ナイスネイチャはゴール後、芝に倒れこんで体を休めていた。
…もう、すぐには体が動かない。
「はぁ…はぁ…アタシは…――負けたの??」
「…どうだろうね。まだ結果は出てないみたいだ。でも、ボクが勝ったと思うよ」
「…結構な自信ですね…。さすが、トウカイテイオーだ…。」
「あったりまえじゃん!無敵のテイオー様が負けるわけないからね!!」
芝に倒れこんだ状態のまま、テイオーの方に顔を向ける。彼女は、柵にもたれかかっていた。
「さっすがテイオー。まだ立つ余裕なんて…――っ!!」
トウカイテイオーは立った状態ではあるが、…脚が震えていた。
――もう、彼女も限界だったのだ。
「このボクが倒れこむなんてありえないじゃん!このくらい、なんともないよ!!」
「ふふっ…そっか…。そう、だよね…!!」
キラキラに並んだ。
キラキラに追いついた。
それは、相手が手を抜いていたわけじゃない。トウカイテイオーは力を限界まで使ってアタシと戦ったんだ…!!
…でも、まだ終わりじゃない。
勝つまでは。
キラキラの夢を、掴み取るまでは…!!
――――――――――――――――
会場内のどよめきは続く。
どちらが勝ったのか。
どちらが負けたのか。
それは、肉眼のみで判断するのは難しい領域。
審議には多少の時間を要していた。
…だが、いずれ結果はわかる。
勝つのは、トウカイテイオーか。
勝つのは、ナイスネイチャか。
審議のランプが、消える。
会場内のざわめきがぴたっと止まり、静かになる。
1着の番号は。2着の番号は。
――――――――――掲示板に、結果が映し出される…!!!
――――――――――――――――
静寂の中。
誰よりも早く。
誰よりも高く。
――――――――…ヘロヘロのトロフィーが、空に掲げられた。
【勝ったのはナイスネイチャ!!!勝ったのはナイスネイチャだ!!!!
この大接戦!!夢のグランプリを制したのは、ナイスネイチャだぁーーー!!!!!!】
再び、会場内がざわめきだす。
「ネイちゃん!!ネイちゃんが勝った!!!!」
「やったよアンタ!!!!ネイちゃんが勝ったんだよ!!!」
「あ……。
勝っ……たんだ、よね?
アタシが……アタシが、勝った…?」
『ネイチャ、よくやった!!!!』
「トレーナーさん……。
なんか全然、実感がわかないんだけど、ホントに、アタシが?」
「「ナイスネイチャーーっ!!!
おめでとうーーーーっ!!!」」
会場内が、ナイスネイチャへの称賛の声で埋め尽くされる。
「――――っ!!
え、すご……。こんなにたくさん……。」
「ネイちゃーんっ!おめでとうーーっ!!」
「そうだ、コレだ、コレなんだっ!!
俺たちは、この舞台であんたが勝つのを見たかったんだ!!!」
「商店街のみんなも……見てくれたんだ。
待ってて、くれたんだ。
アタシに聞こえた声は、嘘じゃなかった。
――アタシはそれに……応えられた。」
――――『全部、君が掴み取ったんだ』
…アタシが望んでつかんだもの。
アタシが、欲しくて仕方がなかったもの。
逃げないで。
宣言して。
戦って。
――アタシ自身で。掴み取ったんだ。
「……っ。
うう~~~~っ!トレーナーさぁん……っ!!」
今までの思い、今までの記憶が一気にあふれ出てくる。
――アタシは、キラキラしたかったんだ。
でもトレセン学園に来て、テイオーに会って、打ちのめされた。
その才能に。
その生きざまに。
アタシはなんてちっぽけなウマ娘なんだ、と思い知らされた。
諦めかけていた。
アタシはモブだから。
【素晴らしい素質】なんてものは持っていないから。
結果がうまくいかなくても逃げられるようにしていた。
だけど本気で諦めたわけじゃなかった。
ずっと掴み取りたかったんだ。
キラキラしたい。アタシだってレースで勝ちたい。
言い訳できるようにしてはいたけれど、追い続けていた。
でも、それでも。
――アタシだけでは届かなかった。テイオーっていうキラキラした娘と比べると、どう頑張ってもアタシはモブのままだった。
くじけそうだった。
負けそうだった。
でも、みんなに、トレーナーさんに会って。
支えてもらって。引っ張ってもらって。
【ネイチャは負けない】と強く言ってもらって。
アタシは強くなった。
強く、なれたんだ。
――テイオーに、あの、トウカイテイオーに、自信を持って勝ったといえるくらいまで……!!!
「…諦めないで、よかった……!!!
追い続けて、よかったよ~……っ!!!」
以前、トウカイテイオーに宣言した後の不安で出てきた涙とは違う。
喜びからくる大粒の涙。
それは、汗とともに、太陽のもとで。
それは、彼女の夢と同様に。
――キラキラと、輝いていた。
――――――――――――――――
「――もう、なんで泣くのさ!!」
「……っ!テイオー……!」
「このボクを負かしてキミがトップなんだぞ?
大接戦だったとか、差が数センチだったとかは関係ない!キミは、ボクを負かしたんだ…!
――この、ボクをだぞ……っ!」
そう。ナイスネイチャとトウカイテイオーの差は、わずか数センチ。
もう少しテイオーが速ければ。もう少し、ネイチャのスパートが遅ければ…――――!!!
ボクとネイチャの差がどうであったとしても、…結果は結果だ。
ボクは…負けたんだ。
テイオーは泣きそうになるのを必死で抑える。
「う~~~っ……!
勝者なら、堂々と笑ってなよ!」
「っ……うん、うん、そうだ。
アンタだって、ずっと笑ってた……。」
キラキラしたウマ娘は、トウカイテイオーは。どんな時だって笑っている。
――それは、今でも。
「ごめん、大丈夫。もう……泣かないっ。」
ナイスネイチャは、涙をぬぐう。
泣いてなんていられない。
そう、ネイチャは勝ったのだから。
無敵のテイオーに勝ったのだから。
「そうだ、泣いてちゃ聞こえないよ。
この――――
――――この、大歓声をさっ!!!!」
「ネイチャーー!!!!」
「おめでとうーーー!!!!」
「応援しててよかったーーーー!!!!!」
大歓声がネイチャの耳に届く。
「――これが、全部キミのものなのにっ!!!」
「わかってる。ちゃんと……聞こえてるよ。」
ナイスネイチャは、歓声を聞く。
トウカイテイオーに向けられたものじゃない。他のウマ娘に向けられたものじゃない。
…ほかの誰でもない、自分に向けられた歓声を。
――――――――――――――――
「……っ。ふぅぅ~……。
【素晴らしい素質】かぁ……。チェッ!!」
正直、すっごく悔しい。
勝てなかった。
【素晴らしい素質】に勝てなかった。
圧倒的に勝ちたいと思っていたのに。
勝つための準備はしてきたのに。
「……けど。」
けど、いや。だからこそ。
ボクはこう思う。ボクはこう言うんだ。
「もう2度とボクの前は走らせない。
――――次はぜっったい、負けないからっ!!」
キラキラウマ娘は、笑いながら去っていく。
――もう、前を向いているんだ。
「――ありがとう、テイオー。
アンタがいなかったら、アタシ…ここまで走れなかった。」
ぽつり、とアタシはつぶやいた。
アタシがキラキラするために頑張れたのは。アタシがキラキラできたのは。
…テイオーのおかげだ。
背中を、ずっと追わせてくれてありがとう。
ずっと、キラキラしてくれて、ありがとう。
――アンタの後ろは、正直走りにくかったけど。
アンタがアタシの目標でなければ。
アンタがあの時、商店街で挑発してくれなければ。
アタシはずっと、モブのウマ娘だったかもしれない。
けど……アタシはずるいから。
アンタが前にいるのを居心地よくも思ってた。
逃げるための言い訳ができるから。テイオーがいるからしょうがないよね。と言えるから。
――――でも。
これからは、どんな風も、どんな困難も。
ちゃんと正面で受け止めるよ。
アタシは、逃げない。
主人公として。
今回の【有馬記念】だけじゃない。
――――――――アタシの物語の、主人公として!!!!