『……チャ。』
『……ネイチャ!!』
「――…うわぁ!!びっくりしたぁ。どうしたのさトレーナーさん」
『聞きたいのはこっちの方だよ。大丈夫か?そろそろパドックに行かなきゃだろ?』
「……あぁ、そうだったね。ごめんごめん、――精神統一…?してました。」
『ホントか…?』
パドックに向かう直前。控室でナイスネイチャがぼーっとしていた。何か、考え事でもしていたのだろうか。
それとも、この大舞台を前にして頭が働いてないのだろうか…?
「大丈夫だって!ほら、アタシは強いから!大丈夫大丈夫。
そう、勝つから。アタシは、勝つ。
…テイオーに…勝つ。」
ネイチャは、"勝つ"と繰り返していた。
――まるで、自分に言い聞かせるように。
『ならいいんだけど…。』
「……弱音なんて吐いてられない…。」
ナイスネイチャは、とても小さな声で呟いた。
『…ん?なんか言ったか?』
「だから大丈夫だって!…ほーら、そろそろ時間でしょ?行ってきますよーっと。
アタシ、勝つから、アタシが強くなったのは知ってるでしょ?
だからさ、トレーナーさん。
――いつも通り、そこで見ててね。」
――――――――――
【有馬記念の発走が近づいてまいりました。各ウマ娘、ゲート前で最後の準備をしています。】
「調子よさそうだね。ネイチャ」
テイオーがネイチャに話しかける。
「そりゃまぁ、アンタに勝つつもりで準備してきたしね。」
「今になっても、このボクに勝つつもりなんだ。…今なら撤回してもいいよ?前の言葉。」
学園内でのとっつきやすい印象とはまた違う、レースの時にだけ見せるトウカイテイオーの威圧。
いつもはこの圧に気押されていた。でも、今は違う。
「なら、遠慮なく……なんて言うと思ってる?今のアタシは前とは違うんだ。なめられたもんだね、アタシも。」
「……強気じゃん。後で負けて泣いても知らないよ?」
テイオーの圧が強くなる。いつものアタシなら、ここで逃げていたと思う。
…でも、今のアタシなら、はっきりといえる。
「そっちこそ、泣いても知らないよ。……何回だって言ってやる。
――――アンタに勝つってね!!」
「……あはははっ!いいよネイチャ、勝負しよう!!ボクはそんなキミと勝負がしたかったんだ!!商店街でキミに挑発したかいがあったよ!!
――――忘れたなら、何度でも教えてやるさ!無敵のテイオー様の強さをね!」
――――――――――
緑の芝の上。
ファンファーレとともに、観客の声が響く。熱く、大きく。唸るように。
対照的に、ゲート内の空気は静かで。だけど、とてもピリピリとしていて。
ゲート内。アタシは、勝ちを宣言した重みをずっしりと背負う。
こんなに重かったんだ。テイオーは、こんなに重いものをずっと背負ってたんだ。
そして、トレーナーさんもその重みを代わりに背負っていてくれてたんだね。アタシが背負えるようになるまで。
これからは、全部アタシが背負う。アタシが背負って、力にする。
風が髪を撫でる。
自分の心臓の音が聞こえる。
それに息遣い。風の音も。
これは多分、アタシは落ち着いているということなのだろう。
有馬記念。芝2500m。
アタシが見るべきは、トウカイテイオーでも、他のウマ娘でもない。
前を見る。ただ、前だけを。
目をそらしている余裕なんかない。後ろを見ている余裕なんかない。
出し切るんだ。アタシの全力を。
【全ウマ娘、ゲート入り完了しました。】
【――…スタートです!!】
ガシャン!とゲートが開き、全ウマ娘が一斉に駆け出す。
調子は上々。良いスタートもできた。
アタシが目指すべきは、二着でも、三着でもない。
アタシは勝つ。一着をとってくる。
…宣言したんだ。
――「……あのさネイチャ。教えてよ。
キミは……全部を賭けて、ボクに勝つ気はあるの?」
今のアタシは負けない。逃げたりなんかしない。勝つ。勝ちに行く。
アタシの全部を賭けて。
――アタシは、誰もいない先頭を走り切る!!!