月光木馬團との抗争は身喰らう蛇が完全勝利という形で決着した。大半の團員が戦死。生存者は希望する形で結社の構成員として吸収された。そして盟主によって捕獲を命じられていた〝千の破壊者〟〝黄金蝶〟〝告死戦域〟はそれぞれ立場を与えられる
千の破壊者には使徒第五柱を。黄金蝶には執行者No.Ⅲ、告死戦域にはNo.Ⅸをそれぞれ与えられたわけだ。何故この三人が選ばれたのかは分からないが、彼ら彼女たちでなければ務めることのできない何かがあるのだろう。
俺自身そのことを深く追求するつもりもなければ思考をすることもない。そう考えてもその先に進もうとしないのは、つまり俺はそこに至る役目がないということだ。
それよりも今はマスターに呼び出されたことの方が気になる。月光木馬團との抗争以降は帝国とその各地で起きている事件や事故の情報集めに大陸各地を駆け回っていた。その命令を与えてきたのはマスターと盟主。そのため仕事量が半端なくて過労死するのではないかと思った矢先にマスターからの召集がかかったわけだ。
「にて、何か問題ごとですか?」
マスターでも解決に難儀しているとなれば相当に厄介な案件である。そう思うと自然と肩に力が入ってしまう。
「そう力を入れる必要はありません。呼び出しのは彼女たちを紹介するためです」
「彼女たちとは、そのそとで待っている三人のことでよろしいですか?」
「気づいていましたか。……いえ、貴方の前では当然のことでしたね。貴女たち入ってきなさい」
マスターの言葉に導かれるように三人の女性が入室してきた。そのうちの一人は俺が任務中にマスターが見いだした辺境の娘ことデュバリィだ。そして他の二人、そのうちの一人には見覚えがあった。
「君は確かD∴G教団の………」
「エンネアです。あの節はお世話になりました」
「どうやら生きる道を選んだみたいだな。その選択が君にとって幸であることを願うよ」
「ありがとうございます」
エンネアは優しい笑顔を浮かべた。それは度重なる実験の末に感情を壊していた当初の頃からは考えらなれいもので、マスターと俺が与えた選択肢が少しでも良い形で影響を与えている何よりの証拠だ。そのことを知れて心底安堵した。
「そして君は初めましてだね。アリアンロード様の腹心で一応は通っているフレン=レクトールだ」
「レクトール殿の噂はかねがね。自分のことはアイネス、と。一武人として貴方と出会えたことを嬉しく思います」
「そう畏る必要はないさ。それに俺もまだまだ未熟者。修行中の身であるのは君と同じさ。もちろんそれはそこにいるちびっ子もな」
「だ、誰がちびっ子ですか⁉︎」
「冗談だ、冗談。少し会わないうちにまた一段と腕を上げたみたいだな。これもマスターの薫陶の賜物ですね」
「彼女の努力あってこそでしょう。デュバリィ、ここまで良く頑張りましたね」
「ま、マスター………」
デュバリィは恍惚とした表情を浮かべながら喜びを見せる。崇拝してやまないマスター直々にお褒めの言葉を貰えたのだから彼女の気持ちもよく分かる。
「今の貴方ならば鉄機隊の筆頭隊士としてやっていけるでしょう」
「わ、私がですか⁉︎」
「もちろん隊単位で動くならば副長であるフレンに指揮は任せますが、彼は多忙の身。常に貴方たちと行動を共に出来るわけではありません。そうなれば筆頭たる人物が必要となるでしょう。筆頭隊士の任、就いてくれますね?」
デュバリィは即答できず、何かに縋る子犬のような可愛らしい瞳を俺に向けてきた。
「初めてのことで不安は強いと思うがお前の傍にはマスターはもちろん、俺やアイネス、エンネアもいる。筆頭隊士だからといって一人で全てを抱える必要はない。困ったことがあれば相談しろ? そうして隊を円滑に進めるのも能力の一つだ」
「………そうですわね。マスター、筆頭隊士の人を拝命させていただきます」
マスターに面を向けて筆頭隊士を拝命したデュバリィの瞳には先程までの不安は何一つ感じられなかった。これで彼女はまた一つ殻を破った形になる。デュバリィだけではなく、アイネスとエンネアも、今後どう成長していくのだろうか?
彼女たちを見る目がまるで親のようだな、と気づいた俺は心の中で小さく笑うのだった。