五河士織な物語   作:高町廻ル

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五河士織な学校

「おはよう」

「おはようなのだ!」

 

 教室の扉をくぐるや軽く会釈をして挨拶をする士織と片手を上げて元気いっぱいの挨拶をする十香。

 教室からちらほらと「おはよう」という返事が返ってくる。

 既に士織と十香の二人がセットで教室へと入ってくる。この光景は来禅高校の一教室では当たり前になっている。

 見た目麗しい美少女二人がセットになって登校をする。その風景は学校が始まる前の鬱々とした雰囲気を吹き飛ばしてくれる。

 皆が目の保養によってストレス軽減をしている中、そこに割り込んでくる一人の男子生徒が。

 

「やっぱり…美少女の登校風景は…いいもんだな!」

「えっと、おはよう殿町くん」

 

 士織はいつもの事ではあるのだが声をかけられて少しだけ引いてしまう。

 一応彼女の友人にあたる殿町宏人だ。ワックスで髪を逆立てたのが特徴的な男子生徒。クラス一の情報通でノリのいい性格、例えるならエロゲの主人公キャラを常にサポートしてくれる友人のような存在。

 彼女は相手の事が嫌いでは無いのだが、唯一苦手な要素がある。

 体を彼女へと正対して殿町は少しだけ真剣味のある表情を作る。

 

「おはよう!今日も可愛いね士織ちゃん!」

「……えーっと、ありがとう」

「突然だけど好きです付き合ってください!」

「ごめんなさい、殿町君とは友達でいたいんです」

 

 ほぼ毎日告白して来てフラれるのだ。それも懲りずに。

 諦めないといえば聞こえはいいが、ここまでくるとウザったい。

 高校一年生の時から毎度このやり取りを真摯にそれも何度も繰り返して、かつ友人であり続ける士織もまた変人なのかもしれない。

 

「わっ」

 

 士織は殿町とのいつものルーティンを終えると突如背後から肩を掴まれて引き寄せられて反射的の驚いた声を出す。

 

「うわー…まーた告白してるよ…いい加減にしな!」

「うちらのアイドル士織ちゃんに唾つけないでよ!」

「…………」

 

 クラスの騒がしい女子トリオの亜衣、麻衣、美衣の三人組だ。

 亜衣と麻衣は虫を毛嫌いするかのような雰囲気を出しているが、美衣は視線をキツくするにとどめている。

 因みに十香はこのやり取りに慣れたのか、驚くこともなく静かに件が終わるのを待っている。それはクラスの大半のメンバーも同じで、不快感というよりはよく懲りないなとむしろ感心しているくらいだ。

 この場にいる男子は士織や十香に対して大なり小なり好感を持っている者はいるが、殿町のようにフラれる勇気が無いため踏み出せないのだ。

 

「一応真剣なんだが…」

 

 そう考えると無謀だが勇気だけはある彼は立派なのかもしれない。

 

「あはは…もう慣れちゃったし不快なわけじゃないから」

「士織ちゃんってばやっさしー、殿町普通ならリンチだかんね!」

 

 苦笑いでこの場を収めようとする士織に、気持ちをくんでか亜衣はこれ以上の吊るし上げは取りあえず止める。

 士織は持っていた鞄を自分に割り当てられた机に持って行くのだが、彼女の心労はこれに留まらない。

 何故ならもう一人の関門が待ち構えている、殿町よりもある意味難関な相手だ。彼と違って彼女との相応しい距離感や落としどころを決めかねているのだから。

 

「士織、おはよう」

「おはよう折紙」

 

 朝の挨拶の主は鳶一折紙。

 肩に触れるか触れないかの長さの髪に人形のような雰囲気を漂わせる少女。学業成績は常に学年トップどころか全国一位という、貧困な語彙で説明するなら天才という奴だ。

 だがそれは表向きの肩書で、彼女はASTの略称で親しまれる(?)精霊殲滅組織のエースなのだ。

 本人は精霊に親を殺されたため同じ人を生み出したくないと建前は口にしているが、その本性は個人的な感情から精霊を殺すために顕現装置を手にしてやり場のない気持ち復讐という形で昇華しようとしているだけだ。

 だからこそ精霊保護派に所属している士織とは根っこの部分で相容れない。

 お互いの主張が分からないわけでは決してない、だがお互いに譲ってやる気も決してない。

 

「む……」

「…………」

 

 精霊の力を封印されていて今は人間として十香は判断されているとはいえ、それを真正面から認めるほど折紙は楽観的でバカではない。

 一応ASTは十香を限りなく黒だと思っていても状況が人間だと判断したため、組織に所属する折紙に手は出さないように言っている。

 喧嘩するほど仲が良いと言われるが、元々殺し合いをしていただけに二人の仲にある溝は埋めようがないほどに深すぎる。

 二人は喧嘩するほど何とやらではなく、本当に仲が悪いのだ。人と災害としてだけでなく士織を巡る関係としても。

 

(朝から本当にやめてよ……)

 

 士織は机に突っ伏して溜まるストレスに堪える。

 仲が悪いのはもうこの世界が存在する以上仕方ないとはいえ、会うたびにバチバチ視線で戦うのは本当にやめて欲しいのだ。

 明らかに疲れた感じの彼女に気が付いた十香はすぐさま声をかける。

 

「むっ士織大丈夫か!?」

「夜刀神十香あなたの世話で疲れているに違いない、即刻士織から離れるべき」

「な、何だと!?士織はそんなはずない!」

 

 折紙のその言葉に十香は慌てて弁明を計る。

 彼女自身自分の知識や経験のなさで迷惑をかけている事は痛いほど分かっている、だからこそ士織の枷になる事に心を痛めているのだ。

 

『いいかげんとうかのせわをやくのはつかれたのだー』

「そ、そんなっ…」

「いや二度も騙されないで」

 

 かつて水着を買いに行った際に行ったやり取りが再び展開されているのを士織は顔を上げて半眼でツッコむ。

 その事を思い出したのか十香はぷんすかと怒り始める。

 

「なっ!またしても騙したな鳶一折紙!!」

「何のことだか」

 

 折紙は無表情ですっとぼけ始める。

 正直傍から見れば仲のいい友達にしか見えない。

 すると始業の合図を告げる予鈴が鳴る。それと同時にふちの短い眼鏡をかけた小柄な女性が教室の中へと入ってくる。

 

「はーい、では朝のホームルームを始めますので座ってください」

 

 この教室の担任にあたる岡峰珠恵、通称タマちゃんだ。

 この手のあだ名をつけられる先生は親しみやすい反面生徒との距離感が近くなるあまり言う事を聞いてくれなかったり、緊張感がなくなって雰囲気が緩んで馴れ馴れしい関係性になりがちだ。

 だが入ってきたらすぐさま生徒たちは雑談を止めて自分たちに宛がわれた席に着くため、メリハリがあって絞めるところはキチンと絞めるいい先生だ。

 先生がやってきたため十香と折紙は口論もといじゃれ合いを止める。

 

 

 時が過ぎて時刻はお昼の昼食時。

 授業意欲が高いとはいえまだまだ高校の勉強についていけなく、四苦八苦して頭から湯気が出ている十香にとって楽しみにしていた時間。

 

「ミートボールが待っているのだ!」

「あはは、落ち着きなよ」

 

 あまりの十香のはしゃぎっぷりに苦笑いをしている士織。

この楽しそうな顔を見るために頑張ったのだから、やったかいがあったというものだ。

 二人の美少女が楽しそうに昼食を取っている。そんな光景を周りの人達は目の保養として楽しんでいる。

 

「…………」

 

 そんな光景を無言でじっと見ているのは折紙。

 正直なところめちゃくちゃ羨ましい。出来ることなら食べたい、食したい。どうしたものかと色々と奸計を張り巡らそうとする。

 

「いただきます!」

 

 好きなものはすぐさま口にする派なのか一番最初に十香の箸が掴んだのはミートボールだった。

 そしてガチン!っと歯と歯が思いっきりぶつかる音がする。

 

『……?』

 

 二人はミートボールが消滅した事に何が起きたのか分からないといった感じ。

 

「…………」

 

 そして何故かもぐもぐと折紙の頬が動いている。

 見た感じ折紙の持っている弁当箱のおかずは減っている様子が無い。

 何が起きたのか状況から分かってはいたが一応といった感じて問いかける。

 

「えっと…」

「ふぁにもしてなふ」

「…………」

 

 ダウト。士織は頭を抱えてしまう。

 十香と折紙は士織を挟む形で席があてがわれている。つまり彼女の動体視力では捉えられないスピードで十香の掴んでいたミートボールを奪って食したという事だろう。

 

「何をするのだ鳶一折紙!!」

「私が何をしたというの?」

「私のミートボールを食べただろう!返せっ!」

 

 当然ながら昼の楽しみを邪魔されて十香は激怒。

 だがそれに怯む折紙ではない。

 

「証拠は?」

「し、証拠…だが先ほど食べていただろう……」

「それはあなたのミートボール?そもそも何時何分何秒地球が何回回った時に私が食べたというの?」

「な、何だと……」

「いや小学生?」

 

 士織は御年十七歳とは思えないやり取りについ半眼でツッコんでしまう。だがこれ以上ギスギスされるのも嫌なため別の解決方法を出す。

 

「十香の物を取るくらいなら今度は折紙のも―」

「いい」

「いやでもそれだとまた……」

「もうしない」

「……」

 

 折紙からすれば士織のその提案はとても魅力的だった。だが首を縦に振る事だけは絶対に出来ない。

 折紙調べでは現在士織の両親は長期間家を空けていて家事や炊事の類は彼女が殆ど行っている。

 それだけにとどまらず、学校の成績をキチンと維持しつつ、一緒に住む妹の世話と転校生の面倒のどちらもしている。

 まともに自由な時間が取れないほど忙しいというのに、折紙の昼食を用意させるようなことをさせたらそれこそ彼女はパンクしてしまう。

 好きな人に迷惑を掛けたり重荷になる事だけは絶対に嫌なのだ。

 ただそこまで気を遣えるなら意味不明なズレまくり好き好きアピールを止めるか、十香に突っかかるのを止めた方が幾分か助かるのだが。

 

 

 同時刻、琴里は学校の友人たちと昼食を取っていた。彼女のお弁当の中身は当たり前だが十香と同じ。

 

「わー琴里ちゃんのお弁当美味しそう!」

「えへへ…いいでしょー。おねーちゃんに作ってもらったんだー」

「琴里ちゃんのお姉さんってあの可愛い人だよね?」

 

 彼女の友達は昔、五河家に遊びに来た事があった。その際に姉である士織とも面識があった。

 

「いいなーあんな可愛くて優しくて料理も上手なお姉さんがいて」

「ふっふーん」

 

 遊びに来た際に彼女の友達にお菓子を作って用意したのだ。それはとても好評で自分が褒められたようでとても嬉しかったのだ。

 琴里からすれば文句の言いようがない誰に見せても恥ずかしくない家内だった。

 因みにお弁当は美味しく頂きました。

 

 

「十香」

「何なのだシオリ」

 

 放課後、授業が終わって周りの人達が帰り支度を行っている中士織は隣の席の人物に声をかける。

 

「今日はちょっと美九の買い物に付き合う予定だから先に帰ってて欲しいな」

「む、そうなのか。ならその買い物とやらを手伝おうか」

「いや美九は二人で買いたいらしいからごめんね」

「むう……そうなのか…それは致し方のない事だな……」

 

 十香は寂しそうにするが先約が優先される事は重々承知しているため、そこで駄々をこねるような真似はしない。

 かつて四糸乃の一件で気に入らないと暴れまわったせいで迷惑をかけたため、ここでは踏ん張れた。

 

「デパートに行く予定だし何か美味しいモノでも買ってくるから」

「おお!そうかっ!それは楽しみだな!」

 

 どうにも単純すぎる。これだとお菓子なり食べ物をちらつかせられるだけで不審者に攫われそうだ。ただラタトスクがそれをさせはしないだろうが。

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