ゼムリア大陸のとある場所。
新興勢力ながら実力者を有する組織“身喰らう蛇”の拠点がある。本格的な行動は起こさずに戦力強化に努める一方で一部の構成員は盟主の指示のもと水面下で動きを見せていた。その隠密性は遊撃士協会や七耀教会の監視の目を掻い潜る性能ぶりで、当面は本格的に動くような目立った計画はなしとされていた。
しかし、その計画は一転した。原因は水面下でとある組織との衝突にあった。
「月光木馬團……。確か暗殺を主とした組織でしたか?」
拠点で稽古を励んでいた俺は休憩の合間に手合いの相手をしてくれていた男、レオンハルトから情報を伝えられた。
「ああ。暗黒時代から続く歴史ある組織だとされている。その歴史が脚光を浴びることはないだろうがな」
「それはお互い様でしょう。俺たちの計画も正義とは程遠いです」
「………少し話が逸れてしまったな。その月光木馬團だが相当の手練れらしくてな、近々、俺やお前にも命令が降りるだろう」
レオンハルトは命令と言っているが、執行者である彼に対しては強制力が働かない。あらゆる自由が認められているのが執行者の利便性と言ってもいいだろう。この男、レオンハルトに置いては余程のことでなければ不参加を表明することはない超絶に真面目な気質である。
一方で俺は執行者ではなく、第七柱を担うアリアンロード直轄の部下である。主人が命令を下せば、それに従い任務を全うするのみ。
休憩も一段落して稽古の続きを再開しようとした矢先、新たな来客者の姿を確認した俺は即座に姿勢を正して頭を垂らした。
「頭を上げなさい、フレン。どうやらレオンハルトとの手合いは充実しているようですね」
「手合いの相手としては贅沢すぎるとは思いますが、ありがたいことです」
「ふっ、それはこちらとしても同じことだ。お前のおかげで充実した日々を送れている」
「お互いその佳き関係を今後も続け、絶やさないようにしなさい」
互いが認め合うよ会話を済ませたところでアリアンロードは本題に入った。
「現在、我々がとある組織と衝突していることは?」
「今しがたレオンハルトから聞きました。何でも月光木馬團だとか」
「ええ。その対処ですが、盟主殿から指示がおりました。壊滅させよ、とのことです」
「それはまた───」
珍しく過激な指示だと思ったことは心の奥にしまう。戦力強化に努める方針が出されて久しく、戦場から離れすぎていたことで些か牙が丸まっていたようだ。
「壊滅の方針を決断なされたところで盟主殿は月光木馬團に席を置く三人の名前を上げられました。それらは使命が約束された者たちだそうです。その真意は図れるところではありませんが、生かして捕らえるべきでしょう」
アリアンロードが視線を預けてくる。
「フレン、貴方にはその一人を任せます。名はクルーガー。菫色の髪をした幼き少女だそうですが、かなり手練れだと聞いております。ぬかることなく使命を完遂させなさい」
「YESマスター」
了解の意を伝えた俺はレオンハルトに声をかけた。
「そういうことだ。手合いは中途半端な形になってしまってすまないな。この埋め合わせは後日するよ」
謝罪と埋め合わせの意思を伝えた俺は二人に頭を下げたのち、任務の準備のためその場を後にした。
アリアンロードとレオンハルトはその背を見送ったのち、会話を続ける。
「彼が心配か?」
「私の騎士に限って失敗はありません」
アリアンロードの強気な発言に「なるほど」と呟き、頷いたレオンハルトは愛剣をその手に握る。
「では、俺は友人が少しでも楽に戦えるよう攪乱役にも努めるとしよう」
「ふふふ、よろしくお願いします」
去っていくレオンハルトの背越しに伝える。
「二人の関係が今後も続くことをせつに願うばかりですね」
ただ一人、心の声を独白するのだった。