《メイクデビュー》ウマ娘達にとって、最も輝かしき始まりのレース。同時に挫折し、失意のままターフを去ることになる試練となるレース。そのレースのタイタンの番が回ってきた。
天候は晴れ、バ場状態は良。正にレース日和である。そんな中にあって、緊張や未来への期待とは程遠く、タイタンの顔は暗かった。
「何のために走るのか?」
結局、サイサリスから問われた"走る理由"は見つけられなかった。ずっとそれだけを考えてきたにも関わらず。そのせいか、トレーニングにも集中しきれず、仕上がり具合は良いとは言えない状態だ。
こんなことになったのはチームに入ってからだ。皆が持つ情熱が自身の情熱を惑わせる。
何も持っていない空の自分。メジロに仕える以外知らなかった。だから、"走る事が好きなお前に環境を与えよう。"等と言われた時には喜びよりも、怒りと困惑があったはずだ。だから、結果を出して見返したかった。誰からも期待などされていなかったから。
「タイタン入るぞ。」
思考の海に潜り込み、レースから意識が外れていたところに控え室に入ってくる者がいる。サイサリスだ。
「しけた面してんなぁ。レース前だぞ?」
「すいません…。」
「すいませんってなぁ…。まだ、迷ってんのか?」
「ええ…、はい。」
「はぁ…、まぁしょうがねぇか…。タイタン。まずはレースに勝つ事だけ考えろ。」
「それは…、」
「良いか?レースは目の前だ。ここを勝たなきゃ始まることすら出来ねぇんだ。未勝利戦があるなんて考えは間違ってる。始まりからしてずっこけてちゃG1どころかG3だって届かない。お前の目標は盾二つだろ?」
「はい。」
「ならすべき事はクロスレーンに勝つ事だ。」
と、そこでドアがノックされる。
タイタンがどうぞと言えばレーススタッフで、パドックへ出る時間だとの事だ。
「熱くなりすぎちまったな。」
ばつが悪そうにサイサリスが肩をすくめる。
「まぁ、良い。タイタンよぉ。とにかく走る事だ。私達に出来ることはそれ以外無いんだ。いってこい!」
何かを言い返すこともさせて貰えず、肩を押して控え室を追い出されたタイタンはパドックへ歩くしかなかった。
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「これで良かったのかよ?トレーナー。」
タイタンを送り出し、一人になった部屋でサイサリスはここにいないトレーナーに問いかける。浦木トレーナーはデンドロビウムの方へ着いていった。
タイタンのメンタルに問題がある事が浮き彫りになった時点で、トレーナーはサイサリスを専任でタイタンのメンタルケアに当てた。
いわく、"走る目的というウマ娘の根幹は結局、同じウマ娘しか共有出来ない。"らしい。そして、チームの中で適任なのはサイサリスなのだとも。トレーナーからそう言われてしまっては従うしかない。
それでもサイサリスはここにトレーナーがいてくれたらと思わずにいられなかった。言っている事は間違っていない。だが、指導者であるトレーナーとの絆が大事なのだ。ウマ娘は誰かの"想い"を乗せて走る。自身の想い、家族の想い、友人達の想い。そしてトレーナーの想い。それらに貴賤は無い。無いのだが、それでもウマ娘としてはトレーナーからの期待が有るのと無いのでは、レースに懸ける想いの重さが変わってくる。少なくともサイサリスはそう考えている。
いずれにせよ、賽は投げられてしまった。後は応援してやる事しか出来ない。サイサリスは観客席へ足を向けた。
レースが始まる。
まずは完走します。
改稿はその後ですかねぇ。
メイクデビューレースは次話に持ち越しです。