ハイラルの流浪人   作:はいから

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最終話 後悔も未練も

「もっと脇を閉めるんだ。そして振りかぶりは最小限に抑える」

 

「う、うん!」

 

ハイラル王国へ宣戦布告をしに行ったその日の夜。

砦に帰ってきた後、俺はナボールに稽古をつけていた。

 

「ほう、まさかあのギーヴが稽古とは。明日は槍でも降るか」

 

「ローラか。なに、ただの気まぐれだよ」

 

「ローラさん!」

 

「おおナボール。調子良さそうだな」

 

「わ、私なんてまだまだです!」

 

「ああ、ほんとにな」

 

「ギーヴは黙って」

 

「これはまた、酷いな...」

 

気がつけばもうだいぶ夜も更けて言いた。

これから冷え込む。そろそろ終わりにするか。

 

「ギーヴってば、いきなり稽古つけてやるなんて言い出したんですよ?」

 

「本当に珍しいな。熱でもあるのか?」

 

「さっきも言ったろ?ただの気まぐれさ。ローラも俺の稽古を受けるかい?」

 

「遠慮しておく。キザが移りそうだ。ナボール、気をつけろよ」

 

「もちろんです!」

 

なかなかどうして、俺の扱いひどくないですかね。

 

「夜も更けてきた。ここらで終わりにしよう」

 

「えー!体温まっちゃって寝れないー!」

 

「....やれやれ。これだからガキは」

 

「は、はぁ!?アタイもう大人だから!」

 

「ふっ……。そうだギーヴ、ナボールに詩を聞かせてやればいいじゃないか。いい子守唄になる」

 

「子守唄って、ローラさんまで.....」

 

「詩を?あれは綺麗で大人な淑女たちに聞かせるものであってこんなちんちくりんな──「ききたいききたい!!」おい、話を遮るな」

 

「いいじゃないか、勿体ぶって」

 

「………そうだな。明日の夜、俺の酌に付き合ってくれるならやってやってもいい」

 

「……ふむ」

 

「.......」

 

「.......」

 

 

 

 

 

 

「.....ふっ。わかった、付き合おう」

 

「決まりだ」

 

「ねーえー!はーやーくー!」

 

「うるさいぞちんちくりん。こっちは大人の話をしているんだ」

 

結局この間の仕事は完璧にこなしたのに、酌には付き合ってもらえなかったからな。

今回こそは言質をとった。

 

さて、こうなるとワインだけでなく蒸留酒も捨てがたいな。焼酎なんかもいいかもしれない。

 

いや、どうせローラと嗜むのなら強めのものを.....。

 

「ギーヴ!ぎーぶー!聞いてるー?」

 

「ああ、わかったわかった!わかったからちょっと待ってろ」

 

全く...。子供はうるさくてかなわん。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ....」

 

「わぁ...!」

 

ナボールは、俺の部屋から持ってきた琵琶を見て、眼を輝かせる。

そんなに珍しいものでは無いだろうに。

 

......いや、そうだったな。

この枯れた大地じゃ力こそがすべての世界だ。ゲルド族の中じゃ音楽といった芸術などの類は稀か。

 

美的感覚がない民族は困るねほんとに。

 

「(思いっきり感動させてやるよ)」

 

弦に指をかける。

一度軽く息を吸い、大きく吐く。

 

そしてもう一度

 

「すぅ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───、───、───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「すぅ......すぅ.....」

 

「ナボール、すっかり寝てしまったな」

 

俺の隣で寝息を立てるナボールを眺める。

その寝顔は、やはりまだ幼さが残る、丸い優しい顔つきをしている。

 

「俺の詩を聞けば当たり前さ」

 

「まあ。素晴らしい演奏だったのは認めるよ」

 

「...........」

 

「......なんだ?そのへんな顔」

 

「.....いや、珍しく褒められたからさ」

 

「そうだったっけか」

 

「そうさ。やはり美人さんに褒められると嬉しいものだね」

 

「私はお前に褒められても嬉しくないがな」

 

相変わらず、可愛くない。

 

ここの民族は皆、可愛くない。

 

女しかいない特殊な民族。それ故に一人ひとりがたくましく、気高く、強く育つ。

それ故に可愛くない。しかし、やはり美しい。

 

「だんだん冷えてきたから、ナボールを部屋まで運ぶよ。ローラもこれ以上冷やすなよ」

 

「お前もな。風邪でも引いて明日に支障をきたすなよ?」

 

「心配は無用さ。俺が足を引っ張ることはありえない」

 

「........そうか」

 

「ああ。そうとも」

 

すーすーと寝息をたてるナボールをおぶる。

軽いな。やはりまだまだ全然子供じゃないか。

 

「.......ギーヴ」

 

「なんだい?」

 

「明日の戦争を終えたら、お前はどうするんだ?」

 

ローラは、しっかりと俺の眼を見据える。

ローラのその真っ直ぐな瞳の先には、敗北という現実がくっきりと浮かび上がっているのがわかる。

 

ゲルド族であることを誇り高く思っている彼女でも、この状況でハイラル王国に勝てると思うほど奢ってはいないようだ。

 

ゲルドが負けて、ハイラル王国に屈服し、その先。

 

俺は、どうするのか。

 

「......変わらないさ。金の流るるままに」

 

「そうか......」

 

「でも」

 

取り敢えず明日は

 

「取り敢えず明日は。酌をしてもらわないとな」

 

俺は流浪人。金とともに流浪する流浪人。

 

でも目の前の甘い蜜には、取り敢えずあやかる流浪人。

いつだって、納得が全てだ。

 

「.....ふふ。そうだったな」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「「全軍、進めーッッ!!!」」

 

翌日、正午。

 

同タイミングで、ハイラルとゲルド、両者の指揮官が進軍の合図を送る。

 

 

──ウオォォォオオッッ!!!

 

 

ハイラル平原のそこかしこでなる歓声、雄叫び。

長きにわたる睨み合いの硬直状態から、ついに今、戦争の火蓋が切って落とされた。

 

「(しっかし、用意周到だな)」

 

ゲルド族の数少ない戦力をかき集めた百数十人の勢力に対して、ハイラルはハイリア人とゴロン族とゾーラ族の垣根を超えた、数百もの軍勢。

 

たかが知れているゲルドの軍力に、全くもって容赦がない。

 

念には念をってやつか。

 

「(こんなこと、わかりきっていた)」

 

私情で動いたガノンドロフに合わせた結果の、破滅。

 

しかし、ローラ含めて。ここにいるゲルドの民たちは誰ひとりとして迷いはなかった。

 

それはゲルド族の特性とでも言うのか、ゲルド族としての名誉と、誇りと、気高さと、強さで。彼女たちは最後までゲルド族であろうと戦火に突っ込んでいった。

 

ただ一人の、ゲルド族を除いてね。

 

「なに今更顔歪めてんだよガノンドロフ様。わかりきっていたことでしょう?これがあなたの導いた結末ですよ」

 

「小僧....!」

 

「今回の戦いの報酬は、もしあんたがハイラル国に打ち首にされたとしても、あんたの遺産から容赦なくむしり取りますから。そーいうことで。行くぞ、ポール」

 

「ヒヒーンッッッ!!!」

 

 

──バシィッ

 

 

大きくムチを振りかぶる。

ポールは悲鳴とともに、大きく加速した。

 

”ゲルドの用心棒”として、恐らく最後であろう仕事に向かって、突っ込んでいった。

 

「ギーヴ!」

 

「どうしたローラ」

 

絶賛兵士なぎ倒し中のローラが、こちらに向かって叫ぶ。

 

「死ぬなよ!」

 

「光栄だね!でもその言葉、まるまるそっくり返しますよ、レディ」

 

「キザ野郎め。やっぱりそのまま突っ込んで死んだほうが後味が良いかもしれん」

 

相変わらず罵倒がキレキレなようで。

 

ただ綺麗なレディにそう言われちゃ、死ぬわけにはいかなくなった。

無論、もともと死ぬつもりはないが。

 

「ポール、あそこだ」

 

ハイラル統一戦争の終幕だ。そうそうない大戦争。

どうせやるならド派手に、かつ楽しんでいきたい。

 

ポールに乗りながらそこらのハイラル兵をなぎ倒しながら進む。その先は.....

 

「(強い兵士くん....!)」

 

昨日戦った、強い兵士くん。

 

雑魚を倒し続けても面白くない。

 

どうせ勝算のない戦争だ。楽しんだほうが勝ちってことで。

 

 

弓に四本の矢を通し、兵士くんに向かって構える。

 

 

──グググ.....ッ

 

 

思いっきり力を込めて矢を引っ張る。

 

狙うは──

 

 

──パシュッ

 

 

 

「........!」

 

「ヒヒーンッッ!!!」

 

「(命中...!)」

 

馬の脚.....!四本全て!

 

「....っ!ゲルドの用心棒!」

 

「昨日ぶりだね。強い兵士くん」

 

「ルークだ」

 

ああ、そうそう。そんな名前だった。

でも、名前なんてどうでもいい。今あるのは、存分に金を生む過程を楽しむ、戦いの愉悦...!

 

「昨日の続き。正真正銘の、ラウンド2だ...!」

 

「......!」

 

ぐっと、兵士くんが片手剣を握り込む。

 

俺もポールから降り、腰からカトラスを抜き、盾を握る。

 

無駄な小細工はいらない。兵士くんがもっとも強いと思われる、近接戦闘で、叩きのめす....!

 

 

 

 

 

「はっ.....!」

 

「ふっ.....!」

 

 

 

 

──ガキィンッ

 

 

刃と刃がぶつかり合う音。

カトラスと片手剣が、ぎりぎりと競り合う。

 

やはり力は互角。俊敏性からなにに置いても、実力は同レベル。

 

しかし戦闘に生まれるこの差異は、戦闘スタイルの違い...!

 

「(兵士くんはすべてを剣技に集中したタイプ。そして俺は....!).....はぁッ!」

 

「.....!ぐっ...!」

 

剣技と格闘を織り交ぜ、相手の攻撃をいなすタイプ。

 

どちらもメリット・デメリットそれぞれあるが、その利点をより活かせるかどうかは、これから決まる....!

 

「でやぁぁぁッッ!!!」

 

防御を捨てた回転斬り....!?

 

リスクが高い分、威力も範囲もレベルが違う。

 

「(雑魚になら通用したな)」

 

頭上がら空き。俺の身体能力を舐めてもらっちゃ困る。

 

人一人分飛び越えることなんて、造作もない。

 

「はぁ.....っ!」

 

取った...!

 

 

 

 

 

「いぃぃやッッ!!!」

 

「......っ!?」

 

ジャンプに合わせて上への突き!読まれたか...!

あえて飛ばせて、空中の避けられないタイミングを狙った必中技。

 

戦闘中にそこまで計算できるわけがない。

 

この立ち回りを地頭で、体で、本能でやって見せたんだ…!

 

「(ゴリラが...!)」

 

ただで終わるかよ...!

 

 

──ガキィンッ

 

 

「......!」

 

兵士くんの片手剣を払って、上から切り落とす.....!

 

兵士くんは...

 

「(剣を立て直してから切りつけか...)」

 

どちらが、はやいか.......!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ザシュッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ.....!」

「ぐはっ.....!」

 

ほぼ、同時。

 

「がっ...。けほっ...!」

 

「う.....ぐ.....」

 

同じ程度の、痛手。

 

相打ちか....。だが逆を返せば、次決めたほうが、勝つ....!

次こそは....。次こそは.....。次こそは.....!俺の方がはやく.....!!

 

「はぁぁあああ!!!」

 

「でやぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーク隊長!」

 

 

 

 

 

 

 

「......!」

 

いつぞやと同じ、光景。

 

「血が....!血が止まりません....!」

 

「........」

 

兵士くんの後ろでは、必死に重症のハイラル兵の止血をする、若い兵士。

 

「味方のピンチに攻撃の手が止まってて、隊長が務まる?」

 

「それはお前もだろう。なぜ斬らなかった」

 

「こんなんで決着着いても、勝った気しないからね」

 

「.......やれ。私は一度死んだ」

 

「嫌だね」

 

「.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーク.....隊長....」

 

 

 

 

 

 

「.......!リドル....!」

 

後ろの止血を受けていた重症の兵士が、口を開く。

 

「生きて....ください.....」

 

「......いや」

 

「私の....分まで...。あなたには.....生まれたばかりの赤ちゃんが....いる...」

 

「もう喋るな....。喋らなくていい」

 

「赤ちゃんが....”リンク”が...寂しい思いをしないよう....生きてください...!」

 

「っ....。リドル.......リドル.....?」

 

「隊長......っ」

 

「.........」

 

「もう、死んでます....!」

 

「...........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲルドの用心棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......!」

 

気配が、変わった?

 

「わけが変わった。俺は、生きなくてはいけなくなった」

 

「.....あっそう。ならよかったよ」

 

「だから、代わりにお前が死んでくれ」

 

「嫌だね。俺は真っ向から君をへし折るよ」

 

 

 

 

 

 

爽やかな風が、ハイラル平原を流れる。

 

 

 

 

 

 

「でやぁぁぁあッッッ!!!」

 

「.......ッッッ!?」

 

 

 

──ガキィィンッッッッ!!!

 

 

 

なんだ、この力。

明らかに今、力負けした。今までは互角だったはずなのに、圧倒的に、押し負けた....!?

 

「(やばっ...!くる.....!)」

 

「いぃぃぃやッッッ!!!」

 

「がっ.....!っはぁ....!」

 

やっぱ...だめだ......!

もう圧倒的に力も、速度も、思考力も、負けている。

 

俺が疲れてパフォーマンスが落ちているわけじゃない。

 

この兵士くん、今の数秒で、明らかに何かが変わった....!

 

「くそっ....!」

 

 

──どんッ

 

 

「がはっ.....!」

 

ただの蹴り。なのに.....!

 

「かひゅっ、かひゅー....!」

 

死ぬかと思った....!

 

「........」

 

なのに──

 

「くくっ......」

 

「........?」

 

なのに──

 

「あははははっ!」

 

未だ収まらない、戦いの愉悦。

 

特別、戦いが好きなわけじゃない。

 

でも、相手が強敵であればあるほど、そいつを倒せば自分自身の強さが証明され、保証される。

 

なによりも自分。大好きなのは自分。優先すべきは自分。

 

こいつを真っ向から倒して、ねじ伏せて、俺の強さを証明する....!

 

何だって俺は.......

 

 

『死ぬなよ!』

 

 

死なないからね!

 

「....っはぁぁぁぁああッッッ!!!!」

 

「....でやぁぁぁぁああッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ザシュゥゥッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきりと聞こえた、肉が引き裂ける音。

”一つだけの”、肉が引き裂ける音。

 

 

 

 

 

「.......あ.....がっ...」

 

 

 

 

 

──ドサッ

 

 

 

 

「俺の勝ちだよ。俺よりは弱い兵士くん....」

 

目の前で、兵士くんは崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───、───、───』

 

 

どこからか、詩が聞こえてくる。

 

懐かしい、あの詩が。

 

 

『───、───、───......ギーヴ?』

 

 

『そんなところに隠れてないで。こっちにきなさい。一緒に詩いましょう?』

 

 

いつの、記憶だったか。遠い昔の、記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....っ。はぁ......っ」

 

勝った、兵士くんに………勝った。

 

でも、もう──

 

「よくも....よくも隊長を.....!」

 

動く元気もない。

 

これは、欲に従い続けた天罰か。でも、やっぱり。

 

この世に一点の曇りもない。

 

やりたいことは、すべてやった。

好きなことを、好きなだけやれた。

 

後悔も未練も、ない。

 

「なぼー......る......」

 

ナボールも、後悔だけは、残さず来いよ。

 

「うわああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ザシュッ

 

 

 

 




第一章、完。
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