真夜中のロマニー牧場。
空は快晴で、これでもかと言うほど星々の輝く美しい空。
そこに星とはまた違う、明るく光る一つの球体が浮かんでいた。
その球体は、やがて地上近くまで降り立ち、無数の影を生み出した。
大きな目、細い腕。
どんな魔物ともまた違う。異形の者。
「モォー」
牛舎の牛たちが喘ぎ鳴く。
その異形たちは、今にも牛たちを連れ去らんと、牛舎へと近づいていた。
この時を、待っていた。
「(この時を....)」
まさか今日来るとは思わなかったが、早ければ早いほどいい。
ロマニーが言っていたおばけってのも、クリミアの言う嫌がらせをしてきた犯人ってのも。恐らくコイツらだろう。
しかしおばけってか、これは.....。
「宇宙人か?」
こんなのが本当にいるとはね。
人生なにがあるかわからないもんだ。
「きゃあっ!」
すると、牛舎から声が聞こえてくる。
この声、ロマニーだ。あいつ、牛舎でなにやってんだ?
急いで牛舎に向かって駆ける。
しかしまるで邪魔をするかのように宇宙人たちが立ちはだかる。
「それで邪魔のつもり?」
そんな細い腕で、よく頑張るねぇ。
──ザシュッ
首元にカトラスを滑り込ませる。
正体不明すぎて少し怖かったが、戦闘能力は大した事なさそうだ。
「ロマニー!」
宿舎の扉を開ける。するとそこには....。
「ギーヴ!?」
今にも連れ去られそうなロマニーがいた。
「おおすご、どうやって浮いてんのそれ?」
「早く助けて!?」
「はいはい」
わがままなお嬢様なこと。
「ロマニー、手」
「手...?」
「引っ込めとけ。切るぞ」
「......?
──ビュンッッッ
.....っ!」
ロマニーを囲う複数の宇宙人を、一振りで一掃する。
強い兵士くんがしていた回転斬りを、見様見真似でやってみたのだ。
「(意外と使えるね、これ)」
雑魚限定だけど。
「一旦逃げるぞ」
「で、でも牛が....」
「大丈夫」
「え...?」
「俺が居るんだ。一頭も連れて行かせやしないさ」
「.......!」
さて。随分数が多いようだが。
残念ながら戦闘に置いて重要なのは数じゃない。
じゃあ力か?それも違う。
戦闘において最も重要なこと。
それは......。
──ザンッッ!!
相手に考える隙を与えない、手際の良さ!
「やっちゃえギーヴ!」
うちのお嬢様は都合がよろしいようで。
「はやめに終わらせるぞ。さっさと寝たいんだ」
宇宙人たちは、じりじりと後ずさりをした。
〜〜〜
「ほ、本当に全員倒したのね...」
「当たり前さ。あの程度」
またしても俺の活躍をクリミアに見てもらえなかったのは残念だが、仕方ない。
これで嫌がらせが止むのなら、それで良しとしよう。
「本当に人間性以外は完璧ね。あなた」
「うるさいな。俺はいつだって女性思いのナイスガイだよ?」
「そう?女性大好き変態男の間違いじゃない?」
「こいつ....!」
しかし格好つけてはいるが、実際敵は大したことなかった。
動きは遅いは攻撃はしてこないわで。
恐らく牛を攫うのだけが目的だったのだろう。
「ま、いいか。早く寝るぞ。子供はとっくに寝る時間だ」
「.........ねえギーヴ」
「うん?」
「ずっと家にいない?それで来年もまたおばけ追い払ってよ」
「.......」
「きっとお姉さまも喜ぶわ。そうよ、そうしましょ!」
「おいおいおいおい。なに勝手に決めてんだよ。俺は旅人だぞ?金とともに流れる流浪人さ」
「格好つけちゃってさ。いいじゃない、ずっと旅してるわけにはいかないんだから」
「それでもさ。俺は金のあるところに流れる。金とともに流れる」
居を構えるなんて。俺らしくもない。
「えー。でも.....「ほら、寝るぞ」....むぅ」
「子供が夜ふかしなんてするもんじゃない」
「体温まって寝れないー」
「.....これだからガキは」
「ガキじゃなくてロマニー!」
ナボールのときもこんなことあった気がする。
子供ってのはみんなそうなのかね。
「......はあ。仕方ない」
「......?」
「ほんとは可憐な淑女に聞かせるもの何だけどなあ」
部屋から琵琶を取り出し、ロマニーの前に座り直す。
「楽器?弾けるの?」
「本当は大人しか聞けないんだが、今日は特別だ」
「大人....!」
「よく聞いとけよ。これが大人の詩だ」
そう言うと、電灯の光る机の上に手をかけて、ロマニーは必死にこちらに耳を傾ける。
「ふぅ....」
小さく息を吐き、また吸い込む。
「すぅ.....」
いつからか、自然と弾け、詩えた詩。
弦にかける指も、喉を震わす詩も、気づいたときには自然と出来ていた。
そしてもう一度、大きく一度息を吸い....
『───、───、───』
「すぅ.....すぅ....」
「寝た.....か」
机に突っ伏して眠るロマニーの顔を覗き込む。
小さく寝息を立てながらぐっすり眠っている。
その純粋無垢な寝顔は、ナボールと同じ。この世の穢をなにも知らない表情を浮かべている。
ロマニーはナボールよりも幾分ませているように感じたが、やはりまだまだ子供。重要な文化財だ。
「上手いのね」
「.....ん、クリミアか。起こしてしまったか?」
ふと気づいたときにはクリミアが部屋から覗いていた。
「いいのよ。ごめんね?ロマニーの相手させちゃって」
「いいさ。訳あって子供の相手は慣れてる」
「そっかあ。..........ねえ」
「うん?ココアでもいれるかい?」
「ちがうわ。なんだかわからないけど、助けてくれたんでしょう?」
「.....まあね。君にも見せたかったよ。俺の華麗な活躍」
「ふふっ、見たかったな」
「だから、もう、きっと大丈夫さ。嫌がらせもなくなった....はず」
「それじゃあ明日はご一緒してもらえない感じかな?」
明日というのは、今日の昼間に言っていた明日の配達に着いていく約束のことだ。
「望んでくれるなら喜んで着いていきますよ、お嬢様」
「ふふっ。じゃあお願いしようかしら」
「仰せのままに」
クリミアは、楽しそうにカラカラと笑う。
ロマニーが起きないように、声を抑えながら、カラカラと笑う。
「あのね」
ふと、クリミアの目が遠くなった気がする。
「今度、友達が結婚するんだ。カーニバルの日に」
「ほう。それはめでたいな」
「うん。めでたい...」
..........。
「.....カーニバル、一緒に行かないかい?」
「.....え?」
「デートのお誘いだよ。断ってくれてもいい」
「.......どうしようかしら」
クリミアは、困ったようにはにかむ。
「返事は後でもいい。今日は遅いからもう寝よう」
「そうね.....。もう、遅いもの」
寝ているロマニーを運ぶべく、背中におぶる。
クリミアは相変わらず困ったようにはにかんでいる。
まったく、どこの誰にたぶらかされているのかは知らないが。
そいつは、俺よりもいい男なんだろうな?
「クリミアも、体を冷やすと良くない」
「.....うん。ありがとう。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
少し暗い趣のまま、クリミアは自分の部屋に戻っていった。
『きっとお姉さまも喜ぶわ』
それは......。果たしてどうだろうね。
〜〜〜
翌朝。
「.......ん」
鶏の声が鳴り響くロマニー牧場では、目覚ましいらずで朝目覚めることができる。
しかし、なんだろうか。
「ふむ....」
いつもの朝なのにも関わらず、言いようのない、違和感。
心に靄がかかったような、重要な何かが違うような、そんな違和感。
しかし重要であるのにも関わらず、気づくことができないこの違和感。
「(.......ま、いいか)」
細かいことを気にしても仕方ない。
なにせ今日はクリミアの配達に付き添うんだ。
「〜〜〜♪」
「なんだかご機嫌ね、ギーヴ」
「ロマニーか。まーね」
「いいことでもあるの?」
「ああ。それはもう」
「なにがあるの?」
「ふっふっふ...。聞いて驚くなよ?」
「ごくっ.....!」
「クリミアの配達を手伝うのさ!」
「.......なーんだ。そんなことか」
「そんなこととはなんだ、そんなこととは」
最近美人不足で枯れかけていた俺にとっては、重要な補給イベントなんだぞ。
「いや、脳内お花畑でいいなーって」
「このガキ.....!」
どこで覚えやがったそんな言葉....。
ロマニーは年の離れた姉が居るせいか、ナボールより幾分ませているような気がする。
「じゃあ今日は一人で留守番かー」
退屈、とロマニーは呟く。
そうだな、ここは一つ.....
「土産でも買ってきてやろうか?」
「本当に!?」
「欲しい物があるのならな」
「じゃ、じゃあ...キータンのブローチ!」
「キータン?」
「知らないの?今流行ってるんだよ?」
子供のうちの流行ってやつか。
ハイラルでも俺が子供のときはデクの実なんかが流行ったな。大体の子供はデクの実を持って忍者ごっこをして遊んでいた。
「んで、キータンってのはどんなのだ?」
「えっとねー、黄色くて、狐で──
「それじゃあ行ってくるね、ロマニー」
「うん。行ってらっしゃいお姉さま」
「悪さするなよー」
「しないわよ。お土産、忘れないでよね!」
「ああ。もちろんさ」
時間というのは早いもので、ロマニーからキータンの詳細を聞きながら朝食を取っていたら、もう配達の時間になっていた。
「それじゃあ、出発するわよ」
「ああ」
クリミアの合図と同時に、荷台を引っ張る二頭の馬が走り出す。
荷台の中のミルク瓶が、ゴトゴトと音を立てる。
このミルクはロマニー牧場の名物のシャトーロマーニといって、飲むと体から魔力が湧き出てくる不思議なミルクらしい。
「お父様が亡くなってからかしら。なんだか最近ブッソウになったから、心細かったのよ」
「それは大変だ。配達なら毎日でもついていくよ?」
「ふふふっ。嬉しいけどたまにでいいわ。ずっとロマニーを一人でお留守番させておく訳にもいかないもの」
「確かに。なにしでかすかわかったもんじゃない」
「あははっ。そんなに?あの子結構しっかりしてるよ?」
「だからだよ。最近の子供は変にませてる」
「あー...。確かに。同世代の子と遊ぶ機会も少なかったからかなあ」
──ゴトゴト....
「ロマニーにも、随分苦労かけちゃったんだよね...」
「それはクリミアもだろ?」
「え...?」
クリミアも、まだ牧場主としてこんなにも苦労する年齢ではないはずだ。
「君たちはよくやってるさ」
「そう、かな」
「ああ、そうとも。俺が一生かけて幸せにしてやりたいぐらいね」
「あ、あはは.....」
クリミアは困ったように微笑した。
──ゴトゴト....
........ふぅ。さて、そろそろかな。
待ちくたびれてる頃だろうし。相手してやるか。
「クリミア、もうちょっとスピードあげられるかい?」
「え?」
「ようやく君にも、俺の活躍を見せられるときが来たみたいだよ」
ちょっと前からあからさまに着いてきている怪しい追手の影。
俺の予想は外れ、ロマニーの言っていたおばけと、クリミアへの嫌がらせは同一人物ではなかった。
しかしなんてことはない。尾行するにしてもやり方が下手すぎる。素人だ。
「おい、出てこいよ」
こっちはもうとっくにわかってるんだよ?
「ブルルッ」
「ヒヒーンッ」
俺の言葉を皮切りに、突如木の陰から現れた二頭の馬。
そしてその馬にまたがる、二人の影。
ローブのようなものを被っているため顔はわからない。
しかし手に持っている農業用のフォーク。
明らかに敵意はある。
「あ、あの人たち.....!」
「知り合いかなんか?」
「いや。いつもミルク瓶を割ろうと嫌がらせをしてくる人たち....!」
ああ。やっぱり常連客なわけね。
「ちゃんと見とけよクリミア」
弓に矢を四本通し、思いっきり引っ張る。
──グググ....
狙うは二頭の馬の脚。
どちらも前足を潰して、再起不能にする。
「俺の活躍を」
──パシュッ
「ヒヒーンッ!」
「ブルルルッ!!」
「(お見事)」
命中だ。
〜〜〜
「あ、あんちゃん!馬がやられちまったよ!」
「こっちもだ!脚を──
「.......あんちゃん?」
「あんちゃんて、君ら兄弟?」
「は.....?」
目の前には、首をキメたことで泡を吹いて気絶しているミルク襲撃犯の一人。
しかし驚いたことに、相方の方もこいつと同じ顔をしている。
「双子でこんなしょうもないことやっていたのかい?」
「お、おまえ、いつの間に!?」
「悪さするにしてももっと手際が重要だと思うよ?詰めるにしても、逃げるにしても」
逐一の行動の速さによって、パフォーマンスの良し悪しは決まる。
こいつら双子の敗因は、行動が遅いせいだ。
「さて、なんか言い残すことある?」
「ちょっ、ちょちょちょっ!ちょっとまってくれぇ!もうこんなコト二度としねぇから!許してくれよぉ!」
「おいおいおいおい。俺の愛しのクリミアに嫌がらせしといて、謝罪一つで許されると思ってないだろうな?」
「わ、わかった!これやる!これやるから!」
「これって....。お前らがつけてた覆面?」
「い、イカーナの忍者のお面だ!」
ただのローブのような覆面。
しかし確かになにか特別めいたものを感じる。
「おーい!ギーヴー!」
「クリミア!見てたかい俺の活躍。華麗なる弓さばき」
「うん、かっこよかったよ!怪我はない?」
「ああ、心配までしてくれるなんて...。麗しのクリミア!」
「あ、あはは....。元気そうで良かったよ」
んで.....。
「なに逃げようとしてるんだ?小悪党双子」
「ひぃい!?お、お面あげたじゃねぇか!?」
「まさかそれだけで逃れられるとでも?」
「ゆ、許してくれよぉ!俺らもうなんも持ってないんだ!」
「ギーヴ。もう許してあげよう?私は大丈夫だから」
「クリミア、こういうのはゴネ得さ」
タルミナという俺にとっては未開の地。
ただでさえ金目の情報なんてものはハイラルでも教えてくれるやつは少ない。
だからこういった情報収集源は貴重だ。
「なんか知ってる金目の情報全部出せ」
「ギーヴ...(欲望に正直...)」
「そ、そんな事言われても...」
「流石に一個ぐらいはあるだろう?」
「う.....。そ、その忍者のお面があったイカーナ地方のロックビルの神殿。そこには封印の扉ってのがあって、凄いお宝があるって話だ。こ、これでいいだろ!もう許してくれ!」
「ギーヴ。もういいでしょ?これで許してあげて」
「.....はあ。全くクリミアは優しすぎるね」
そういうところも美しいけど。
「わかったよ。今回は勘弁してやる。ただ」
「ただ....?」
「次はないよ?」
「ヒィ!?すみませんでしたあー!!」
そう言い残し、双子弟は兄をおぶってさっさと逃げ出していく。
小悪党どもめ。クリミアの優しさに助けられたな。
「でもよかったあ。ミルク瓶は全部無事。ありがとう、ギーヴ」
「当然のことをしたまでさ。惚れてくれてもいいんだよ?」
「もう、すぐ調子乗る。ほら、クロックタウンに向かうわよ」
マスターが首を長くして待ってるから、と言いながら馬車に乗り込む。
やれやれ。防御の堅いお嬢様なことだ。
後ほどちょっと修正加えるかも。