「処女思う、ゆえに処女あり」
この世界において男女比率は1:10である。
小学生でも分かることだが、40人のクラスならばそのクラスに男性は4人いるかいないかの割合である。一方で女性は35人前後いる割合である。
つまり、この世界では同じクラスに在籍する男性を、飢えたハイエナのように狙う女性が跳梁跋扈しているといえる。だからこそなのか、1人の女性向け同人作家のツイートした文言が瞬く間に広まった。
この女性向け同人作家は処女である。
だからこそこの真理にたどり着いたのだと、多くの学者やら哲学者やらが賞賛のコメントとともに述べていた。
処女だからこそ、処女である自分を認識することができるのだ。もしも非処女になってしまえば、自分は処女であるころの自分を認識できなくなる。それと同時に多くの処女である読者の存在を忘却してしまう。そうなれば自分自身の存在が何か別のものに成り代わったことにすら気づきえないだろう。つまり、処女であるということで自分自身の存在を確固たるものにすることができ、アイデンティティの確立となるのだということらしい。
そんな情報が、今点いてるテレビから流れているのは
繰り返し述べるがこの世界が男女比のおかしな世界だからである。
しかしそれを知らない人物である、目が覚めた直後の彼、神谷聖は聞き長そうとして、首が回れ右した。
は? 何を馬鹿げたことを言ってるんだ。そもそもテレビ局は、日曜日、しかも朝のワイドショーでこの内容を放送して今頃苦情の電話が鳴りっぱなしじゃないだろうか。
しかし、言いたいことが分からないでもない。
自分自身童貞であるがゆえに、不覚にも童貞思う、ゆえに童貞あり、なんて馬鹿な考えをしたこともあるので同類なのかもしれない。
ただ言わせて欲しい、あの頃は高校生で思春期真っ只中である。彼女の1人や2人できて、童貞卒業するんだろうなと思っていたものの気づけば高校を卒業していた。
流石に成人した身でこんな馬鹿げた考えを大っぴらに世間に伝えようとは思わない。むしろ社会的に馬鹿にされて生きていけなくなる気がする。
そもそも自分は童貞を卒業し童帝にクラスアップしたと思っているので、童貞であることを隠しながら日々を生活しているのだ。決して成人済み童貞が馬鹿にされるからだったり、実は童貞卒業を夢見ているからでは無い。
……そういえば今座っているこのソファは、住んでいるアパートには置いていないはずだ。この月日が経ちすぎて、ソファとしての座り心地が最悪な感覚は、学生時代に遡る。
そういえばここはアパートじゃない。妙に広いし、こんな大きなテレビはなかった。
寝ていたソファから起きて、テレビを見て、徐々に意識が覚醒してきた。
ここは実家だ。高校を卒業するまで住んでいた家であり、家具だったり広さだったりが一致する。ここ数年帰省することがなかったが間違いなく記憶と一致する。
ではなぜ自分がここにいるのかそれが理解できない。
昨日何かあったかと考えてみても特段思いつかない。普通に仕事を終えて、アパートに帰って眠りについた。この一連の流れは間違いないはずだ。酒を飲んだわけでもないので記憶に曖昧な部分はない。
「あ、お兄起きたんだ」
「……美波?」
神谷美波。神谷家の次女であり、僕の妹にあたる。歳は2つ違いだ……だからこそおかしい。少し幼い気がする。高校生……いや中学生くらいのあどけなさが見受けられる。僕自身の年齢は25歳、つまり妹は23歳になる。最近滅多に会うことがなかったが、それでも最後に会ったときより明らかに幼く見える。
「全く、ソファで寝るくらいなら私のベッドで寝てほしいんだけど」
「あぁごめん……ん?」
この妹が変な言葉を発した気がする。
いい歳して兄貴を自分のベットで寝かせるか? 臭いとかキモイとか言って避けるのが普通ではなかろうか。
ふと顔しか見ていなかった妹の服装が見え、そちらに意識が向いた。
制服を着ている。
23歳の妹が制服を。
「美波……何かあったか? お金が無くてピンチなら多少は僕が出すし、危ない人に狙われてるなら一旦警察に……」
先ほどまでの顔立ちが幼く感じた理由がわかった。
多分そういうメイクだろう。いわゆる援助交際、パパ活みたいなことをやっているに違いない。だから幼く感じたし、制服着てるんだろう。
そこまで生活が苦しくなっていたにも関わらず連絡をくれなかったことにかなり悲しく思えたがそれよりも問題解決が先だ。
「えっ、どうしたのお兄。お兄が私の心配してくれるのは嬉しいんだけど、それよりもお兄の方が大丈夫なの?」
というかお金なら不自由ないくらいにはあるけどと呟き、僕の心配をしてきた。
「大丈夫かって、僕かどうした……」
先ほどから疑問に思っていたことについて聞こう。なぜ僕が実家にいるのかを知る絶好のチャンスだ。どうせならばと妹に質問を問いかけようと思ったときだった。
「昨日は電車であんな目にあったばかりだし、そりゃ心配するよ」
「あんな目に?」
「やっぱりショックで記憶が曖昧に……でもそれでもいいと思う。ごめんね昨日に限って私が早く家を出たせいで」
昨日の出来事はさっきも考えたが、どうやら僕と妹が違う世界線に存在していたかのように話が理解できない。分かったことは昨日まで、妹と僕が一緒に住んでいたということだ。
「もう部活辞めることにしたから。明日から……ううん落ち着くまで学校は休んでいいからね。行きたくなったら一緒に行こう」
……まさかそんなことはないだろうと思っていたが、そういえば僕の声が昨日と比べて高い気がする。声がよく通るし、喉に引っかかるような声にもならない。
さらに顔周りだ。全く髭が生えていない。1日剃らないでも問題ないくらいの毛の濃さだったが全く生えないということはなかったのだ。
妹だってよくよく考えれば学生のコスプレしてパパ活をするような性格じゃないし、最後に会ったときには貯金が何百万かは貯まったみたいなことを言っていた気がする。先程パパ活に手を出した妹と認識してしまって申し訳ない、ごめん。
つまり、僕は若返っていて、妹もそうなっていると考えるのが自然だ。
このことから、一応大学まで出たそこそこの頭の僕が導き出した答えは「僕は過去にタイムリープした」ということである。
彼はまだ男女比について知らない