仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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朝が来る

 壮観なる蝶の戦士達が並び立つ。

 絶えることなく、この地を守り続けてきた者達の栄華が光る。

 

『マイヤが何人いたところで!』

 

 バケゲンブの巨体から黒い泥のようなものが滴ると泥が人の形を得て、異形兵を生み出していく。

 バケゲンブの意のままに動く、戦闘員の軍勢。 

 

『いけ我が兵よ! マイヤを下し、この世界全てを覆うのだ!』 

 

「ひい、ふう、みい……」

「数える意味などないぞ楓。どれだけいようと全て屠ってしまえばいいのだ」

「流石母さん。夜舞家きっての武闘派」

「おばあ様、カッコいいです……」

「褒めてもなにも出んぞ。……それより、薫。仕切れ」

 

 センの言葉に思わず薫は固まった。

 仕切るなど、そんなと。

 ここにいるのは歴代の尊敬してやまないマイヤ達。

 そんな方々を前に自分が仕切るなど不敬ではないか。

 

「薫。現代(いま)のマイヤはあなた。私達は現代(いま)を生きる薫の声に呼ばれ、こうして再び現世を舞っている。だから、私達は薫に従うわ」

「お母様……分かりました。では─────いくぞご先祖様達ィ!!!!!!」

 

 槍の穂先をバケゲンブへと向け、叫ぶ薫。

 闘志昂るあまりに男口調になったが寧ろ、歴代マイヤ達も気合が漲る。

 

「薫……大きくなったねぇ……ぐすっ……」

「言ってる場合か! いくぞ!」

 

 駆け出し、飛びだすマイヤ達。

 異形兵達も動き出し魔の軍勢とひとつの怨面と血が繋ぎし御伽装士の絆がぶつかり合う。

 

『死ねぇ!!!』

 

 バケゲンブの砲撃が再開され、各所で爆発が巻き起こるも誰も怯まずにマイヤ達は戦い、突き進む。

 爆炎などものともしない戦場の華が咲き誇る。

 どれだけ異形兵がいようと。

 どれだけ砲撃されようと。

 御伽装士マイヤの紡いだ歴史の前には意味を持たない。

 

「ハアッ!」

 

 マイヤ・アカツキの槍の一薙ぎは百の異形兵を焼き払う。禍穿天照槍の放つ聖なる陽の光は魔を焼き尽くす炎となるのだ。

 異形兵を次々と蹴散らし、突き進む薫達だがその前に一体の化神が降り立つ。

 

「バケイザリ……!」

 

 バケゲンブとひとつになっていたバケイザリもまた異形兵の一体となってはいるが有象無象とは違い、バケイザリの意識を残したまま、真紅の甲殻の身体に黒い鎧を身に纏ったかのような姿。異形兵将バケイザリとなり薫、楓、センの前に立ち塞がった。

 

『よう。親子三代まとめて俺が殺っちまうよ』

 

「てめぇは……!」

「落ち着け、薫」

「ええ。怒りに身を任せては駄目よ」

 

 滾る薫を鎮める祖母と母。

 薫の前に立つ二人は忌むべき敵を前にしても冷静であった。

 

「どれ。槍に認められたばかりの薫に最後の指導だ」

「ええ。槍の扱い。そして、夜舞神楽。その真髄を薫に授けましょう」

「薫、槍を貸せ」

「は、はい……」

 

 薫からセンへ槍が手渡される。

 マイヤ・アカツキの手から離れたことで槍はもとの厄除の槍の姿へ戻るが二人からすれば扱いなれたこの姿の方がよいというもの。

 

『二人がかりでこようと俺が何度でも殺してやるよ!』

 

「ふっ……。そのしぶとさに後悔することになるぞ、バケイザリ。これまでの分をみっちりと仕返してやれるからなッ!」

 

 一瞬でセンは槍の間合に詰める。

 その速度にバケイザリはついていけず、防御の態勢を取ることなど不可能。

 隙を見せてしまうということは、夜舞センに敗北したも同義。

 

「退魔覆滅技法 夜舞家奥義 夜舞神楽・セン」

 

 構え。

 左手を突きだし、右手で持った槍に力を注ぐと紫色のオーラに包まれる。

 その、一瞬の静が動へと切り替わる。

 

「ハッ!」

 

 縦横無尽に槍が舞う。

 バケイザリの身体の至るところに傷が刻まれていく。同じ軌跡を描くことは決してない。

 全身にくまなく致命傷が叩き込まれていく。

 紫に光る槍の軌跡が、まるで曼珠沙華のように空に咲く。

 

「千夜千槍……千紅万紫ッ!」

 

『ぬわぁぁぁぁぁ!!?!?! だ、だがまだだぁ!!』

 

 最後の一突きをうけ、宙に打ち上げられたバケイザリ。

 その更に上を、楓のマイヤが舞って飛ぶ。

 

「楓ッ!」

 

 センは厄除の槍を投げ、楓へと受け渡す。

 空中で受け取った楓はそのまま、楓の夜舞神楽を舞う────。

 

「退魔覆滅技法 夜舞家奥義 夜舞神楽・楓」

 

 楓の足下にちょうど、未だ重力に逆らい続ける打ち上げられたバケイザリ。その背に槍を振り下ろし、バケイザリを地に墜とす。

 

『ぬう……』

 

 よろめくバケイザリの前にふわりと降り立つ楓。

 これまでの怒りをこめた右腕の鋏を叩きつけ反撃しようとしたバケイザリであったがその全てが容易く躱されていく。

 その回避の様を表現するならば、柔らかく。

 柔らかく、楓は舞う。

 

『この野郎ッ!』

 

 横薙ぎに振るわれた鋏。

 それを、楓は開脚することで回避する。

 動きが柔らかければ身体も柔らかい。

 そして、下から槍でバケイザリの顎を突き後退させると槍を支柱にして一瞬で立ち上がり、これまた槍を支えにバケイザリの左側頭部を蹴りつける。

 そこから更に、バケイザリの身体に乗り移ると太ももでバケイザリの首を締め上げる。

 

「ふふっ。気持ちいいですか?」

 

『ふざけっ……!』

 

「ふっ……」

 

 バケイザリの身体から飛び降り、その背に槍が突き立てられ、一突き。

 

「刺すは一突き、穿つは楓。……血染紅葉(ちぞめこうよう)

 

『うがぁぁぁぁ!!?!?!!』

 

 バケイザリの胴を突き破り、現れた槍は七つ。

 その様はあたかもバケイザリの身体から楓の葉が飛び出たかのよう。

 

『だ、だがまだだ! 俺を殺すには足りんぞ!』

 

「薫!」

「はい、お母様!」

 

 楓から薫へ受け継がれる槍。

 マイヤ・アカツキの手に戻り、禍穿天照槍へと姿を変える。

 

「夜舞神楽は舞の中から己を見出だすもの!」

「薫だけの技を見つけなさい!」

「私だけの……」

 

 槍を感じる。

 この槍はマイヤの怨面と同じく、夜舞家と共にあり続けてきたもの。

 歴史が流れ込む。

 時の大河に様々な戦いが流れていた。いずれは自身もこの大河の果てのものとなる。

 だが、果てに流れたとしても消えない。

 その果てにいまこの場にいる英霊達のように、見上げる夜空に浮かぶ星々のように輝くものになるのだと。

 

 舞を始める。

 最初から。

 足運びは軽やかに、指先にまで神経を尖らせる。

 槍は木の棒を振り回すかのように軽く、されど勇壮に重厚に、威厳を纏わせる。

 

『踊っている場合かぁぁぁ!!!!!』

 

 飛び掛かるバケイザリ。

 だが、集中の極致に達した薫にその叫びは届かず、そして────。

 

『ッ!?』

 

 バケイザリの鋏を片腕で受け止めるマイヤ・アカツキ。

 

「見えました……。私の、俺の、夜舞薫の舞……」

 

 バケイザリから攻撃を受けたことも知らぬかのように薫は呟く。

 そして、始まる。

 夜舞薫の夜舞神楽。

 

「退魔覆滅技法 夜舞家奥義 夜舞神楽・薫」

 

『ガッ────!?』

 

 バケイザリは蹴り飛ばされ、後方へと吹き飛ばされる。

 まったく、その蹴りには反応出来ずにいた。

 

「らぁッ!!!」

 

 吹き飛ぶバケイザリを追って、槍が投げられる。

 地面と平行に、音速で飛来する槍をバケイザリはなんとか受け止める。

 地面に足をついてブレーキをかけるも槍の勢いにしばらく押され続けていたが光の翼で飛ぶマイヤ・アカツキが追い付き、吹き飛び続けるバケイザリを殴る、殴る、殴る、殴る、殴り飛ばす!

 

『こんの……ハッ!?』

 

 反撃を狙うバケイザリだが、目の前には既にマイヤ・アカツキの姿があった。

 バケイザリが受け止めたままの槍の柄を足場にして立つ薫はバケイザリの顎を軽やかに蹴り上げ宙で一回転。着地し槍を掴むとバケイザリごと槍を振り上げ地面に叩きつけ、叩きつけ、叩きつける。

 

「軽やかに、美しく……」

「勇壮に、力強く……」 

「男でもあり、女としてもあり……」

「そんな薫らしい……薫の夜舞神楽……」

 

『うおおお!!!!!』

 

 迫るバケイザリを前に、薫は頭上で槍を舞わす。

 そして交わし様にひとつの斬を見舞わせ、トドメの蹴撃。

 

日月星辰(じつげつせいしん)……。これが、夜舞薫の夜舞神楽だッ!!!!」

 

 地を転がるバケイザリ。見事、夜舞神楽をものにした薫のもとへセンと楓が合流。

 そして、本丸であるバケゲンブへと向かい、駆け出していった。

 

『ば、ばかなぁ……俺の、命……』

 

 末期の懺悔は爆音がかき消す。

 バケイザリが炎は三代のマイヤの背を飾る。

 

『夜舞』

 

「バケガラス!」

 

 戦場を駆ける薫達の前にバケガラスが降り立つ。

 

『お前のご先祖様達のおかげで多少は回復した。こんな雑魚共を相手にしてもキリねぇぞ』

 

「ああ……。飛び込むぞ! おばあ様! お母様! ここは任せました!」

 

 飛び立つマイヤ・アカツキとバケガラス。

 その様子を見ていた楓は戦いながらもくすくすと笑い出す。

 

「なにを笑っている」

「だって、薫にあんな男の子の友達が出来てるなんて。なんだか嬉しくって!」

「友達? あれは化神だぞ」

「化神でも、嬉しいの。私、全てが嬉しい。薫に関わる全てが嬉しい!」

 

 異形兵をなぎ倒しながら、嬉しいと叫ぶ楓に呆気取られるセンであったが、少しして納得した。

 ああ、そうだ。それはかつて自分も抱いた思いであったと。

 

「ああ、そうだな! 子の成長が嬉しくない親などいない!」

「ええ!」

 

 異形兵の集団が竜巻に襲われたかの如く吹き飛ぶ。

 その中央で、センと楓は背を合わせて親子の会話を続ける。

 

「ふっ……。そうだった、お前も親になったんだったな。今になって実感が湧いてきた」

「もう、遅いよ母さん。……先に逝っちゃって、ごめんなさい」

「……ああ、まったくだ。この親不孝者」

 

 二人の会話を邪魔して異形兵が襲いかかる。

 だが、こんな程度では障害になどならない。

 母と娘の絆の前に、異形兵がなんとなる。

 こうした絆の繋がりはこの戦場に溢れている。

 ゆえに、マイヤは負けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バケゲンブ上空を飛ぶマイヤ・アカツキとバケガラスは砲撃を回避しながら接近していく。

 バケガラスが羽を撃ち出して攻撃するが、甲羅でない部位ですらも弾かれる。

 

『チッ……分かってはいたが、やはりこの堅さは別格だ』

 

「この槍でなら……」

 

『ああ……ッ!? 夜舞避けろッ!』

 

「ッ!?」

 

 甲羅から何かが放たれたのを見たバケガラスが叫ぶ。

 紙一重で何かを回避する二人。

 何か、とは。砲弾ではなかった。

 そして、二人はその何かの正体と対面する。

 

「バケゲンブ……!」

 

『ふん……。やはり御伽装士と戦うならこっちの姿の方がいいな。フンッ!』

 

 何かの正体は封印から目覚めた当初のバケゲンブ怪人態であった。

 急加速し、マイヤ・アカツキとバケガラスを捕まえバケゲンブの甲羅の上へと戦場を変えた。

 

「ぐっ……」

 

『さあ、戦いを楽しもうぞ現代のマイヤよ! 我は骨のある、度胸のある奴が好きだ!』

 

 マイヤ・アカツキを狙い、拳が振り下ろされる。

 後方へ跳躍し回避したマイヤ・アカツキであったが、その目を見張る。

 バケゲンブにより殴られた箇所が、砕け散った。

 あの堅い甲羅が砕けるほどの威力。

 マイヤ・ボウゲツで殴りあった時以上の力は多くの化神を取り込んだがためか。

 

『僕もいる!』 

 

 バケガラスが黒い刃でバケゲンブへ斬りかかる。

 避けることはなく、バケゲンブに当たった刃は粉々に砕け散った。

 堅さもまた、強化されている。

 

『お前に用はない!』

 

 バケゲンブの裏拳がバケガラスを襲う。

 だが、マイヤ・アカツキの槍によって阻まれる。

 

「ハッ!」

 

 槍に力を流し込む。

 刃の中央に埋め込まれた陽真珠が燦々と煌めき、その光がバケゲンブを焦がす。

 

『チッ……やはり厄介な槍よ……』

 

「そうだろうとも! この槍はかつて貴様を封印し、そして今宵貴様を滅するものなのだから!」

 

『小癪なッ!』

 

 バケゲンブの肩の砲が炎を吹く。

 速き弾がマイヤ・アカツキを狙って放たれる。

 だが、光の翼を広げ弾より高速で飛行するマイヤ・アカツキには当たらない。

 とにかく撃ち続けるバケゲンブはマイヤ・アカツキに夢中でバケガラスのことなど意に返さない。

 それを、バケガラスは利用する。

 

『ァァァァァ……』

 

 再び、剣を精製し己が全力を注ぎ込む。

 

 ああ、もとよりこの命は捨て去るつもり。

 死んだ身を無理矢理蘇らされたもの。

 美しく終われたと自負しているのだから、あの終わりを否定するような真似はしない。

 全てをこめて────。

 

 その力の高まりに危機感を覚えたのは大蛇。バケガラスを丸ごと飲み込んでしまう。

 

『ダアァァァッ!!!!!』

 

 大蛇を内部から切り裂き、血濡れのバケガラスは剣を柄と柄を合体させ両刃の剣とすると全身全霊の力で投擲する。

 回転し、空を切り裂く刃はバケゲンブに容易く回避される。

 

『ふん! お前のような若輩にやられる我では────』

 

『馬鹿め! お前を狙ったわけではない!』

 

 その言葉にバケゲンブは驚愕する。

 では、なにを狙ったというのか……。

 

『夜舞ィィィッ!!!!!』

 

 バケガラスが放った剣は、マイヤ・アカツキの手に納まった。

 マイヤ・アカツキの魔を滅する力とバケガラスの魔力が反応し、凄まじい力となる。

 

 右手に禍穿天照槍を、左手にバケガラスの両刃剣。銘は、『鴉羽(カラスバネ)

 退魔と魔の得物をマイヤ・アカツキは構える。

 

「────参るッ!」

 

 一瞬でバケゲンブの懐へ潜り込んだマイヤ・アカツキは槍と剣の刃を重ね、胴に押し付ける。

 そして、聖と魔。陰と陽の力を炸裂させる!

 

 聖なる優しき陽の光を放つ禍穿天照槍と、禍々しい黒き闇と赤い電を纏う鴉羽。

 どちらも守るべきものを持つ者。薫とバケガラスの力が注がれ溶け合い、強大な力となってバケゲンブを切り裂く────!

 

「退魔覆滅技法 破邪聖魔斬ッ!!!」

 

 光の蝶と、鴉の羽根が舞う────。

 

『ぐぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

 バケゲンブ怪人態は真っ二つ。

 すると巨大バケゲンブの方も大きく震え、動きを止める。

 怪人態に与えられたダメージがこちらの方にも届いたようだった。

 そこへ更に、マイヤ達の攻撃が連なる。

 

『退魔覆滅技法 千蝶一蹴!』

 

『退魔覆滅技法 雷電疾走!』

 

『退魔覆滅技法 蝶絶怒涛!』

 

 怯み、暴れるバケゲンブからマイヤ・アカツキは飛び降り、マイヤ達と合流する。

 既に異形兵の姿はなく、戦いの終わりを予感させた。

 

「薫ッ!」

「おばあ様! お母様!」

 

 並ぶ、マイヤ達。

 見上げるバケゲンブは怒りに荒れ狂い、巨体を震わせ咆哮を轟かせる。

 

「バケゲンブの堅い肉体をかつての私は破壊するほどの力はなかった……」

 

 悔いるように初代マイヤ、美羽が呟く。

 だが。

 だが今は、ここに希望があると顔を上げる。

 

「薫、お前になら出来る! お前と、我等の力でなら!」

 

 頷くマイヤ達。

 そして再び、薫を中心にしてマイヤ達は並び立つ。

 

「薫に力を!」

 

 美羽の号令で、マイヤからマイヤへと力が受け渡されていく。そして、中央に立つマイヤ・アカツキへと力が集結していき黄金の輝きを纏い、光の翼を広げ空へと舞い上がっていく。

 

『マイヤ、マイヤ、マイヤ、マイヤッ! 許さぬ、許さぬぞ! 貴様の一族は根絶やしにしなければ気がすまん!』

 

「絶えるのはバケゲンブ。あなたの方でございます……」

 

『なに……!』

 

 槍を空へと掲げる。

 刃が展開し、陽真珠が肥大化。小型の太陽のように燃え盛り、刃全体が炎で包まれる。

 

禍穿(まがうが)ち、天照(あまてら)す────。禍穿天照槍(がせんてんしょうのやり)ッ!」

 

 炎がマイヤ・アカツキにも灯る。

 光と炎を身に纏い、マイヤ・アカツキの最大火力がいま放たれる────!

 

「退魔覆滅技法! 日輪光流破ッ!!!」

 

 突き出す槍。

 陽真珠より放たれし光と炎の奔流がバケゲンブを貫き、退魔の力を肉体全体へと注ぎ込んでいく。

 

『があああああああ!!!!!!!! マイヤ……お前は、一体……!』

 

「我が名はマイヤ! 御伽装士マイヤ! 夜に舞い、朝を守る者ッ!」

 

 全てを注ぎ、陽真珠の輝きが一時失われると槍を投擲。

 槍は巨大な光の矢となりバケゲンブへ矢先を向けたまま滞空するとマイヤ達が一斉に飛び上がる。

 

「ご先祖様方の力、お借りしますッ!」

 

 マイヤ・アカツキは更に上空へと飛翔する。

 宙で一回転し飛び蹴りの体勢を作るとそのまま加速。

 バケゲンブへと向かうマイヤ・アカツキにマイヤ達が次々と重なっていき蝶が溢れ、踊り舞う。

 

「退魔覆滅技法! 千蝶一蹴・英霊襲(せんちょういっしゅう・えいれいがさね)ッ!!!」

 

 光の矢とも重なったマイヤ・アカツキの蹴りはバケゲンブの頭部を捉えた。

 そして────。

 

 

 白い光が世界を包む。

 炎が大地を焦がし、穢れた土を焼き払う。

 バケゲンブは完全に消滅し、空は薄くなった夜空の青を取り戻し、天に佇むマイヤ・アカツキを昇る朝日が照らす────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を解除する。

 ご先祖様達も変身を解いて、顔合わせ。

 だいたい、みんな似た顔をしていた。

 巫女服に身を包んだ人がこちらに向かって歩み寄る。

 雰囲気で、この人が初代マイヤだと理解した。

 

「薫よ」

「は、はい……」

「ありがとう。お前のおかげで、私の未練は無くなった」

 

 未練。

 バケゲンブを倒せず、封印するに留まったことは美羽様にとって大きな未練だったのだろう。

 私が想像する以上に。

 

「薫も、そして我が子孫達も! 感謝している! 絶えることなく遥かな未来にまで続き、今日という日を迎えることが出来た! それはそなた達が薫という未来にまで繋げてくれたからこそである! そして、これから先の未来にまでも、夜舞の血は受け継がれる! 人を守るために夜舞の血はあり続ける!」

 

 夜舞の血は未来永劫であると、美羽様はそう叫んだ。

 そうだ。

 穢れがこの世にある限り、化神との戦いは続いていく。

 そのために、人を守るためにも夜舞家は倒れてはならない。

 

「では、頼んだぞ薫よ。我等は常に、お前と共にある……」

 

 黄金の粒子となって、ご先祖様達の大部分は現世を後にした。

 そして、残るは……。

 

「よ、薫! お前はちんちくりんで可愛いなぁ!」

 

 後ろから、頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でられる。

 

「あ、貴女は……」

「アタシはお前のひいばあさんだよ。つまり、婆さんの母さん。だから、センになんかされたらアタシに言いな。枕元で叱りつけてやるからよ!」

「ふん。枕元に出られたところで何も怖くはないね」

「あぁっ!? 蘇って出てきてやろうか!」

「ああもういいからさっさとあの世さ帰れ!」

「おま、親に向かってなんてこ……いでで!!!」

「帰るぞ百子。死人がいつまでも現世におるのはいかん」

「分かった! 分かったから耳をつまむなおっかぁ!」 

 

 ひいおばあ様は、ひいひいおばあ様によってあの世へと連れていかれてしまいました。

 体格のいいひいおばあ様と違って、ひいひいおばあ様は小柄な方でした……。

 そして、最後に残っていたのは……。

 

「薫」

「お母様……」

 

 懐かしき、母の姿……よりは、若い気がする……。

 

「薫?」

「ひっ……。なんでもありません……」

「ふふっ。……おいで、薫」

 

 広げられた腕。

 年甲斐もなく、私は母の胸に飛び込んでいた。

 

「お母様っ!」

「本当に……本当に大きくなって、強くなったね……」

「はい……はい……!」

「薫。あなたは私の誇り……。私はいつも、薫のことを見守ってるからね……」

 

 母の温もりだけを残し、お母様は消えてしまった。

 夢幻、神秘、奇跡の夜は終わりを迎えた。

 寂しさはある。

 だけど、それ以上に暖かく、勇気をもらえた。

 だからこその、寂しさ。

 人はこうした暖かい寂しさを胸に抱えて歩き続けていくのだろう……。

 

「帰るよ、薫」

「……少し、待っていてもらえませんか」

「……早く行け、残された時間は少ないだろうから」

「ありがとうございます……」

 

 走り出す。

 限りなく弱い邪気を辿って。

 そうして薄暗い森を抜け、開けた草花萌える場所でそいつは二度目の終わりを迎えようとしていた。

 

『……勝ったか』

 

「ああ」

 

『これで負けて死んでたら、地獄でお前を殺すところだった。……むしろ、そのことを残念がるべきか?』

 

「お前がいなければ、バケゲンブには勝てなかっただろう。ありがとう、バケガラス」

 

『なんだ、そんなことを良いに来たのかよ……。気色悪い』

 

 ふうと深いため息をついたバケガラスは再び、言葉を紡ぐ。

 

『見ろよ、ここ。あんな戦いがあったわりと近くでも残ってるんだなぁ。こんな美しい場所が。二度目も美しい場所で終われる。嬉しいよ……』

 

「ああ。お前は化神のくせに幸せ者だ。そしてなにより、最も美しい化神だ」

 

『はっ、野郎に言われてもね……。────じゃあな、夜舞』

 

 黒き羽が風に乗る。

 そいつは幸せそうな顔をして、逝った。

 

「二度と化けて出てくんなよ、バケガラス……」

 

 あんな顔して死ぬ化神はあいつ以外にいないだろう。 

 だから、今回こそが最後であってほしいと願う。

 眠れ、バケガラス。

 

「あんな丁寧に埋葬されたのだから、もう現世に迷い出てくんなよ」

 

 言葉は風に乗る。

 すると、近くでカラスが鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠気に少しばかり襲われ、船を漕ぎ出したが時計を見て頭が冴えた。

 もう少しで、朝だ。

 薫は、朝には戻ると言っていた。

 薫が、戻ってくる朝……。

 

「加藤?」

 

 いても立ってもいられず、部屋を飛び出し玄関から外へ出るとちょうど、朝日が昇っていた。

 

「加藤」

「あ……。ごめん真姫さん。薫が朝には戻るって言ってたから、つい……」

「そうか……」

 

 真姫さんの手が、そっと私の頭に乗せられる。

 

「よく、待ったな」

「……うん。待つって、こんなに辛いんだね……」

 

 涙が溢れてくる。

 不安だった。

 薫が戻ってこなかったらどうしようって。

 

「どうしよう……。笑顔で出迎えたいのに、私……!」

「お前もお前の戦いを頑張ったんだ。だから、少しぐらい泣いたっていい」

「……ううん。私、もう泣かない。薫が帰ってくるまで、ここで待つ。それで、笑って薫におかえりって言う……!」

 

 どうしようもなく流れてくる涙を拭って、待ち続ける。

 真姫さんも一緒。

 様子を見てくると言って出ていった大人達が通り過ぎていく。

 そうして、長い長い一時間を経て……。

 

「あ……」

 

 泣かないと決めたのに、その姿を見つけたらまた涙が流れてきてしまった。

 長い長い石階段を昇って、少しだけ息を切らして頬を赤く染めた薫が、帰ってきた。

 

「ただいま、咲希」

「おかえり、薫……。かおるっ!」

 

 勝手に足が動いて、薫のもとへ駆け出していた。

 勝手に腕が動いて、薫のことを抱き締めていた。

 

「かおる……かおる……!」

「咲希……。なにをそんなに泣いて……」

「だってだって薫がぁ……帰ってきたからぁ……!」

「……ああ。俺はお前のとこに帰ってきたよ」

 

 そう、帰ってきた。

 長い長い夜を越えて、辛く苦しい戦いを終えて。

 朝を迎えたのだ────。

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