仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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最近、三次創作にハマってます。


千年解放編
第一夜 巡りあう二人


 私が見せるのは蝶の夢。

 美しい蝶の夢。

 呪いに縛られた血脈の夢。

 夢を見ている者は私から見たらまだ蛹にもなっていないようなもの。

 果たして、羽化する時は来るのか。

 長い歴史の中で私はずっと待ち焦がれている。

 呪いも、血も。全てを振り切り、蛹を破り、その羽を広げて翔ぶ者の到来を。

 空を翔ける瞬間を。

 

 私は、待ち焦がれている。

 

 

 

 

 

 

 

 とある山の中を軽トラックが一台走っていた。

 車がギリギリ二台通れるかどうかという道であるが走っているのはこの一台のみなので少々荒い運転をしている。

 そんな軽トラックに向かって、数本の木が倒れて……。

 

 その様子を眺める謎の存在がいた。

 謎の黒い靄のようなものがかかった人影。

 けたけたと笑った謎の影は人知れずその場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 長い冬が終わり、春が来たという。

 しかし、私からすればまだこの肌寒さは冬だろうと言いたくなる。

 お父さんが家業を継ぐため、実家のある岩手に引っ越した。

 家の周りは山、山、山、山。そして海。

 山しかない。

 東京にいた時との差がすごい。

 都会と自然。

 私は、ここでやっていけるのだろうか?

 そんな不安を胸に抱いたまま、新たな学舎の門をくぐった、のだが……。

 

「綺麗……」

 

 一人の女子生徒に目が釘付けになった。

 同性すらも、魅了するほどの美しさ。

 思わず、胸が高鳴ったほど。

 小柄ではあるが、すらりとした佇まい。さらりと伸びた赤みを帯びた黒いの髪。

 まるで、花のよう。

 

「……?」

「!?」

 

 目が、合ってしまった。

 赤い、宝石のような目と。

 そして、彼女は私に微笑みかけて……。

 

「ヤバい。惚れる」

 

 

 

 

 

 

 そんなことを呟いてしまったわけだが、先ほどの彼女と……隣の席になってしまった。

 こんな偶然って、果たしてあるのだろうか。

 変に緊張してしまっている自分。

 隣の彼女は窓の外を眺めている。

 差し込む日光に照らされた髪は乱れなく、艶もあって本当に綺麗だ。

 クラスの喧騒に割って入る自信なんてない。

 高校一年。

 田舎ということもあり生徒の数は少ない。

 ともなれば既に構築された友人関係というものは固いもので私なんかがその輪に入るようなことは出来ない。

 

「どうか、しました?」

「えっ……。えっ!」

 

 その声が私に向けられたものであると気付くのに一拍必要だった。

 そして、その声の主というのは隣の彼女で……。

 

「ごめんなさい。急に話しかけてしまって、驚かせてしまいましたか?」

「い、いえ……」

「いつも、そうなんです。普段、あまり喋らないので、人に話しかけると驚かれてしまって……」

 

 な、なるほど……。

 神秘的な雰囲気も相まって驚かれてしまうのだろう。

 それにしてもゆったりと話すなぁ。

 

「それで、その。私に何の用ですか?」

「そんなに畏まらないでください。クラスメイトですし、隣の席同士、仲良くしてくださいませ」

「あ、ありがとうございます! えっと私、加藤咲希(かとうさき)って言います! 東京から引っ越してきて……ええと……」

「ふふ……。焦らなくても大丈夫です。私は、夜舞薫(よまいかおる)。生まれも育ちもこの町です」

 

 なんと!

 失礼だが、こんな田舎でこんな美少女が生まれるのかと思ってしまった。

 しかし以前兄から借りて読んだ本には『英雄は田舎で生まれる』と書いてあったのでもしかしたら美人も田舎で生まれるのかもしれない。

 ゆくゆくは東京に進出するのかも……。

 いや、この逸材は今すぐ上京すべきではないだろうか。

 

「加藤さんはどうして、東京から引っ越してきたのですか?」

「ええっと……。お父さんが実家継ぐからそれで……」

「そうでしたか。……もしかして、亀ヶ沢の加藤さん? 民宿を営んでらっしゃる」

 

 どうして分かったの……。

 まさか超能力でもあるのだろうか夜舞さんは……。

 

「最近東京から引っ越してきたと話を聞いたのが亀ヶ沢の加藤さんだけだったので」

「そ、そうなんだ……」

 

 これが田舎ネットワーク……。

 何かやらかそうものならすぐに町中に広がるというあの。

 これはヤバい。

 何もやらかさないようにしないと……。

 

「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですから。なんでもかんでも筒抜けってわけじゃないですし。話題になるのも大きなことだけですし。ほら、田舎は都会と違って話題に乏しいので……。話すことがないのです……」

「なるほど……」

「だからきっと加藤さんも……」 

 

 意味深な笑みを浮かべながらそんなことを言う夜舞さんだったがその意味は後々(と言ってもすぐにだが)理解することになる。

 自己紹介で東京から引っ越してきたことを言ったら次の休み時間は質問攻めにあったのである。

 

 

 

 

 

 学校も終わり、家に帰るともう夕飯の時間。

 お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんと弟の啓太の五人は既に食べ始めていた。

 私もお腹が空いていたので、まず部屋着に着替えてから食卓に混ざると早速学校はどうだったかという話題に。

 

「友達は出来ましたか?」

 

 おばあちゃんが笑顔で訊ねてきた。

 友達は何人か出来た。

 波長の合う人達がいてくれてよかったがなによりまずは夜舞さんを紹介すべきだろう。

 

「うん。夜舞さんってすっごい美人なの。夜に舞うって書くんだけど珍しい名字だよね」

「姉ちゃんとそんな美人な人が友達か~。月とスッポンだ!」

「うっさい」

 

 弟の減らず口はこの頃ますます増えてきた。

 昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんって可愛かったのになぁ。

 

「名字もカッコよくて美人で~って出来すぎねぇ。オーディションに応募してみたら? ほら、よくあるじゃない。友達が応募して~ってやつ。あんたそれになれるわよ」

「えー本当にやっちゃおうかな~」

 

 母が冗談めかして言うが全然いけると思う。

 青春の一ページ的な感じで夜舞さんを言いくるめれば……。

 

「あれ、どうしたのおばあちゃん?」

 

 話を振ってきたおばあちゃんからのリアクションがない。

 何かあってもいいと思うんだけど。

 

「咲希ちゃん。くれぐれもその娘に変なことしちゃ駄目ですよ」

 

 さっきまでの笑顔とは真逆の真面目な顔でおばあちゃんが言った。

 

「しないよ変なことなんて~。ていうかそんなことしようと思えないっていうか、大事にしなきゃって感じがするし」

「ならいいけども」

 

 ?

 一体どうしてそんなことを言ったのだろうか?

 その意味が私にはいまいち分からなかった。

 

「ねえ、夜舞さんって何かあるの?」

 

 お母さんが訊ねると、これまで黙っていたおじいちゃんが口を開いた。

 

「夜舞さんって家は、この辺りで一番古くて土地持ちでな。ここに人が住めるのは夜舞さんがいるからってんで、みんな頭が上がんねぇのさ」

「なんでここに住めるのが夜舞さんのおかげなの?」

「昔、この辺りは痩せた土地で水もないようなところだったんだけどぉ、夜舞さんのご先祖様がここに来てからは作物も育つし、井戸掘れば水も出るようになったって言われててなぁ。おらもばあちゃんからしょっちゅうこの話聞かされて育ったんだ」

「俺はそれをじいちゃんに何回も聞かされて育った」

「ここに住む以上は知らなきゃいけねぇ話だからよ」

「へぇ……」

 

 ……あまり、実感はないけれどとにかく夜舞さんのご先祖様はすごいって話か。

 けど昔の話だしなぁ。

 夜舞さん本人はなんとも思ってなさそうだけど。

 

「だから、オーディションとかそういうのも言わねぇ方がいい」

「え、なんで」

「夜舞さんの娘さんは一人っ子って聞いたからさ。家を継ぐのもその娘さんなんだべ」

「夜舞さん、お家を継がなきゃいけないの? お父さんみたいに?」

「うちなんかとは比べもんにならねえ。別に継がれなくたってうちは構わねえけども、夜舞さんとこは絶対に後を継いでいかなきゃなんねえんだ」

 

 うちは継がれなくたって構わないという言葉にお父さんがピクリと反応したが今はいいだろう。

 絶対に、継がれなくてはいけないもの。

 それは、一体なんなのだろうか?

 

「夏の祭で夜舞神楽をやんなきゃいけねえからよ」

「夜舞、神楽?」

 

 神楽っていうとお祭りの時に踊るやつで……。

 

「え、そんなこと?」

 

 ふと出た言葉。

 いや、普通にみんなそう言うと思う。

 だって、ただの踊りだし。

 必ずしも夜舞さんがやらなきゃいけないというものでもないと思うし。

 しかし、今の言葉が場の空気を張り詰めさせた。

 嫌な緊張感。

 なにか、やらかしてしまっただろうか……。

 沈黙は重く、長かった。

 

「……今の人には分からねえか」

 

 そう言うと、おじいちゃんは夕飯のおかずもまだ残っているというのに部屋を出ていってしまった。

 

「あの……」

「気にすんな咲希ちゃん。多分、言っても分からないだろうから」

 

 言っても、分からない。

 その言葉が胸に重くのし掛かった。

 一体、なんだというのだろう……。

 

 

 翌朝。

 朝ごはんを食べ終え、学校に向かおうとするとおばあちゃんに呼び止められた。

 

「咲希ちゃん。最近はよく木が倒れてくるって言うから気ぃ付けて歩けぇ」

「木が、倒れてくる?」

「じいちゃんの同級生の佐々木さんって人がこの間軽トラで山走ってたら木が倒れてきて下敷きになったりしたし、他にもそういう話があるっけぇに注意して歩いてください」

 

 いまいち、よくは分からなかったのだけど歩いていていきなり木が倒れてきたらそれは危ないだろう。  

 まあ、そう出くわしはしないだろうから大丈夫だとは思うけれど。

 とりあえずおばあちゃんの親切心からくる忠告なので頭の隅には置いておこう。

 

 

 

 

 

 それから、一週間ほど。

 夜舞さんはクラスに馴染んでいるようで馴染んでいないようで。

 社交性はあるのだけれど、自分から積極的に誰かと関わろうとはしない。

 隣の席のよしみで私はよく話すけれども、夜舞さんが自分で言っていた通りあまり話すタイプではないという。

 そして、気になっていた一週間前の話について本人に聞こうと思っても聞けずにいた。

 聞いちゃ、いけないような気がして。

 

 

 

 

 

 放課後、夜舞さんと二人で帰っていた。

 畑と田んぼに囲まれた帰り道。

 どこかに寄って帰ろうなんてことはない。

 寄り道出来るような場所がないからだ。

 

「あー。帰りにズタバとかあればな~。寄るのになぁ。毎年この時期はいちごフラペチーノ飲むって決めてるの!」

「ズタバに寄るにはここから二時間かかります。車で」

「それは寄るって言わないんだよぉ……」

 

 車で二時間。

 県庁所在地である盛岡まで行かなければならない。

 いちごフラペチーノのために二時間、車を使ってまで移動しようとは思わない。

 そもそも、免許がない。

 

「ズタバはないですけど、電車で30分行けばマツカンビルの食堂のソフトクリームが食べれます。とても、大きいんです」

「そんなに大きいの?」

「はい。これぐらい」

 

 夜舞さんがスマホを見せてくる。

 画面に写し出されていたのは、普通のソフトクリームの何倍も背の高いソフトクリームが……。

 

「え! 普通に行きたい! 食べたい!」

「そうですね。今度、行きましょう」

「電車で30分でしょ? 今から行こうよ!」

 

 最近は日も伸びてきたのでまだ明るいうちに帰れるはず。

 

「駄目、ですよ」

 

 その声が、夜舞さんから発せられたものだと理解するのに少しかかった。

 普段は柔らかい雰囲気の夜舞さんから発せられたとは思えない、鋭く心に刺さるような感覚。

 

「夜は物騒なんです。だから、駄目です」

 

 真っ直ぐと私を見つめる瞳も、私を捕らえている。

 その言葉に従わなければならないと思わされる。

 とても長い間、夜舞さんに見つめられているかのようだった。

 しかし、急に夜舞さんの表情は同性も見惚れるような笑顔に変わった。

 

「電車も本数がないのですぐ帰れないんです。遅くなってしまうので、今日は、駄目です。今度の休みに、行きましょう」

「う、うん。そうだね……」

「東京と違って、数分おきに電車が来るわけじゃないんです。一本逃すと、次の電車を二時間は待たないと行けませんから」

「二時間!? 流石田舎……」

 

 二時間なんてよくあることと言うので更に驚く。

 ……あれ?

 なにか、ついさっきのことを忘れてしまったかもしれない……。

 

「あ、あと最近は、倒木が多いので、歩く時は気を付けてくださいね?」

「あ、それおばあちゃんからも言われた~」

 

 そうして二人で談笑しながら帰るが、何かが引っ掛かったような感じは残り続けたままだった。

 

 

 

 妙な違和感を胸に、家に帰ると何やら慌ただしい様子だった。

 

「何かあった?」

「啓太が帰って来てないの。お父さんもおじいちゃんも探しに行ってるんだけど……」

「……私も探してくる!」

「咲希!」

 

 鞄だけ置いて、家を飛び出る。

 まったくあの弟は……。

 

 

 知らなかった。

 夜が、こんなに暗いということを。

 月と星がはっきりと見えるがそれを楽しむのはまた今度。

 今は馬鹿な弟を探すのが最優先。

 名前を呼び続けるが、返事は帰ってこない。

 聞こえるのはなんのものともつかない生き物の鳴き声ぐらい。

 

「……夜って、怖いんだ」

 

 当たり前のことを呟く。 

 だけど、この当たり前を理解していなかったのだ。

 人の作った光で夜が照らされているのに慣れてしまった私からすれば、この闇は恐怖を感じるに充分過ぎるもの。

 近くの道を歩いているはずなのに、いつも歩いている道のはずなのに、怖い。

 まるで、別の世界に来てしまったかのよう。

 自分が歩いている場所が果たして自分の知っている道なのか。

 そもそも道なのか。

 スマホが照らす光は弱く、頼りにならない。

 

「充電も結構ヤバいし……。一回、帰ろうかな……」

 

 もしかしたら帰ったら啓太の馬鹿が帰ってきているかもしれないし。

 そうだ、そうしよう。

 勢いで飛び出してきてしまったけれど、一旦頭を冷やそう。

 そう思い、振り返った瞬間だった。

 何か、聞き慣れない嫌な音が聞こえる。

 だがその音は急な突風により掻き消された。

 いきなりこんな風が吹くなんて……。今日は別に風が吹いてたってわけじゃないのに……。

 そして風が止むと同時に背後で大きな音が鳴り今度はなんだと見れば二本の大きな木が重なりあうようにして倒れていて……。

 

「なに、これ……」

 

 まさか、おばあちゃんや夜舞さんが言ってた倒木に注意しろって話が本当になるなんて……。

 

『チィ……。外したか、邪魔さえなければ下敷きに出来ていたというのに』

「え……」

 

 それは、夜の中にあってハッキリと分かる『闇』であった。

 黒い靄がかった謎の影は確かに声を発したのだ。

 邪魔さえなければ、下敷きになっていた。

 つまり、こいつは私を狙って……。

 

『見たかったぞ、若い女の柔らかい肉が押し潰される瞬間を。白い肌を彩る赤い血を……!』

 

 黒い靄を払った謎の影の正体が明らかとなる。

 それは、弟がよく見ているヒーロー番組に出てくる怪人のようであった。

 いや、怪人そのもの。

 暗い緑色の体色に細身な腕と脚。だが、両腕には大きな鎌が生えていてカマキリが人型になったかのようだ。

 

『肉体も手に入ったことだ。押し潰すのではなく切り刻んで殺してやろう、女』 

「ひっ……!」

 

 この怪人は私を殺すつもりなのだ。

 そんな、どうして私を。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 こんなところで死にたくない。

 だって、何もしていない。

 何もしていないのに殺されるのか、私は。

 そんな、理不尽……。

 

「許せるわけねぇよなぁ」

 

 響いた声は荒々しく、刺々しく、だけどよく通って、透き通って、とても、綺麗な声だった。

 風に乗って、キラキラと光るものが流れて……。

 これ、は……。

 

『貴様は……』

 

 光の粒子が流れてきた背後に目を向けるとそこには、夜に輝く蝶がいた。

 薄い紫色の身体に散りばむ光。まるで、この星空のようだ。

 そして顔には仮面が。

 蝶を象った仮面が。

 

『御伽装士……!』

「悪かったな化神。ここは代々オレの家の管轄だ。現れたからには滅してやるよ。……おい、そこの女。早く逃げろ」

「え……。は、はい!」

 

 言われた通りにすぐに逃げ出す。

 するとあのカマキリ怪人と蝶の人は戦い始めて森の中へと消えていった。

 もう何がどうなってるかわけが分からない。

 今すぐ、この場から立ち去ってこのことは忘れて……。

 

「あれ、あの声はどこかで……」

 

 聞いたような聞いていないような。

 いや、聞いたことがある声だ。

 絶対にどこかで聞いたことある声だ。

 どうしよう、逃げるべきなんだろうけどあの蝶の人が気になるし……。

 そして……私も暗い森の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 森の中では、蝶が舞っていた。

 化神『バケトウロウ』を翻弄し、幻惑し、弄ぶかのように夜に舞っていた。

 

「どうした化神? オレについてこれないのか?」

『馬鹿にして……!』

 

 バケトウロウが腕の鎌を我武者羅に振るうと無数の斬撃波が放たれる。

 周囲の木々を切り倒しながら、その攻撃は命中したかに思われた。

 

「どこ狙ってんだ? オレはここだぞ?」

『な!? きさ……ぶはぁ!?』

 

 誰にも悟られずバケトウロウの背後に立っていた蝶の人はバケトウロウの顔面を蹴りつけた。

 爪先が鋭い、ハイヒールのような脚部の鎧による蹴りは痛いでは済まされない。

 

「終わらせる」

 

 右手をゆらりとバケトウロウへと向ける。

 すると背後から無数の蝶がバケトウロウに向かって羽ばたいて、バケトウロウを包んだ。

 

『くっ! 小癪な!』

 

 腕の鎌で無数の蝶達を振り払おうとするバケトウロウであるが蝶達の数が減ることはない。

 

「そうだ、冥土の土産に聞いていけ。オレの名はマイヤ」

 

 暴れ乱れるバケトウロウに対して静かに、静かに歩み寄っていくマイヤ。

 そして、バケトウロウに対してただ一撃蹴込みを決めた。

 蹴込みが炸裂すると同時にバケトウロウに群がっていた蝶達は飛び去り、身動きのないバケトウロウがただ立つのみ。

 

「退魔覆滅技法 千蝶一蹴」

 

 技名を告げると同時に爆発するバケトウロウ。

 大きな火柱が夜を照らした。

 

「お前達化神の相手をしてやる夜の蝶だ。つっても、もう聞いちゃいないか」

 

 炎がマイヤを照らす。

 炎が風で一際大きく燃えたと同時にマイヤの仮面が剥がれて素顔が露となる。

 

「……え!? 夜舞さん!?」

「……は?」

 

 マイヤ……夜舞薫は驚きのあまりそんな声しか出せなかった。

 何故なら、当に逃げたとばかり思っていたはずの加藤咲希その人がこの場にいたからであった。

 

「ていうかなんで上半身裸なの!? 駄目だよ女の子がそんな格好した……ら……」

 

 暗闇の中とは言え、咲希はあることに気付いた。

 薫の肉体は女のそれではないと。

 線は細いが、これは女の体ではない。

 これは……。

 

「オレは男だ」

 

 いつもの綺麗な顔で、らしくない口調で話す薫という現実を受け入れられなかった咲希は口を金魚のようにパクパクとさせるばかり。

 そして、ようやく言語機能を回復させて夜の山に木霊するほど叫んだのだ。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?」

 

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