仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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終章 繋ぐ

 美しい中庭の景色。

 庭木は緑に萌え、お天道様はこの頃ますます調子が良いらしく、東北の涼しい気候に慣れ親しんだ私には京都は暑く感じていた。

 そう、京都である。

 岩手から半日かけて、京都にある御守衆総本山に訪れていた。

 

 平装士の方が襖を開ける。

 礼節に則り、まずは挨拶から。

 

「夜舞家当主御伽装士マイヤ、夜舞薫。参上いたしました」

 

 頭を下げる。

 目の前に座るのは御守衆総本山上層部のお歴々。

 かつて御伽装士として伝説的な偉業を成した方々でもある、雲の上の大先輩。

 おばあ様と同期(?)の方もいらっしゃるとか。

 さあ、座って座ってと促されてから座布団の上に正座し向き合う。

 

「遠いところからわざわざすまんね薫ちゃん」

 

 中央に座る、柔和な顔立ちの方がまず話を切り出した。

 

「いえ、こちらこそお訪ねするのが遅くなってしまい申し訳ございません」

「いやいやいいんだよ。君の町は今は豪雨災害の被災地ということになっているしね。君の屋敷も被災者を受け入れたと聞く。さぞかし大変だろうに、呼び立ててしまってすまないねぇ。このインターネットの時代に」

「それを言うならネットワークでないか」

「いやいやリモートだ」

 

 なにやら、盛り上がっていらっしゃるが一番厳しそうな顔立ちの方がピシャリと言って雑談をやめさせた。

 

「今はそんなこと関係ないだろう。薫よ、まずはバケゲンブ討伐大義であった」

「お褒めにあずかり恐縮です。バケゲンブ討伐は、私だけでは成しえませんでした。仲間と、そして夜舞家の御先祖様方のおかげでございます……」

「うむ。我等は世の闇に忍び、人を守る者。されど、一人で戦っているわけではない」

「ゆえに、そのような強い味方がいる君を我々は評価している」

 

 強い味方……。

 御先祖様、おばあ様、お母様、真姫、平装士の方々、そしてなにより咲希の顔が頭に浮かんだ。(あと一応、ほんと一応だけどバケガラスも)

 皆との絆が、勝利を掴んだ。

 改めて、そのことを痛感し、嬉しく思う。

 

「さて、肝心なことを話そうか。まずは……バケゲンブ復活とほぼ同時期に起きた猿羅の怨面強奪事件及び物部天厳なる呪術師の蜂起」

 

 物部天厳。

 その名は、先日上がってきた報告書にて確認していた。

 

「東北支部所属の御伽装士エンラが物部天厳により殺害、怨面は強奪され追跡にあたった御伽装士達を掻い潜り名古屋で活動。この世を化神の世界にするなどという悪質極まりない思想を持っていた」

「君も追跡に加わっていれば、未然に防げたかもしれんが……。ああ、いや、君が悪いのではないよ」

「はい……。その、バケゲンブの復活とこうもタイミングが被るとなるとその物部天厳が何か謀をしたのでしょうか?」

 

 そう、あまりにもタイミングが良すぎる。

 出来すぎているとしか思えない。

 エンラの活動地域は自分の管轄にほど近い場所で何度か共に任務にあたったことだってある。

 ……もし、物部天厳が猿羅の怨面を奪い南下するにあたって私や夜舞家が邪魔な存在だったとすればバケゲンブを復活させるように仕向け、足止めに利用したのかもしれない。 

 

「それに関しては、現在調査中だ」

「物部天厳がバケゲンブ復活も仕向けた可能性は充分にあり得る。だが……天厳すらも駒のひとつだった。ということも考えられる」

「つまりは、真の黒幕がいると……。そう、お考えなのでしょうか……?」

「仙台でも物部天厳同様、化神に与する人間が現れ騒動となった。昔からこの手の輩は現れるがこうも続くとなると、な……」

 

 何か、嫌なものを感じる。

 暗い闇の更に奥底で蠢く何者かが、いるかもしれない。

 それは、人々の平和を脅かすものでしかない。

 

「だが、これらの事件は全て御伽装士によって解決した。名古屋では御伽装士ビャクアが天厳を討ち、仙台では御伽装士ソウテンと行方不明となっていたゲツエイを継ぐ者によって化神バケヨロイが退治された」

「皆、君と同年代。彼等以外にも日本中で若者達が活躍している。若い子達の活躍は儂らにとっても嬉しいことだ」

「ゆえに我等老いぼれは、君達のために身を粉にして、未来への礎となろう」

「ありがとうございます。皆様方の期待に応えられるよう、励む所存であります」

 

 先人達の思いを受け継ぎ、現代を戦う私達が頑張っていかねばならない。

 御守衆も夜舞家と同じように、人を守るべしという想いを繋げてきた組織であり、これからも繋げていくもの。

 いずれ、私もこの繋がりを誰かに受け継がせる時が来るのだろう。

 その時のためにも、現代を一生懸命に戦い、守り抜かなければならない……。

 

「うむ。さて、前置きが長くなったが本題に入ろう」

 

 本題。

 これまでの会話から、果たして私はなにを言い渡されるのか。正直、検討もつかない。

 

「御伽装士マイヤ、夜舞薫」

「はい」

「君を東北支部所属から()()()()()の御伽装士としたい」

 

 まったく予想外のことに目を見開き、驚く。

 夜舞家は代々、あの地を守ることを使命としてきた。

 ゆえにあの、総本山付きになるなんてことはこれまでの歴史では一切なかった。

 

 総本山付きとは、特定の管轄を持たず総本山から直々の指令を受けて場所を問わず、任務に就く御伽装士のこと。

 総本山直々の指令ともなると管轄内に現れた化神を倒すようなものではなく、危険度が高いもの、御守衆にとって重要な任務など特別な指令を拝命するようになる。

 ゆえに、選ばれるのは精鋭。

 歴代マイヤ達も選ばれる素養はあったが先の理由の通り総本山付きにはならなかった。

 では、なぜ私が……。

 

「その、おばあ様はこの話をご存知なのでしょうか?」

「もちろん。センさんと話し合って決めたんだ。センさんも、快く承諾してくれたよ」

「おばあ様が……。なぜ……」

「君がバケゲンブを討ったことで、バケゲンブの力により生まれてきた化神達は現れなくなった。まだ正確な数値ではないが、化神の発生する率も他の地域と比べて低くなってもいる。そんな場所に、君のような強い装士を縛り付けておくのは惜しいと我々と君のおばあさんの間で意見が一致した」

 

 ……確かに、ここ数週間の間は化神が現れず平和な時を過ごしていた。

 しかし、もし私が他の場所で任務にあたっている際に化神が現れてしまったら……。

 

「近々、新人の御伽装士を派遣する予定だ」

「新人?」

「最近修行を終えたばかりでな。新人研修にはぴったりだろう、君の町は。夜舞家のバックアップがあり、優秀な指導者もいる」

「鬼のように厳しいけどね」

 

 それは、確かに。

 おばあ様がいつの間にかその新人を指導しているに違いないと、はっきり脳裏に光景が浮かぶ。

 修練場で厳しく、指導するおばあ様の姿が。

 ……新人さんは果たして耐えられるだろうか。

 そっちの方が心配になってきてしまった。

 

「あとは、君の気持ち次第だ。私達としては、君に是非とも総本山付きの装士となってもらいたい。君の助けを必要としている人達が世間にも、御守衆にもいる」

「私は……」

 

 舞夜の怨面の待機形態であるネックレスを握り締める。

 なにか、大切なことを決める時はいつもこうしてきた。

 

『薫』

 

 お母様……。

 

『大事なのは、どこを守るかではなく、なにを守るか。私達、御伽装士の使命は?』

 

「人を、守ること……」

 

 決まった。

 迷う必要などなかった。

 そう、御伽装士とは人を守る者。

 総本山付きになったからとはいえ、あの町を守ってはいけないという話ではない。

 おばあ様の心づもりも、なんとなく分かった気がした。

 私に、羽ばたけというのですね。

 

「承知いたしました。御伽装士マイヤ夜舞薫。総本山付きの装士として、働かせていただきます」

「ああ。頼りにさせてもらうよ」

 

 侍る平装士が盆を私の前に差し出した。

 総本山付きの御伽装士の証、風車の紋を象ったバッジ。

 帯揚げにこれを付け、これより私は総本山付きとなる。

 

 

 これで話は終わり……とはならず、また別件で話があるという。

 襖の向こう側に「入っておいで」と声がかけられる。

 私も振り向くと、若い女性に連れられて小学校低学年ほどの年の頃に見える一人の男の子が顔を見せた。

 この子は一体?

 

「あの子は、御伽装士エンラの一人息子だ」

「え……」

「母はおらず、身寄りもないようなのでこちらで保護していた」

 

 こんな、小さなうちに両親と別れて……。

 私も、同じだった。

 母を失い、父は出ていってしまった。

 違うのは、おばあ様という血の繋がりがある人がいてくれたということ。

 しかし、この少年にはそんな人すらいない……。

 

「薫ちゃん。君のところでこの子を引き取ってはくれないか?」

「夜舞家で、ですか? それは構いませんが……」

「ああ、わざわざ君のところに頼むのは生まれ育った土地に近いところで過ごすのがいいだろうと思ったことと……。どうやら、この子は猿羅様の怨面に認められているようなんだ」

 

 猿羅の怨面に……。

 つまりは、御伽装士になる資格があるということ。

 

「その、おばあ様に修行を……?」

「いやいや、流石にそれはねぇ……」

 

 まあ、そうだろう。

 私はこれくらいの時からおばあ様に修行をつけさせられましたが、ええ、はい。

 流石におばあ様に任せるのは……。

 

「この事もセンさんとは話していてね。薫ちゃんに弟子の育成を学ばせたいとのことだ」

「つまりは、私がこの子の師に……?」

「ああ。……すまないね、さっき総本山付きだのやったばかりにこんな話」

「いえ……」

 

 その子は、私のことをまっすぐと見つめていた。

 だから私もこの子の方に身体も向けてしっかりと向き合う。

 

「お名前は?」

「おれはすずきかつとだ!」

 

 思った以上に元気でびっくり。

 いや、これは元気というより……。

 

「おれはおとぎぞうしになる! 父ちゃんのかたきをとるんだ!」

「……あなたのお父様の仇は既に討たれております」

「うるさい! おれはおとぎぞうしになるんだ!」

 

 振り返り、上役達ににこりと微笑む。

 おしつけやがったな、このやろう。

 

「おれをおとぎぞうしにしろ!」

 

 詰め寄るかつと少年。

 俺は、この少年を……。

 

「不合格。お前は御伽装士に相応しくない」

「えっ……なんで、なんでだよ!」

「闇雲だからだ。御伽装士になりたいという理由があやふやな奴に御伽装士の修行は続けられない」

「うっ……」

 

 泣き出しそうなかつと少年。

 言い過ぎたとは思わない。

 ここで折れてしまった方が、普通の人生を送ることを選んだ方がこの子にとって幸福かもしれない。

 

「父ちゃん、みたいに……。父ちゃんみたいに、みんなを守ることができるようになりたいから……。だから……」

 

 ────。

 どうやら、この子は……。

 涙を流すかつと少年。頬に垂れる涙を拭い、頭を撫でる。

 

「その想いがあれば、大丈夫でございます。その想いを、忘れないでください。お父様への憧れを、持ち続けてください。その憧れが、あなたの背を押してくれますから……」

 

 本格的に泣き出すかつと少年を撫でて、再び上役方に顔を向ける。

 

「この子は、見込みがありそうです」

「ああ。たくさん泣いた奴は立派な御伽装士となる」

「はい……」

 

 私も、毎日泣いた。

 辛くて、辛くて。

 けれど、憧れが私を奮いたたせてくれたのだ。

 だから、この子もきっと。

 

「それでは、この子はお預かりいたします」

「任せたぞ」

「はい……」

 

 最後に一礼し立ち上がる。

 かつと少年に手を差し出す。

 

「駆け出しの師匠ではありますが、ついてきてくれますか?」

「……うん」

 

 涙を拭ったかつと少年は私の手を取った。

 その小さな手を握り返し、退室。

 この小さな手には、大きな未来が包まれている。

 彼自身の未来でもあり、彼が助けるであろう人々の未来。

 とても、とても大きな責任だ。この子を育てるということは。

 いや、この子だけではない。

 未来の御伽装士を育てるとは私が思っていた以上の重責。

 改めて、おばあ様のすごさに感服した。

 私は……なれるだろうか……。

 いや、なるのだ。

 今、おばあ様に新たな憧れを抱いた。これをバネにして、また一から始めていこう。

 私自身もまた、この子と同様成長途中なのだから。

 だから、帰ろう────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い石階段を昇って、夜舞のお屋敷へ。

 一緒に歩く勝人は息を荒くして、軽く汗を流しているが私についていこうと一生懸命足を動かしていた。

 

「もう少しですよ。これも修行のひとつ。日常こそ、修行なのです」

「はぁ……はあ……うん……!」

 

 目には光が宿っている。

 小さな子にはきついこの階段も日を追うごとに楽になっていく。

 基礎体力錬成の階段なのだ。

 きっと勝人も自分では知らないうちにすいすいこの階段を昇ることが出来るようになる。

 

「はい、到着です。今日からここが、勝人の家です」

「で、でっけぇ……」

「あ! 薫おかえり! ……ってその子誰!?」

 

 咲希が出迎える。

 今日帰ってくると言ったから家で待っていたようだ。

 そしてやはり予想通りの反応。

 ふふ……。

 

「この子は……私の隠し子です」

「ええ!?」

「冗談です……」

「だよね。で、本当は?」

「私の弟子です。ほら、挨拶を」

 

 勝人に、咲希に挨拶するよう促す。

 しかし年頃だからか照れてしまったようだ。

 年上のお姉さんは苦手でしたか。

 

「私は加藤咲希。君の名前は?」

「す、すずき、かつと……」

「勝利の勝に人で勝人です」

「オッケー勝人ね。よろしくぅ!」

 

 お姉さん風を吹かせて勝人の頭を強めに撫でる咲希に勝人が問いかけた。

 

「おねえさんも、おとぎぞうし?」

「んー? 私は違うよー」

「じゃあ、なんなの?」

 

 なんなの?という聞き方に少し笑ってしまった。

 確かに咲希は夜舞家に出入りしているが御守衆とは関係のない一般人。

 なんなのと聞かれると……。

 

「私はねー。薫のお嫁さんになる予定の人だよー。ほら、師匠の奥さんなんだから敬いな!」

 

 まあ、そう言うより他はない。

 バケゲンブを倒してから少しして、改めてちゃんと告白した。

 高校卒業と同時に籍を入れる予定。

 にしても咲希、自分から敬えなんて言うのは年上としてどうかと……。

 

「……? ししょーはおんなだからおよめさんにはなれないぞ?」

 

 咲希と顔を見合わせる。

 同時に笑い出し、勝人を困惑させる。

 

「な、なんだよ」

「あははっ! ごめんごめん。今日の夜は薫とお風呂入んな!」

 

 なにがなにやらといった顔の勝人を連れて、咲希と二人で笑いながら家に入る。

 ああ、やはり家は安心する。

 

 それから夜、勝人とお風呂に入って現実を見せつけた。

 数日よそよそしくされた。

 なぜ?

 

 

 

 そして数日後……。

 山の自然を活かした夜舞家の修練場で勝人と鬼ごっこをしていたところ、おばあ様が私を呼びつけた。

 

「総本山付きになってからの初任務だよ。気合入れていきな」

 

 手渡された書状。

 任務内容確認。

 なるほど。

 場所は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所。

 オフィスビルが建ち並ぶ夜の街。

 宵闇を照らす街灯達も目を瞑る街の片隅で、仕事帰りの若い女性が走る。

 

「誰か……誰か助けて……!」

 

 ヒールという走るのに不向きな靴で、とにかく走る。

 逃げるために。

 闇の中、ビルの壁に張り付き飛び移りながら女性を追いかける魔性のものは穢れが生みし化神。

 

「あっ!?」

 

 ヒールが折れて、転ぶ女性。

 その女性に覆い被さるように化神が飛び掛かる。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 闇を裂く女性の悲鳴。

 女性は化神の魔の手に堕ちてしまうのか。

 否、断じて否。

 

『ガッ!?』

 

「逃げてくださいませ……」 

「え……? あ、あなたは……?」

「名乗るほどの者では、ございません……。さあ、お早く……」

 

 女性は言われた通りに走り去る。

 その背を見送り、化神へと向き合う。

 

『貴様ァ……。御伽装士か!?』

 

 今宵もどこかで蝶は舞う。

 闇に隠れ、闇を討つ。

 人を守るために。

 人が繋ぐものを守るために。

 

「ええ。我が名は御伽装士マイヤ。化神を滅する、夜の蝶でございます────」

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