白面のワイスマン。
使徒第三柱に立つ男。人の認知と記憶を操作する能力で暗示をかけ、内部から様々な形で破壊していく陰湿な戦法を好む。福音計画の下準備として一人の執行者が彼の餌食となり、今現在はリベール王国で暮らしている。その目的は剣聖カシウス=ブライトの動きを把握するためであり、その目論みは上手いこといった。
しかしながら、目論見が上手く行ったからといって必ずしもこちらの思い通りに事が運ぶわけではない。
エレボニア帝国で起きた遊撃士協会の襲撃。襲撃したのはクルーガーとカンパネルラの強化猟兵だ。目的も相手も謎に包まれた事件解決の為にカシウスが派遣され、それこそがワイスマンの目的だった。しかしかながら事態は白面の予想を上回る。
執行者であるクルーガーと渡り合える遊撃士がいたこと。最年少A級遊撃士〝紫雷〟サラ=バレスタイン、その人である。お互いに足止めされる形となり、その他の遊撃士を強化猟兵で相手することになったわけだが、流石に実力差があり次第に押し込まれていく。そこにカシウスが加わり、予定よりも早い段階で鎮圧されていく。
この報せを聞いたワイスマンは血相をかき、とある人物に二度目の応援要請をかけた。その様子は一度目の時とは考えられない必死さに溢れていた。
「あい、わかった。その応援を引き受けるとしよう」
応援要請の連絡を受けた俺、フレン=レクトールは重たい腰を上げた。福音計画遂行の為とはいえ、これから剣聖を相手しにいくのだ、否応にも腰が重たくなるというものさ。
「それでは、行って参ります、マスター」
「貴方のことですから大丈夫だとは思いますが、心してかかりなさい。相手は八葉にして剣聖。人の域を越えた者です。一つの油断が命取りになるでしょう」
「承知しています」
短い返事だけを残して俺は現場に直行した。俺がいなくなった場所ではアリアンロードと鉄機隊の三人が取り残される形となっていた。三人の顔からは不安の表情が見て窺えた。
「フレンが心配ですか?」
「……はい。相手は名高き剣聖。副長の強さは承知していますが……」
「カシウス=ブライト。直接得物を交えたわけではありませんが、まごうことなき強者であることは確かでしょう。しかし、それはフレンにも言えることです。そして何より武の道を歩くのならば八葉の者との邂逅は避けられませよ」
武の道を歩くのならば八葉の者と出逢う。武の世界を生きると決めた者たちならば誰しもが知る言葉だ。それだけ八葉の使い手たちは強敵揃いとも言える。
「ここで心配したところで何かを成せるわけではありません。今はただフレンを信じなさい。それ叶わぬなら彼を助けられるだけの力をつけるといいでしょう」
それは蕀の道を歩くよりも尚難しく辛いことである、とアリアンロードは言わなかった。目の前に立つ三人もまたフレンと同じ境地へと至れるだけの素質を持っていると信じているからだ。
「休憩もここまでとしましょう。稽古に戻ります」
「イエス、マスター!」
胸中には未だ拭えない不安はあるものの、フレンを信じ、いつか頼られるだけの存在になるのだと、決意と覚悟を胸にデュバリィたち三人の戦乙女は敬愛するマスターに挑むのだった。