オルフェウス最終計画、その完遂こそが結社の目的であり、我々の使命でもある。
とまあ、固く言えばそうなるが、実働部隊である執行者にはありとあらゆる自由が許されているなど、至りつくせりな優遇ぶりである。使徒に至っては盟主様に絶対的忠誠を誓ってるために計画の参加を断る理由ない。
そこでだ、使徒でも執行者でもない俺は果たしてどの程度の権利が与えられているのだろうか?
能力を買われて盟主様からの依頼をこなす立場にはあっても立ち位置が変わるわけではい。過去も今も、そして未来も、俺は鉄機隊の副長としてリアンヌ様に従っていることだろう。
「ゆえに、貴方に俺を動かす権利は微塵もないと思うのだが、いかがだろうか?」
「それは困ったな。君がいなければ私がたてた計画が完璧にならない」
困った表情など一切見せることなくその男、第三柱の白面は言った。表と裏の顔がはっきりした性格を持つ上に外道。いわゆる嫌われ者ではあるが、実力と立場は確かなものだ。
「すでにレーヴェは王国の軍部に潜り込み、帝国ではクルーガーたちが遊撃士を妨害してる。解決の為に剣聖が駆り出されるだろう。そして輝く環の扉を開けば怪盗紳士たちも動くと聞いている。そこに俺まで加われば過剰戦力だ」
剣聖カシウス・ブライトさえリーベル王国から離せればこの計画は完遂できる。その手筈は整っているし、そこに抜け目を作らないのが白面という男だ。
「戦力が多いことに越したことはないと思うが?」
にやついた笑顔が苛立たせる。それこそが白面の狙いであり、思う壺になってしまう。だから平常心を保つ。仮にも鉄機隊の副長。この程度で感情を揺さぶられる恥は晒さない。
「戦力が多いということは同時にそれだけ目立つということだ。せっかく国外に退去させられた剣聖が戻ってくることになるぞ?」
「……ふむ、それは困るね。仕方ない、今回ばかりは諦めることとしよう」
白面はあっさりと手を引いた。元より強引に勧誘するつもりはなかったのだろう。だからこのやり取りは単なる戯れ。白面の心を満たすためだけの稚拙な遊びだ。
満足した様子で踵を返した白面の背を見送り、それから間もなくして別の人物が姿を現した。焔のように赤い服を着こなし、大きく開いた胸元からは肌が露出している。
「相変わらず面倒な奴だな、あれは」
「面倒とう意味ではあんたも十分に面倒な相手だが、マクバーン」
「おいおい、あれと一緒にされるのは流石に心外だぞ」
「俺から言わせれば似たようなものだ。今もどうせレーヴェがいないから代わりに相手をしろって言いに来たんだろ?」
「かはは! 話が早くて助かる。んじゃあ、さっさと行くぞ」
嬉々とした表情を浮かべたマクバーンは俺の腕を掴むなり引きずっていく。どいつもこいつもこちらの返事を無視して話を進めていく。ありとあらゆる自由に加えて一癖も二癖もある執行者に、有無を言わせない実力と、これもまたやはり癖のある使徒。これで組織と成立しているのだから末恐ろしい。それらを纏める盟主もまた未知ときた。彼女が成そうしている計画の先に何があるかは分からないが、
「まあ、俺には関係ないか」
興味はある。だがその範疇から先に行くことはない。想像の中でも現実の中でも、だ。それでも職務を全うするのはただ一つ。
「リアンヌ嬢によって導かれ昇華し、あるべき枷を外した貴方だからこそ導ける使命なのです」
盟主直々に伝えられた自分だけの使命。カンパネルラやマクバーンのような数字持ちに与えられた使命とも違う己の使命。それこそがリアンヌ様に捧げる忠誠の本懐なのだと理解した。その為だけに俺は今を歩くのだと。