仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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邂逅 前編

 ボクの名前は常若永春。

 名古屋に住んでいる高校二年生。

 今日は彼女である沙夜さんとちょっとした用事がてら岩手県に旅行で来ている。

 盛岡駅で新幹線を降りて、更にこれからバスで2時間かからないぐらいの沿岸部の方へと移動中。

 なのだが……。

 ちらりと窓側に座る沙夜さんに目線を配る。

 沙夜さんは窓の方を見ているが、決して外の景色を楽しんでいるわけではない。

 怒って、ボクとは顔を合わせないようにしているのだ。

 

「あの~、沙夜さん……」

「ふんです」

 

 この通り、口もきいてくれない。

 何故、このようなことになったかというと……。

 

 二時間半前。

 東京駅。

 

「永春くん! この車両ですよ!」

「ま、待ってよ沙夜さん……!」

 

 名古屋から盛岡まで行くには東京駅での乗り換えが必要。

 沙夜さんは久しぶりの遠出のためかテンションが高い。

 楽しそうで何より……と、思っていたら。

 

「あ……」

 

 隣の車両の待機列に並ぶ、一人の少女と目が合った。

 着物に詳しくないボクでも分かるような高そうな着物が本当によく似合う、百人が見たら百人は美少女と言うだろう中学生くらいの女の子。

 なによりも、その女の子の赤い目が記憶に残っている。

 カラコン……とは思えないような、本物の赤の美しさみたいなものがあった。

 そんな少女と目が合って、見惚れない男はきっといないだろう。

 いや、当然ボクにとっての一番は沙夜さんだ。

 ただあれに関しては美しさの暴力で不意に殴られたみたいなものである。

 ひとまず沙夜さんがいる手前、抜けた表情にならないよう会釈して新幹線に乗り込んだのだが……。

 

 それから、ずっとこうして不機嫌なのだ、沙夜さんは。

 

「あのー……沙夜さん……」

「永春くんはああいう小柄な可愛らしい子が好きなんですね」

 

 小柄な可愛らしい……。

 東京駅の女の子のこと!?

 

「え!? ち、違うよ沙夜さん!」

「どう違うと言うんですか鼻の下が伸びてましたよ!」

 

 そんな……。

 鼻の下を伸ばさないようにしたのに……。

 伸びていたのか……ボクの鼻の下……。

 

「やっぱり背の高い私なんかより、ああいう小動物系の子の方がいいんですよね永春くんは」

「ち、違うよ! ボクは大きい沙夜さんが好きだ! いや……大きくても小さくても沙夜さんのことが好きなんだ! 沙夜さんだから好きなんだ!」

「永春くん……!」

 

 前髪に隠れる左目がちらっと見えた。

 その目には嬉しいという感情が溢れていた。

 よかった、これで仲なお……。

 

『えー、お客様。車内では、お静かに願います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一時間と少しして、バスの終点。

 港町の駅についた。ここから更にローカルバスに揺られること30分。

 

「ここが……」

 

 目的の場所は、災害の爪痕残る町であった。

 道の端には瓦礫が積まれ、工事関係の車が数多く見られた。

 

「……世間的には豪雨災害の被災地、ということになっていますが、これも全てバケゲンブという化神による被害だそうです」

 

 町の惨状を見渡し、沙夜さんが呟いた。

 こんなスケールの被害をもたらす化神がいるなんて、そう思わずにはいられない。

 まさしく災害そのものだろう、そんな化神は。

 玄武という四神の一柱の名を冠するともなれば、並の化神とは格が違うだろうということは想像に難くない。

 

「この町の御伽装士が討ち倒さなければ、もっと大きな被害が出ていたでしょう」

「そういえば、この町の御伽装士って?」

「私も詳しくはないですが、夜舞家という御伽装士の家がこの一帯を管轄しています。御守衆に属する一族の中でもかなり旧く、現代まで途絶えることなく戦い続けてきたとか……」

 

 なるほど。

 いわゆる旧家というやつか。

 先祖代々戦い続けてきたとか、うん。

 なんかすごそうだ。

 さっきから色々とスケールが大きくて、そんなふんわりとした感想しか浮かばない。

 

「その夜舞家に、私達はこれを届けに来ました」

 

 沙夜さんが持つジュラルミンケースの中身を届けること。

 それが僕達がこの町にやって来た理由。

 ケースの中身は、物部天厳が利用した猿羅の怨面なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古い山門に背もたれ、今日ここに帰ってくる人を待つ。

 東京での仕事を終えて、薫が帰ってくる。

 そう聞いたらいてもたってもいられず、薫を出迎えようとこうしているわけだけど。

 

「まだかなぁ」

 

 呟いて、空を見上げる。

 青く、高い空。

 響く、蝉の声。

 日差しは木陰が遮ってくれているし、少し高いところだからか結構涼しい。

 だからこうして外で待つのも苦にならない。 

 スマホを取り出して、チャットアプリを開いても、なんとなく連絡する気にならない。

 サプライズじゃないけれど、私がここで待っていることで驚く薫が見たかった。

 だから、ここでもうしばらく穏やかに待とう……。

 

「勝人ぉ!!!」

 

 一瞬で穏やかではなくなってしまった。

 真姫さんの怒鳴り声が静かな山の中、響き渡る。

 こだま、返ってこないかな。

 

「逃げるな勝人! 座学を疎かにするな!」

 

 声がまた大きくなった。

 大きくなったというより、近くなった。

 

「つまんないからやだよぉだ!」

 

 からかうような声は最近、この家で預かることになった鈴木勝人の声。

 小学生男子らしい、やんちゃな声だ。

 どれどれと屋敷の中の方を覗いてみるとこちらに向かってくる勝人と、鬼の形相で勝人を追いかける真姫さん。

 まっすぐこっちに向かってきている。

 

「加藤! 勝人を取り押さえろ!」

 

 私を見つけた真姫さんがそう叫ぶ。

 まったくもうやんちゃなんだからやれやれと勝人を捕まえようと腕を広げてスタンバイ。

 勝人はそれでも真っ直ぐ私の方に向かって走ってくる。

 捕まえてくれと言っているようだ。

 

「ふっふっふっ。授業を抜け出す悪い子にはお仕置きが必要だね~。えいっ!」

 

 抱き込んで取り押さえようとした、のだが。

 勝人は私の腕を宙返りで飛び越えて、背後に着地するとそのまま駆け出していった。

 

「ええっ!? なにそのアクロバティック!?」

 

 確実に捕まえたと思っていたのに!

 ていうかどんな動き!?

 小学生のするアクションじゃないよ!?

 

「へへーん。咲希姉なんかに捕まるもんか!」

「んなっ!? 失礼な!」

「まったくあの猿坊主は! ええい、こうなればこちらも本気で!」

 

 真姫さんは私服のオフショルダーブラウスを脱ぎ捨て忍者の姿に。

 いや待て、さっきまで肩出てたのになんで忍者の格好になったらしっかり肩隠れてるんだ。

 この早着替えも忍の技なのだろうか……。

 などと感心していると、真姫さんの姿が消えて次の瞬間には勝人は捕らえられていた。

 

「ずりーぞ真姫姉!」

「まったく、座学とて大事な修行なんだ。おとなしく受けないと薫様に報告するぞ」

「げっ、それだけは勘弁……」

 

 薫の名を出されて勝人は青い顔になった。

 薫のことが苦手というわけではないが、薫から叱られるのが嫌らしい。

 

「ちゃんと全部聞いていましたよ、勝人」

 

 数日ぶりに聞く声がした。

 門をくぐり、影の中から日の当たる方へ。

 薫が、帰ってきた。

 

「おかえりなさいま……」

「薫~!!!!! おかえり~!!!!!」

 

 勢いよく抱きつくが、薫は微動だにもせず。

 この小さく細い身体のどこにそんなパワーがあるのか。

 

「ただいまです、咲希」

「うん! おかえり!」

 

 東京での初仕事を終えて帰ってきた薫はいつもと変わらない様子で微笑んだ。

 怪我もなく、何の問題もなく戻ってきてくれたようだ。

 その事にまずは安心。

 

「真姫も勝人の面倒、お疲れ様」

「いえ、なんてことは。薫様も総本山付きとしての初任務ご苦労様でした。慣れない土地での戦い……。移動もありましたからお疲れでしょう。ゆっくりとお休みになられてください」

「ええ、そうするわ。ただ、電話で話があったお客様の対応はしないとね」

 

 お客様?

 

「誰か来るの?」

「ええ。中部支部の御伽装士がいらっしゃるんです」

 

 中部ということは、愛知とか静岡とか長野の方か。

 けど、なんでそんな遠くからわざわざ?

 出張?

 私の疑問を察してか、薫が歩きながら説明すると言って庭の方へと向かう。

 真姫さんは勝人を連行したので私は薫の後を追って、話に耳を傾ける。

 

「……バケゲンブとの戦いと時を同じくして、東北支部所属の御伽装士エンラが殺害され、猿羅の怨面が強奪される事件がありました。下手人は、物部天厳という呪術師。御守衆の追跡を振り切った天厳は名古屋で蜂起しますが、御伽装士ビャクアの活躍により天厳は討たれました」

 

 確かに、名古屋でも何か事件が起こったみたいなニュースは聞いていたけれどそれも御伽装士関連だったとは。

 それと、気になることが一つ。

 

「エンラって、たしか……」

「はい。勝人のお父様です」

 

 だからか、歩いて話そうなんて薫が言ったのは。

 勝人の前では、出来る限り避けた方が良い話題だ。

 

「報告書によると、天厳は猿羅の怨面を利用して変身したそうです。そのために、猿羅の怨面は穢れてしまった……。穢れた怨面の浄化をこちらで執り行うため、怨面を届けに参るそうです」

「そうなんだ……。けど、わざわざこっちに持ってきてやるの? 向こうでも出来るならちゃちゃっとやっちゃった方が良くない?」

 

 素直に思ったことを口にすると、薫は困り気味に笑みを浮かべた。

 

「もともと、エンラは東北支部所属の装士ですから。こちらの物であればこちらで処理を行うのが道理かと。本来であれば、猿羅の怨面の奪還も東北の装士達がやるべきだったのでしょうけど……」

 

 逃げ切られてしまったし、バケゲンブのことでも手一杯になっていた。

 仙台なんかでも色々あったらしいので東北の御伽装士達が動くに動けなかったという事情があると薫は話した。

 私の知らないところで、いろんな戦いが繰り広げられていたのだ。

 なんだか、思った以上にスケールが大きい……。なんて、呆けているとスマホに着信。

 お母さんからだ。

 薫に断りをいれて出ると、民宿が忙しいから手伝ってくれとのことだった。

 

「ごめん薫、私行かなきゃだ」

「そうですか……。お手伝い、ですよね? 頑張ってください」

「うん! ありがと薫! またね!」

 

 短い時間だったけど、薫に会えたことがとっても嬉しい。

 心はめちゃくちゃ晴れやか。

 だけど、空には灰色の重い雲が少しずつ流れ込みつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 ブルーピア亀ヶ沢。

 部屋から海を一望出来る、このあたりで一番いいホテル。

 日本の景気が良かったバブル期にあちこちで建てられたリゾートホテルの生き残りで、それなりの規模のプールもあるところ。

 そこが、今回の宿……のはずであった。

 

「そんな……予約が出来ていなかったなんて……」

「おまけに満室かぁ……」

 

 沙夜さんと二人、肩を落としてホテルから出て町を彷徨い歩いていた。

 最初は予約していた望月ですと行っても望月様という予約はないと、では常若はと訊ねればそれもないと。

 六角でどうですか!? ではこちらではと六角モータースの人達の名字も挙げるが全て該当なし。

 あえなく、このホテルに予約したという事実はなく轟沈。

 ……いや、どうしたものか本当に。

 せめて今夜の宿は見つけないといけない。

 それで近くのホテルを検索したがどこも満室。

 

「被災地ボランティアで来てる団体さんが多いみたいですね……」

「ああ、それでか……」

 

 ボランティアの皆さんお疲れ様です!

 そして、今晩の宿どうしよう!

 

「夜舞家の方に事情を話して泊めてもらうとか……? いえ、しかしそこまで迷惑はかけられないですしもう少し粘って宿を探すか……」

 

 思い詰める沙夜さん。  

 責任感が強い沙夜さんを励まそうと声をかけようとした瞬間、ボク達に声をかける人がいた。

 

「宿、探してるの?」

 

 僕らと同年代ぐらいの女の子。

 茶髪で、明るい性格を主張してくる大きな目。

 それとあと、この町に失礼かもしれないが田舎っぽくないというか都会っ子みたいな雰囲気を醸し出している。

 

「えっと、貴女は……」

「私は加藤咲希。高校一年生だよ。二人も高校生?」

「あ、はい……。二人共高二で……」

「わ~! じゃあ先輩だ。お二人で旅行ですか?」

 

 ボク達が高二と知ると、女の子……。加藤さんはタメ語から敬語へ。

 不思議と、タメ語が似合う(似合うって言うのも変だけど)子だと思った。

 馴れ馴れしいとも違う、彼女らしいフレンドリーさが不快感を感じさせない。

 

「ええっと、その、旅行で立ち寄ったのですが、予約していたはずのホテルが予約出来ていなくて、他のホテルも満室のようで……」

「へぇ、それは災難でしたね。えっと、お二人はホテルじゃないとダメな感じですか? ……あっ、えっと、その、もしかしてそういう感じですか……?」

 

 顔を赤くした加藤さんがちょっと恥ずかしそうにして聞いてくる。

 ちょっと、いやだいぶおかしな方向に妄想を膨らませていそうだこの子!

 幸い、沙夜さんは気付いていないようだけど!

 

「いやもう全然! 今日泊まれるならどこでもOKって感じです!」

「あ、そうでしたか! うち、民宿やってるんですけどよかったら泊まります?」

 

 な、なんて僥倖。

 捨てる神あれば拾う神ありとはこのことか!

 

「もし、泊まれるようであればぜひ! お願いいたします!」

「はーい! お客様二名様ご案内~」

 

 加藤さんに案内されて歩くこと5分ほどで加藤さんのお家、民宿かとうに到着。

 ここも団体さんが入っていたけれど一室なら大丈夫ということで今夜の宿はここに決定。

 名簿に名前を書いていると、加藤さん。いやここの人みんな加藤さんだから咲希さんと呼ばせてもらおう。

 咲希さんがやたらの覗き込んできた。

 

「とこわかさんと望月さんっていうんですね!」

「そういえば名乗るのを忘れて……。申し訳ありません……」

「いえいえ。それじゃあ早速お部屋案内しますね~」

 

 二人にはちょっと狭い和室。

 まあ、たまには悪くない。

 狭くても沙夜さんとだったら全然苦にはならない。

 

「そういえばお二人はどうしてこの町に? なんもないどころか、被災地ですよ? ボランティアって感じでもないですし」

 

 その質問はもっともだ。

 たしかに観光地ってわけではないし、この町にいま沢山来ているボランティアって感じでもないボク達は結構謎に見えるだろう。

 

「あ……。その、咲希さんは夜舞さんというお宅をご存じですか? そちらに荷物を届けにこの町に来まして……」

 

 沙夜さんがそう説明すると、咲希さんの目が輝いた。

 そして、咲希さんの口からはボク達がまったく予想していなかった言葉が出てきた。

 

「えっ! じゃあ二人が今日来るっていう御伽装士!?」

「おっ……!? ど、どうして貴女が御伽装士のことを!?」

 

 沙夜さんがすごく驚いている。

 だって、まったく御伽装士とか化神とかと関係なさそうな普通の女の子って感じだから。

 

「ええっと、ボクは御伽装士ではないんだけど……。外部協力者的な?」

「じゃあ望月さんが御伽装士なんだ!」

「あの、あまり大きい声では……」

 

 あ、ごめんなさいと咲希さんは口を押さえる。

 それにしても、本当になんでこの子が御伽装士のことを知っていたのだろう。

 

「私も外部協力者……みたいな、協力とかは全然してないし出来ないんですけど……。ほんと、たまたま偶然知ってそのままでいるっていうか」

「本来であれば、記憶の処理が行われるところですが何か事情があったのですね?」

 

 そう、事情があれば記憶は消されない。

 ボクの場合はボクのちょっとした事情で記憶を消す術が効かなかった。

 もしかしたら咲希さんも?

 

「じ、事情とかも全然。本当にたまたまというか……えへへ」

 

 ……?

 照れてる?

 ともかく、やっぱりこの子は一般人も一般人な気がする。

 

「それより! 薫のとこ行かなきゃですよね!」

「かおる?」

「はい! 夜舞薫。この町の御伽装士(ヒーロー)です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 咲希さんの案内で、夜舞家のお屋敷へ行くことに。

 

「お母さ~ん。私~お客さんを夜舞神社まで案内しなきゃいけないから~。いってくるね~」

 

 そう一方的に告げた咲希さんはしめしめといった様子で笑っていた。

 

「にへへ、これで薫のとこに行ける~。よし!」

 

 どうやら家の手伝いよりも夜舞薫という御伽装士に会いに行くことの方が本人にとって良いらしい。

 今日は団体さんも入っているから大変そうだし、まあそういうことなのだろう。

 そう思いながら歩き続け、辿り着いたのは……。

 

「な、なっが……」

 

 一体何段あるんだという石階段。

 こんなの昇ったら足がどうにかなってしまいそうだ。

 

「あのー、ここ以外から行く方法は……」

「ありますけど、また結構歩きますし結局階段昇る羽目になりますし……。あ、あと山道を昇っていくって方法もあります」

 

 結局、一番早くて近い道はここだというので昇ることに。

 これがめちゃくちゃキツくてキツくて、もう、ダメ。

 咲希さんもボクと同じく息を上げている。

 沙夜さんは、さすが御伽装士。息ひとつ上げていない。

 

「永春くん、咲希さん、大丈夫ですか?」

「わ、私は大丈夫、です……」

「はあ……はあ……ちょっとキツかったかも……」

 

 息を整え、咲希さんの案内に従って進む。

 門を越えると、そこはもう別世界。

 時代を遡ってしまったのではないかと思わされるようなお屋敷。

 ここまでの道中、咲希さんから聞いたがここだけでなく裏山だったり他にも土地を所有しているらしい。

 いわゆる、土地持ちというやつらしい。

 あと近くにある夜舞神社の管理も行っているのだとか。

 代々続く御伽装士の家とは聞いていたけど、流石にこれは想像を越えていた。

 

「光姫さんの話だと、広さでも厳しさでも随一の修行場があるとか」

「あー裏山ですね。薫もそこで鍛えてます」

 

 ……なんというか、夜舞薫という人物像が沙夜さんよりも背が高く筋骨隆々な感じになってきた。

 大自然の中で鍛えられた鋼の肉体を持つ、野性的な人みたいな。

 薫という名前が男か女か判断しにくいというのはあるけれど、果たして。

 自分の中で夜舞薫のイメージを固めていくと、屋敷の中から袴姿の金髪の女性がこちらにやってきた。

 その女性を見て、咲希さんが「あ、マキさんだ」と呟いたので知り合いのようだった。

 ボク達のもとへやってきた女性が、僕らとそう変わらない年齢だと気付いたのは近くで見てから。

 なんとなく大人っぽいというか、しっかりとした雰囲気が出ている人だ。

 こう、敏腕秘書みたいなそんな感じ。

 

「遠路はるばるご足労いただき感謝いたします。私は五十鈴真姫。薫様の側近を勤めさせていただいております」

 

 きちっとした所作で自己紹介するものなので、思わず見入ってしまった。

 沙夜さんが挨拶をしたのにワンテンポ遅れて、僕も名乗った。

 

「加藤、案内すまなかった。本来であればこちらでするべきだったが手を回せなくてな」

「大丈夫ですよ! 薫も帰ってきたばっかりだしで忙しかったでしょうし」

 

 咲希さんと真姫さんは気軽に話せるぐらいの間柄らしい。

 それと、個人的に気になることがひとつあった。

 

「帰ってきたばっかりって、その、薫さんどこかに行ってたの?」

「薫様は総本山付きとなってから初めての任務で東京に行ってらっしゃったのです。昨晩、任務を果たして先程お帰りになられたばかりでして……」

 

 総本山付き?

 聞き慣れない言葉に首をかしげると沙夜さんが教えてくれた。

 

「総本山付きというのは、私や多くの御伽装士のようにどこかの管轄に所属するのではなく、総本山からの指令で動く御伽装士のことです。総本山直々の指令ともなると危険度も重要度も高く、実績と実力のある装士でなければ務まりません」

「なるほど……。簡単に言えば、エースみたいな感じ?」

「そうですね。普通に御伽装士をやっていればなれるというものでもありませんし」

「沙夜さんならなれるんじゃない?」 

 

 ふと、ぽろりとそんな言葉が口から出た。

 これまでの沙夜さんの戦いぶりを見てきて、なによりあの名古屋を震撼させた物部天厳を打ち倒したのだ。

 沙夜さんなら十分なれると思う。

 

「そう簡単になれるものではないんです。それに総本山付きともなれば、今の倍以上の忙しさで永春くんともなかなか会えなく……」

 

 そこまで言って、沙夜さんの香りがボンと赤くなった。

 ボクの顔も段々と赤くなってきた。

 二人きりの時ならまだしも、今は僕達以外も人がいる……!

 

「ひゅーひゅー! お熱いね~!」

「咲希さん、お願いだから追い討ちをかけないで……」

「……薫様がお待ちですので。こちらです」

 

 真姫さんが気を遣ってか、話題を遮ってくれた。

 ただ、今日と明日は咲希さんのお熱いね攻撃が襲いかかってくるものだと覚悟はしていたい。

 咲希さんのキラキラとした目が、それを物語っているからだ。

 

 さて、屋敷の中はというとやはり圧倒される。

 ここの写真を高級老舗旅館と言ってSNSにアップしたら大半の人は騙せそうだ。

 木造の優しい感じと、長い時代を見つめてきた威厳のようなものを感じ、姿勢を正さずにはいられない。

 中庭は季節の木々が緑に萌えて、百合と桔梗の花が彩りを添えていた。

 季節の植物を楽しめるのだろう。

 そして、その中庭を臨める部屋に夜舞家の当主がいるという。

 真姫さんが扉をノックすると部屋の中から返事が。

 穏やかであるが凛とした美しい女性の声であった。

 この瞬間、ボクの中で出来上がりつつあった夜舞薫のイメージ像が崩壊した。

 

「それでは、どうぞお入りください」

 

 そう促されるが、妙に緊張して入りづらい。

 緊張する必要なんてないのに、ボクはこの屋敷の環境にいつの間にか緊張していたようだった。

 

「失礼します」

 

 沙夜さんが先陣を切り、入室していく。

 それを見てボクも覚悟が出来たというかなんというか。

 同じく、失礼しますと言って部屋の中へ。

 そこは、和でなく洋であった。

 これまでの屋敷の中から一転して、いや、それでも時代がかっているということだけは共通しているが。

 レトロというか、アンティークというか。

 赤を基調とした部屋で暖かみがある。

 ソファーとテーブルが部屋の中央にあり、奥には大きな机が。

 棚には高そうな外国のお皿とか陶器が飾ってあったりと一気に国を飛び越えたかのような錯覚に陥る。

 

「────ようこそ、おいでくださいました」

 

 先程、部屋の中からした声。

 僕からは影になって見えなかったが、奥の机に座っていたようだ。

 立ち上がり、机の隣に立った和服の少女。

 その少女を見た瞬間、ボクと沙夜さんは二人して驚いた。

 

「あ、貴女は……!」

「東京駅の……」

「あら……。ふふ、これも、何かの縁というものでございましょうか……」

 

 その少女は、東京駅で出会った人だった。

 まさか、あの子が夜舞薫さんだったなんて。

 数奇な運命を感じながら、ボク達は再び出会った。

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