仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ 作:大ちゃんネオ
うるさい駆動音。
これでは公害問題だ。
けどこのバイクの主である、絶賛オレの目の前で運転中のクソ親父は「この音がいいんだろ!」と言って憚らない。
「もう少しで着くぞ!」
「ああ」
そう返事をすると、親父がぶう垂れた。
「ったく、愛想が悪いなお前は。もっとこうリアクションはないのか! 嬉しいだろ薫ちゃんと会えるの!」
「うっせ」
「なんだその態度は! まったく図体ばかりでかくなりやがって……」
好きででかくなったわけじゃない。
まあ、でかい方が色々と好都合なんだけど。
「てか親父の髪が風に靡いてうざい!」
「我慢しろ我慢」
くっそ。
後部座席に座るオレの身にもなってくれ。
後ろで束ねられたこの襟足が本当にうざいんだ。
やっぱり寝てる時にこの毛を切ってやろうか。
……成功した試しはないんだけど。
「そうだ! トイレは大丈夫か!」
「問題ねえし、いちいち聞くなクソ親父!」
「なんだと!? お前こっちは気を利かせてだな! 振り落としてやろうか!」
「やってみろクソ親父!」
口喧嘩をしながら目的地へと向かう。
薫のいる町へ────。
今日発売の漫画を本屋さんで買い、とても楽しく読ませていただきました。
連載誌ではなく単行本派なので次の巻の発売が、とても待ち遠しく……。
また、私にはとある楽しみが。
それは、単行本をきちっと並べて揃えること。
この作品もここまで長く……と感慨に耽るのです。
連載が続くとは、長く愛されるということ。
私の好きな作品が、他のたくさんの人にも愛されているということ。
それは、とても素晴らしく……。
「あら……?」
新刊を本棚に並べようとして、気付きました。
本棚が、ぎゅうぎゅうでございます。
「かーおるー!」
婚約者権限で自由に夜舞家に出入り出来る私は時間が空いたら薫のところに行くようにしていた。
薫があちこち任務で行くようになったから会える時に会っておかないと寂しい。
というわけで薫の部屋に突撃。
さてさて薫は……本棚の前でなにやら考え込んでいる様子。
「どうしたの薫?」
「咲希……。それが、本棚がいっぱいになってしまい……。整理をしようと思ったのですが、どれも本棚から外したくはなく……」
ふんふん。
なるほどな~。
それにしても、この大きな本棚二つ分がいっぱいになるとは……。
「電子書籍にしたら?」
「紙がいいのでございます!」
珍しく、この口調で薫が大きな声を出した。
ほっぺたも膨らませて可愛らしい。
「まあまあ。けど、整理しないとこのままじゃマンガで部屋を埋め尽くしちゃうよ」
「そうなのです……。本棚を新たに置くことも出来ないですし……」
「読まなくなったマンガを段ボールにしまって倉庫に入れとくとかしないと」
「読まなくなった漫画……」
「これとかは? 古いし巻数多いからまとめて段ボールにしまっちゃうとか」
「それはとても良く読み返していますので駄目です」
さいですか……。
奇妙な感じの冒険は駄目と。
ちなみに薫は7部が好きらしい。
私も読んだけど4部が好きだな。
なんてことは置いといて。これは?これは?と薫に訊ねていくも、どれも何かしら理由をつけて段ボール行きは却下されてしまった。
「もう~整理にならないでしょ。覚悟決めて!」
「うう……。嫌でございます……」
「そうは言ってもだよ薫。これからもマンガはどんどん増えるんだから。整理しなくちゃ薫の部屋どころかお屋敷がマンガで溢れちゃうよ」
うう、嫌でございます、嫌でございます……と言いながら薫は再び本棚と向き合った。
これは至るべきして至った運命。
覚悟を決めなければいけない。
「あれ、薫これは?」
本棚の下が引戸になっており、開けると厚いハードカバーの本が。
「そちらは……アルバムで、ございます」
「アルバム! 薫がちっちゃい時の写真とかある?」
「それは……はい……」
少し恥ずかしそうにする薫に許可を取って写真を拝見。
アッ。
「咲希?」
「だめ、小さい薫可愛すぎる。死ぬ」
一瞬見ただけですごかった。
もう小さい時から美人になることが確定している。
見たら死ぬけど見たい。
よし死のう。死なないけど。
「あ~~~か~わ~い~い~」
前髪をゴムで結ばれた薫とかやばい。
死ぬ、死んだ。
やばいわぁ。
「語彙が……」
「だって可愛いんだもん~。お、この子は?」
薫オンリーの写真ばかりの中、はじめてツーショットの写真が。
黒髪短髪の子と二人、カブトムシを捕まえた記念に撮った写真っぽい。
「その子は樹羅ちゃんです」
「ジュラちゃん! 恐竜好きそうな名前」
「ふふ、当たりです」
ほらやっぱり。
うちの弟も恐竜好きだし、男の子は恐竜好きになるものだ。
ましてやジュラだもん。
「樹羅ちゃんはとてもおとなしくて、私の後をいつもついて歩く子でした」
「そうなんだ。今はどこにいるの?」
この屋敷にそれらしい人はいないし、学校にもいない。
この町にすらいるか怪しいところである。
「お父様……。と言っても、育てのお父様ですが。その方が総本山付きの御伽装士をしておりまして、今は一緒に旅をしていることかと……。小さい頃は任務がある度に危ないからとよく家に預けられていたのです。手紙のやり取りなどもしていないので、近況は分かりませんが……」
なるほど。
じゃあこの子も今は御伽装士の修行中ってとこかな?
他にも色々、薫の昔話を聞いていると扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します。薫様、化神出現の報告が」
扉の開けた真姫さんが急ぎつつも落ち着いた口調で報告した。
突然のことだったけど、薫は落ち着いた様子で場所やどのような化神かなど必要最低限の情報を聞き取り化神退治に向かうことに。
見送りしなくちゃ!
廊下を早足で歩く薫のあとをついていって外へ。
すれ違ったお屋敷に勤められている人達も急ぎ足でいる。これが、化神が出た時のお屋敷の雰囲気……。
平装士の人がアラシレイダーを玄関前まで運んできており、いつでも出発出来るようになっている。
「薫! いってらっしゃい!」
「はい……。いや、ああ!」
薫が男口調になった。
私的にはちょっと久しぶりだったり。
そしてこうなるということは……。
着物の袖から腕を抜き、上の着物は腰からだらりと垂れ下がり、薫の細マッチョな身体がお目見えする。
やっぱり。
「脱いでもいいから夏は好きだぜ」
「夏は脱いでいい季節ってわけじゃないよ!?」
「涼しくなるからいいだろ。って、こんな話してる場合じゃねえな」
それもそうだ。
化神が出たんだから急がないと。
私も邪魔することはしたくない。
「オン・ビシャテン・テン・モウカ 舞え、マイヤ……」
怨面を取り出し、変身のための呪文を唱える薫。
その身体に舞い飛ぶ蝶の群れのような赤い痣が、蔦が伸びるように浮かび上がる。
「……ッ、スウゥゥゥ……」
痛むのを我慢するように、息を吐く。
その痛みの度合いは私には分からないけれど、きっと私の想像以上ではあるだろう。
これが、穢れや呪いを力として戦うことの代償なのかもしれない。
「変身!」
怨面を纏った薫から、無数の蝶が飛び立っていく。
蝶の群れの向こう側、昼間でも眩しい紫の光の中から薫が、マイヤが現れる。
アラシレイダーに飛び乗ったマイヤはエンジンを吹かして、正門からではなく屋敷横の山道に繋がる門から飛び出していった。
「いってらっしゃーい!!!」
私の言葉に薫は背中で返事をする。
走り去り、小さくなっていくその背には確かに「いってくる」の文字があったのだ。
旧鉱山跡地。
かつて、この町には鉱山があり栄えていたのだが鉱物資源が無限に採れるなんてことはない。
全国各地にあるそれらと同じように、この町も鉱山の採掘量減少に伴い廃れていった。
今では取り壊されることもなく残った鉱山施設、宿舎や学校などの公共施設が残る空っぽの町。
隣町など近くの町の若者が来ては肝試しをしているらしく、これといった逸話もないのに心霊スポット扱いをされている。
廃墟マニアからはメッカと呼ばれているらしい……というのは真姫から聞いた。
「そんなところに、なんで現れたんだ」
呟く疑問に答える者はいない。
答えてくれるのは唯一、これから相見える化神のみ。
薄暗い山林を抜けて、鉱山への道に出る。
ここからは人避けの結界も張られているし、そもそも人が寄り付かない場所だから堂々と道を走るわけだが。
かつては舗装されたであろう道。
しかし、今は誰も通らないのでわざわざ舗装し直すことはしなくなった。
そんなだから道はぼろぼろ。
鉱山に近づくにつれてアスファルトの面積は少なくなっていく。
それにガードレールもなく、道を外してしまったらそのまま崖を転げ落ちることに。
とはいえそんな心配はほぼない。
アラシレイダーはこんな道が多いこの町のために作られている。
悪路なんて関係ない。
そのまま走り抜ける。
底なし沼と呼ばれている古いダム湖を目下に……。
って、いた。
化神いた。
『うわあああん! 寂しいよおおお!!!』
そいつは泣き叫んでいた。
豹柄の壺のような上半身と頭。頭の壺の割れ目から光る目が覗き、壺の口からは数本の触手のようなものが飛び出ている。
下半身も、二本の足で立ってはいるようなのだが数え切れないほどの触手が垂れ下がりスカートのようになっている。
壺、触手……。
「バケダコかッ!」
化神の正体を推察し、最も正解に近いであろう名を叫んだ。
アラシレイダーで崖を下り、底なし沼の縁に立つバケダコを轢く。
『ぬごぉ!?』
「タコは海に帰んな」
アラシレイダーから降り、厄除の槍を手にしながらバケダコに向かって言い放つ。
タコはタコらしく海にいやがれ。
『うわあああん! ひどいよおおおおお!!!! 言われなくても帰るところだったのにいいいい!!!!』
「なに?」
帰るところだった?
こいつ、一体何を言って……。
『私の穢れをここから川に流して海に帰るところだったのおおおおお!!!!!!!』
穢れを、川に流す。
待て、それはまずい。
改めて集中し、沼を見つめる。
沼からは微量だが穢れの気配が。
いや、待て。ここから流していたのだから穢れはあまり沼には残留しないのでは。
その嫌な予想が当たった。
ここから流れ出た川の方から強い瘴気が。
穢れを流すってことは毒を流すってことと同義。
それはまずい!
「厄除の槍!」
川に向かって投擲。
槍の力で川を塞き止め、これ以上穢れが下流へ流れないようにする。
槍とオレの神通力である程度は浄化出来るといいが、これはしっかり浄化してやらないといけなさそうだ。
面倒増やしやがって……!
『あああああああ!!!!!!! どうして川を止めるのおおおおお!!!!!! これじゃ流れていけない!!!! 帰れないいいいい!!!!!! 人を毒殺出来ないでしょおおおおお!!!!!!』
泣き叫びながら頭の触手を伸ばして攻撃してくるバケダコ。触手を掻い潜り、間合へと入ったオレは掌底を胴へと繰り出す。
だが……。
「かたっ……!」
『うわああああああ!!!!! 効かないいいいいいいい!!!!!!!』
「うっ!?」
胴体への攻撃は全く響かない。
右腕の触手で薙ぎ払われ、沼の中へ。
落ちたのが浅瀬のためすぐに体勢を立て直すことが出来たが、この沼には奴の穢れが微量ながら含まれている。
そのため奴の毒が身体に回り、身体に少しばかり痺れが生じた。
これぐらいの痺れ、なんてことない。
ただ、面倒だ。
槍にオレの力も注いで川を塞き止め穢れの浄化も行っていることで、マイヤの力が下がってしまっている。
他の退魔道具の使用も、出来なくはないが消耗が激しくなり槍の力を弱めてしまうことになる。
『隙ありいいいいい!!!!!!!』
「なっ!?」
身体に巻き付く触手。
くそ、ヌメヌメして気持ち悪いしそれに……。
『あなたも毒殺うううう!!!!!!!!!』
穢れが、流れ込んでくる……。
怨面が熱い……。
かくなる上は……ちょっとばかし無理をすることになるけど……!
蝶絶怒涛による自爆覚悟の爆殺。
自分へのダメージはそれなりに来るだろうけれど、覚悟の上。
バケダコへと一気に駆け込んで、蝶絶怒涛を繰り出す。
蝶絶怒涛の威力も下がっている。
だからこそ、奴の間近でやらなければならない。
……行くぞ!
「退魔覆滅技法!」
「えっ……」
それは、自分ではない声だった。
「断撃斬ッ!!!」
空から降ってきたそれは、腕の刃でバケダコの触手を切り裂き、私を助けた。
巻き付く触手を投げ捨てて、その者を見つめる。
あれは、御伽装士だ。
『なんなのおおおおおお!!!!!!!!』
その御伽装士は全身が暗い緑色で、所々に暗い赤色が差し込まれていた。
緑色の怨面はのっぺりとしており、赤い曲線が描かれるのみでモチーフが分からない。
だが、それが何を模したものかは理解した。
その装甲の構造は鱗である。
爬虫類、魚類などが持つ皮膚を保護するもの。
その硬さは攻撃から身を守るため、しかしその硬さゆえに重くなったり、可動域が減ることはない。
蛇なんかが良い例だろう。
あの滑らかな動き、瞬発的な動きを可能としているのだ。
あの御伽装士の身体は、それだ。
「……なんなのだと?」
バケダコの言葉に、鱗の御伽装士が反応する。
「オレは鱗牙の怨面を受け継ぎ、纏いし者。御伽装士リンガ!」
「リンガ……」
その名には、覚えがあった。
姿は見たことがないのだけれど、リンガという御伽装士はお母様のご友人である。
ただ、声が若かった。
私の知っているリンガに変身する方は、今では40代半ばのおじ様になるはず。
ということは、まさか……。
「よっ!」
戦いの場だというのに、気の抜けた挨拶。
この声にも覚えがあった。
暢気に歩きながら声をかけてきたのは金髪を無造作に伸ばし首あたりで束ね、無精髭をたくわえ、くたびれた革のジャケットを着こなす男性。
「竜おじ様……!」
「久しぶりだなぁ! 10年ぶりか……って、ひとまずあいつのデビュー戦見守ってくれや。御伽装士の先輩として」
朗らかな表情から一転、真剣な顔となった竜おじ様。
三葉竜。御伽装士リンガとしてお母様と共に修行し、何度も共に戦ったという方。
だが、今はリンガに変身する人が別にいる。
そして、今のリンガはきっと……。
『いやあああああ!!!!!! もう一人増えてるううううう!!!!!!!』
「うるせぇっ! たあッ!」
バケダコの触手がリンガへと迫る。
リンガはその触手を手で払いのけると、バケダコの触手が切断された。
リンガの鋭い爪が、断ち切ったのだ。
『なんでえええええ!!!!!!!』
バケダコが疑問に叫ぶ。
叫びながらバケダコは触手を放つ。さっきよりも数を増やして。
再び爪で触手を断ち切るリンガだが、数が多く捌き切れなかった触手に巻き付けられてしまう。
危ないと助けに入ろうとしたが、竜おじ様が制止した。
「大丈夫。あんなの無問題だ」
そして、おじ様の言葉の通りとなる。
「ぐぅぅぅ……はあッ!!!」
巻き付けられた部分の鱗が逆立ち、触手を断ち切りリンガは自由を取り戻した。
バケダコが怯んだ隙に、リンガは姿勢を低くして駆ける。獲物を見つけた蜥蜴のように。
バケダコへと接近したリンガはパンチや蹴りを放つが、やはりあの壺が硬く攻撃が通らない。
触手を切り裂いた爪でも駄目である。
だが、リンガは止まらない。
バケダコを押し倒し、マウントを取ったリンガは力任せに殴り続ける。
「うぅっ! あぁっ!!! あぁっ!!!」
「あの馬鹿。力任せにやったって意味ねえだろうが。武器使え! 武器! 退魔道具だ!」
おじ様の声で冷静になったリンガは飛び上がり、一度距離を取ってから退魔道具を取り出した。
「退魔道具……。山姥の鉈……!」
ベルトのバックルに備わる霊水晶から現れるは無骨な鉈。
人が使うものよりも長大なそれは武器として鍛えられた特別製である。
「ああっ!」
再び飛び上がり、鉈を振り上げる。
バケダコ目掛けて降下すると同時に力任せに鉈を振り下ろすが大振りな一撃は回避されてしまう。
リンガは着地後もとにかく鉈を振り回す。
とにかく、力任せな戦いだ。
「なんだその振りは! 修行の時、俺はなんつった!」
再び、おじ様の声が飛ぶ。
おじ様の指示が来るとリンガは冷静さを取り戻し、鉈の振りも精密さを増す。
的確に、相手にとって避けにくい嫌な攻め。
それが功を奏し、バケダコの胸部中央に鉈が直撃。
壺が割れ、触手と同じ柔らかい身が露となった。
あそこを狙えば、倒せる!
「だあぁぁぁ!!!!」
急所を狙うことは戦法として当然のことである。
だが、リンガの攻撃はどうにも急所を攻撃することばかりに意識がいっている。
急所を狙うのは当然であるが、急所は守られて当然の場所でもある。最も防御が硬くなる場所だ。
急所に攻撃を当てるということは難しく、それ故に様々な策を練るもの。
だがリンガの攻撃はそんな策などない。
やはり力任せ。
これでは……。
『鬱陶しいわああああああ!!!!!!!』
「ぐあッ!?」
バケダコの両腕に突き飛ばされて尻もちをつくリンガ。更にバケダコの壺から黒い靄が吐き出される。
靄はリンガの眼前を覆い、視界を奪う。
そして、バケダコの触手が靄の外から伸びてリンガを貫く。
『よわあああああい!!!!!!』
靄が晴れ、貫かれたリンガを見たバケダコは勝鬨を上げる。
ただ、おかげでこちらが勝鬨を上げられそうだ。
貫かれたリンガは蝶となり消えていく。
『なにいいいいいい!?!?!?』
「ふう……。間に合いました……」
リンガが戦ってくれたおかげで回復することが出来た。
痺れもなくなり、リンガの幻影を作り出しサポート。
後ろでおじ様が「やれやれ」とぼやいているが気にしない。
「あぁぁぁぁぁ!!!!!!」
リンガはバケダコの背後から飛び掛かり、まとわりつく。
鋭い爪で引っ掻き、頭部の触手を引き千切る。
バケダコの粘膜が飛び散り、なんと言いますか、すぷらった。
バケダコの身体の上で暴れまわるリンガは太ももで頭を挟み込むと重心を傾けバケダコを仰向けに倒して動きを封じた。
「退魔覆滅技法! 邪貫爪ッ!」
リンガの右手の爪が伸び鋭さを増し、手甲の鱗が逆立つ。
そして、貫く。
先程割れた箇所を。
『いやああああああああ!!!!!!!!!!!!』
バケダコ、爆散。
……なんとか、なりました。
私的にも、リンガ的にも。
「いやぁ薫ちゃんのおかげで助かったわ。ありがとな」
私が変身を解除すると同時におじ様が頭をポンポンと叩きながらお礼を言ってきた。
ああ、そういえばよく頭を撫でられていたなと思い出す。
しかし、私は褒められるようなことはなにも。
「いえ……。助太刀に来ていただかなければ危ないところでした。こちらこそ、ありがとうございました」
「……槍で川を塞き止めつつ浄化を行う。そんで自爆覚悟の蝶絶怒涛って感じだったんだろ」
よもや、そこまで分かられていたとは。
いえ、お母様と共に戦ってきた御伽装士ですから、これぐらいのことはすぐにお分かりになるのでしょう。
「力を割いての戦いだ、それであんだけやれれば充分よ。もし俺が薫ちゃんでも同じことを考えてたさ。それで勝てただろうしな。ほら、化神が倒されたんで川の水も大丈夫そうだ。薫ちゃんが守ったんだぜ、立派になったな。流石その歳で総本山付きになったことはある」
「あの、そのようにあまり褒められると……」
照れてしまいます……。
それよりも、戦い終わったリンガはなかなか変身を解かない。
一体どうしたものでしょうか?
「おい樹羅! 薫ちゃんと久々に会えたからって照れんなよ!」
「照れ……?」
「う、うっせぇクソ親父! 今解くとこだったんだよ!」
そう言ってリンガは変身が解除されて……。
「樹羅ちゃん……?」
現れた人は、私の思い出の中の子とは印象が違っていた。
それもそうだろう。
最後に会ったのは10年近く前になるのだから。
「久しぶりだな、薫」
綺麗な金髪。
勝ち気そうな目。
ジーンズにジャケットという服装。
パッと見、ホストのよう。
そしてなにより……。
「大きく、なられましたね……」
「オレもまさか薫から見上げられるようになるとは思わなかったよ……」
私が身長155cmなので、樹羅ちゃんは175cmぐらいはありますでしょうか。
それと、オレ……。
本当にあの頃の樹羅ちゃんから変わってしまって……。
「さて、再会も済んだことだ。夜舞の屋敷に挨拶しに行くぞ。配属のな」
「配属?」
「あれ、薫ちゃん聞いてなかった? 薫ちゃんが総本山付きになるってんでこいつがここの担当になるんだ」
そういえばと思い出す。
なかなかやって来ないのですっかり忘れていたのだ。
「薫ちゃん聞いてくれよ。樹羅の奴な、薫ちゃんとこに配属って決まってから緊張しちまって色々と不調になってな。そんで再修行する羽目になって遅れちまったんだよ」
「まあ」
「緊張なんかしてねえ! た、たまたまスランプになっただけだ」
「なんにしろ、配属は遅れて迷惑かけたけどな」
「うっ……」
まあまあ、あまり樹羅ちゃんを責めないでください。
ここしばらくは総本山からの指令もなくこの町にいたので問題はありませんから大丈夫でしたよと伝える。
ひとまず、お屋敷へと向かいそちらで改めてお話しましょう。
私はアラシレイダーに乗り込み、おじ様は大型のアメリカンバイクが原型のマシンに跨がる。樹羅ちゃんはその後ろに座り、短いですが屋敷までのツーリングとなりました。
任務終了ということで、帰ってくる真姫さんと一緒に薫を出迎えることに。
門を開けて、二人で待っているとアラシレイダーの音が響く。
薫が近付いてきてる!
「ん?」
「どうしたの真姫さん?」
薫が近いというのに、真姫さんの表情が変わった。
「アラシレイダーともう一台、別のバイクがいる」
もう一台?
なんだろう。
誰かと一緒に来てるのかな?
予想していると、薫の姿が。
そして真姫さんの言ったとおり別の大きなバイクが薫の後ろについてきていた。
いや、本当に大きい。
アラシレイダーと比べるとその差は歴然。
そっちのバイクは二人乗りで、乗ってる二人はどちらも体格がいい。
薫が更にちっちゃく見える。
「おかえりなさいませ、薫様。あちらは……」
「ただいま真姫。あら、忘れたの? 竜おじ様と樹羅ちゃんよ」
「なっ!?」
樹羅ちゃん。
さっき話してた子だ!
なんて、タイムリー。
噂をしたからかな?
「よっ、真姫ちゃん! でかくなったな~。金髪も似合ってるぜ。おそろだな!」
ヘルメットを脱いだ金髪のおじさんが気安く真姫さんに話しかけた。
無精髭を生やして、ボサボサの金髪頭なんだけどそれが似合う雰囲気を醸し出している。
……30代半ばぐらいと見た!
それと、その後ろに乗ってる子が樹羅ちゃん。
アルバムで見たのとは全然違う雰囲気。
おじさんと同じく、髪は金に染めて耳を隠すぐらいの長さまで伸ばしている。
背も高くて肩幅もそれなりにあって、鍛えてる!って感じ。
けどホストっぽくてなんかチャラそう。
「お、そっちの子は? なんか平装士って感じじゃないけど」
おじさんが私に気付いて話しかけてきた。
平装士って感じがしないのは、当然というかなんというか。
私、一般人ですから。
「彼女は加藤咲希といって……。はあ……。薫様の婚約者になります……」
目頭をおさえた真姫さんが私をそう紹介した。
「ちょっと真姫さん!? 今ため息ついてたよね!? 認めてないってこと!?」
「そういうわけではない。ただ婚約者と言うのが慣れてないだけだ」
むう、本当かなぁ?
「マジかよ薫ちゃん。婚約者とは早えな! 楓は結婚遅かったのに!」
楓とは、薫のお母さんの名前。
結婚遅かったんだ……。
「俺は
「はい! 加藤咲希です! えーっと、一般人です!」
「あっはっはっ! そうか一般人か! いや、いい女だと思うぜ! 明るくてな!」
「ありがとう竜さん!」
竜さん、いい人だわ。
なんかこう、相性ピッタリというかなんというか。
明るくていい人!
「おい樹羅。お前もちゃんと挨拶しろ。……樹羅?」
樹羅ちゃんは何故か知らないけど固まっていた。
口をパクパクしながら。
どうしたんだろ?
「薫の、婚約者……? 婚、約……婚約……」
「おーい、どうした樹羅~?」
「……ッ!」
おじさんの呼び掛けで我に返った樹羅ちゃんは私に詰め寄って……詰め寄って!?
「おいお前! 婚約者ってどういうことだよ!」
「ななな! なにか問題でも!?」
「問題大有りだ!」
樹羅ちゃんは私より15cmは背が高いように見える。
そんな相手、ましてや男の子に詰め寄られた私が感じた恐怖を分かってもらえるだろうか。
ただ、薫の幼馴染みだかなんだか知らないけど私と薫の仲に口出しされる筋合いはないし!
初対面でいきなりこんな許さないんだから!
「何が問題だって言うわけー!?」
「それはその……色々だ色々!」
「はー! はっきりと言えないんですかー!? それでキレるとかどういうこと意味分かんない!」
「あの、二人とも……」
「薫は黙ってて!」
「薫は黙ってろ!」
ハモってしまいそれが更に怒りのボルテージを上げた。
「あー……。始まっちまった。
「ああもう! とにかく気に食わねえ!」
肩をドンと押されて、それで本当にマジでガチで本気で真剣にキレた。
「このッ!」
えいっと全身全霊の力をこめて胸板を押した。
すると、ブチっという音が。
更に、力を入れすぎたせいで二人一緒に倒れることになって……。
「やばっ……」
樹羅ちゃんがそう呟いたのが聞こえた。
そして、どしゃっと二人もつれて転ぶ。
転ぶというか、私が押し倒したみたいな格好になってるけど。
「いって……」
「二人とも、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫……」
薫に返事をして立ち上がろうとしたら、右手に柔らかい感触が。
うん?
右手は樹羅ちゃんの胸を掴んでいる。
掴むというか、鷲掴んでいる。
胸に聳えるエベレスト級の二つの山のうちの一つを。
指が、樹羅ちゃんの胸に沈んでいく。
もみもみ。
もみもみもみもみ。
「もっ、揉むなバカァ!!!」
屋敷に、山に響き渡る羞恥の声。
目に涙を浮かべ顔を赤らめる樹羅ちゃんはまさしく、辱しめを受ける乙女なのであった。
もみもみ。
「だから揉むなァッ!!!!!」
思い起こすは記憶。
語られるのは過去。
今、亡き母の栄光を垣間見る。
次回『追憶』
その楓は、血に紅葉する。