――アタシがトウカイテイオーに【勝つ】と宣言した時。
アタシは不安で不安でしょうがなかった、
アタシは、まだキラキラしていないから。
【なんであんなこと言ったんだ】と。
【モブが調子に乗りすぎだ】と。
走りたくなかった。
――怖かった。
もし負けたら。
今までのアタシが、全部否定されると思った。
――でも。
トレーナーさんは、逃げたがりのアタシをずっと信じてくれた。
レースに負けたとき、アタシがレースに勝っても卑屈になっていたときでも。
「ネイチャは負けない。」「ネイチャを応援してる。」
逃げるあたしを引きとどめるかのように、卑屈になるあたしを引っ張り上げるかのように。
どんな時も「ネイチャは勝てる」とアタシに言うこと。トレーナーとして、その発言に対する責任の重みは知っていたはずなのに。
どんな時も、常にアタシを好きでいてくれた。
…これはその、そういう意味ではないと思うけど。
トレーナーさんには、アタシを好きでいてくれる、信じていてくれる根拠がたくさんあった。
――ヘロヘロのトロフィー。紙でできた手作りのトロフィー。
途中でアタシを見限ることなく、トレーナーさんが作り続けたその試作品たち。
【小倉記念】【菊花賞】【有馬記念】【天皇賞(秋)】。他にもたくさん。
アタシが頑張った証拠に。
アタシが負けなかった証拠に。
アタシは強いという証拠に。
それは、いくつのもの失敗で積み上げられたものだった。
ヘロヘロで、見た目も良くなくて。
上手くいかなくて。
それでも、作り続けた。
それでも、戦い続けた。
信じていたから。
アタシを、信じ続けてくれたから。
成功も失敗も、全部ここに積み上げられていた。
トレーナーさんは信じてくれている。
商店街の人たちは応援してくれている。
ほかにも、いろんな人が応援してくれている。
……アタシなんかのために。
ここに私が頑張る理由がある。負けたくないと思える理由がある。
信じてくれる人があたしにはいるから。信じてくれる人たちが大勢あたしにはいるから。
マックイーンだって、ライアン先輩だって、常に前を向き続けていた。
アタシもちゃんと、前を向くんだ。
でも、アタシ一人だけで前を向くんじゃない。
一人だけで戦うわけじゃない。
――トレーナーさんと一緒に。応援してくれる大勢のみんなと一緒に。
どんな時でも。どんな結果になっても、みんながアタシを支えてくれる。
みんなが、アタシの力になる。アタシが、みんなの力になる。
…アタシは、キラキラしていいんだ。
弱音は吐いてもいい。
トレーナーさんになら、情けないところを見せてもいい。
――でも、弱音ばかりじゃだめだ。
…去年。アタシがクラシック級だった時の【有馬記念】。
惜しいところまで行ったけど、負けてしまったあのレース。
あのレースで、気が付いたんだ。
……聞こえたんだ。
アタシを応援してくれる、みんなの声が。
もしアタシが体験談として聞いたら、ウソみたいって思う。
でも、本当だったんだ。
いつもは自分の心臓の音とか、息遣い、それに風の音しか聞こえないのに。
その時は、……はっきりと声がしたんだ。
「ネイちゃん、頑張れ」って。
背中を押されているみたいで、すっごく楽しく走れた。
でも、その声援に応えることはできなかったんだ。
――だから、声が届くこのレースで、ちゃんと勝ちたいと思ったんだ。
次は応援に応えたいと思った。
……リベンジしたいと思った。
――アタシは、忘れていたんだ。
みんなの声援を。
去年の後悔を。
そして、楽しさを。
――だから勝ちたい。
自分のためだけじゃない。
応援してくれるみんなのために。
アタシは、去年の時とは違う。
力と、そして自信をつけてきたんだ。
今、アタシがいるのは3番手。ここはアタシの定位置だ。
でも、アタシだってキラキラしたい。声援に応えたい。
それなら、この場所にいてはだめだ。
アタシだって。
――きっと…その先へ行ける。
アタシは、キラキラするんだ。
主人公になるんだ。
眺めているだけじゃ。覗いているだけじゃ。
見ているだけじゃ、ダメなんだ。
テイオーは言っていた。
――「忘れたなら、何度でも教えてやるさ!無敵のテイオー様の強さをね!」と。
……そんなの。もう十分、嫌ってほど知ってますわ。
けど。
アタシだって……【素晴らしい素質】、持ってるんだ。
みんなが、トレーナーさんが……
アタシが!!それを知ってる!!
だから負けない!!!!
あたしだって、キラキラするんだ!!!
応援してくれるみんなを、嘘つきになんかしないっ!!!!
「―――――――――【有馬記念】の主人公は!!アタシだっ!!!!!」
【ナイスネイチャ!!直線に差し掛かって追い上げてきた!!ゴールまでに先頭に追い付くことができるか!?】
…先頭ははるか遠く。
だけど。それでも。
届く。
届かせる。
追いついて見せる。
――みんなが、
トレーナーさんが、アタシを後押ししてくれるから!!!!
――――――――――――――――
――ボクが目標とするのは、圧倒的な勝利。
…それは、強いウマ娘と戦ってこそ意味がある。
強いウマ娘と戦って。強いウマ娘に勝つ。
そして、ボクは今よりもっと強くなる。
この有馬記念、簡単に勝てるとは思っていない。
だけど、最後の直線に差し掛かるところで先頭で走り抜けている段階では、もう勝利をほぼ確信していた。
でも、手を抜くつもりはない。
なぜなら昔、こう言われたことがあるからだ。
「自分が優勢と見るや慢心し、注意力が散漫になるのは悪癖だな」――と。
だから手は抜かない。
圧倒的に勝つ。
これまでのレースで、あるウマ娘が急速に力をつけているのは知っていた。
今までは勝ちきれなかったウマ娘が、自信をつけてきているのを知っていた。
そんなウマ娘を意識しないなんてことは無い。
ボクはレースで負けるつもりなんかない。勝つのは常にボクだ。
だけど、それはただの自惚れなんかじゃない。
誰よりも勝ちたいと思い、努力し、調べ尽くした。だから勝てるんだ。
強いウマ娘に、勝つんだ。
強くなったウマ娘に、勝つんだ。
ボクがもっと強くなるために。
……だから。
――――ボクの期待に、応えて見せてよ。
―――――――――
――――「追いついたよ。テイオー…!!!!」
――――「そう、こなくっちゃ!!!!」
【ナイスネイチャ!!トウカイテイオーに並びかける!!!残り200!!!】
年末最後の大一番。
レース最後の大接戦。
会場全体が熱を帯び、応援に力が入る。
「ネイちゃん!!ネイちゃん!!!!頑張れ!!勝て!!!」
「ここで勝つのを見せてくれ!!!」
「テイオー!!逃げ切れ!!!こらえろ!!」
「負けるな!!」
【両者、まったく横並びの状態!!!
トウカイテイオーか!!ナイスネイチャか!!テイオーか!!!ネイチャか!!帝王の矜持か!!!素質の意地か!!!】
勝つのは、誰か。
負けるのは、どちらか。
脚に力を込めろ。
最後の力を振り絞れ。
『ネイチャ!!!
――――――――――差し切れ!!!!』
――勝つのは。
「勝つのは!! ボクだ!!!」
「勝つのは!!アタシだ!!!」
【両者、なだれ込むようにゴールイン!!!!】
ゴールした瞬間、会場の熱が最高潮になる。
ただ、それは直後に、別の意味でのざわめきに変わった。
「…どっちだ?これ??」
「…まったくわからん」
「いや、テイオーでしょ」
「いやいや、ネイチャだろ、あれは。」
「ネイちゃん…よく頑張った…感動した…」
「アンタ、泣くのは早いよ!もう…。まだ結果がわからないじゃないか」
本当の結果は観客席の誰にもわからない。見る位置によって結果が変わる。
それは、ゴールが見えやすいはずの実況席でも同じだった。
【一着ですが、まったくわかりません!!肉眼ではとらえきれませんでした!どちらが優勢かどうかも…さっぱりです!!
どうやら、結果については審議のようです…――】
…掲示板には、審議のランプがともっていた。