ハイラルの流浪人   作:はいから

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第二話 宣戦布告

「なんだか君らの大将荒れてるみたいだけど。なんかあったの?」

 

「お前は相変わらず呑気だな...」

 

ローラはいつものような呆れ顔で俺を見やる。

 

だって戦争とか俺に関係ないし。金や女以外のしがらみは理解できん。あと酒。

 

「ハイラル王国にまんまとしてやられたんだよ」

 

「してやられた?」

 

「ああ。ゲルド族と偽って、他種族を捕らえては処刑してたんだ」

 

あー...。だからガノンドロフ様あんなにご立腹なわけね。納得納得。

 

「戦争の矛先が全部ゲルド族に向いたってわけだ」

 

「そういうことになるな」

 

これからはハイラル統一戦争というより、ゲルド族とその他種族の戦争って感じになるわけだ。

 

「やばいねー」

 

「危機感がないな...」

 

「俺には関係ないしね。あくまでビジネスパートナー、だろ?」

 

「......そうだな」

 

ゲルド族が戦争に負けたら負けたで、俺はどこか適当なところに逃げるだけだ。

それでそこでまた金を稼ぐ。それだけでいい。

 

「ギーヴッ!」

 

「なんでしょう、ガノンドロフ様」

 

「明日、ハイラル平原を北上しろ」

 

「と、いいますと?」

 

「ゲルドの谷からハイラル城前までにいるハイラル兵を一掃するんだ」

 

徹底的な、宣戦布告。

 

さすがは負けず嫌いなゲルドの大将。ハイリア人、ゴロン族、ゾーラ族を相手にしてもその喧嘩を買うのか。

 

まったく、相変わらず理解できないね。

 

「承知しました」

 

まあどうなろうと。どうだっていい。

俺には関係ない。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

ゲルド砂漠は、昼間は灼熱の乾いた風が吹き荒れるが、夜は極寒の風が吹く。

 

その寒さは息を吐けば白く濁るほどで、この地の住みにくさが暗に出ている。

 

「風邪ひくぞ」

 

「.....!ギーヴ」

 

「こんな夜更けになにやってんだ、ナボール」

 

砦のそとで何やら騒がしかったのは、ゲルド族の少女である、ナボールだ。

 

手には木刀を持っており、息を切らせている。

 

「特訓だよ。強く、なるんだ」

 

「なんのために?」

 

「戦うためだ!」

 

「なにと?」

 

「それは.....」

 

「目的のない努力は実を結ばないよ。やらないほうがマシだ」

 

「……ギーヴは、目的があるの?」

 

「決まってる、金と女と酒だ」

 

「最っ低」

 

うるせー。これも立派な目的だ。

 

「どんな最低なことでも、小さなことでもいいんだよ。目的がなきゃやるだけ無駄さ」

 

「........ギーヴはさ」

 

「うん?」

 

ナボールは、ふっと空を見上げる。

 

つられて見上げると、そこには満開の星空があった。

ゲルドにも、こんなにも綺麗な景色があるんだな。

 

「なんでガノンドロフ様のところで戦ってるの?」

 

「さっきも言っただろ?金と女と酒のためさ」

 

「それならハイラルでいいじゃん。ギーヴはハイリア人なのに、なんでゲルドに...」

 

「金の羽振りが良かったからだよ。別に、ガノンドロフの下で働きたいからゲルドに来たわけじゃない」

 

「......!そっか....」

 

冷たい風が、俺とナボールを撫でた。

 

「アタイ、ガノンドロフ様の考えに、賛同できないの」

 

「...........」

 

「....な、なによその顔」

 

「クッ...あっははは!」

 

「なっ!なんで笑うの!」

 

「いや、なにを今更と思って」

 

「だ、だって。ゲルド族は義賊でしょ?裕福な人間から盗んで、貧しい人達に分け与えるのが本当の仕事なんでしょ?」

 

「そうらしいな」

 

「でも今のゲルドはぜんっぜん義賊じゃない。ただの盗賊!」

 

なるほどな。ただのちんちくりんのガキだと思ってたが、そんな信念持ってたのか。

 

どうりで純粋無垢な眼をしているわけだ。

この娘は恐らく、どんな現実を眼にしても、その眼は曇らない。強い子だ。

 

「ガキンチョにイイことを教えてやるよ」

 

「な、なによ」

 

「今のゲルドに納得しているゲルド族はほぼいないぞ」

 

「え...。そうなの?」

 

「ああ。あくまで王がガノンドロフだから従ってるだけだ」

 

「でもそれって、なにもしないまま操り人形になってるだけじゃない」

 

「ナボールがそういう信念を持ってるように、他のゲルド族たちもそれぞれの信念を持ってるんだよ」

 

「信念....?」

 

「ああ、そうさ。俺が金のためにガノンドロフに付いているように、例えばローラは、ゲルド族という事自体を誇りに思っているから、ゲルド族として戦っているんだよ」

 

誰も、ガノンドロフが言うから、ガノンドロフの命令だから、なんて思って動いちゃいない。

 

ゲルド族は芯から強い民族だ。それぞれが強く、気高く、ときにずる賢い。

それぞれがそれぞれの野望を持って動いている。

 

「思うがままにやればいいさ。俺も金が見込めなくなったらゲルドを出ていくように、自分の信念に従って生きるんだ」

 

納得は、全てにおいて優先させたほうがいい。

 

「.......うん。わかった」

 

「なくすなよ」

 

その純粋無垢を。

 

「.....?なにを?」

 

「......そのペンダントさ」

 

「なくすわけ無いでしょ、バカ」

 

金以外のしがらみは、全く理解できない。

 

でもナボールの信念は、ガノンドロフの信念より多少は、理解できるかもな。

 

「早く寝ろよ。俺はもう寝る」

 

明日も早いしな。大役を任されてるんだ。

 

「明日、仕事なんでしょ?」

 

「ああ。大役さ」

 

「がんばってね」

 

「報酬ぶんはな」

 

「なにそれ、ばっかみたい」

 

ひらひらとナボールに手を降って砦に戻る。

明日はハイラル平原北上。ついでに城下町にでも行って、可愛い女の子でも探すかね。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

ハイラル平原。

 

ハイラル城、ゴロンシティ、ゾーラの里、ゲルドの谷。

すべての種族の住処の真ん中に位置する広大な平原である。

 

ハイラル統一戦争は、処刑場によるゲルド族への冤罪により、ハイリア人、ゴロン族、ゾーラ族は一致団結を見せ、談合してゲルド族に打ち勝たんという方向性になっていった。

 

「喧嘩売るのはいいとして、勝算はあるのかね」

 

「さあな。私は私の思うゲルド族を全うするまでだ」

 

「.....ローラちゃん、緊張してる?」

 

「してるわけ無いだろ!逆にお前は緊張感がなさすぎる」

 

って言われましてもね。

俺にとっては勝敗なんてどうでもいい。

 

「そうだな、この仕事を終えたらイイコトしてくれるって言うなら、少しは緊張感も出るかな?」

 

「お前っていうやつは...」

 

どこまでも欲望に正直だな。と嘲笑され、あしらわれる。

 

可愛くないなー。相変わらず。

 

「ローラさん!準備が整いました!」

 

「わかった。では、行くか」

 

前軍に俺やローラ、ツインローバという火力を置き、後軍にガノンドロフが控える。

 

今日の進軍はあくまでも宣戦布告。

みせしめにハイラル平原を一掃して、ハイラル王国に明確な敵意を見せつける....だそうだ。うちの大将曰く。

 

「(なにか策があるのか、よっぽど馬鹿なのか、愚かなのか、アホなのか)」

 

このどれかだろうな。

戦力差は明確。今頃ハイラルじゃ勝ち星を上げてるだろうな。

 

ゲルド側も、ほとんどの人間が負けムードだ。

 

でもその分、活躍して名を馳せれば、報酬も上振れする。

俺にとっちゃ絶好のチャンスだ。

 

「......ん」

 

ふと砦を見ると、いつぞやと同じく、砦の窓からナボールが見ている。

 

笑いかけて手を降ってやると、ナボールも手を振り返してくれる。

まったく、可愛い奴め。

 

 

 

「前軍に継ぐ!これよりハイラル平原進軍を行う!」

 

 

 

ローラの声があたりに響き渡る。

 

そういえばローラって偉い立場の人だったな。忘れてた。

 

 

 

「これはゲルド族としてのハイラル王国への宣戦布告!ミスは許されない、心してかかれ!!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

「前軍、進軍開始!!」

 

 

──ドドドドドッッッ

 

 

けたたましい音とともに、一斉にゲルド族たちがハイラル平原を北上していく。

 

目指すはハイラル城前。その間にいる兵士はすべてなぎ倒す。それだけの簡単なお仕事だ。

 

「行くか、ポール」

 

「ブルルッ」

 

今日も相棒は絶好調。不備はない。

 

 

──バシィッ

 

 

大きくムチを振り上げる。

ポールの鳴き声とともに、猛スピードで平原を加速していく。

 

ゲルドの砂漠とは違う。潤った爽やかな風が、俺の頬を撫でる。

 

ここちがいい、爽やかな風。

まるで戦争の始まりとは思えないような、そんな風。

 

「な、なんだ!?」

「ゲ、ゲルド族だ!」

「進軍してきたぞ!ハイラル国に伝えろ!!」

 

走り出すと、すぐに巡回をしているハイラル兵が見えてくる。

馬でハイラル城に逃げてゆくもの、剣を抜き構えるもの、気圧されるように後退りするもの。様々だ。

 

 

 

『がんばってね』

 

 

 

「ナボールの手前、今日はちょっと頑張らせてもらうよ」

 

ごめんなハイラルの兵士たち。

 

 

 

──バシィッ

 

 

「ヒヒーンッッッ!!!」

 

ムチを打ち、更に加速させる。

 

 

──パカラッパカラッ

 

 

「それ、夏服か?随分関節のところが開けてるじゃないか、ハイラル兵さん」

 

「は....?」

 

 

──ザシュッ

 

 

恐らくただの巡回するだけの兵士なのだろう。

この間やりあったハイラル兵より装備が安っぽい。

 

おかげでカトラスの刃がよく通る。

 

「退避ーッ!!ハイラル城まで戻れーッッ!!」

 

おお、逃げてく逃げてく。まあそれでいいんだけど。

 

あくまで今日は戦争じゃなくて、宣戦布告らしいからな。

 

「(さあ、追い込め追い込め)」

 

このまま北上──

 

 

 

──ビュンッ

 

 

「.....っぶない」

 

どこからともなく飛んできた矢。

 

うまいな、狙いがあからさまじゃない。あえて狙いをずらした狙撃。

 

「(あいつか...)」

 

多くの兵士に紛れて、明らかに一人、格の違う兵士がいる。

金髪碧眼、片手剣とハイリアの盾を持った、ハイリア人の兵士。

 

弓も素晴らしい腕前だったが、近接戦もまあ強いと見て取れる。

 

しかし、俺とどっちが強いかな?

 

「ポール、安全なところへ逃げておけ」

 

これから戦火が激しくなるからね。

 

さて......

 

「君、強いね」

 

「.....それは、そっちも同じだろ。ゲルドの用心棒」

 

「知っていてくれてるなんて、光栄だね」

 

「俺はルーク。ただのハイラル兵だ」

 

「男の名前なんて興味ないさ。知りたいのは、俺より強いかどうかだ」

 

いつだって、金と女と酒と自分のことしか、興味はない。

ただ、こいつが俺より強いのかどうか、今はそれだけを確かめたい。

 

「なに、礼儀のようなものだ。死者を弔うな」

 

「もう勝った気でいるわけね。なるほど」

 

それは、こっちも同じだ.....!

 

 

 

──ガキィンッ

 

 

 

剣と剣がぶつかり合う。

詰めるタイミングはほぼ同時。押し合いも、ほぼ互角。

 

なら速度は?

 

「(着いてこれるか?ハイラル兵)」

 

 

 

──キィンッキンッガンッ

 

 

 

「......!(完璧に対応した、か)」

 

いくら最高速で打ち込んでも剣で捌かれる。

このペースで行ったら俺の体力が先に尽きる。相手の出方を伺って──

 

 

 

──ガンッ!スッ.....

 

 

 

刹那、カトラスを盾で弾かれる。

弾かれた自らの腕、相手のハイリアの盾が死角になった瞬間、ハイリア兵は一気に俺の懐へと剣を滑り込ませた。

 

「(身体能力ゴリラかよ....!)」

 

いい。それなら、こっちはその弾かれた勢いを利用するまで。

 

「.....!」

 

ガキの時リンボーダンスで遊んでてよかったよ。

この斬撃も、仰け反れば難なく避けられる。

 

「ふっ.....!」

 

「.....っ!ぐはっ...!」

 

仰け反ってからのそのまま顎に蹴り入れてバク転。美しすぎて惚れ惚れするね。

俺が女だったら間違いなく──

 

「っっっ......!?」

 

 

──ガキィンッ

 

 

こいつ、正気か?

蹴られてふっ飛ばされながらも、剣で斬撃してきやがった。

 

とっさの判断。間に合ったから良いものの。

気づかなかったら今頃、死んでいた....!

 

「君、ゴリラの生まれ変わりかなんか?」

 

「.....失礼だな。ただの兵士だ」

 

「はっ、ただのね」

 

ただの兵士はそんな身体能力してないよ。

やっぱこいつだけは、他の人間と圧倒的にレベルが違う。

 

「........」

 

「いいね、やる気だ。じゃあ、ラウンド2と行こうか....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!」

 

「....あ?」

 

お互い攻めるかというタイミングで、他の兵士が割って入ってくる。

 

「ハイラル王から全軍退避のご命令が。ハイラル城前にて体制を立て直すそうです」

 

「......そうか」

 

なるほど。

まあ、堅実な判断だ。保守的なハイラル国らしい。

 

「ただ退けるかどうかは、こちらが決められることではない」

 

..........?

 

ああ、俺が退かせてくれないってこと?

 

「いいよ。行きなよ」

 

「....は?いいのか?」

 

「別に、俺は戦争がどうなろうとどうだっていいのさ」

 

「.....そうか」

 

それに、今日はただの宣戦布告らしいしな。

どうせこいつとは、またやり合う。そんな予感がする。

 

「前軍、ハイラル城まで退避せよ!繰り返し継ぐ。前軍、ハイラル城まで退避せよ!」

 

兵士のアナウンスと共に、強い兵士くんは背を向けて退いていく。

にしても、本当に強かったねぇ。........えーっと....なんだっけ....。

 

「(名前忘れた…)」

 

......ま、いっか。

野郎の名前覚えたところで、いいことなんて無いさ。

 

さて、うちの大将はどうするつもりかな?

 

 

 

 

 

 

ハイラル城前。

城下町への門はすでに閉じていて、何十という兵士が門の前に集結していた。

 

数多くいる兵士の中で、明らかに異彩を放つ、あの強い兵士くんも居る。

 

そしてゲルドの首領、ガノンドロフが黒馬に乗って、前へ出る。

 

「聞け!ハイラルの民よ!」

 

ガノンドロフの声が、ハイラル平原中に木霊する。

 

「我々ゲルド族は、この日を持って、正式にハイラル王国へと宣戦布告をする!」

 

ハイラルの兵士たちに、ざわめきが走る。

 

「戦争の開始日時は明日の正午!それまでに、ハイラル平原にすべての首をすげて待て!」

 

あーあー、しっかり準備する期間まで与えちゃって。

今混乱してるうちに叩いたほうがイイんじゃないの?言わないけど。

 

「我々はすべてのハイリア人を根絶やしにするつもりでかかる。心して明日の正午を待てッッ!!!」

 

声高らかに宣言したガノンドロフは、剣を天に掲げる。

それと同時に、ゲルド族の歓声が、空に響き渡った。

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