「よかったあ。今度こそマスターとっても喜んでたわ」
「それはよかったよ」
双子の小悪党を退治して早一時間。
シャトーロマーニは無事ミルクバーに届けられ、クリミアは安堵の表情を浮かべる。
あの双子も、コレに懲りてもう悪さをしてこないだろう。
「それじゃあ、帰ろっか」
「ちょっとまってくれ。ロマニーに土産の約束をしているんだ」
「お土産?」
「ああ。キータンのブローチだとかなんだとか」
流行りものらしい黄色い狐のキャラクターを模したブローチ。
約束したのはいいものの、クロックタウンにははじめて赴いたもので、どこに何の店があるのか全く把握していない。
「それなら雑貨屋さんね。クロックタウンの西にあるわ」
「助かるよ」
「それじゃあ、行こっか」
クロックタウン。タルミナの中心地というだけあって、東西南北に別れたその街は大きく賑わいを見せている。
所々にロマニーの言っていたカーニバルの準備らしきものも見受けられ、街全体は今にでも小躍りを踊りだしそうなほど、浮ついた雰囲気が流れている。
流れる陽気な音楽。はしゃぐ子どもたちの歓声。祭りの準備をする大工たちの声。街中心にそびえ立つ大きな時計塔の時を刻む音。
なるほど。ロマニーが無性に街に行きたがっている理由も、なんとなくわかるかもしれない。
「カーニバルが近いからかな。みんな浮かれてるの」
「そうみたいだね。しかし奇妙だな」
「ん?なにが?」
「多くの人がお面を持っている。風習かなにかかい?」
「ああ、そっか。旅人さんは変に感じるよね」
からからと、クリミアは楽しそうに笑う。
「ギーヴの言う通り、タルミナの古くからの風習でね。カーニバルの日には、それぞれが手作りのお面を持ち寄るっていう風習があるの」
「へぇ」
不思議なものだ。
街行く人々、すれ違う子どもたち。それぞれが奇妙なお面を持ち歩いたり、被っていたりする。
そういえばハイラルにいた時、一度お面屋を名乗る人物に出会ったこともあったっけか。
「土地が違うと風土も違うね」
「ギーヴの故郷は、どんなところだったの?」
「なに、タルミナとそう大差はないさ。釣りにボムチュウボーリング」
「的あて屋なんかも?」
「.....!すごいね、本当は同じ国だったりして」
「ふふふっ。でもハイラルなんて国聞いたことないわ」
「不思議だねぇ」
こんなにも似ているのに。
でもこうやって近くで見ると、細かい風土なんかは違ったりする。
「ゴロン族やゾーラ族もいるのにね」
「あら?ハイラルにもいたの?」
「ああいたさ。デクナッツなんかもいたね」
「意外とお隣さんの国なのかしら」
「でも多種族同士の交流なんてのは、ハイラルにはなかったね」
こうやって道行く人々や、様々な種族を見ると不思議な感覚になる。
それこそハイラルは絶賛戦争中で、多種族同士が交わるなんてこと殆どなかったから。なおさらね。
「いつかハイラルにも行ってみたわ」
「いつでも連れ出してあげるよ?君とならどこまでも行けそうだ」
「ふふふっ。でも今は牧場の仕事が一番楽しいから、残念でした」
「む...。それは残念だね」
振られてしまった。
もっとも、気がついたらタルミナにいたもんだから、ハイラルへの帰り方なんてわかってないんだけどね。
「クリミア....?」
「え?.......あ、アンジュ」
「やっぱりクリミアだ!久しぶりね!」
「そ、そうね。いつ以来かしら」
「先月ナベカマ亭に来てくれた時以来じゃない?もう、元気にしてるか心配してたのよ?」
話しかけてきたのは、クリミアの友人と思われる赤髪の美人さん。
はつらつとしたその笑顔は、クリミアとはまた違った風な美人さんだ。
「そっちは....クリミアの彼氏さん?」
「ちっ、違うわよ!」
「やあやあ始めまして美人さん。旅人のギーヴという者です。ちなみにこの後の予定なんかは──「はーい、行くよギーヴ」....クリミア、引っ張るな、痛い痛い」
「それじゃあねアンジュ。私たち、ちょっと寄るところあるから」
「そ、そっか。わかった。また配達のときにでも顔だしてね!」
「なに言ってるの。次は結婚式でしょ?」
「そうね!楽しみにしててよ?」
「もちろん。二人の晴れ舞台だもん。また、今度ね」
「うん、またね!」
そう言って、赤髪の美人さんはどこかへと去っていく。
結婚式ねぇ....。
『今度、友達が結婚するんだ。カーニバルの日に』
昨日、クリミアが言っていたっけか。
なるほど、彼女がクリミアの恋敵ってやつか。
......いや、恋敵だった人かな?
「クリミア、離してくれ。もう彼女もいないからいいだろ?あと痛い」
「あ、ご、ごめんなさい!私ったら....」
「嫉妬するのはいいとしても、ちょっと乱暴すぎるんじゃないかい?」
「はいはい....。雑貨屋さん、行きましょう。もうロマニーが待ちくたびれてるわ」
「ああ」
もうすぐで日が暮れる。
そんな時間にロマニーを一人で置いておくのも心配だ。
さっさと用事を済ませないとね。
「......あと」
「うん?」
「アンジュは結婚決まってるから。もうナンパしないでよね?」
「わかってるよ。悪かったって」
「もう.....」
クリミアは、少し不機嫌そうにそっぽを向いた。
〜〜〜
「いらはい」
クロックタウン雑貨屋。
少し風変わりな自然を模したような内装だったが、売り物はハイラルの雑貨屋と変わらずと言ったところだった。
空き瓶に妖精、薬にデクの実デクの木。矢や爆弾といった武器の類まで一通り揃っている。
ただハイラルよりはちょっと豊富かな?
「若いカップルのお客はんなんて珍しいなあ」
「どーも。カップル割とか効かない?」
「ちょ、ちょっとギーヴ!」
「はっはっは。なかなか愉快なお客はんやな」
さて、お目当てのキータンのブローチは....。
「なにお探しで?」
「キータンのブローチってある?」
「今流行りのやつやな?それならこっちにあるで。200ルピー」
ふむ.....。
別に払えないことはない。
しかしブローチに200ルピーはいかがなものだろうか。
「おじさん、ちょっとまけれない?」
「ギーヴ、それなら私が払うから──「大丈夫クリミア」.....もう」
「すんまへんなあお客はん。うち値引きとかやってませんねん」
値引きをやっていようとやっていまいと関係ない。
クリミアに聞こえないように、声を潜める。
「あんたこれ、定価じゃないだろ?」
「だとしたらなんや?こっちも商売さかい、文句あるんなら出ていってもらいますよ」
「別に商売にケチつけようってのじゃないよ。でもあんた........いいの?」
「なにがや....?」
「裏の方、口外されて」
これほど雑な鎌のかけ方はないが、恐らく当たるだろう。
この人からは汚い金の匂いがする。それがどんなもんかは知らないが、表沙汰にされたくないものであるのは間違いないだろう。
知ってるふりをして、限界まで値引きしてやるよ。
「.......あんちゃん、どこでそれを?」
ビンゴだ。
「ただじゃ言えないね」
ちらっとキータンのブローチを見せつける。
すると雑貨屋の店主は観念したように手を挙げる。
「わかったわかった。値引きしたる。ただ流石にただで値引きするだけじゃ商売上がったりや。もう一品買ってもろて、そしたら半額にしたる」
「ふむ......」
「もういいでしょギーヴ。ただでさえ値引きしてもらえるのに」
「わかったよ。クリミアに免じて、それでいい」
「それじゃあさっそくなんやが....これなんかどうや?」
すぐ営業モードに入りやがったなこのおっさん....。
「スノーヘッドで取れたエメラルドのネックレス!」
「ネックレス?」
「そうやで。こいつには縁結びの曰くがあってな。あんたらみたいなカップルにぴったりやで」
「かっ、カップルじゃないです!」
「おっさん、意外と見る目あるねぇ」
「ギーヴも乗らないでよ!」
縁結びのネックレスか。悪くない。
ペアというのもベタだし、店主の少しでも多く売りたい魂胆が透けて見えるが、悪くはない。
「クリミアは、なにか気になるものあるかい?」
「え、私は.......。うーん....」
この雑貨屋は家具や食器なんかも売ってるし。女子向けの雑貨も豊富だ。
あのコッコのぬいぐるみとか、結構かわいいしね。
「私は....そのネックレスでも、いいと思ったけどなあ.....なんて」
「.........」
「.......や、やっぱりギーヴが選んでっ!」
「.........おっちゃん。それちょーだい」
「まいどあり!」
「も、もう.....」
「.........」
「う、うるさい!」
「なんも言ってないって」
「顔がうるさいの!にやにやしないでよ、もう」
「若いってええなあ〜。ほい、商品」
「ありがと」
「ありがとうございます」
「ええよええよ。ほな、気をつけてな」
キータンのブローチとペアネックレスをしっかり受け取る。
代金はもちろん半額だ。
「ありがとうございました」
「じゃあねおっさん.......あ。あと」
「なんや?」
「今度俺にも儲け方教えてよ」
「あ、あんちゃん。最初からなんも知らなかったんか.......?」
「じゃあねー」
「あ、おい、待っ──
──バタンッ
後ろでなんか言ってるが、面倒事になる前に退散退散。
「儲け方って、何の話?」
「つまらない経営の話だよ。そんなことより、はい」
「あ....ネックレス」
クリミアの首に手を回し、ネックレスを取り付ける。
うん、いい具合にエメラルドの緑が映えていい感じだ。
やっぱりクリミアはなんでも似合うね。
「ど、どう?」
「当然のように似合ってるよ。美しいね、相変わらず」
「う.......。ぎ、ギーヴもつけてよ」
袋からもう一つ取り出し、自分の首に回す。
「.......ン。どうだい?」
「........似合ってる、ヨ?」
「照れるなよ」
「照れてない!」
「.........」
「うぅ......」
「ペアルックだねぇ」
「うるさい!もう....」
意外や意外、奥手のクリミアの珍しい狼狽えシーンが見れて満足だ。
いつの間にか空は夕焼けで、真っ赤になっている。
ロマニーが待ちくたびれてるな。
「帰るか」
「そうね。ロマニーが心配」
「それにしても嬉しいねぇ」
「はいはい.....。行くわよ」
夕焼けのせいか、はたまた別のもののせいか、真っ赤になったクリミアの顔を眺めながら、帰路につく。
この世で美人の照れ顔を拝むことほど、幸せなことはないね。
〜〜〜
夕刻、ロマニー牧場。
キータンのブローチを渡すとロマニーは飛び跳ねて喜び、夕飯のときも、そして今寝るときも、肌身離さず大切そうに抱えていた。
それほど喜んでもらえたなら買ってきてよかった。
もうすっかり夜はふけこみ、時計の針が12時を回ろうかと言う頃。
俺は一冊の本を開いていた。
それはクリミアに借りたタルミナの地図。
南にウッドフォールの沼。
北にスノーヘッドの山。
西にグレードベイの海。
東にイカーナの谷。
なにも情報がなく、金策するにしても不明瞭すぎる次第だったが、情報が入った。
今日クロックタウンに向かうときに襲撃してきたあの双子。
双子の弟から金目の情報をむしり取ったんだ。
『そ、その忍者のお面があったイカーナ地方のロックビルの神殿。そこには封印の扉ってのがあって、凄いお宝があるって話だ』
イカーナ。ロックビルの神殿。封印の扉。
金の匂いがプンプンするね。
情報が真実か否かはどうでもいいんだ。
情報もなしにがむしゃらに探しているよりはよっぽどいいからね。
目指すは東のイカーナの谷。ロックビルの神殿だ。
ちょこっとラブコメ要素。