らと目が合う。
途端に彼等は我先にと逃げ出していった。
逃げるくらいなら最初から……どうでもいいや。
あの日からずっと夢見が悪く、調子の悪い日々が続いてきた。
だが、最近は一段と調子が悪い。
心当たりはある。
この間であったNOTクラスの新入生、春鳥つぐみだ。
彼女は漫画内で“殺伐だけど、ウキウキライフ”をコンセプトに、この学校で青春を謳歌するのだ。
……もし、アリスが感情を失っていなかったら。
彼女のように友達と笑いあったりしたんだろうか。
友達と一緒にバイトをしたんだろうか
困ったときも友達と支え合ったんだろうか。
友達と放課後に寄り道したんだろうか。
とりとめも無いお喋りをしながら買い食いでもしたんだろうか。
思いをぶつけ合って、高め合って、迷いながらも手を伸ばして繋がり合う。
そんな日々を過ごしたのだろうか。
春鳥つぐみ。
彼女はもしかしたら、俺が奪ってしまった“アリスが送るはずだった青春”の体現者なのかもしれない。
そう思うと、鍛錬に集中できなかった。
こんなんじゃ先が思いやられる。
自分の精神もコントロールできないようじゃ、敵の精神攻撃にやられてしまう。
かといってこれといった改善策が思い浮かぶわけでもなく。
なにか、気分転換がしたいなあ。
「あ、あの!」
唐突にかけられた声に振り向く。
そこいたのは件の春鳥つぐみだった。
◇◇
EATクラスを目指すのかはまだわからない。
でも強くなりたい。
だから、稽古付けてくれませんか!
そう言った彼女を握り、俺は魂の波長を彼女に合わせた。
こういう便利なチートだけにしとけばよかったのに、余計なことを言うから……。
いや、今は指導に集中しよう。
どうやらあのときの去り際のジョークを真に受けてしまったらしいが、これも人助けなので引き受ける。
良い気分転換にもなりそうだし。
「ハルバードの基本はコンタクトマテリアル──つまり職人の手などを支点にクルクル回転すること。最初の数回は俺が回すから、途中からは自分の意思で回ってみて。動きに詰まったら俺もサポートするから、まずは思いきってやってごらん」
どうやら職人2人にパートナー契約を誘われているらしいが、どちらも凄い人だから烏滸がましい気持ちになってしまうらしい。
だから強くなって2人に相応しい武器となり、出直すつもりなんだとか。
「強くなりたい」という思い自体は悪いものじゃない。
だけど、原作やNOTでもあるように「1人で」強さを求めてると空回るだけだ。
「武器と職人は二人で一つ」という死武専生の教えどおり、正解は「二人(もしくは三人)で強くなる」ことだ。
……俺はどうだ?
アリスの願いを叶えるために強さを求めている俺は「1人」で空回っていないか?
というか、「アリスの願いを叶える」じゃなくて「アリスと共に願いを叶える」じゃないのか?
……今の俺じゃあ、「武器と職人は二人で一つ」とはとても言えないかもしれない。
そりゃあ共鳴率も限界が来るわけだ。
『わわわ、難しいですぅ~!』
「初心者でこれなら上出来だよ。あの日の廊下での話を聞く限り、アーニャさんは武術をやっていたんだろう。でもそれは“物”を振り回す技だ。動かない、意思のない“物”を動かす技だったから君もなにもしなくてよかった。だけど、強くなりたいんならそれじゃ駄目だ。その先にいきたいんなら君も一緒に戦う必要がある。武器状態でも自分の意思で動けるようになれば、職人の動きも比べものにならないほどよくなるはずだから」
相乗効果みたいなものかな。
そうこうしているうちに、俺のほんの少しのリードだけで彼女はぐるんぐるん回れるようになった。
「もうこんなに動けるようになってきたんだ。飲み込み早いね」
『先輩のリードが上手なおかげです』
可愛いことを言ってくれる。
そういえば、俺はこの世界で女の子にモテたかったんだっけ。
それでイケメンフェイスをもらったんだけど、今は酷いクマができてて台無しだろうな。
アリスをこんなふうにした癖に、俺だけ青春を謳歌するなんて面の皮の厚いことはできなくてすっかり忘れていた。
……そう思うと、この状況もアリスに悪い気がしてきた。
少し離れた距離から此方をじっと見つめる彼女。
彼女にもし感情があったとしたら、俺だけ異性とお近づきになっていって「ずるい」と思うのだろうか。
私の感情を、夢を奪っておきながら、自分は青春を謳歌する気なのかと「怒る」のだろうか。
あるいはパートナーである自分を放置してよその武器にかまける姿に「嫉妬」してくれるのだろうか。
「……最後に魂の共鳴だけ体験してみよっか」
『魂の共鳴?』
「互いの魂の波長を、音叉を共振させるように合わせるんだ。その状態で職人が武器に魂の波長を送る。武器はそれを増幅して職人に送り返す。普通は一朝一夕にできることじゃないけど、俺は特殊な事情でほんの軽くならほぼ誰とでも“魂の共鳴”ができるから」
つくづく便利だ。
春鳥つぐみの成長を早められるかもしれない。
そうすると原作と変わってくる部分が出てくるのかもしれないが、そんな俺の都合で後輩の成長を阻害するようなことを彼女が許容するだろうか。
死武専はざっくりいうと正義の味方で、そのイメージに沿って死武専生=ヒーローという憧れを持っていた彼女。
きっと今感情があれば、そんなことは許さなかったんじゃないだろうか。
……今となっては想像の域を出ないけど。
いけない、魂の共鳴に集中しろ。
感じ取れ、春鳥つぐみの魂を。
……。
…………。
………………みつけた。
横倒しにしたハルバードを眼前に掲げた状態で、俺は彼女の魂に優しく触れる。
既に波長は合わせてある。
波長の合った魂通しが触れ合ったことにより、音叉のように共振しだした。
いける。
俺は彼女に丁寧に波長を送る。
彼女は初めての感覚にびっくりし、戸惑いながらもなんとか此方に波長を送り返してくれた。
共鳴率は45%と魂の共鳴をするにはギリギリだけど、パートナーじゃないから問題無い。
それに増幅率はあってないようなものだけど、これはただの体験コースだからよし。
感覚さえ掴んでくれればそれでいいのだ。
波長のやりとりを何度か繰り返し、生み出された膨大な魂の波長に春鳥つぐみがきづいた。
膨大と言っても春鳥つぐみにしては、だが。
普段の俺が10だとしたら、彼女の波長が1→2に変化した程度だ。
でも、感覚は掴めただろう。
彼女の成長はきっと「沢山の人たちを助ける」ことにも繋がるはず。
なにせNOTの主人公なのだから。
「あくまでも俺が特異体質なだけで、普通はもっと時間をかけて、君からも魂を通わせにいかないと共鳴できない」
「あ、はい!」
人間姿に戻った彼女に、もう時間だからと別れを告げて寮へ向かう。
アリス、お待たせ。
帰ろう。
俺はアリスと手を繋ぎ、いつもの共鳴訓練を開始する。
共鳴率80%
手を繋いだ瞬間のアリスの
そんな俺の都合のいい願望が叶うことはなかった。