「まってトレーナー」「ちがう、ちがうんだよ」
「ごめんなさい...」「許してください...」
「いかないで...」「もどってきてくれ...」
走る。聞き慣れた声が懺悔しながら追ってくる。
ただ走る。暗闇の中、必死に。
しかし、追いつかれ、無数の手が俺に伸ばされる。腕に、足に、胴に、顔、身体中に絡みつく。
万力のような力に押さえ込まれ、身動きができなくなる。懺悔の言葉を囁かれ続ける。
そして、夢から覚める。
顔を洗いに行って、鏡に写った自分の顔をみる。
目の下にひどい
...最近はずっとこれだ。毎晩、元担当たちに追いかけ回される。捕まり、懺悔を聞いて、目が覚める。今日みたいに朝まで寝れることはめったにない。
「...」
懺悔するのは俺なのに...
気を紛らわしたくてテレビをつける。ニュースくらいしか見るものなんてないが。
[...関東地方全域で大雨が降る予報です。折り畳み式の傘ではなく、普通の傘を使用するのがよいでしょう。]
机の上に、たづなさんからの書き置きがあった。
〈学園へ行ってきます。お昼までには帰ります。〉
...何かあったのだろうか。
学園を去ってから、たづなさんに頼りきっている。この前「ずっとここに居ていいんですよ...?」って言われたが丁重にお断りした。
「...あぁ」
本当ならここを出てさっさと遠い地方まで逃げてしまいたい。トレセン学園とは無縁の場所まで逃げたい。
でも、なぜか出来ない。
いまさらどうしようもないのに。
そんなふうに時間を無駄に過ごしていると、
あるニュースが報道されていた。
[...トゥインクル・シリーズにて、注目されているトレセン学園在籍のウマ娘たちのレース辞退が相次いでいます。このことについて、トレセン学園側はコメントを発表していません。ファンからは、悲しみや困惑の声が...]
「...は?」
スマホを取り出して、久しぶりに電源をつける。
電源を切っている間にたまっていた元担当たちからの不在着信が1000件以上あるが、
全て無視してトレセン学園について調べる。
すると、同じようなタイトルのまとめサイトが大量に出てきた。
[トレセン学園にて多数のレース辞退者...いったいなぜ]
...内容も大体一緒だ。食中毒やら事故やらあることないことばっかりだった。
ただ、一つ分かったこともある。
辞退しているのは、みんな俺の元担当だ。
...トレセン学園に所属するウマ娘たちはトレーナーの指導を受けなければ、レースに出走できない。まさか辞退の理由は、そこなのか。
しかし、それならば他のトレーナーやチームに所属すればいい。彼女たちの実力なら引く手あまたなのだから...それだけなのに。
玄関から、ピンポーンと音がなる。
...来客か?こんな雨の中?まさか
恐る恐る、モニターを覗くと
雨で濡れた、トレセン学園理事長秋川やよいが立っていた。
...リビングで二人が向かい合う。
頭の猫ちゃんはいなかった。
「懇願ッ...君の担当ウマ娘について話がしたい」と言われ、走って来たのかよと思うほど雨で濡れいたので、雨を拭くためのタオルを貸そうとしたら「不要ッ...」と断られ今に至る。
ずっとうつむいたまま何も言わないやよいさん。
見たこともないやよいさんの雰囲気に、黙っていることしかできない。
そっと、理事長が言う。
「憂慮...君は、担当の彼女たちについて、どう思っている?」
「元担当です。やよいさん。...別になにも思っていません。」
「虚報ッ...たづなから全て聞いた...君は彼女たちと会うことを拒んでいる...彼女たちを憎んでいるのか...?」
「...そうです。やよいさん。あなたが来た理由も察しがついています。俺に復帰する気はありませんせん。お帰りください。」
「...」
つかの間の静寂のあと、
「...否ッ...」
「...やよいさん?」
「否ッ!!!!!」
「!?」
「私は...私には...そのようには見えない!!!」
「君は今でも彼女たちのことを心配してくれているんだろう!?」
「...そんなことは『ならばッ!なぜ
「彼女たちが憎いのなら!!姿も見たくもないならッ!!なぜここから離れていかないのかッ!!」
「...」
「君はッ...君はッ...どんな者も見捨てない男だッ...例え相手がこころを開かなくても...!君は彼女たちの夢を支えてくれた...!」
「君は...我がトレセンの誇りだッ...そして私は...そんな君に...何もしてやれなかった...!」
「...私が君に許される訳...ないがッ...」
「こん....がんッ...どうか...もう一度...彼女たちの...指導を...もどってきて...くれないか...?」ポロポロ
初めてだった。やよいさんが年相応の姿で泣いていた。...俺は...でも...
「...ごめんなさい...俺は戻れません。」
「...な...なぜ..?」
「...俺のせいなんです...全部」
「...!?」
「彼女たちがこんなことをしてしまったのは...俺が...後先考えずに行動したからなんです。」
「...タキオンの薬をいたずら心で飲んでしまったんです。その薬の効果です。」
「...なのに俺は...!みんなに責任を押し付けて逃げてしまった...!」
「挙げ句の果てには...謝罪に来た彼女たちの顔すら見ずに追い返した!」
「....そんな自分自身が許せないんです...
もし...トレーナーにもどっても...前のようには指導できません...
俺は...そんなにきれいな人間じゃないんです...どこまで行っても...
自分じゃ何もできない...ちっぽけな人間なんです...」
そんな情けない自白をしたときだった。
「トレーナー」
聞き慣れた声だった。
一体誰なんやろなぁ...