恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。   作:X2愛好家

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戦え、さもなくば明日など来ない


死線

いつ終わるのだろうか。

広大な空間に漂っているのは、そんな思考だろう。複数の街、村に近く各地を繋ぐ要所でもある【ライ地帯】。そこに多くのハンターが集っていた。

 

「応援は!交代の連中はまだなのか!」

「分かんねぇよ!」

「弾が切れた!クソッタレがぁっ!」

 

指示も激励も無く、飛び交うのは恨み節と怒号だけ。とっくの昔に切れ味が落ちた剣を振るい、弾が切れたボウガンで殴り、矢の無くなった弓は回避に徹する他ない。

 

───ガァアァァァ!

───グルァア!

───キシャァァァァ……!

 

集まっているのはハンターだけではない。ただ狩られるだけの獣ではない。強固な鱗を持ち、尾で木々を薙ぎ倒し、火炎を吐き出し、雷を纏う。人の身を軽々と持ち上げ、鎧を切り裂き、恐怖を呼び起こす雄叫びを上げる。尋常ならざる怪物、モンスターが種族の垣根を超えてライ地帯に縄張りを築いているのだ。その多くは、かつての狂竜症や極限化個体とまではいかないものの、非常に気が立ち凶暴化しており、ハンター達を苦戦させていた。

 

何故ここまで凶暴になっているのか、その理由は至極単純。命の危機を感じ、生きる為に普段以上の能力を発揮しているからである。

 

何故生存本能のままに暴れ回っているのか、それは強力かつ狡猾な存在に招かれたからである。

 

ハンターにとっては狩場、モンスターにとっては戦場、そして【奴】にとっては餌場。それぞれの思惑が激突する混沌とした場にまた一人、足を踏み入れんとする者が居た。狩人でも怪物でも【奴】でもない、【復讐者】が地を駆ける。

 

「終わらせる・・・!ここで!」

 

復讐者の名はビオ。【奴】に大切な相棒を喰われたハンターである。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「傷が深いのと回復薬が切れたのは下がれ!ここは俺が何とかする!」

 

透き通る綺麗な川が流れている地帯にて、川を血と泥で汚し染めながら戦うハンターが居た。

 

「でぇぇぇやぁぁあ!!」

 

───クララララッ!!

 

自らの身の丈を超える大剣を振り回し、傷付いた他のハンターを撤退させる男。鮮やかな青と白の鎧が水飛沫と共に躍る。彼の名は【アギア】。特異個体包囲戦に参加したハンターの一人であり、現場の指揮を任せられた上位ハンターの一人でもある。

 

「やっぱり手強い!」

「それだけ例の恐暴竜が怖いんだろうさ!」

 

戦闘続行が可能なハンターを鼓舞し、自分の得物を固く握り直す。アギア含めて三人のハンターで相対しているのは、長い身体と独特な音を発するのが特徴の蛇竜種モンスター 絞蛇竜ガララアジャラ。この蛇竜も例に漏れず生存本能の活発化、あるいは狂った晩餐会に当てられて凶暴化している。

 

「来るぞ!」

 

───カカカカカカッ!

 

鳴甲と呼ばれる他のモンスターとは違う特殊な甲殻。それを尻尾から飛ばして攻撃手段とするガララアジャラ。だが飛ばされた鳴甲はハンターに掠りもしないどころか明後日の方向に飛んでいく。

 

「下手っぴ!」

 

被害が無かった事に気を良くした少女が突撃していく。アギアともう一人が止めようとするも、既に武器と体躯の間合い。やむを得ず二人も援護に動く。

 

「そぉーれぇ!・・・あれ?」

「真横だ!」

 

───クルァルルル!

 

「うっ!?」

 

ガララアジャラはその大柄な体躯に似合わず、かなり俊敏に動く事ができる。また真正面から威嚇して注意を引き、獲物の背後から尻尾を忍び寄らせて攻撃するなど、狩りの知能もそれなりに持つのだ。少女が意気揚々と繰り出したスラッシュアックスによる振り下ろしなど、神経が研ぎ澄まされている蛇竜にとっては、回避してくれと言わんばかりの緩慢な一撃である。

 

「立て直せ!」

 

ガララアジャラの爪に引っ掛けられ、転がされる少女。その少女を追い抜きながら生命の粉塵を撒き散らすアギア。粉塵の効果を確認せずにガララアジャラへと走り寄っていく。

 

「せぇやぁ!」

 

───クルルッ!

 

「ッ!今だ!」

 

正面から大剣を振り下ろすアギアだが、直前のスラッシュアックスと同じく身を捩って回避されてしまう。だが少女とは違い、吹き飛ばされる事は無かった。

 

「オラァ!」

 

───ギッ……!

 

アギアの背を踏み台にして飛び上がる影。迅竜ナルガクルガの素材を使った黒い装備を身に纏う、もう一人のハンターがアギアの隙を狙うガララアジャラにカウンターを繰り出したのだ。

 

「これも・・・持ってけぇっ!!」

 

ナルガ装備のハンターが決めたシールドアッパーで怯むガララアジャラ。今度はこちらが隙を狙う番だと、握った大剣を全力で振り抜く。やや上の方向を狙った薙ぎ払いは、ガララアジャラの前脚付け根を深く切り裂いた。

 

「最後はわたしがぁぁぁ!」

 

悲鳴を上げながら大きく体勢を崩すガララアジャラ。だがハンターの攻撃はまだ終わらない。アギアに続き駆け寄って来たのはスラッシュアックスの少女。白い鎧──ベリオ装備に自慢のスラッシュアックスを携え全速力でガララアジャラとの距離を縮めている。

 

「さっきの!恨みぃっ!」

 

何とか持ち直したガララアジャラだが、血走った眼がベリオ装備の少女を捉えた時には既に、スラッシュアックス必殺の間合いに踏み込まれていた。短い溜め動作から放たれる剣先。アギアが付けた裂傷から突き込まれたそれは、光を放ち───

 

「うりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

───グァッガギルル!?

 

大爆発を起こした。スラッシュアックスの大技、属性解放突きである。

 

「よぉし!」

「わたしの勝ちっ───」

 

───クルァァァァ!!!

 

終わってはいなかった。この地に集められたモンスターは皆殺気立ち、死んで堪るものか、ただ喰われるだけなど認めるものか、と必死の思いならぬ必生の意思を持っているのだ。爆発に倒れると思われたガララアジャラもその一頭だ。血と肉片を撒き散らしながらも息絶える事なく、ベリオ装備の少女に噛み付いたのだ。

 

「うっ・・・あっ・・・」

 

ガララアジャラの牙には、獲物の自由を奪う麻痺毒が流れている。少女の左腕に牙が食い込み、麻痺毒は遺憾無くその効力を発揮し、少女を地に伏させた。硬い鎧で受け止めるのではなく、人体の重要な部分を守り、立ち回りで負傷を抑えるベリオシリーズだった事も、牙が直接肉体に届いてしまった要因だろう。

 

───クルゥ……ガァッ!

 

「この野郎!」

 

身体を痙攣させ、起き上がれない少女にトドメを刺さんとするガララアジャラ。丸呑みにでもするつもりだったのか、頭が地に近い位置にまで降りてきていた。が、この絞蛇竜と戦っているハンターは一人ではないのだ。ナルガ装備の青年が、防具と同じ迅竜素材で作られた片手剣をガララアジャラの左目に突き刺した。

 

───ギガァァァァ!?!!

 

「これで・・・墜ちろォッ!!!」

 

激痛に苦しみ、大暴れするガララアジャラ。滅茶苦茶に頭を振って青年を弾き飛ばすが、そんな隙を見逃す上位ハンターではなく。アギア渾身の振り下ろしが、ガララアジャラの頭蓋を裂断した。

 

───シュルルル……

 

気の抜ける音と共に沈んだガララアジャラ。息絶えた事を確認し、頭蓋から大剣を引き抜くアギア。愛剣には、命を刈り取った事を生々しく訴え掛けてくる肉片と血液が大量に付着していた。

 

「お疲れ様です。想像以上に強かったですね・・・」

「警戒は怠らないように。ここはベースキャンプじゃないんだからな」

 

ガララアジャラの左目に突き刺さったままの片手剣をどうにか抜き取り、血を拭って納刀するナルガ装備の青年。そんな彼を諌めるアギアだったが、内心は少々舞い上がっていた。

 

(今の先輩っぽかったよなぁ。狩猟団の中じゃ子供扱いされるけど、俺だってもう上位ハンターなんだ)

 

アギアはとある狩猟団に属しているハンターであり、その若さからか弟、または団の子供のように扱われる事が多い。特に二人の先輩女性ハンターが彼の面倒を見ようと躍起になっているのだ。嫌気が差している訳ではないが、自分の実力を認めてほしいのも事実。そういった私情もあって今回の包囲戦に参加したのだ。それも一人で。

 

(書き置き残してきたし、大丈夫だよな・・・)

 

大丈夫じゃない事をこの包囲戦が終わった後に知る事となるアギアなのだが、今の彼に未来を知る術は無い上、一時の仲間であるナルガ装備の青年がアギアの未来を救える訳でもない。ようはお説教確定である。

 

「うっ・・・んっ・・・」

「・・・!スゥッ、ハァッ」

 

小さな不安に駈られているアギアの背後で、ナルガ装備の青年は新たな敵と戦っていた。煩悩である。未だにガララアジャラの麻痺毒が抜けず、身体を痙攣させているベリオ装備の少女を介抱しようとしたのだが、その姿が妙に艶かしい事に気付いてしまったらしい。深呼吸してどうにかなる煩悩なのだろうか。

 

「悩んでいても仕方ないか。俺はもう少し奥に向かう。君はその娘をベースキャンプまで運んでやってくれるか」

「スゥッ、えっ、はっ!?僕ですか!?」

「俺と合流した時点で消耗してただろ。その娘も休ませる必要があるし」

 

ハンターがモンスターと対峙するには、それなりの準備が必要になる。回復薬や携帯食糧といった必需品から、狩猟を円滑に進めたり捕獲したりする為の各種罠にタル爆弾、事前に相手が分かっていれば閃光玉や音爆弾など挙げればキリがない。ナルガの青年がアギアと合流した時には、戦闘か誰かに分けたのか既に回復薬をいくつか使用した後だったらしく、アギアも彼の回復を兼ねて生命の粉塵を使ったのだ。

 

「そ、それを言うならアギアさんも」

「素材は集めてあるからな、歩きながらでも調合は出来る。よし、じゃあ頼むぞ!」

「ちょっ!」

 

大剣を研ぎ終わったアギアが森の方向に消えていく。その場に残された青年は、苦しげながらも艶かしい吐息を漏らす少女と、何も無い虚空の間に視線を彷徨わせ、意を決して少女を背負ったのだった。

 

(デカ───治まれ!僕の煩悩!)

 

背中に伝わるやや大きめな感触に赤面しながら、青年の新たな戦い第2ラウンドが始まる。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「先生!赤札です!」

「空いているベッドに!直ぐ対応します!」

「ボクがやります!メイ先生はその方を!」

 

今回の包囲戦の為に特設された大型ベースキャンプ。三ヶ所設営された内の一つ【カイナ地区キャンプ】は地獄に程近い様相を呈していた。新たに合流したハンターの手続きを出張して来た受付嬢が、支給品の分配や納品をギルドアイルー達が、そして負傷したハンターの治療を医者や医療の心得があるハンターが担当しているのだ。

 

「想定以上の数だな・・・」

 

赤札───【緊急治療を要する重傷者】のハンターが減らない事に焦りを感じ始めた者が一人。名は【メイ】。どうにか担当していた重傷者を繋ぎ止め、自分より若い医者が治療に当たっているハンターの元へ向かう。

 

「医師のメイです。分かりますか?」

「・・・う、ぁ」

「もう大丈夫ですからね。絶対に助けますから」

 

傷が深い。恐らく一手でも間違えれば救えない。目を背けたくなるような深手。それでもメイは笑顔を絶やさない。

 

「・・・いしゃ、が・・・ぜったぃ、とか」

「そうですね。助けられなかった時に言い訳できませんから。それでも絶対助けます。約束です」

 

(そう、約束だ。僕と患者の。そして、彼との)

 

【約束】。幼稚な表現だろう。だが、メイにとっては絶対の誓いなのだ。その言葉を口に出し、誰かに聞かせた時点でメイの覚悟は決まっている。

 

「へへっ、ケホッ・・・がフッ・・・じゃあ、たのむ」

「ええ、頼まれました」

 

ハンターに笑顔を向け、目を閉じたのを確認して真剣な表情に引き締める。傷病者に不安を抱かせてはいけないというのがメイの考えだ。内心どれだけ焦っていても、それを目の前の患者に悟られてはならないのだ。余計な思考は手先を狂わせると、僅かな焦燥すら排除して手術に集中する。

 

(約束は済んだ、後は助けるだけ!)

 

 

◇◆◇

 

 

「メイ先生!お疲れ様です!」

「ラフ先生、ありがとうございます」

 

オペを終え、重傷者の対応が一段落した所で準備エリア近くに出てきたメイ。彼を後ろから呼び止めたのは、同じく医者としてカイナ地区に配備された【ラフ】という名の青年。カイナ地区の医療スタッフの中で、最も元気溌剌な青年であり、居住・勤務している街では子供に人気のおいしゃさん、らしい。

 

「赤札の人・・・意外と多かったですね」

「そうですね。いつものハンターなら、オレンジで引き上げて立て直すけれど、今回はそれを許す相手が少ないんでしょう」

 

オレンジ───橙札の意味は、治療を必要とするが緊急ではない、である。回復薬で繋ぎ、必要に応じてベースキャンプ等の安全圏で応急手当をするというのが一般的なハンターの行動だが、それは上手くモンスターから逃げる事ができた者に限っての話だ。場合によってはそのまま喰われたり、キャンプまで辿り着けずまともな治療ができない事もあるだろう。今回は凶暴化したモンスターがほとんどという事もあり、撤退できた者は幸運、命からがら逃げ帰っても重傷を負っているというケースが非常に多い。

 

「まだ続きそうですね・・・このクエスト」

「黒幕の恐暴竜が討伐された、という報告も無いですからね。最悪、僕も出る事になるかも」

 

そう言い、つい先程出てきた傷病者用のテントを見やるメイ。怪我人が多いという事は、前線に出ているハンターが少ないという事だ。即時復帰が可能なハンターは道具の補充や、装備の簡易整備が終わり次第前線に舞い戻っているが、一度キャンプ送りにされた時点で戦力低下は否めない。中には軽傷で済んだものの、目の前で仲間が捕食され武器を握れなくなってしまった者も居る。心が折れた者は戦力としては数えられないのだ。

 

「僕も、って事はメイ先生もハンターなんですね」

「その口振りだと、ラフ先生も?」

「です」

 

この二人には医者以外に共通している点がある。医者とハンターを兼ねている両者は、今回の包囲戦においては予備戦力としての役割も持つのだ。

 

「僕以外にも兼任ハンターが参加していたとは」

「ボクも驚きですよ。先輩の皆さんもビックリするだろうなぁ」

「先輩?」

「あぁ、ボクが拠点にしてる街には、ドクターとハンターを兼任してる先輩が何人か居まして。今回は別々のキャンプにそれぞれ配置されたんですけど」

 

聞けばラフが拠点としている【ヘイセイドの街】にはラフ以外の医者兼ハンターが所属しているらしく、ハンターズギルドと医療協会のしがらみに始まり、ギルドマスターが盛大な親子喧嘩で問題を起こし代替わりが頻発、黒蝕竜ゴア・マガラの更なる変異種とそれによって引き起こされたパンデミック、それらを何とか乗り越えた矢先に今回の特異個体包囲戦との事らしい。

 

「そんな大変な時期に・・・」

「大変なのは何処も同じですから」

 

苦笑するラフ。この笑みの裏にどれだけの苦悩を隠しているのか。

 

「メイ先生は?どうして参加したんですか?」

「僕は・・・偶然、かな」

「偶然?」

「えぇ、僕は医者とハンター以外にもう一つ、学者モドキもやっていてね。とある伝説を追い掛けているんだ」

 

ごく一部の地域のみに伝わる昔話がある。かつて異形の怪物に脅かされていた人々を光輝く銀の勇者が救ったという、何処にでも転がっていそうなお話。

 

「ココット村みたいな話ですね」

「ほとんどの人はそう思うだろうね。けど、僕は別の解釈をしている」

 

別の?と首を傾げるラフ。大抵の人間はこの話を聞くと、それこそラフと同じようにココット村とハンターの始祖のようだ、と思い口にするのだが、現状メイだけはこの話を異なる視点から見ている。

 

「銀の勇者はハンターどころか人間ではない。異形の怪物、つまりモンスターと同じ超常の存在だったのではないか、というのが僕の持論さ」

「えーっと?古龍種同士の縄張り争いで人間がたまたま助かった、みたいな?」

「そういう解釈もできるね」

「???」

「解釈云々は置いて、その伝説の手掛かりを辿った先がこのカイナの地だったのさ。そして正式に召集されたんだよ」

 

なるほど、と疑問を投げ捨ててひとまず納得するラフだったが、防護門と出撃準備エリアの方が騒がしい事に気付く。

 

「どうしたんだろう。妙に慌ててるけど」

「揉めていないか?」

 

「ウニャ?お医者さんかニャ?」

 

二人を発見し、声を掛けたのは一匹の獣人。何かしらの制服のようなものを着用している事から、クエストカウンターの補佐か道具屋等の店番をしているアイルーだろうか。

 

「僕達はどちらも医療スタッフですが・・・」

「ニャア、ベッドの空きはまだあるかニャ?」

「一応あるけど」

「申し訳ニャいけど、今から受け入れは可能かニャ」

「人数にもよりますね。即応可能な医師の手が足りなくなるかもしれません」

「ウニュウ・・・」

 

アイルーの話を要約するとこうだ。

名ばかりハンターのお貴族様が家名に箔を付ける為、包囲戦に参加。案の定返り討ちにされ撤退した、までなら笑い話なのだが、最も近かったこのカイナ地区のキャンプに引き上げようとしており、さらに最優先で自分の治療をしろ!と喚いているらしい。おまけにパーティーメンバーの一人は、いわゆる「お気に入り」の女性らしくそちらも助けろとの事。

 

「無茶苦茶だ・・・」

「準備エリアが騒がしいのはソレが原因か」

「一応、怪我してるのは本当ニャ。助けろ治療しろーって騒げる元気があるニャら回復薬で充分ニャ気もするけどニャ・・・」

「分かりました。こちらで対応し───」

「先生!」

 

受け入れる事を決めたメイだったが、二人と一匹の元へ駆け込んで来る者が一人。医療スタッフの女性である。

 

「どうしました?」

「他のベースキャンプから応援要請です!医師の手が足りないらしくて・・・」

「こっちもギリギリなのに・・・」

 

悩む面々だが、不幸というのは重なるもので。上空に閃光が走り、甲高い音を発したのをメイとラフ、ついでにアイルーは聞き逃さなかった。

 

「救難信号!」

「ここまで重なるか・・・!」

 

(他の医師に貴族を任せて、応援にはラフ先生、信号弾の所には・・・)

 

「僕が行く、か」

「メイ先生?」

 

分担を決定し、実行に移そうとするメイ。メイの提案を聞いたラフ達も、やるしかないと覚悟を決めたようだ。

 

「では、それぞれお願い───」

 

───ウォフッ!

 

「っ!下がって!」

 

各々のやるべき事へ向かおうとしていた面々の元へ迫る影。大型の獣、小型モンスターとも形容できる「それら」に警戒するラフだったが、メイに制されてしまう。

 

「待ってくれ!俺達は敵じゃない!」

 

獣の背に跨がっていた男が勢いよく飛び降りる。黒を基調とし、赤色の装飾が差された服を纏った男だ。

 

「ガルク、ですね。カムラからの応援でしょうか」

「おお!話が早くて助かる!俺はシシクだ!医者と消耗品を持ってきた!」

 

【シシク】と名乗った青年の傍らで身体を震わせているのは、カムラの里を中心とした一部地域で、アイルー以外のオトモとして活躍しているガルク。リーダー格と思わしき銀毛のガルクの後ろで、次々と他のガルクの背から降りる者達。シシクの話通りなら、彼ら彼女らは医師や看護婦だろう。

 

「シシクさん、ですね。応援、感謝します。早速で申し訳ありませんが、医療スタッフを半分に分けて別のキャンプへ向かっていただけませんか。案内と護衛はこちらのラフ先生が務めます」

「分かった!おーい!」

 

手荷物の確認をしていた部下を呼ぶシシク。ここは任せて大丈夫だろう。ラフに目配せすれば、彼も力強く頷いてくれた。

 

「よし。復帰可能なハンターは参加続行するか、意思を尊重してください」

「分かってるニャ。そっちも気を付けるのニャ」

 

それぞれ全力を尽くす事を誓い、役割の為に散っていくメイ、ラフ、シシク。準備エリアで自分の装備である「フルフルU」シリーズを纏ったメイは、防護門の喧騒を通り抜けてフィールドを駆ける。

 

「間に合ってくれよ・・・!」

 

シシクが連れてきた者達と、カイナ地区に配備されていた医師をそれぞれ数名引き連れ、拠点間移動用の通路を先頭で往くラフ。

 

「患者の運命は、ボク達で変える!」

 

そして新たに搬送されてきたハンター達の対応に当たる医療スタッフとシシク。

 

「俺は獣医だッ!!!」

 

丁寧に、等ごちゃごちゃうるさい貴族を一喝して黙らせる。その宣言に何の意味があるかは分からないが。

 

命を預かる者達の戦いが、それぞれの場所で始まる。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

───グルゥ……アオォォォ……!

 

「中々強かったよ、最後はワタシに軍配が上がったけどね」

 

踏み留まろうとするも、力尽き倒れる牙竜種が一頭。無双の狩人とも呼ばれる雷狼竜ジンオウガである。そのジンオウガの命を散らした太刀を振るって血を払い、最期まで足掻いた好敵手に称賛を送るハンターが一人。倒れたジンオウガと同じ素材を使ったジンオウ装備を纏った女性だ。

 

「今の戦い、無駄なく糧にさせてもらうよ。で?いつまで隠れてるつもり?」

 

倒したジンオウガに感謝を述べた女性。不意に背後の茂みへと声を掛けた。

 

「・・・いつから気付いてた」

「コイツの注意がチラチラ逸れてたからね。お陰でワタシも気付けたってわけ。さっき逃がした子達とは違うみたいだけど」

 

ジンオウガに苦戦していたパーティーを撤退させ、相手を引き継いだ女性ハンター。本人が言った通り、何度か別の何かを気にする素振りを見せたジンオウガ。その注意の先───緑地の布に木葉を多数纏わせた、特殊な装備で覆われたハンター達が数人、茂みの中から現れた。

 

「武器を背負ってるって事はハンターでしょ?なら少しは手伝ってくれても良かったんじゃないの?」

 

おどけた態度で文句を言う女性だが、目の前の隠密パーティーを映す瞳は笑っていなかった。この連中がどういう目的を持っているか、薄々気付いているのだ。

 

「他の援護に行かなくて良いのか?」

「アンタらが無事に離脱したら、ね」

 

寄生、横取りの類い。しかもある程度ならモンスターの知覚を誤魔化せる特殊装備を使っている辺り、ただの悪質ハンターよりもタチが悪い。

 

「・・・」

「・・・チッ」

 

舌打ちする男。そして背後へ向き直って歩きだす。分が悪いと判断し、ジンオウガは諦めるのだろう。

 

「阿漕な事やってると、その内自分に反ってくるよ!」

「ご忠告どうも。せいぜい後ろには気を付けるんだな」

 

控えていたパーティーメンバーと共に走り去り、草木の奥へと消えるハンター達。その背中を呆れ半分悲しさ半分で見つめる女性。

 

「世も末・・・ウツシさんが知り合い以外を集めたがらなかった理由、分かっちゃった気がするなぁ・・・」

 

カムラの里を襲った災禍【百竜夜行】にて。モンスターの濁流から故郷と人々を守る為に、信頼できる訓練所の同期を頼ったウツシ。手当たり次第戦力を集めなかった理由の一つが、女性が遭遇したハンターのような、悪質な者が混じる可能性があったからである。

 

「・・・ごちゃごちゃ考えても仕方ない、今は出来る事を───」

「逃げてっ!!」

 

今、己が居る場所と理由を思い出し、次の戦いへ向かおうとする女性ハンターだったが、突如として警告が飛んだ。

 

───グアァァァァァ!!!

 

警告から数秒と経たず咆哮が耳を打つ。ジンオウガの骸を踏み越え、女性の背後を取ったのは巨大な熊のような怪物。牙獣種モンスター 青熊獣アオアシラである。人間の皮膚など容易く引き裂く鋭利な爪を振り上げ、無防備な獲物を仕留めにかかっている。

 

───ガアァァァ……ッグゥ!?!!

 

「うるっ・・・さいっ!!!」

 

一瞬遅かった、もう駄目かと思われたが、悲鳴を上げたのは女性ではなくアオアシラの方だった。左手で保持していた太刀、ではなく空いていた右手を使ったのだ。しかも、あろうことか殴り抜いたのだ。防具を纏っているとはいえ、モンスターを、素手で、殴り飛ばして見せたのだ。

 

───クゥ……ア……

 

「もう、いっちょおっ!!!」

 

バキャッ!

表すならそんな擬音で、だろうか。再び鈍い音が響く。アオアシラの顎から。女性が繰り出した振り向き様の右フックをカウンターでもらい、腕を垂らしてフラつくアオアシラ。動きを止めたのを見て、これ幸いと追撃のアッパーカットを繰り出す女性。そして───

 

「しゃあっ!!!!筋肉万丈ぉぉぉ!!!!」

 

───ガファッ……!

 

渾身のアッパーを食らい、カチ上げられた頭が重力に引かれて落ちてくる。その瞬間を見逃さず跳躍し、両足を揃えた全身全霊の飛び蹴りを叩き込む女性ハンター。その強靭な両の足は、狙いから寸分違わずアオアシラの顔面に突き刺さった。

 

「フッ、決まった」

「えぇ・・・」

 

つい数秒前に警告を発したハンターも呆然、を通り越してドン引きしている。それはそうだ、武器ではなく己の肉体だけでモンスターを伸してしまったのだから。

 

「ってか、あいつら気付いてたなぁ?後ろに気を付けろってこういう事か!本当にタチ悪い!」

「あ、あのー・・・大丈夫?です、か?」

 

先程の悪質なハンターパーティーから言われた事を思い出して憤慨する女性。そんな彼女に声を掛けるアオアシラを追っていたらしいハンターだが、安否の尋ね方が完全に疑問系である。というか最早怯えてすらいる。

 

「んぁ?あぁ大丈夫だいじょーぶ!これくらいどうって事ないよ!それより君が追ってたんでしょ?ゴメンね、獲物を横取りしちゃったみたいで」

「いえ・・・むしろ倒していただいて・・・はい」

 

追い掛けた先で巻き込んでしまった申し訳なさと、自分が苦戦していたアオアシラを武器も使わず倒した事のモヤモヤが混じりあって複雑な胸中のハンター。お喋りかつ押しの強い女性の性格もあり、どう反応すれば良いか掴めていないようだ。

 

「自己紹介まだだったね!ワタシはモンジュ!武者修行の旅をしてるんだ!」

「あっはい、自分はルーフと申します」

「ルーフね!オッケー!ここで会えたのも何かの縁!二人でこのまま行かない?」

「えっ?か、構わないですけど・・・」

「よーし!じゃあ次の相手を探して、ゆくぞー!」

「お、おー・・・」

 

意気揚々と歩き出すモンジュ、動揺しながらそれに付いていくルーフ。奇妙な共同戦線はまだ始まったばかり。

 

 

───フゴッ……

 

そんな二人の後ろで、アオアシラがビクンビクンしながら気絶していた。あの一瞬で忘れられたとも言う。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

ぐちゅり

 

まだ足りない

 

ぐちゃぐちゃ

 

まだ足りない

 

がりっごきゅっ

 

まだ足りない

 

ぶちぶちっ

 

まだ足りない

 

ごくんっ

 

まだ───

 

「久しぶりだな」

 

 

血が大量に染み込み、ドス黒く変色した地面。その上に散らばり、折り重なる【生命だったモノ】【生きていたモノ】。それらを一心不乱に貪る竜が居た。鎧も鱗も関係無く、口に入るなら全てを噛み砕き呑み込む貪食の恐王が。理性ある者なら吐き気を催し、本能に生きる獣なら戦慄を覚え逃げようとする恐王の晩餐会場。その場に土足で踏み込み、逃げるどころか腰に提げた武器へと手を伸ばす不届き者が一人。

 

「お前を───」

 

───グルゥ……!

 

 

 

「殺しに来たぞ」

 

───ゴアァァァァァァァッッ!!!!

 




鎧の奥に黒い殺意を漲らせ
体の中から黒い本能を解き放ち
狂いに狂った饗宴を


【アギア】
暴喰戦線に参加した上位ハンターの一人。
ラギアUシリーズを纏った青年。かつて強大な水棲モンスターの群れを、仲間と共に海で迎え撃った事もある手練れのハンター。大規模な狩猟団に所属している。

【メイ】
暴喰戦線に参加したハンターの一人。
ハンター兼 医者 兼 学者という肩書きを持つ。各地を回りながら医者として、時にはハンターとして仕事をこなしながら「銀色の勇者」の伝説を追っている。幼少期の体験から伝説を追っているらしく、「彼との約束」という言葉を聞いた者も居るらしい。
ハンターとしての装備はフルフルUシリーズ。

【ラフ】
暴喰戦線に参加したハンターの一人。
ヘイセイドの街を拠点に活動するハンター兼医者。
ゴア・マガラの変異種を討伐した功績を称えて製作された、ドラゴナイトハンターシリーズという特殊防具を所持している。

【シシク】
暴喰戦線に駆け付けたハンターの一人。
カムラの里生まれだが、育ちはミナガルデであり、平時はミナガルデで獣医をしている。「キング」と「マッスル」という名のオトモが居る。今回はカムラをはじめとした里や村を回り、人員と物資を届けに来た。

【モンジュ】(出典:モンスターハンターライズ)
カムラの里長であるフゲンの姪っ子。フゲン譲りの豪快な性格をしている。鉄刀系列の太刀とジンオウシリーズを装備している。
今作においては「素手でアオアシラを倒した事がある」という噂話は、この暴喰戦線で共闘したハンター ルーフの実体験が元になっている。

【寄生ハンターの特殊装備】
新大陸で活用されている装具「隠れ身の装衣」の模倣品、あるいはデッドコピー。どこで新大陸の情報を仕入れたのかは不明。
小型や感覚の鈍いモンスターなら誤魔化せるが、今回のジンオウガのような暴喰活性モンスターに対しては効果が薄い模様。
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