誰かの物語の、主人公   作:ひら_

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後悔と、気付き。

 

――正直、嫌な予感はしていた。

 

 

彼女は、ナイスネイチャは。

……いつも以上に、気負いすぎていた。

 

一着をとると決めて勝ってきた【中日新聞杯】。その時は多少のプレッシャーでもそれを自身の力に変えることができていた。

だが、この大舞台。キラキラしたいと覚悟を決めて挑む【有馬記念】では、彼女は今までにないくらいのプレッシャーがかかっていた。

今までのレースで階段を一つ一つ確実に上がることで自信をつけた彼女だったが、最後の大一番でかかる重圧に耐えることで精一杯だったのだろう。

 

ナイスネイチャはそのプレッシャーに耐えることでいっぱいいっぱいで、勝つという意識に気を取られて。

 

自分を信じている人たちのことを、忘れてしまっていた様だった。

自分の実力すら、把握できなくなってしまっていた。

 

 

力みすぎている。

気負いすぎている。

焦りすぎている。

 

――…本人はそのことに気が付いていない。

 

彼女は冷静なつもりなのだろう。勝つつもりなのだろう。

だけど、トレーナーの自分から見て、それは万全とは程遠かった。

 

このままだと。

 

 

――…ネイチャは、負ける。

 

 

――何が駄目だった?

レースの前にもっと、ちゃんと話をしていればよかったか?

レースの前に俺が緊張していたからか?気が付いてもフォローができてなかったからか?

もっと話を聞いていればよかったか?

 

――――何をしていたらよかった?

 

――――俺は、ナイスネイチャに何ができた???

負けてしまったら、ネイチャはどうなる???

 

頭に考えが巡りまわる。

 

 

後悔、後悔。

 

…後悔ばかりが。

 

 

でも。もう。

 

 

 

――――――――…もう遅い。

 

 

 

――「そこで見ててね。」

 

 

そう、もうすでに。レースが始まってしまった時点ですでに。

 

――トレーナーである自分にできることは、見ることだけなのだから。

 

 

 

 

「――――――なにやってんだよ!!!トレーナーさんよぉ!!!」

 

商店街の、ナイスネイチャの地元にいた人が怒鳴り散らしながらトレーナーに詰め寄った。

はたから見ても、トレーナーはとても精神が不安定な状態だった。

 

 

「ネイちゃんが頑張ってるのにアンタがそんな状態でどうするんだよ!!

 俺たちはな!!昔っからネイちゃんを見てきてるんだよ!!!応援してきてるんだよ!!!

 

 ネイちゃんがどんな状態であっても、だ!!!

 アンタもそうだろ!?応援してきてたんだろ???

 

 ネイちゃん言ってたぞ!!アンタが応援してくれるから、どんな時でも支えてれるから、ネイちゃんも負けずに頑張っていられたんだ、って!!!

 

 お前が、ネイちゃんの走る姿を一番近くで見てきたお前がそんなんでどうすんだ!!

 

 俺はなぁ、昔っからずっと、どんな時だって応援してきてるんだよ!!

 それが、力足らずで終わった去年の【有馬記念】だったとしてもだ!!!」

 

 

…去年。

 

……有馬記念。

 

 

――――――去年の有馬記念……??

 

 

――そうだ。

 

去年のネイチャは、レース後になんて言っていた?

…どうしたいと言っていた?

 

去年のネイチャが言っていたことが本当だとしたら。

去年のネイチャが体験したことが今回も同様に起こるのだとしたら――――??

 

…これに賭けるしかない。

これで、ネイチャを助けるしかない……!!

 

 

――『不甲斐ないところを見せてしまってすみません。

 あと、――――ありがとうございます。』

 

 

 

『協力してくれませんか?

 

 ――これに、俺の全部を賭けます。』

 

 

――――――――――――――――――――

 

レース終盤。

ナイスネイチャ、スパートをかけるもトウカイテイオーとの距離は縮まらず。

 

――「いやー。アタシはキラキラできないからさ。主人公にはなれない。素晴らしい素質なんてないから。」

 

昔、アタシがよく言った言葉だ。

才能の差を見せつけられるのが怖くて。負けた時の言い訳が欲しくて。

 

アタシは弱い。

勝てないから。

 

 

本気を出しても。

頑張っても。

 

あのトウカイテイオーには届かない。追いつけもしない。

キラキラウマ娘には、なれない。

 

 

――結局、アタシはここまでのウマ娘だったのかな

そうだ。【素晴らしい素質】なんて名前が仰々しすぎるんだ。

アタシは、モブ。

 

結局は、【いいとこ止まり】。頑張っても負けてしまうだけのただの――――

 

 

 

――――その刹那。

 

 

ナイスネイチャの名前を呼ぶ声が、彼女の耳に届いた。

 

 

叫ぶような。つらいような。悲しいような。だけど、必死に届けるような。

…そんな声で。

 

 

「――――…っ!!!」

 

 

この騒がしい会場で。

周りの足音が響き渡るレース中にはっきりと。

とても聞き覚えのある声がアタシの耳に突き刺さった。

 

 

『――あきらめんな!!ネイチャの走りは、まだそんなものじゃない!!大丈夫だ!!

 

 ネイチャは、……君は!!負けない!!!』

 

 

「――…トレーナーさん…?」

 

…それは、間違いなくトレーナーさんの声だった。

その声は、こう続いた。

 

『ネイチャには信じてくれる人が大勢いることを思い出せ!!忘れているのなら――

 

 ――――…この声援を聴け!!!!』

 

 

その時。

アタシの耳に聞き覚えのあるいろんな人の声が届いた。

ありえない、ってみんなは言うかもしれない。だけど。

 

商店街の人たちの声が。

アタシを応援してくれる人たちの声が。

 

……アタシの耳に届いたんだ。

 

 

「負けないで」って。

「この大舞台で勝つのを見たいんだ」って。

 

 

――――「ネイちゃん、頑張れ」って……!!

 

 

 

…そうだ、アタシには――――!!!

 

 

 

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