鋼の騎士の軌跡   作:Yukiharu

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第七話

深く濃い紺色の空の下を男が駆ける。夜空に浮かぶ月は雲に遮られていて地上を照らす月明かりが弱い。完全に舗装されているとは言い難い足場が続き、視界の悪さが自然と体力を奪う。そんな悪環境の中でも男の息遣いは安定している。

 

駆ける男はカシウス=ブライト。世間には秘匿されている階級(S)のランクを持つ遊撃士である。武の世界では剣聖の渾名の方が有名だろう。退役して遊撃士となってからは剣を置いて棒術を扱うようになったが、その実力は変わらぬ健在ぶりである。寧ろ遊撃士として大陸各地を周って様々な経験を積んだことでより強くなったと言ってもいい。

 

何より恐ろしいの頭のキレである。リベール王国とエレボニア帝国の間に勃発した戦争『百日戦役』の際に指揮を執り、圧倒的な戦力差と劣勢の戦況を覆した知略はまさに稀代の戦略家と言える。そこには彼が修める流派『八葉一刀流』で習得する観の眼と、免許皆伝に至ることで到着する理が影響してると考えられるが、その辺りは当人を除いて真に理解できる者はいないだろう。

 

それほどの大物が街道を駆けているのは勘に囁くものがあったからだ。謎の組織による帝国遊撃士協会の襲撃を間もなくして鎮圧できる寸前のことだった。この違和感を放置することはできない、そう囁く勘に従った。とはいえ完全に襲撃を鎮圧出来たわけではないため彼は単独行動に入った。

 

そして、その勘は的中していた。

 

違和感の正体がカシウスの前に姿を現した。先程まで月を隠していた分厚い雲が嘘のように晴れていき、月光が地上を照らす。まるで月の使者のように月光を一身に浴びるその影は少しずつ、しかし確実に正体を露にした。

 

顔の上半分から右頬に伸びた仮面に素顔を覆い隠す騎士鎧を纏う者がいた。

 

 

晴れて行く雲の隙間を覗くように月を見上げていると圧倒的な気配が止まった。カシウスを帝都から遠ざける目的はこれで果たした。後は出来るだけ時間稼ぎをするわけだが、剣聖相手にそれが一番難しい。

 

仮面越しにカシウスと対面する。

 

「……雲が晴れて月が綺麗に出てきましたね。こんな夜は月見に洒落こみたいとは思いませんか?」

 

「ふむ……それは魅力的な話ではあるが、叶えば綺麗な女性と楽しみたいものだな」

 

「そんなことを言ってると天国におられる奥様に怒られてしまいますよ?」

 

「ははは! この程度で怒るような器量の狭さではないさ、レナは」

 

「ふふふ、貴方にそこまで言わせるとは……お逢いしてみたかったことです。もう叶わぬのが残念です」

 

軽口を叩く二人。だが刻々と時間が経過するたびに緊張感は強くなっていく。それは極限に至ろうとして、カシウスは口火を切るように口を開いた。

 

「………貴殿は何者だ?」

 

「……はて、何者でしょうか? ここで名乗るのも吝かではありませんが、せっかくですからゲームをしましょう」

 

「ゲーム?」

 

「簡単なものです。貴方が勝てば俺は名乗る、というものです」

 

「では、君が勝てば?」

 

「…………そうですね、ヨシュアのことをこれからも見守って欲しいとお願いすることにします」

 

「そうか君はー―ー」

 

「おっとそれ以上は無しですよ? それではゲームではなくなりますから」

 

「ああ、そうだな。俺としたことが無粋なことをしようとしていたようだ!」

 

まるで初めから打ち合わせしていたかのようにお互いが同時に得物を衝突させた。

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