第一話 タルミナ
『───、───、───』
どこかから、詩が聞こえてくる。
『───、───、───』
どこか懐かしい。そんな詩が。
『───、───、───......
『ロックビルの遺産』
「ん、んん....」
ここは、どこだ....?
確か俺はハイラル兵にやられて....それで.....。
どうなったんだ?
「.....ん(生きてる?)」
体は、ある。
見たところ怪我もしてない。
現実か?
「...っいった」
現実だ。
つねったらしっかりヒリヒリする。
「.......」
今一度あたりを見回す。
平凡な、ハイラルによく見られる部屋。
机に椅子。本棚にソファ。
俺はベッドにいて、ご丁寧に布団までかけられている。
「(どこだ、ここ)」
「あれ、起きました?」
あたりを見回していると、扉から一人の女性が部屋に入ってくる。
「えっと....。取り敢えず名前聞いていいかい?」
「私はクリミア。狭い部屋でごめんなさい。森で倒れていたから急いで──「クリミアか。うん、素敵な名前だね」....あ、ありがとう」
「俺はギーヴだ。今度一緒にご飯でもどうだい?いい店を知ってるんだ」
「そ、そう...。元気そうでよかったわ」
クリミアは困ったように微笑する。
「ちょっと。あんたなにお姉さま口説いてるのよ」
「......なんだ、この子供?」
「子供じゃない、ロマニーよ」
どこかナボールを感じるこの少女は、ロマニーと名乗った。
しかしどうしてだろう。俺の出会うガキというのは、どうも皆生意気だ。
「こんなにも美しい女性を前に、口説かないほうが無礼というもの。子供にはわからないだろうけどな」
「う、美しい...」
「だから子供じゃなくてロマニー。あとお姉さまも顔赤らめない!」
「それで。ここはどこか聞いていいかい?」
「なんであんたちょっと偉そうなのよ...」
「こらロマニー。ここはタルミナよ。タルミナのロマニー牧場」
タルミナ....。
聞いたことのない国だな。
まったく、ハイラル平原からどれだけの距離流されたというのか。
「森で倒れてたのを私が見つけてあげたのよ。感謝してよね」
「ロマニー。失礼でしょ」
「いや、実際感謝しているからいい。」
「ふふん。そうでしょう」
そのまま森にいたら魔物にでも食われていたかもしれないしな。
せっかく統一戦争の戦火から逃れたんだ。そんなチンケなことで死にたくはない。
「あ、そうだ。荷物は一通りここにありますよ。馬も無事。外に放してるわ」
「ポールも無事か」
ならよかった。
ベッドの脇を見ると、カトラスと盾。弓と琵琶も置いてある。
一通り持ち物も揃っている。琵琶はゲルドの砦に置いてきたはずなんだが.....。
「(ま、いいか)」
小さなことを考えていては仕方ない。
今は命あることを喜ぼう。
また金とともに流浪できることに、今はただ感謝を。
「悪いな、泊まらせてもらって。今日にでも出ていく」
「行く宛はあるの?見たところ旅人よね?」
「.......いや、ないが。ポールがいればなんとでもなるさ」
「だめよ、お馬さんって結構神経質なんだから。旅立つのはゆっくりでいいわ」
しかし、ただで泊まらせてもらうというのも、俺のポリシーに反する。
「.....そうだな、わかった。色々とまとまるまでは泊まらせてもらおう。その代わり...」
「その代わり?」
「その分の対価を払わせてくれ」
「対価って、あなたお金持ってんの?」
「これから稼ぐのさ」
「い、いいよそんなの。見ての通りうちは暇だから、いつでも使ってくれていいのよ?」
「ああクリミア。君の優しさは痛いほど伝わるが、どうしてもそれじゃあ男としての申し訳が立たないのさ」
「......キモ」
「なんか言ったか?ガキンチョ」
「ガキンチョじゃなくてロマニーよ。いいじゃないお姉さま。家賃代わりに牧場の手伝いでもさせれば」
「でも.....」
「俺はなんでも構わないよ。いずれは手伝いじゃなくてちゃんと金を収めるさ。なにせ」
金策は得意分野だからね。
〜〜〜
タルミナ。
クロックタウンという街を中心にして広がる、大きな国。らしい。
ここはロマニー牧場という、クロックタウンの外れにある牧場で。
既に他界している両親の残した遺産であるこの牧場を、二人で切り盛りしているという。
なんというたくましさ。健気さ。
「俺が一生かけて支えよう、クリミア」
「はーい。つべこべ言わずに運びなさいギーヴ」
「ロマニー、今大切な話をしているんだ。子供は引っ込んでなさい」
「もう、喧嘩しないの。ギーヴ、こっち運べる?」
「もちろん。任せてよレディ」
「一言一言鼻につくわね...」
麗しや愛しのクリミアのためなら。いくらだって運んでみせよう。
任された分のミルク瓶を、荷台に積み込む。
「しかしこれ程の量、どうやって運ぶんだ?」
「運搬用に馬を二頭飼っているの」
「なるほどね」
「お姉さま!今日はついていってもいい?」
「だめよ。ロマニーはお留守番。ギーヴ、ロマニーを頼める?」
「もちろん」
「ぶー....」
ロマニーは不満げに頬をふくらませる。
最後の牛乳を運び終わると、クリミアは馬車を出すべく、馬宿へと向かっていった。
「お姉さま、配達する時いっつも連れて行ってくれないんだ」
「子供がいたら仕事の邪魔になるだろうしな」
「子供じゃなくてロマニー。もう、邪魔なんてしないのにさー」
「逆に、なんでそんなに街に行きたいんだ?」
「だって街にはいろんな物があるのよ?雑貨屋に、ゲームに、射的なんかも!」
「クリミアは配達しに行く訳であって、遊びに行ってるわけじゃないぞ」
「ぐっ...。わかってるわよ」
「ロマニー、ギーヴ!」
馬宿から馬車に乗ったクリミアが出てくる。
「配達行ってくるから、お留守番お願いねー!」
「はーい、お姉さま」
「まかせてくれ」
俺とロマニーの返事を皮切りに、クリミアは馬車を走らせ、牧場の外へ駆けていった。
「あーあ。行っちゃった」
ロマニーは残念そうにつぶやき、髪をいじりだす。
さて。俺はこの地での金策方法でも考えるか。
まだわからないことが多い。物価や需要なども調べなくてはならない。
「ギーヴは何するの?」
「金策の準備」
「金策って...。そんな簡単にできるの?」
「基本的には鉱石や魔物の素材を売るだけさ。今やるのは、どんな魔物が希少価値が高いのか。どんな鉱石や宝石が高く付くのか調べるってとこだな」
「魔物......。そうだギーヴ」
「んー?」
「あなた弓使うわよね」
「まーな。それがどうした?」
「あなたの弓の腕前確かめさせてもらうわ!」
「やだ」
「な、なんでよ!」
「確かめるって。どうやって?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたわね!」
待ってましたと言わんばかりに、ロマニーはごそごそと何やらと取り出す。
取り出したのは風船だった。
5つの赤い風船。
「これを牧場中に浮かべるから、制限時間内にどれだけ割れるかってチャレンジよ!」
「ほーう」
舐められたものだね。
どれだけ早く割れるかじゃなくて、どれだけ割れるか、とは。
「受けて立とうじゃないか。ただ」
「.......?」
「この場から動かずに、数秒で全部割ってやるよ」
「はあ?そんなことできるわけないじゃない」
「ガキンチョ。お前は俺を舐めすぎさ」
「......いいわ。やってみなさい。できるものならね!」
「浮かべたわよ。今更撤回しても遅いんだからね?」
「男に二言はないさ。そうだな、五秒といこうか」
いや、なんならもっと少なくていいかもしれん。
「ご、五秒?ほんとにいいの?」
「もちろん」
だだっ広い牧場。大きな風船。動かない的。
これだけの好条件、外すことはまずない。
何年も流浪しては戦ってきたんだ。そう舐めてもらっちゃ困る。
「それじゃあ、行くわよ?よーい.....
スタートっ!」
素早く弓を取り出し、弓に五本一気に矢を通す。
「......!」
標準は風船、5つ全て。
──グググ.....!
目一杯力を込めて弓を引く。
やはり、ハンデがすぎるな。
──パシュッ!
俺が手を離すと、五本の矢が勢いよく弓から射出される。
そしてその5つの矢はすべて....
──パンッ
5つの風船に命中した。
「余裕」
「........」
「驚いて声もでないか?ガキンチョ」
ざっと数えて2秒。どーせならクリミアにも見せてやりたかったな。
「ぎ、ギーヴって、こんなに凄いの!?」
「今更かよ。もっと人を見る目をつけたほうがいいね」
「人間性以外は完璧ね!」
「こいつ....!」
やはり子供っていうのは、どうも生意気で苦手だ。
「それにしても凄いのね。そーだギーヴ、私のおばけ退治に付き合ってよ!」
「........」
まーたなんか変なこと言い出したぞこのガキ。
「その眼は信じてない眼ね...。本当にいるのよ、おばけが!」
「そーいうのは同年代の子供と話したほうがいいよ?俺何歳だと思ってる?」
「むー...。ほんとにいるの!カーニバルの時期になったら突然現れるんだから」
「カーニバル?」
「そう。クロックタウンで開かれるときのカーニバル!その時期になると夜に突然現れて、牛を攫っていくの!」
「ふーん....。んでそのカーニバルってのはいつなんだ?」
「あと二週間後だから、そろそろ現れてもいい時期なんだけど...。お姉さまは信じてくれないし。だから私一人で退治しようとしていたの」
「やめとけやめとけ。そのおばけがその辺の魔物とかだったらどうするんだよ」
「う〜....。じゃあギーヴ手伝ってよー」
「おままごとは一人でやっててくれ。危険なこともするなよー」
「子供扱いしてー!ギーヴったらお姉さまとおんなじ!」
「それは光栄だね」
なんやかんや言ってるロマニーを後にし、部屋へ戻る。
にしてもときのカーニバルねぇ。商売のしがいがありそうだな。
あと二週間後って言ってたか....。それまでになにかしら採集して金策。
.....うん。ありかもしれない。
しかし、肝心の売り物がない。
ハイラルであったらルビーやサファイアなどの宝石。魔物の素材なんかは高く着いた。
しかしタルミナじゃなにが売れるかもわからない。
クリミアから借りたタルミナの地図を開く。
物価なんかは後でクロックタウンに行って確認するとして、どこで素材を集めるかな....。
ウッドフォール、スノーヘッド、グレートベイ.......。
それからイカーナ、か。
やはりどこも行ってみないことにはわからないね。
〜〜〜
「ただいまー」
「おかえりなさいお姉さま!」
数時間後。配達を終えたクリミアが帰ってきた。
しかしその表情は、配達前に比べて明らかに曇っている。
ロマニーは気づいていないようだが。
「何かあった?」
「え....」
「隠そうと思っても隠しきれてない。女性の表情の変化はすぐわかる」
「.....えへへ。やっぱりだめだな、私」
「そう卑下するものじゃない。人間、常に自分に自信を持って生きていくべきだと俺は思うね」
自分のことを否定するのは周りがすればいい。
自分だけは、自分を肯定してやらないと。いずれ腐ってしまう。
「その、ね?」
クリミアはロマニーに聞こえないように声を潜める。
「配達してる途中でいたずらにあって。最近良くあるんだ」
「ほう.....」
いたずら、か。
もし、万が一。億が一。ロマニーの言う『おばけ』と関係があるのなら。
なんとなく辻褄はあう。
「よし、次の配達はいつだ?」
「えっと、今日いたずらでいくつかミルク瓶割られちゃったから、明日また行くつもりだけど....」
「ついていこう。いつまでも対症療法しているわけにもいかないだろう。原因を退治するとしようじゃないか」
「......!いいの?そんなことまでしてもらっちゃって」
「家賃代わりさ」
それでロマニーの言うおばけもいなくなれば、一石二鳥だしな。
「ちょっとー、二人共なに内緒話してるのー!」
「なっ、なんでもないよ!ほら、ご飯にしましょう?」
「むー...。ギーヴ、なに話してたの?」
「なに、大人の話さ」
「大人の?」
「ああ。男と女の──「ちょっとギーヴ!?妹になに教えようとしてるのかな!?」
ロマニーの言うおばけに、ミルク瓶への嫌がらせ。
もし同一犯なら魔物がやったようには思えない。
魔物がやるにしては、明らかに知能が高すぎる。
恐らくそれは、「人間」による犯行。
麗しのクリミアに嫌がらせとは。いい度胸してるじゃないか。
第二章『ロックビルの遺産』始まり。
第一章の統一戦争の番外編的なのもいつか出すかも。