ハイラルの流浪人   作:はいから

10 / 11
※お知らせ※
第三章『黄昏の宮廷詩人』です。
第二章『イカーナの遺産』の方はあと数話で完結なのですが、執筆に手間取っていますのでしばしばお待ちください。


黄昏の宮廷詩人(トワイライトプリンセス)
第一話 欲望の果ての詩


ハイラル王国。

 

 

遠くは百数十年前。ハイラル王国に反旗を翻した魔王ガノンドロフは賢者たちによって処刑され、ここ数百年ハイラルは平穏な日常を歩んできた。今や城下の町も栄え、仕事や娯楽に勤しむ国民も少なくない。

王国中にゆとりが生まれ、そのゆとりは王宮にまで広がっていった。

 

晴天のある日。ハイラル王国では一人の宮廷詩人を雇うことになった。

 

それはこの国の姫、ゼルダ姫の数少ない希望であり、我儘である。

彼女は行政以外に特に関心を持たず、娯楽に勤しむことも殆どない。しかし血筋故か幼き頃から音楽を好み、共に育ってきた。

 

そんな彼女の唯一の我儘。宮廷詩人の雇用。

これには他の王家の人間も快く受け止め、誠心誠意を込めて姫が気に入るであろう詩人を探し求めた。

 

そして今日、ハイラル城王座の間にて、その宮廷詩人の就任式が行われていた。

 

 

天気は快晴。

 

喉の調子も良好。

 

不備はない。

 

 

「入れ!」

 

 

部屋の中から聞こえてくる合図を聞いて、一人の男が王座の間に入ってくる。

 

「私はギーヴ。旅の楽師にございます」

 

軽薄な笑み。キザな出で立ち。

旅の楽師と名乗ったギーヴという青年が、今日、ハイラル王国の正式な宮廷詩人として就任した。

 

 

 

 

 

 

 

『黄昏の宮廷詩人』

 

 

 

 

 

 

「わざわざご足労、ありがとうございます。ギーヴ」

 

「とんでもない。王国正式の楽師へと就任させてもらえるのですから。どんなご足労でもお釣りが返ってくるというもの」

 

大袈裟なジェスチャーに、軽薄な表情を浮かべる彼、ギーヴは、今日をもって正式な宮廷詩人へと就任することになった、元旅人である。

 

本来ならばただの一介の旅人から、王家に仕える宮廷詩人への就任など出世もいいところだが、彼は王家に自分の音楽の才が認められ、正式な宮廷詩人として就任できることになんの名誉も感じていない。

 

ギーヴの心情としては、自分に音楽の才があるのは王家に認められる以前に当然であるし、正式な宮廷詩人としての地位も、金を多く生む手段としか思っていない。

そこに名誉も誇りも、何も感じていないのだ。

 

今彼は、宮廷詩人としての給料と、ゼルダ姫の美しさ以外、何も目に入っていない。

 

「就任して早々に悪いのですが。ここであなたの詩をお聞かせ願えますか?」

 

普段行政と国民のことしか口にしないゼルダ姫が、珍しく興奮した様子でギーヴに問いかける。

就任式直後の王座の間。なにもこんな場で演奏を求めるのも変な話ではあるが、ゼルダ姫は我慢ならないといった様子だ。

 

「委細承知。せっかちな姫様に一曲お聞かせいたしましょう」

 

そんな姫の様子に快く答え、ギーヴはその場に座り込み、琵琶に手をかける。

 

こういった場合、多くの兵や王族に見られながら演奏をするという状況。並みの楽師でも緊張するというものだが、ギーヴには一切の緊張が見られなかった。

 

彼にあるのは、絶対的な音楽の自信と、見られていることによる承認欲求の享楽。

その果てにある完璧な仕事の遂行に、その報酬。金銭欲。

 

「すぅ.......」

 

煩悩と雑念にまみれながらも、彼の音楽への集中力は凄まじく。

彼が一息吸った瞬間。ギーヴ本人だけでなく、周りまでもが息が詰まるかのように空気が変わる。

 

弦に手をかけ、一本一本確かめるように撫でた後。彼はゆっくりと手を動かし、繊細な彼だけの音を奏でていく。

 

 

承認欲求。金銭欲。

 

 

誰よりも欲望に正直に向き合って生きてきた彼のその詩は、誰よりも繊細で、誰よりも美しく。

誰よりも汚いはずの彼のその詩は、誰よりも綺麗で透き通っていた。

 

それは、ここにいる全ての人間を感動させるに足りるほどの詩であった。

 

 

 

 

 

 

 

『───、───、───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....ふぅ」

 

詩い終わった後のギーヴの息遣いが、部屋中に響く。

 

「..........」

 

ギーヴの詩が終わってもなお、王座の間は静まり返っていた。

部屋中の皆が一様に驚いたようにギーヴを見つめる中、ギーヴただ一人だけ、軽薄な笑みを浮かべたまま満足そうに頷く。

 

「どうです?俺の詩は」

 

あくまで体裁で聞いただけであり、ギーヴにとってその質問の答えはわかりきっている。

 

「.....す、素晴らしいですね。これほどとは」

 

「でしょう?」

 

王国の姫を前にしても、一切の謙遜を伴わないその様子。

しかし誰もその態度を気にすることができるほど、冷静ではなかった。

皆が彼の演奏と歌声に酔いしれ、聞き入っていたのだ。

 

しかし、一番彼の演奏に酔いしれていたのは.....

 

「(やっぱり。今日も俺の詩は最高だね)」

 

彼自身であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギーヴの就任式から一週間の時が経った頃。

 

その日の朝、王国正式の宮廷詩人となった彼は、いつものようにハイラル城の一室で目覚めた。

一週間ともなるともうこの部屋で目覚めるのも慣れたもので、ギーヴは起きて早々に顔を洗い、歯を磨き、シャワーを浴びて清潔の限りを尽くす。

髪を入念に拭いて水気を取ったのち、いつものように鏡を前にし、自分に酔いしれるのだ。

 

「(今日もかっこいいね、俺)」

 

20°、30°、45°、また20°。角度を変え表情を変え、鏡の前で百面相をしながら自惚れる。文字通り、自惚れる。

こうして一通り自分に酔いしれると、今度は衣服やアクセサリーを身に着け、姿見の鏡の前で再び自惚れるのだ。

身の回りの清潔も、身に着ける衣服やアクセサリーも。自分が大好きなギーヴにとって、自分を着飾るものにはそれなりにこだわっている。

 

「(さて....)」

 

朝のルーティーンも終わり、本来なら城下町にでも繰り出て女の子と遊びたいものだが、今日は大切な仕事がある。

王国正式の宮廷詩人として、ゼルダ姫の朝食にて演奏を披露しなくてはならない。

 

ギーヴにとっては城下の町で女遊びに勤しむのも、ゼルダ姫に自分の詩を聞かせるのも殆ど同じこと。

美しい女性と戯れられるのならなんだっていいため、上機嫌な様子で部屋を出ていく。

 

「~~~♪」

 

今日演奏する予定の曲を鼻歌まじりに、琵琶を手に廊下を歩く。

今日は太陽がよく輝く晴天。窓からこぼれる朝日に、スキップでもしたくなるほどギーヴの気持ちは高まっていた。

 

いわゆる「仕事」が嫌いなギーヴにとって、音楽の嗜みはあるものの、宮廷詩人など縁のない話だと昔は思っていた。

しかし想像以上の美貌を誇るゼルダ姫がいることで、ギーヴにとってこの仕事は正に天職かというほど毎日が楽しいことだらけなのである。

 

「(飽きるまでは楽しめそうだねえ)」

 

ハイラル王国正式の宮廷詩人故、給料は高い。

仕事内容は得意分野の音楽で、その仕事相手は絶世の美女のゼルダ姫と来た。

 

彼にとってここは正に天国である。

 

 

 

──コンコン

 

 

 

ハイラル城最上階の一室の扉を、ギーヴは子気味良くノックする。

 

「入りなさい」

 

入室の許しが出て、すぐに中へと入る。

すると部屋の中へと入った瞬間漂う上品な甘い香りが、ギーヴの鼻孔をくすぐった。

 

「早朝からごめんなさい、ギーヴ」

 

その広い一室。窓際の椅子に座っていた女性が立ち上がり、ギーヴに優しく語りかける。

氷のように透き通った白い肌。凛々しくも女性的な眼差し。きゅっと結んだ桃色の唇。そう。ここはハイラル王国を統治する姫、ゼルダ姫の部屋である。

 

「いえ。私とて姫のような可憐な女性に自分の詩を聞いてもらえるとなれば、苦には思いませんよ」

 

「ふふふ、そんなにかしこまらなくて良いのですよ。二人きりなのですから」

 

「そういうわけにはいきません。姫こそ、私に敬語はいりませんよ?」

 

「なら、お互い様ですね」

 

「手を打ちましょう」

 

そういってギーヴが肩をすくめて見せると、ゼルダは楽しそうにくすくすと笑う。

普段クールな出で立ちであるゼルダだが、ギーヴと話しているときはこれから聞ける美しい演奏への期待のせいか、普段より幾分上機嫌である。

 

「それじゃあ、早速お願いできるかしら?」

 

「ええ、もちろん」

 

その言葉を皮切りに、ギーヴは近くの椅子に座り、琵琶に手をかける。

ゼルダも食卓に腰掛け、期待の面持ちでギーヴの演奏を待っている。

ゼルダが朝食のスープを掬い一口食べたのを見計らうと、ギーヴは弦に手をかけ、琵琶による旋律を奏で始めた。

 

今日の詩は、ギーヴが普段歌っている詩ではなく、ギーヴ本人が作詞した詩である。

不思議なことに、普段ギーヴが好んでよく歌う詩は自分で作ったものではなく、物心ついた時には自然と歌えて、自然と演奏できた詩なのだ。

 

しかし今日の詩は正真正銘、ギーヴの作った詩。

数ある自信作の中から選び抜いた、一国の姫に聞かせても謙遜のない詩。

 

その名は、大地の唄。

 

 

 

 

 

 

 

『────、───、────、───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分が優れませんか?」

 

「.......え?」

 

詩い終わり数秒。ゼルダが詩の感想を言うまでもなく、ギーヴは言った。

 

「どうにも顔色が悪いようで」

 

「......そ、そうかしら」

 

「隠してもわかりますよ。女性の表情の変化には目ざといもので」

 

ギーヴがそういうと、ゼルダは一瞬目を丸くして驚いた後、楽しそうに笑う。

 

「確かに、そうでしたね。いえ......なんというか。その......」

 

「言いにくいようでしたら、無理なさらずに」

 

「いえ、違うのです。その......。あなたは、インパレスという方をご存じですか?」

 

「あの城下の占い師の?」

 

「はい。あの方は王国正式の占い師でもあるのです」

 

「ほう....」

 

城下町で占いの店、「インパレス」を営む占い師インパレス。

彼女の占いは町でも当たることに定評があり、その高い精度から王国にも正式に雇われている占い師なのだ。

 

「彼女が、昨日一つの予言をしまして......」

 

言い淀むように、ゼルダの口が一瞬止まる。

もとより、ギーヴはただの宮廷詩人に過ぎない。ハイラル王国の行政の話などをするような人間ではないのだ。

しかしゼルダは、ギーヴの演奏に心絆された故か、つい”そのこと”を口にしてしまう。

 

「ハイラル王国に、一つの影が迫る。近いうちに黒き力に侵されることだろう。......と」

 

ハイラル王国に迫る影。黒き力。

占い師インパレスの予言はあくまで抽象的であったが、ゼルダにはそれを確信とする限りの心当たりがあった。

 

かつてハイラルで、聖地に眠るトライフォースを魔力により強引に収めようとしてハイラルを追放された影の一族。その存在がゼルダの心を暗雲で覆っていたのだ。

そのハイラルに迫る黒い影が彼ら影の一族のことだったら、足し引きの辻褄は合う。

 

彼ら一族が、光の国ハイラルを恨む理由など幾らでもあるのだから。

 

「ごめんなさい。突然こんな話.....」

 

「いえ、とんでもない。私には金以外のしがらみはどうも理解できないものですが、もし姫の、ハイラルの危機とあらば。このギーヴ、喜んで参上致しますよ?」

 

「ふふふ、頼もしい限りです。でもあなたは兵士ではなく宮廷詩人なのですよ?」

 

「それはもちろん理解しています。しかし平和ボケしたハイラルの民では、どうにも緊急事態に万全を尽くせるとは思いません。存外、そこらの田舎町の青年なんかの方が、成果を上げるというものですよ」

 

例えば、俺なんかね。

 

そうキザを決めこむギーヴを見て、ゼルダは再び楽しそうに笑う。

しかし実際にギーヴの言う通り、今のハイラル王国は百年あまりの平穏な日々に、ハイラル全土が肥やされたかのように平和ボケしている。

 

それは良い副産物なのであろうが、もし本当にハイラルに危機が迫っているというのなら、一体どれほどの人間がその危機に対応できるだろうか。

 

「入用でしたらすぐにでもお呼びください。姫が望んでくれるのであれば、何処へでも駆けつけます」

 

ギーヴは大袈裟に跪き、首を垂れる。

 

「苦しゅうないっ。.........なんて」

 

かくいうゼルダもノリノリであった。

 

一国の姫と一介の宮廷詩人。大きな身分の差はあれど、こうして二人姫の部屋で笑いあうことが出来るハイラル王国。

そんな理想の王国像を描いていたこのハイラル王国に、ゼルダが想像していたよりも何倍も早く、影の魔の手が忍び寄ってきていた。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

テルマの酒場。

 

テルマという女店主が経営する城下町の酒場で、ハイラル中のたくさんの人間が訪れ、毎日賑わいを見せている。特にハイラルの兵士や旅人、剣士などに人気があり、云わばその類の人間たちの集会所のような所と化している。

そうなると必然的に腕っぷしに自信がある人間が多く集まり、時に腕相撲大会などが行われるのも日常茶飯事だ。

 

そして今宵のテルマの酒場でも、まさにその腕相撲大会が繰り広げられていた。

 

「うぉぉぉぉおお!!」

 

夜更けだというのに容赦のない男たちの咆哮が酒場中に鳴り響く。

剣術や弓術、戦闘での身の熟し方。一概に”強さ”といっても様々な定義があるが、やはり男たるもの腕力、腕っぷしの強さには並ならぬプライドを持っているものだ。

故に酒場にいる男たちは皆本気でこの腕相撲大会に挑む。兵士たちは仕事以上に真剣に、旅人は魔物と闘うときよりも目を血走らせて、この男同士の戦いに挑むのだ。

 

とは言っても大抵はゴロン族が全勝を収め、優勝する。

今日も一人の客であるゴロン族が、絶賛6連勝を収めていた。

 

「くっそー!負けたー!!」

 

「貧弱すぎるゴロ!」

 

種族の差とでも言うべきか。体が屈強な岩で出来ているゴロン族に、ハイリア人が腕っぷしで勝とうとするのは流石に無理な話。

 

「情けないねぇ。ハイラルの兵士が聞いてあきれるよ」

 

「うるせー。ゴロン族に腕っぷしで勝てるわけねーだろ!追加で生持ってきて!」

 

「はいよ。まったく.....」

 

ゴロンにもれなく負けた兵士たちは、早々にカウンターへと座り直し酒をがぶ飲みする。

 

「相変わらず腑抜けの兵士しかいないねぇ」

 

そんな情けない兵士たちの姿を見て、この酒場の店主テルマは呆れたように肩をすくめた。

おめおめと酒をあおる兵士たちの後ろでは、ゴロン族が再び勝利を収め7連勝をしている。

 

「.....そうだギーヴ、あんたあのゴロン族と腕相撲してみなさいよ」

 

「.......」

 

「ギーヴ?あんた聞いてんのかい?.......って」

 

酒場のカウンターの一角。

ゴロンに負けた兵士たちが酒を啜っている奥に、宮廷詩人が一人。

 

「なんだ寝てんのかい」

 

爆睡を決め込んでいた。

 

「.......すぅ」

 

「ほらギーヴ、起きなさい!寝るなら帰ってから寝るんだね」

 

「......ン、んあ?なんだよおばちゃん。せっかく人が気持ちよく寝てたのに....」

 

「誰がおばちゃんだ。お姉さんとお呼び!」

 

「ははっ、さすがに無理あるでしょ」

 

「今日のお会計倍額で」

 

「いやぁ今日も綺麗だなあテルマお姉さんは!」

 

「はぁ....。ったく。王国の宮廷詩人が聞いてあきれるね。ハイラル王国ってのは腑抜けしかいないのかい?」

 

そんなテルマの物言いに、我関せずといった様子で、ギーヴはあくびをしながら体を起こす。

 

「俺を宮廷詩人に推薦したのはテルマさんじゃないか」

 

「あんたが割の良い仕事はないかってしつこくせがんで来たからだろう?」

 

そう。ハイラル王家に全くの身寄りがないギーヴが宮廷詩人として就任できたのは、この酒場の店主、テルマの推薦によるものなのだ。

 

数週間前まで旅人であったギーヴは、ハイラルに来たばかりで右も左もわからない状況だった。

そこで情報通である酒場の店主のテルマに、割のいい仕事をねだった結果、王国正式の宮廷詩人に推薦されることになったのだ。

 

「しかしまさか本当に推薦が通るとはねぇ」

 

「俺の詩をなめてもらっちゃ困るよ」

 

テルマも最初はダメもとで推薦してみたのだった。

しかし、なんとギーヴは王国が課した宮廷詩人のボーダーをいとも簡単に越えて見せ、見事正式な宮廷詩人の任に就くことに成功したのだ。

 

これにはもう驚きや賞賛を通り越して、テルマの口からは呆れしか出てこなかった。

 

「まったく....」

 

こんなふざけたなりした、胡散臭い軽薄なナルシスト人間が、今や王国が認めた正式な宮廷詩人だ。やはりハイラル王国は腐っているとしか思えない。と、テルマは一層強く思うばかりだった。

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

そんな切実な思いの裏で、いまだゴロンの腕相撲連勝記録は続いていた。

 

「あれ、なにやってるんだい?」

 

「腕相撲大会だとさ。あんたも混ざってくればいいじゃない」

 

「ふーん。.......あんな汗臭い野郎連中と手を繋ぐなんて、御免だね」

 

「そうかい....」

 

テルマは呆れたという様子で、グラスを拭き上げる。

 

「また俺の勝ちゴロ!」

 

「くっそー!」

 

絶賛8連勝中のゴロンが、腕を高らかに上げる。

その腕は雄々しく太く、並みのハイリア人ごときでは到底叶わないことを物語っている。

それでもなお果敢に挑み続けるハイラル兵に、テルマはため息をつく。

 

「(その情熱を仕事に注いでくれればいいんだけどねぇ)」

 

そう思いながら客に酒を提供していると、一番端のテーブル席から、一つの声が挙がる。

 

「私も参加していいか?」

 

さっきまでの野太い男たちの歓声とは違い、凛々しい女性の声。

まるで鈴の音のような、よく通る低い女性の声。

 

その声を聴いて、テルマは面白くなってきたと腕相撲大会へと視線を向ける。

カウンターの端では、ギーヴもそちらへと視線を向けていた。

 

「いいけど....ケガしても知らないゴロよ?」

 

「問題ない。私のことは気にしなくていい」

 

その女性の名はアッシュ。

 

艶やかな黒髪を二つに結い、しっかりと手入れされている前髪を揺らす凛々しい女性。

それだけを見るととても女性的に感じるが、その鋭い目つきからは、数々の修羅場を潜り抜けた歴戦の戦士のような出で立ちを感じる。

 

この酒場の古くからの常連であり、テルマとは志を共にした仲間である。

 

彼女は威勢よくゴロンの前に出て、腕をまくり机に肘をつく。

彼女の鋭い目つきに、すでにゴロンは少し気圧されていた。

 

「.....じょ、上等だゴロ。女でも関係ないゴロ」

 

ゴロンも机に肘をつき、アッシュの手を握る。

 

ギーヴのいるカウンターから見てもわかる、体格差。

恐らくアッシュは女性の中でもかなり体格の大きい部類なのだろうが、ゴロン族と比べてしまうとやはり一段と華奢に見えてしまう。

 

それでもなおアッシュの目線は逸れることなく、ゴロンを射抜くように見つめている。

 

「それじゃあ行くぞ?レディー.....」

 

一人のハイラル兵が二人の手を握り、開始の合図をする。

 

あたりに緊張が走る。

アッシュとゴロンの手に、一層力が籠る。

 

酒場にいる誰もが、その光景を黙って眺めていた。

カウンターに座っているギーヴ含めて、誰もが言葉を口にせず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ゴーッ!!!」

 

ハイラル兵の怒号と共に、腕相撲がスタートする。

 

「ゴロォォオオ!!」

 

ゴロンの雄たけびが、酒場中に木霊する。

 

「.......」

 

それでもなお、アッシュは冷静だった。

ゴロンの本気の力を食らってなお、冷静だった。

 

そしてその二人の握り拳は、一切動いていなかった。

 

「ご、ゴロッ!?」

 

流石のゴロンもこれには動揺を隠しきれない。

 

ハイリア人とゴロン族。これだけでも大きな差があるのに、ハイリア人の女性が、ゴロン族の本気の腕力を涼しげな顔で止めて見せたのだ。

動揺するのも無理もない。

 

「......ふっ!」

 

そして、その動揺の隙をつくように、アッシュは拳に力を込め、いとも簡単に、涼しげな顔で。

 

 

 

 

──バタンッ

 

 

 

 

ゴロンの腕をねじ伏せた。

 

 

 

「........」

 

 

「........」

 

 

「........」

 

 

「ご、ゴロォ....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「うぉぉおおおおおお!!!!」」」」

 

 

未だかつてない歓声と雄たけびが、ハイラルの夜空に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 




今話からの第三章は、今までのギーヴとは別人です(性格などは同じ)。もしかしたら子孫かも、、、、?
第三章から文章構成の仕方が大きく変わっています。ご意見などありましたらどんどん書き込んでください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。