ハイラルの流浪人   作:はいから

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第四話 死の大地

──パカラッパカラッ

 

 

クリミアとロマニーのいってらっしゃいをもらい、ロマニー牧場を旅立ったはいいものの。

 

如何せん見切り発車が過ぎただろうか。

 

ろくな下調べもなしにポールを走らせ、イカーナへと赴いているが、その場所がどんな所かもわかっていない。

 

どんな魔物が出るのか。どのような気候か。どのような地形か。少しは調べるべきだったか。

 

「(.......ま、なんとかなるだろ)」

 

思い立ったが吉日だ。

 

もとより金目当てだ。金意外の情報を得るつもりもない。

 

心配なのは、ポールを連れていける土壌かどうかってところだな。

 

 

──パカラッパカラッ

 

 

「ゲゲェッ」

 

ポールを走らせていると、目の前に魔物が飛び込んでくる。

 

「(リザルフォスか)」

 

このまま走らせてポールで潰してもいいんだが、あの感じ、相当自信があるとみえる。

恐らく馬で突っ込んでもそれに対抗しうる技量をもっているのだろう。

 

「ポール、止まれ」

 

「ヒヒーンッ」

 

そんなやつにポールを突っ込ませるのは危険だ。

 

素直に通らせてくれそうな気配もしないし、降りてやりあおうか。

 

「グエッ....!」

 

腰からカトラスを抜いて構えると、リザルフォスも剣を持ち、臨戦状態になる。

 

「目血走らせちゃってさ、そんなにこれが欲しいか、よ......っ!」

 

 

 

──ガキィンッッ

 

 

 

「グゲッ!?」

 

一気に距離を詰めて斬りつける。

 

防がれたか.....。さすがの反射神経。

 

「ふ........っ!」

 

「グギッ!?」

 

 

──ガキィンッ

 

 

魔物ながら、良い剣捌きだな。

 

でも......

 

「防いでるだけじゃ倒せないよ........っと!」

 

 

──キィンッッッッ

 

 

「グゲガッ!」

 

ほら、もう君の剣折れちゃった。

 

「......グガァッ!!」

 

「おっと」

 

俺の態度が気に入らなかったのか、リザルフォスは激昂しながら折れた剣を振るってくる。

 

魔物だから仕方ないが、動きが単純、振りも甘い、芯がブレブレ。

これならまだナボールのほうがよく出来ていた。

 

「はっ.....」

 

こいつにあるのは、魔物特有の類まれ無い筋力と、反射神経。

 

「ただそれだけ」

 

 

 

──ザンッッッ

 

 

 

「グ......ガァ......」

 

カトラスで斬りつけると、リザルフォスは泡を吹いて倒れる。

 

 

こんなもんだ。

 

 

殆どの魔物には知能がない。

 

人間より狩猟能力に優れているから、単純に筋肉や反射神経が発達しているだけで、基本的には馬鹿正直に間合いを詰めてくる。

 

この分なら、イカーナも大丈────

 

 

 

 

 

「イーッヒッヒ」

 

 

 

 

 

 

「.......っ!」

 

 

声のもとを振り返ると、いつの間にか立っていた謎の魔物。

 

果たしてそれはただの魔物なのか。魔物とはまた違う、そんな気配がする。

 

 

「お前さん、良いお面をもっているな?」

 

「君、何者?いつの間に後ろ立ってたの?」

 

「ずっとここにいたよ。お前さんの後ろにな」

 

怖いこと言うね。怪談の季節じゃないんだけどな。

 

「んで、お面ってコレのこと?」

 

「そう。それだ」

 

あの双子からもらった、忍者のお面だとか何だとかいうローブ。

そういえばこれもイカーナのものだったか。

 

「それは血塗られた歴史を持つイカーナの城で、隠密活動をしていた忍者のお面だ」

 

「ふーん....。高いの?」

 

「人間の値打ちは知らん。この先イカーナは、この世に恨みや未練を残した彷徨える魂が集りし所。お前さんのような生に満ち溢れた人間が行くところではないよ」

 

「ご忠告どうも。気をつけるよ」

 

ポールを連れて、謎の魔物の横を通り過ぎる。

 

「........イカーナに眠る魂たちは、魔物のものだけではない。その言葉が意味することを、お前さんはわかるか?」

 

「ああ、わかるさ。だからご忠告どうもって言ったんだ」

 

人間の魂。

 

それはそこらにいる魔物にはない知能を持ち、激しい憎悪や殺意を持つ。

これまでの魔物のように、簡単にはいかないって訳だ。

 

「イーッヒッヒ。思った以上に腕が立つようだ。お前さんなら、イカーナに彷徨える魂たちを救ってやることができるかもしれん」

 

「興味ないね。俺はただ、金目のものを漁りにいくだけさ」

 

「イーッヒッヒッヒ。イカーナに、呑み込まれんようにな.....」

 

「..........」

 

後ろを振り返ると、そこにはもう何もなかった。

 

イカーナの異質さと危険さは、こいつが身を持って証明してくれた。

感じ取ることの出来ない気配に、消えたり現れたりするその姿。

 

これはなかなか、厄介な場所に向かってるのかもしれないな。

 

「行くぞ、ポール」

 

「ブルルッ」

 

なおさら金の匂いがするね。

 

俺はポールに大きくムチを入れて、イカーナの谷へと走らせた。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「さて....」

 

イカーナに行くに連れて下調べしてないとはいえ、これはなかなか....

 

「(厄介だな)」

 

見上げるはそびえ立つ崖。

その崖の上にちらりと見える建造物。

 

恐らくこの崖の上がイカーナだろう。

 

イカーナの谷とはいえ、崖上にイカーナがあるとは思わなかった。

それはもう谷というか山なのではないかい?

 

.........まあ、地形に文句言っても仕方ない。

ポールにはお留守番してもらうことになるのはいいとして、これを登るのか。

 

 

そびえ立つ断崖絶壁。

 

 

所々に足場になりそうなスペースはありそうなものの、なかなか骨が折れる。

 

「よっと......」

 

足場になりそうなところに足をかけ、手をかけ。

 

「........っうし」

 

交互に交互に登っていく。コレの繰り返し。

 

上を見ると、まだまだ崖が続いている。

やれやれ、長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......よいしょっと」

 

最後の一歩を崖上にかけ、ようやく昇り終わる。

 

「ふぅ.....」

 

手の砂を払い、下を覗き込むと、はるか遠くにポールが見える。

だいぶ登ったな。また降りる時が大変そうだが.....

 

「(取り敢えずは....)」

 

イカーナ、到着だね。

 

しかし見渡す限りの荒野。

ゲルド砂漠を死の大地なんて呼んでいたのがかわいく見えるぐらい、この土地からは生命力を感じられない。

 

動植物どころか、魔物すら居るか怪しい。

 

見た所水源もない。間違いなく人なんて住んじゃいないだろうな。

住んでいたとしたら、相当のモノ好きか、何か訳ありか。

 

「(あいつはどっちかな?)」

 

崖を昇りきった後すぐに目に入った”人間”。

 

白い服を着た、この土地に相応しくない陽気な出で立ちをした男。

 

「ねえ、そこのあんた」

 

俺が呼ぶと、その男は驚いたように振り向く。

 

「お兄ちゃん、その崖登ってきたの?」

 

「ああ、そうさ。あんた、こんなところでなにやってんだ?」

 

「それはこっちも聞きたいけど.....。俺はここに住んでるんだよ」

 

「こんな土地に?」

 

「そうとも。それにしてもお兄ちゃんいい剣持ってるねぇ。やっぱり剣はそれくらいじゃないとね。うんうん」

 

「...........」

 

なるほど。

こいつは後者、つまり訳ありだね。

 

動植物の存在しない土地。水源もない。施設も整ってない。気候もいいとは言えない。

こんな土地に住むには何かしらの理由を要するはずだ。

 

「イカーナはよく亡霊だの何だのが出るから、俺が言うのも何だけどあんまり近づかないほうが良いと思うよ?」

 

「ああ、そう。気をつけるよ」

 

「それにしても良い剣だなあ。ちょいと見せてくんねえか?」

 

「........ふむ」

 

恐らくこいつは......。

 

「いいだろう」

 

剣を取り出し、男に渡す。

 

渡した瞬間、男はニヤァっと不気味な笑みを浮かべ、カトラスを舐めるように眺める。

 

そして.......

 

 

 

 

 

「いだぁっ....!なにすんだい、兄ちゃん」

 

「あんたこそ、人の剣持ってどこに行くんだい?」

 

「そ、それは....」

 

剣を持って逃げ出そうとした男の腕を掴み、関節をキメる。

 

「あんた、ドロボーだろ?」

 

「.......兄ちゃん。あんま人のこと.....ぃいでででっ!離してくれっ!」

 

「どうなんだ?」

 

「そうだよっ!ドロボーだよっ!悪いか、あんたには関係ねーだろっ!」

 

「俺の剣盗もうとしただろうが」

 

この地に住む人がいるとするならば、相当の物好きか、何か訳ありか。

 

ドロボーなんて言う表に出られないことやってるなら、人のこないイカーナは最適の住居だろうね。

 

「いででっ!もうしねぇから!離してくれよぉ!」

 

「じゃあ金目のモン置いていきな。あと情報」

 

こんなクズには、容赦なくむしり取れる。

 

「あ、あんたも俺と同じ....ぃいでででっ!わかった!わかったから!」

 

「んで?まず情報」

 

「情報っつったって。なんの」

 

「イカーナの封印の扉について、なにか知ってるかい?」

 

「封印のって.....ロックビルの?」

 

「そ、ロックビルの神殿の」

 

「あれは正体はわからねぇが、邪悪を吹き込む風の根源って言われてる」

 

「邪悪の根源?」

 

その中にはお宝が眠ってるって話だったが.....。

 

「いでででっ!なんで締めるんだよっ!」

 

「それは本当かい?」

 

「ほんとだよ、全部ほんと!イカーナがこんな荒れ地になったのも、その扉の封印が解かれたからって噂だ」

 

ってことはあの双子の弟、適当言ってたってわけか。

やられたな......。

 

「その扉は今も開いてる感じ?」

 

「ああ。だからイカーナはこんな悪霊だらけなんだよ」

 

なるほどねぇ......。

一概に希望を捨てるのは早すぎるな。

 

イカーナを死の大地にするほどの、力を持った忌み物。

しかも神殿なんてところに封印するほどのものだ。

 

おぞましい程に強い、邪悪な力。

 

それが物として手に入るなら、一定の筋には高く売れる。

いつだって、強い力には魅了される人間がいるもんだ。

 

「よーしもう情報はいい。金目のモン出せー」

 

「いででででっ!勘弁してくれよぉ〜」

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

サコンとかいうこそ泥から持っているもの絞り取って、最後にオマケでシメてから数分。

 

俺はロックビルの神殿に向かうべく、イカーナを探索していた。

 

ロックビルってのは名の通りロックのビル。

見たことはないが恐らくイカーナの最奥にそびえ立つ、あの岩のタワーのことで間違いはないだろう。

 

 

あいも変わらず死の荒野が広がるイカーナの地では、他では見ない魔物がうようよいる。

 

ポウやスタルフォス、リーデッドにギブド。彷徨える魂ってのはこういうことか....。

 

普通の魔物とは違う、恐らく元々魔物や人間、生物だったもの。

ホント、気味が悪い限りだね。

 

 

 

──チリン....

 

 

 

そんな中に、明らかに浮いている存在が一つ。

 

「........」

 

あれは....妖精?

 

遠くで見える光る生き物。

それはイカーナに似つかわしくないほど生命力に溢れている。

 

こんなところにも妖精がいるんだな.....。

 

「(追ってみるか)」

 

こんな過酷な環境に住み着く妖精ってのも珍しい。

 

捕獲したら高く付くかもね。

 

 

 

──チリンチリン.....

 

 

 

その妖精は一つの洞穴へと入っていく。

 

俺はそのまま、導かれるように妖精の後に続いた。

洞穴の中を除くと、薄暗い空間が続いていて、先行する妖精の光以外は何も見えない。

 

 

──チリン......チリン......

 

 

妖精の後に続き、俺も洞穴へと入る。

 

すると俺が洞穴に脚を踏み入れた途端、まるでわかっていたかのように洞穴に明かりが灯される。

生命力に満ち溢れた、黄色く明るい光。

 

洞穴の奥には、一つの泉があり、そこには何匹もの妖精が舞を踊るように飛んでいた。

 

やがて一匹の妖精は、その妖精の群れと合流し、数多の妖精と同じように舞を踊り始める。

 

 

妖精たちの舞は、どんな舞台よりも美しく華麗だ。ここがイカーナという死の大地だということを忘れ去ってしまうほど、この空間だけは別世界だった。

 

 

しばらくその様子に見とれたようにぼーっと突っ立っていると、どこからか、透き通った美しい声が聞こえてくる。

 

 

『愚かなる人の子よ...』

 

 

まるで脳内に直接語りかけてくるような、そんな透き通った美しい声は、一種の音楽のようであった。

 

 

『愚かなる人の子よ......』

 

 

舞を踊る妖精たちは、やがて四方八方に散り、その中心に一人の大妖精が浮かび上がってくる。

 

妖精の光りに包まれたその姿は、この世のものと思えないほど美しい身なりをしている。

 

 

「.......あなたは?」

 

『私はイカーナを守る大妖精。金銭欲に眩んだ愚かなる人の子よ。ここは死の大地イカーナ。早いうちに去ると良い』

 

さすがは大妖精様といったところか。その立ち振舞や威厳に満ちていて、素直に首を縦に降ってしまいそうだ。

 

でも、素直に言うことを聞くわけにもいかない。

こっちにはこっちの都合ってのがあるからね。

 

「へぇ.....。大妖精様も、こんなところじゃなくてもっと街の方守ったほうがいいんじゃないですか?ここにはワケアリのこそ泥しか住んでいませんよ?」

 

『私の務めは人間のみを守ることにありません。ここに彷徨う魂たちを守るのも、また大妖精の務めなのです』

 

「難儀だねぇ。たまには休暇でもどうです?ほら、例えば俺とお茶でも。大妖精様のような美しい女性となら──『人の子よ』......人の話は最後まで聞いてくださいよ」

 

大妖精様ともあろうお方が、無視は酷いんじゃない?

 

『この先ロックビルは、邪悪の根源の地。それでも行くというのなら心してかかりなさい』

 

「.........」

 

俺が肩をすくめて見せると、大妖精様は呆れたというように目を瞑る。

 

そして一度小さく息を吐き、もう一度目を見開き、俺を諭すように見つめる。

 

『女神の眷属よ。あなたの旅路に、女神ハイリアの加護があらんことを』

 

「女神の眷属......?」

 

その言葉を最後に、大妖精様は光の中へと消えていった。

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