鋼の騎士の軌跡   作:Yukiharu

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第三話

人の運命は生まれた環境によって決まる。

果たして誰の言葉だっただろうか?

團員の誰かが言ったのか、或いは、暗殺した標的が残した死際の言葉だったかもしれない。

 

正直なところそんなことはどっちでも構わない。考えたところで環境が変化するわけでもない。知ったところで自身の運命を見透せるわけでもない。

 

何より私、クルーガーはそんな思考を持ち合わせていない。

 

暗殺と暗闇と(クルーガー)が私の全てだ。組織の命令に従って標的を葬る毎日を繰り返す機械的な人生。そこに不満もなければ、そんな運命を呪うこともない。この機械的な人生を苦に思うこともない。淡々と日常が去り、時間が経過して歳を重ね、老いてこの世を去っていく。そんな確証のない人生を送っていくのだと漠然と思っていた。

 

日常に綻びが生まれたのはとある組織の存在だった。

結社〝身喰らう蛇〟。新興組織ながら強者が揃う謎多き組織だ。

 

とある任務の末に両組織の間に(ひび)が生じた。小さな罅は次第にその傷を広げて、いつしか修復不可能な大きさにまで拡大していた。そうなれば起きることはただひとつで、どちらかの組織が壊滅するまでの抗争が勃発した。

 

開戦当初の月光木馬團には余裕があった。それは暗黒時代から続く暗殺組織の歴史からくるものだった。加えて〝千の破壊者〟に〝黄金蝶〟に〝告死戦域〟といった幹部たちの存在が余裕を増長させる。事実、幹部たちは相当の手練れが集まっていた。だから團員たちの余裕も、それが油断となってしまったことも咎められない。

 

今回ばかりは相手が悪かった。新興組織などと嘗めてかかるべき相手ではなかった。

〝劫炎〟に〝鋼の聖女〟に〝剣帝〟。そして私の目の前に立ち塞がる男〝鋼の騎士〟。人の域を超越した面々に組織は瞬く間に破滅の一途を辿っていくのだった。

 

            ◇

 

投擲した馬上槍は無数の鋼糸によって軌道を変えられた。矛先は廃ビルに刺さる。

 

「これで武器を一つ──!?」

 

失った、という言葉をクルーガーは続けることができなかった。武器どころかその持ち主の姿さえ見失ってしまったのだ。一体どこに、そんな疑問は背後からあっさりやってきた。後ろを振り返れば廃ビルに刺さる馬上槍の上にフレンが立っていた。

 

「その若さでそこまで至るとは見事なものだな。無数の鋼糸を巧みに操って剛と柔を使いこなす。相当な鍛練を積んできたのだろう」

 

称賛の声を送った。何一つ穢れのない素直な気持ちから出たものだ。だからこそ俺は彼女に示さなければいけない。どれだけ実力があっても、どれだけ死線を乗り越えてきたとしても、そこに覚悟と意思がなければ真の意味で強者にはなれないのだと。

 

「示そう。これが強者と呼ばれる者の力の一端だ」

 

馬上槍から降りて空間に張り巡らされた一本の鋼糸の上に着地した。ビルに刺さる馬上槍を引き抜いて手の内で数度、回転させてから先端をクルーガーに突きつけた。

 

「第七柱“鋼の聖女”直轄部隊“鉄機隊”副長“鋼の騎士”フレン=レクトール、参る!」

 

空気の破裂音が静寂の夜に鳴った。またしてもクルーガーはフレンの姿を見失ったのと同時に腹に重たい衝撃が入った。完全なる無防備からの一撃はクルーガーの小柄な体躯を容易く吹き飛ばした。背中から地上に叩きつけられると、勢いのまま地面を削っていく。

 

追撃を仕掛ける。

 

「我は矛にして盾。鋼の名の下に全ての壁を断ち切ろう。絶技“グランドクロス”」

 

二つの竜巻がクルーガーを巻き込み上げていくと、投影された十字架に磔られる。そこを狙って馬上槍による一撃を与えていく。そこには確かな十字架が投影されていた。

 

Sクラフトによって生まれた爆風で巻き上がった土埃が薄れると、地上に倒れるクルーガーの姿があった。首筋に指を当てて脈をはかる。少し弱まっているが命に関わることはない。盟主から捕縛の指示を受けていた俺は問題なく任務をこなせたことに安堵の息を漏らした。

 

「後は連れて帰るだけよっ、と!』

 

クルーガーを背に担ぐ。戦闘能力こそ年齢不相応だったが、小柄な体躯は年相応な軽さだった。

 

 

 

 

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