恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。   作:X2愛好家

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復讐の前哨戦
最初の日


復讐は我の為
旧友


この槌はいつ奴の頭蓋を粉砕する?

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「戻った。精算を頼む」

「かしこまりました!少々お待ちくださいね!」

 

人が自然と共存し、時に抗う世界。害をなすモンスターを狩猟し、病や傷を癒す薬を作るための薬草を採取し、富と名声を得る者達。【ハンター】各地方によって様々な武器や技術を駆使して狩場を駆ける狩人である。どこかの街のハンターズギルドが置かれた集会所に帰還した男もまたハンターだ。腰に独特な色合いをしたハンマーを提げた男は、常に忙しく対応をしている受付嬢の元へ向かい受付待ちの他のハンターが居なくなった瞬間を見て話し掛ける。一息つけるかもしれなかった受付嬢には悪いと思いつつも今回受けたクエストの精算を頼む。

 

「証明素材と受注書のご提示、ありがとうございます!精算と照合を行いますので、お掛けになってお待ちください!」

「ああ」

 

標的であるモンスターと戦った証であり、勝利して得た戦利品でもある素材とクエストを受注した際に、紛れもなく自分が請け負った依頼である証明の受注書の半券。それらを受付嬢に渡し、「待合所」兼「酒場」兼「作戦会議の場」であるギルド内の一席に腰掛ける男。この街からそう遠くない場所が目的地だったので照合にもあまり時間は掛からないだろう。だがそうなると少々暇である。酒や食事を注文するほど長くはないし、かといって何もしないのでは手持ち無沙汰だ。

 

「そういう時にこそ、か?」

 

左腰に付けている【黒い何か】を手に持つ男。狩猟中に外れないよう多少頑丈にくくりつけてあるが、もう取り外しにも慣れたものだ。

 

「忘れてはならない・・・忘れられる訳がない」

 

脳裏に浮かぶのは【赤】それも濁った暗い赤である。それを思い起こすのと同時に聞こえてくるのは断末魔の悲鳴。自分に逃げろと、生きろと言って果てた無二の相棒。

 

『ビオ!』

 

「───さん?ビオさーん!」

「っ!?あ、あぁすまない」

 

自宅に帰るまで、または酒場で成功を祝って騒ぐまでは神経を尖らせているハンター。その知覚範囲をすり抜けて耳元で大声を出されるまで気付かないとは、かなり感傷に浸ってしまったらしい。

 

「今日はお疲れみたいですね・・・お怪我などはされていませんか?」

「大丈夫だ。疲れているのは事実だが、報酬を受け取る程度なら支障無しだ」

「あまり無理はしないでくださいね?・・・ではクエストカウンターまでお願いします!」

 

営業スマイルや事務的な態度ではなく本気でハンター一人ひとりを心配している受付嬢。普段の元気な様子も相まって街の人気者だ。彼女の応援に勇気と活力をもらったハンターも少なくないだろう。わざわざ呼びに来てくれた彼女について、再びクエストカウンターに立つ男性ハンターの名は【ビオ】。

 

「ビオさんが受注されたクエストはテツカブラの狩猟です。討伐証明の素材に、受注書の半券の一致。現地で荷車アイルーのお世話になった報告も無し。報酬金の減額は発生しませんので、このままお受け取りください!」

「ありがとう」

 

受付嬢から差し出された袋を受け取り、ポーチにしまうビオ。また明日にでも、と自宅へ帰ろうとするビオを呼び止め、何やら手紙のような物をビオへと渡す。

 

「これは?」

「ビオさん宛のお手紙です。カムラの里っていう所からみたいですよ?」

「カムラ?・・・この場で開封した方が良いか?」

「いえ、大丈夫です!個人宛の上にカムラの里のギルドマネージャーの印もありましたので!怪しい書類ではないと思います!」

「・・・分かった、確かに受け取った。他に無いならこのまま引き上げさせてもらうが」

「はい!引き留めてしまってごめんなさい!ゆっくりお休みくださいね!」

 

(カムラ、か・・・わざわざ個人宛にギルド経由で手紙を寄越すとは。何かあったか?)

 

集会所近くに建てられた宿屋に向かいながら思考するビオ。番をしているアイルーから部屋の鍵を受け取り自室へと入る。手紙の内容は気になるが、まずは身だしなみを整えるのが先だ。この時間なら水場も空いているだろう。ここまで纏っていた「スキュラシリーズ」の防具と腰に提げていたハンマー「ストライクストライプ」を順に外していき、それぞれアイテムボックスの収納場所にしまっていく。最後に持ち帰った素材と報酬金をボックスと簡易な金庫に収納して終わりだ。

 

「ふぅ・・・まずは水浴びだな」

 

風の噂によれば、とある地方の村には温泉がクエストカウンターと併設されている変わった造りの集会所もあるらしいが、大きくも小さくもないこの街にはそんな贅沢な設備は無い。宿屋と言いつつも、ほぼハンターの宿舎になっているこの宿には身体を洗う水場しか無いのだ。防具を着けずにインナーだけで歩き回ろうが、水場で他の利用者と鉢合わせようが、ハンター同士で気にする事が無いのが良い所と言えるぐらいだ。稀に顔を赤らめる駆け出しの少年少女が居るが、いずれ慣れる。

 

(カムラの里・・・お前が居れば喜んだろうな)

 

訓練所の同期から話を聞いては目を輝かせていた、今は亡き相棒。その同期の故郷からの便りに疑問は募る。水場から自室に戻り、濡れた髪にタオルをかけながら手紙を開封する。

 

「直接ギルドから名指し、という訳ではない。だがギルドを通して個人に送るという事は知己の人物であり、それなりに緊急の要件・・・やはりウツシか」

 

暑苦しい事この上ない男を思い出して苦笑するビオ。だが内容を読み込んでいく内にビオの顔から明るい感情が消えていく。

 

『久しぶりだねと言いたい所だけど、挨拶や思い出話は抜きにして本題に入らせてもらうよ。単刀直入に言えば里に危機が迫っている。百竜夜行だ。その予兆を察知した。対抗するための砦を作っていたんだけど、それも間に合いそうになくてね。特例として召集したハンター達で防衛線を敷く予定なんだが、手当たり次第という訳にもいかない。あまり言いたくはないけど素行の悪化が問題視されているからね。そこで同期であり、信頼できる者にこうして声をかけているんだ。

ビオ、どうか力を貸してほしい。そちらにも事情があるのは分かっている。勝手な願いだという事も。それでも頼む』

 

「百竜夜行・・・」

 

モンスターの【波】とも形容できる災害。連続狩猟などとは比べ物にならない程のモンスターが大挙して押し寄せる、正に自然が人に牙を剥く天然の悪意である。あんなに暑苦しく常に大声を張っていなければ生きられないような男が、文面でも理解できる程に真剣なのだ。生まれ故郷を、そこに生きる者達を守りたいという思いが伝わってくる。それに───

 

「モンスターの大群だったな・・・奴が現れる可能性も無くはない、か」

 

理由はどうあれモンスターが集まるという事は、より上位の存在の【餌場】でもあるという事。常に何かを貪り喰わねば生きていけない【奴】も多くの餌に釣られて現れるかもしれない。情報を得るだけでも相当の苦労をした上、上位のハンターでなければ正式に討伐依頼を受ける事ができない【奴】も乱戦の最中に現れれば、戦う理由をこじつける事が可能だ。

 

「見捨てる選択肢は無い。だが、もしもの時は個人的な理由で動かせてもらう・・・」

 

正義感の中に僅かに淀んだ殺意を混ぜ込んで、ビオは百竜夜行へと立ち向かう事を決めたのだった。

 

 

 

「えぇー!居なくなっちゃうんですか!?」

「なにも永住する訳じゃない。片付いたら戻ってくるつもりだ」

 

翌日の早朝。ギルドに顔を出し、カムラの里の救援に向かうため手続きを行おうとした際に聞いたのが受付嬢の大声である。モンスターの咆哮ほどではないが、さすがに朝一で聞くには大きな声である。

 

「むぅ・・・生きて帰ってくださいね?」

「死ぬつもりはないさ」

 

渋々ビオの拠点を移す手続きを始める受付嬢。カウンターで行える記入をテキパキと終え、事務室へと入っていく。戻ってくるまで時間を潰さなければならなくなったビオだが、彼に話し掛ける人物が一人。

 

「よぉビオ坊」

「マネージャー。おはようございます」

「ん。おはよう」

 

この街のハンターズギルドを取り仕切るギルドマネージャー。耳の形が特徴的な竜人族の女性である。

 

「カムラに行くんだって?」

「はい。訓練所の同期からの依頼という形で」

「団子が美味しいのと厄介なモンスター災害が語り継がれてるくらいしか、わたしも知らないねぇ」

「極端な情報ですね」

「というわけで、土産はカムラの団子で頼むよ。わたしと受付の子ら三人で四人分」

「賞味期限が保てば、ですがね」

 

所属ハンターに土産を要求するのは如何なものか。それだけビオが信頼されているからか、このギルドマネージャーが元からおちゃらけた性格なのか。

 

「断りはしないんだねぇ。そういうとこ、好きだよ?」

「それはどうも」

「・・・向こうの地方で【アレ】は確認されてないよ。残念ながらね」

「!」

 

自分の事情を知る数少ない人物。ギルドマネージャーの言葉に少なからず動揺するビオ。先程までの笑顔は消え去り、心の奥まで見透かすような冷たい表情になるギルドマネージャー。

 

「急ぐ気持ちは分からんでもないがね、ギルドとしては実力もハンターランクも足りてない新人にアレ・・・かの【恐暴竜】の依頼を斡旋するわけにはいかないのさ」

「・・・分かっています」

「本当かねぇ。今にも飛び出していきそうな顔と殺気だけど」

 

【恐暴竜 イビルジョー】獣竜種に分類されるモンスターであり、生命活動を維持するために常に捕食を続けなければならないという生まれながらの捕食者にして生態系の破壊者。他のモンスター、家畜、人間にいたるまで生命体ならばほぼ全て捕食対象として襲い掛かる危険な存在である。

 

かつて故郷の村で生まれ、共に成長し、二人してハンターとなった相棒。その相棒を喰らったイビルジョー。その凶暴性から下位のハンターは関わる事が許されない。どれだけギルドに貢献していようが、復讐に身を焦がそうが、まだ新人の括りから抜け出せていないビオに正規の手段でイビルジョーと戦う方法は皆無だ。

 

「場数をそこそこ踏んでるのはその影蜘蛛の鎧が物語っているし、轟竜すら叩き潰す技量と殺意はハンマーが証明している。それでもハンターである以上は規則に従ってもらう」

「・・・」

「だから、糧にしてきな」

「糧?」

 

冷徹な顔から、どこか憂いを帯びた悲しげな笑みを見せるギルドマネージャー。今まで多くのハンターを見てきた彼女からすれば、ビオはもう引き返せない場所に立ってしまっているのだろう。

 

「止めても無駄なのは見れば分かるさ。だから、せめて途中で命を落っことさないように強くなりなって言ってんのさ。百竜夜行だったかねぇ、獣共のどんちゃん騒ぎに便乗して狩りの腕を上げればいい。滅多にできない経験を無駄にしないように。あぁもちろん人命優先でね」

「・・・はい!」

「良い返事だ」

 

止められない、止める権利も理由も無い。ならば強くなれと言いたいらしい。長寿ゆえの諦めと悟りか、人を見守り続けたがゆえの慈愛か。ビオとマネージャーの話が終わるのを見計らったように戻ってくる受付嬢。

 

「お待たせしました!ってギルドマネージャー!おはようございます!!!」

「うん、おはよう。相変わらず元気でよろしい」

「ありがとうございます!!!あっ、ビオさんの手続き終わりましたよ。この証明書の提示と利用料金の支払いだけそちらでお願いしますね」

「了解した」

 

受付嬢からカムラの里に逗留する為の書類を受け取りポーチにしまいこむ。後は里への移動手段、足の確保だが。

 

「馬車の空きは分かるか?」

「ビオ坊が狩りに行ったのと入れ違いでほぼ全部出払っちまったね」

「そうですか・・・」

「でもキャラバンなら来てるよ。途中まで里の方向には向かうみたいだから乗せてもらいな。そっから先は現地で何とかするしかないがね」

 

様々な地域を渡るキャラバン。途中までならカムラ里の方向へ向かってくれるらしい。

 

「世話になった」

「よせやい、今生の別れじゃあるまいし」

「ちゃんと戻ってきてくださいね!約束ですよ!」

 

呆れたようなギルドマネージャーの声と活気溢れる受付嬢の声を背に集会所から出るビオ。元々素材は溜め込む質ではなく、宿も引き払ってある。どうせ戻ってくるから空けておくとは言われたが。旅費と携帯食糧、ギルドの書類をポーチに詰め込み、スキュラシリーズの防具を纏いティガレックスのハンマーを腰に提げ。キャラバンが出発準備を整えている街の出口へと足を向ける。左腰に取り付けた黒い鱗を一瞬だけ睨み、視線を前へと向ける。今この瞬間だけは迷いなど無い。

 

幕を開けるは百竜との死闘。先に見据えるは血肉を貪る貪食の恐王。その果てに得るのは復讐を終えた虚しさかはたまた呆気ない終焉か。

 

結末はまだ誰にも分からない。




【ビオ】
年齢は22歳。男性。ハンマー使い。
新人に分類されるハンターだが、その技量とクエストの達成率は高くギルドからの評価も高い。
駆け出し時代に乱入してきたイビルジョーとの遭遇戦になり、その際に一緒にハンターになった相棒を喪っている。そのイビルジョーが落とした黒い鱗を御守りとして左腰に着けている。

【受付嬢】
オリジナルキャラ。20歳。女性。
ビオが拠点としている街の集会所に勤める受付嬢。
快活な性格で街の人気者。

【ギルドマネージャー】
オリジナルキャラ。???歳。竜人族の女性。
ビオが拠点としている街のハンターズギルドを仕切っている。
飄々とした性格で掴み所が無い。今まで多くのハンターと出会い、別れてきた経験から危ういビオを気にかけている。
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