ライスシャワー×マンハッタンカフェ ウマ娘アンソロジー 作:ぴちかー党
旅館{山の湯}は、湯河原のバス道路から二百五十の石段をのぼった山の上にある。
客が、あえぎあえぎ、この急な石段をのぼって玄関へたどりつくと、
「どうぞ」
待ち構えていた女中が、冷たい水をくんだコップを差し出す。
「ここもしずかでいいんだが・・・何とか、その、玄関まで車が入るようにならんかねえ」
息をきらせながらこぼす中年の客もいるが、
「このままの方がいい。汗かいて石段のぼって、ここへついて、コップの水が出ると、とたんに山の湯へきたなあ・・・そんな感じがするんだ。自動車道路なぞつけたら承知せんぞ」
という支持派も多い
だが。
「いま、駅へついた」という知らせが番頭から帳場へ入ったとき、なんとも珍しい客層に、女中達はいろめきだった。
「きいた?今日のお客さんは14、5の少女達らしいわよ」
「珍しいわよね。うちを利用するお客様って大体5、60代が多いし、初めてじゃないかしら」
「こんな、観光地もない田舎に東京から来るなんて、不思議よね。カラオケもスーパーもないのよ」
「それに閑散期って言っても、そこらのホテルの正規料金同じくらい取るのよ。いいところのご令嬢様だったりして」
「じゃあ、やっぱり目的は人知れず・・・」
そんな、俗世丸出しのおばちゃん達があらぬうわさをしているとは勿論微塵もない。彼女達がここを選んだ理由それは・・・遡ること10分前
「か、カフェちゃん起きて。どうしよう寝過ごしちゃったよー」
「・・・ライスさん・・・おはよう。」
「あ、あの駅員さんここは何処でしょうか?」
「あー湯河原えきっていってね。自然がきれいな場所だよ。」
「因みに折り返しの電車は・・・」
「残念だけど今日はもうないね」
当初の駅を乗り越し終点まで来てしまった、ライスとカフェ。
本日の宿に困っていた所に駅に詰めていた番頭さんが助け船を出してくれたこれがいきさつである。
そしてこういうことは、田舎の場合往々にして存在する。かくいう私も一本電車に乗り遅れたら次回発車が6時間後なぞがざらなところにすんでいた。それはさておき
彼女達は伝えられた道を歩くこと30分最後の石段を登り、{山の湯}へたどり着いた
閑散期もかさなり、女中さん全員がライスとカフェを迎えるため入口に整列している様は圧巻であった
「わざわざ遠いところからよくおいでくださいました」
「ほ、本日はよろしくおねがいしふぁす・・あっ」
「・・・お邪魔します」
「ご丁寧にありがとうございます。ところで・・・」
荷物を預かり、部屋まで運ぶ女中さんが言葉を続ける
「お客様方は何かスポーツ、いえ、陸上経験がおありでは?」
「は、はい。陸上と言えばそうともいえるかも」
「やっぱり。私も経験者だからお客様がたの脚をみて一目でわかりました。種目は長距離でしょう」
「・・・はい・・・2人とも2000mが得意です」
「あら、今はトラック競技に2000なんて追加されたの。時代がかわればってやつですねー」
完全に勘違いをしている女中さんに、どうしようか?とでも言いたげにカフェに視線を送る。
しかし、その意図がカフェに伝わってる感じは見受けられない。
そうこうしているうちに、部屋に到着し旅館の説明が始まる。完全に訂正する時期を逸してしまったようだった。
「普段は男女を時間帯ごとに分けていますが、本日はお客様の貸し切り状態ですのでご自由にお使いください。当館自慢の総檜風呂でございます」
「・・・あの・・・総檜風呂って?」
「はい。浴槽は勿論、床、椅子、桶に至る全てに檜を使用しているお風呂場でございます。檜の薫りを存分に楽しみながら、好きなだけご入浴致してください」
「楽しみだね。カフェちゃん」
「併せて、お夕食の時間は何時頃になさいますか?」
「ゆ、夕食の時間も指定できるんですか」
「はい。それと何かアレルギーや嫌いなものなどはありませんか?」
「私は特にはありません。」
「・・・ライスさんと同じです。・・・それと夕食は今がいいのですが」
実は相当前からライスのお腹の虫がなっていたことをカフェは知っていた。
「ええ構いません。でしたら、先にご入浴をされてあがった後にお持ちする形でよろしいですかね」
「は、はい。お願いします」
一通りの荷物の整理を終え、浴場に向かう彼女達
その途中途中の通路には名のある作家や詩人、映画スターなどのサインが飾られている。
恐らくは、知る人ぞ知る穴場と言うところなのであろう
===浴室===
「ふぁあ~とっても広い。2人だけの貸し切りなんて勿体無いね・・・あれ?カフェちゃん」
おもむろに洗い場を突っ切り、湯船に歩いて行くカフェ。
そして・・・ザブン!という見事な音ともに入湯してしまう
「だ、だめだよ。先に体を流さないと・・・」
「・・・貸し切り・・・大丈夫」
「う、うーん。大丈夫なのかな」
「・・・ライスさんも、早く。とっても・・・気持ちいいです」
(か、貸し切りだし大丈夫だよね)
悪魔の囁きに敗けてしまった彼女もまた、勢いよく・・・ザンブと見事な音を立てて入湯する
内風呂しかない浴室ながら、そこからは多彩な植栽、大小の灯籠、そして付近を流れる小池のせせらぎと何とも欲張りな・・・いや贅沢な眺めが見下ろせる。
しばし、その景色を楽しみつつ入浴を済ませると丁度お膳を運ぶ女中の姿が見えた。どうやら少し早い夕食ができたようである。
案の定部屋に戻ると、そこには
「うわぁー。おいしそう」
「・・・いいにおい」
お膳に溢れんばかりに載せられた彩り豊かな料理の数々
女中から渡された献立表によると今晩の夕食は・・・
前菜 サヨリとエビの押し寿司。常節と大豆の煮物。ゆり根の煮物
小鉢 コノワタ。蕗の薹。ゼンマイとワラビの甘煮
陶板焼 牛肉。エビ。タマネギ。しいたけ。シシトウ。にんじん。
そして、この旅館名物{アユ飯}が小ぶりのオヒツに入れられ2人に配膳される
蓋を開けてみると中には、お頭つきの鮎が3匹。
「食べる前にしゃもじでよくかき混ぜて、最後に青葱をふって」という女中さんの指示に従いかきまぜる。
身を崩しながら味付け飯とを混ぜ合わせ、青葱を振れば完成。出来立てあつあつを口一杯に頬張る。これが不味いはずがない。空腹も相まり3合はあったであろうオヒツも、そしてこれでもかとあったおかずさへも綺麗に平らげた彼女達であった。
しばし、部屋にて就寝までの時間を何をするでもなくノンビリと過ごす彼女達。
そこでふと、カフェがちゃぶ台におかれた一冊の本を発見し、適当にパラパラと捲ってみる。
そして、ふとあるページで手が止まった。
「・・・」
「カフェちゃん。何を読んでいるの」
「・・・ここ・・・読んでみて」
カフェがライスにその本を渡す。その本はないようを読む限り詩集であった。
そのページには
とおみの音
とおみの音にききほれている
いつまでもききほれている
秋の灯ともし頃
とおみの音
をりから ぱたぱたぱたと
草屋根におりてきた野鳩
空は美しい夕映えだ
という、一篇が記されていた
「い、いみはよくわからないけど。ライスとっても素敵な綺麗な言葉だと思う」
「・・・丁度夕方・・・秋」
「あ、そうだよね。ちょっとここからの景色で想像できるかな?」
窓から景色を見下ろす彼女達
そこには、落ちつつある夕日が、池に映されていた。それは先程の浴室で目撃した景色とはまた違った幻想的な光景であった。
「これが、とおみなのかな?」
「・・・わからないですけど・・・とても綺麗です」
{とおみ}その言葉の意味はさだかではなかったが、彼女たちにとって窓からの景色は正に先程の詩にかかれていたそれのイメージであった。
ライスとカフェが暫く先程の詩集を眺めていると、寝床の用意を整えに来た女中の声が聞こえてくる
「そろそろ寝床をこしらえてもよろしいでしょうか?」
「あ、お願いしまーす」
「それじゃあ、失礼しますよ。」
てきぱきとちゃぶ台をたたみ、運んできたはだか布団にシーツを被せる。その上に毛布そして掛け布団を寸分のずれなくセッティングする様は正に熟練のなせる技であろう。
一通りの寝床の準備を終えた女中が二人の読んでいた詩集に気付き、自慢げに話しかける
「あら、若いのに珍しい。その詩集気に入った?」
「はい。とっても幻想的でライス時間を忘れて読んじゃいました」
「・・・これって、購入できますか?」
「購入?無料でいいですよ。お土産に持っていって。うちの旅館を贔屓にしてくれる作家さんの処女作なんですよ」
「ほ、本当にもらっちゃっていいんですか?よかったね、カフェちゃん」
「・・・ありがとうございます」
「いいんですよ。よかったら今後ともお泊まりの際は、ご贔屓に」
先程の女中が去ったあと。二人は時間の許す限りその本に熱中し、そして眠りについた。
少し開けてある窓からは人工の風では絶対に得られない清涼な風が、そして鈴虫の音色が2人の眠りをさらに深いものへと誘った。
「・・・さん、ライスさん」
「ん、カフェちゃん?どうしたの・・・ふぁあ」
まだ日も上がらぬ時刻、ライスを起こすカフェ。昨日見ていた詩集のあるページをライスに渡すと
「・・・今から、見に行きませんか?」
「見に行く、このページの景色を・・・う、うん!とってもいいと思う」
カフェから渡されたページを読みすぐさま準備に取りかかる2人。先程までの眠気はすでに吹き飛んでいた。
「あら、お早いお出掛けで」
「あ、あの、すみません。この詩にかかれているような景色を見れるところありませんか?」
「この詩・・・ああでしたら、ぴったりのところがありますよ。
あ、でもここからだとどう頑張っても、30分はかかりますよ・・・今からだと」
「ここですね。ありがとうございます。いこうカフェちゃん」
「・・・ありがとうございます」
「あ、お客さん今からじゃ人の足だと30分はかかるっていったのに・・・」
女中さんから教えられたその場所は、旅館から約8Km離れた場所にある。{人}の足では確かに30分・・・いやそれ以上かかるであろう。しかし、彼女達は{馬娘}それも長距離馬である。
彼女たちにとっては、わけのないことであった。
十分に余裕をもってその場所にたどり着く。
そこには、映画のセットであろうか?
時代劇に出てきそうな障子張りの入り口に茅葺き屋根という昔風民家が何軒も建っていた。
夜が明け民家の障子に眩しいばかりの太陽の光が降り注ぐ。その光景を詩集の言葉と見返しながら呟いた
「・・・この詩と一緒」
「ほんとだねー。起こしてくれてありがとうカフェちゃん」
二人が開いているページそこには、こう記されていた
夜があけかかると
暗い家の中に
まづしろばんでくる障子は
なんといふなつかしいものであらう
またなんといふうれしものであらう
しづかな夜あけの障子には
神様がおいでになるといふ
夜があけかかり
暗い家の中に
まづひとところから大雪渓のやうに
しろばんでくる障子は
なんといふうれしいものであらう
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興奮覚めやまぬままに、2人は宿に戻り朝食をとる
朝の献立はつぎのごとくだった。
鰆の味噌漬。
とろろ芋。
温泉卵と蕎麦。
わさび漬けと山牛蒡の味噌漬。
味噌汁。
そして、土鍋で炊いたご飯
夕食と比較するとやはり寂しいものは感じられる。
しかし、熱いものは熱いうちに。冷たいものは冷たいうち。に出される旅館の配慮があるのだからやはりうまくないわけがなかった。
こうして、1宿2日の彼女達のお出掛けは終わりを迎える。
がらりとした車内、車窓からはひたすらに続く田園の景色。列車の走行音
夢の中へ旅立っていく彼女たちを載せ、ワンマン列車は帰路を進む
*今回の物語導入部分は「青空の街」という小説からいただいております。
興味を持ったかたは是非ご一読を
土日で下記ためたストックが尽きたため、暫く更新を停止致します
また、土日である程度下記ためられれば、再開予定です