仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ 作:大ちゃんネオ
お盆の空気が、好きなのです。
夏の開放的で騒々しい雰囲気が、きゅっと静まって。
どこか、寂しく、夏の終わりを感じさせる。
「ふわぁ……」
傍らの咲希があくびをひとつ。釣られて、その隣の勝人もあくびを。
早朝、厳しい暑さが迫る前にお墓参りをすませる。
咲希と勝人にはまだ眠い時間かと思いますが、暑くなってからでは少々大変ですから。
山の中にある夜舞家の墓は、日陰となってくれているので涼やかではありますが。
墓前に花を供え、菓子や米も供える。
なにかもらえるだろうと、カラス達が集まり始めている。
私達がいる間は手を出さず、帰るのを待つあたり、やはり頭がいい鳥だ。
うるさく鳴き喚くこともせず、じっと、待っている。
「ふふ、待っててくださいね」
餌付けというほどのものではない。
菓子は包装されているもので持ち帰るため、彼等が食べるのはお米と、家で切ってきたりんごぐらい。
自然のものですので、大丈夫でしょう。
「はー、ここは変わらんなぁ。樹羅は覚えてるか? 花火したろ」
「覚えてる。親父がはしゃいでたことを」
「だって花火だぜ? 墓参りで花火するとかここだけなんだから」
「えっ……。他の地域では、やられないのですか……? 花火……」
他のところではやらない。
というかやらないのが普通と、樹羅ちゃんに言われて、ショック。
「花火するの!? お墓参りで!?」
「はい……。あの、本当にしないんです……?」
「初めて聞いた! え、今日はやらないの!?」
「ふふ、勝人がいますので、持ってきております」
「やったー!!!」
「ほんとししょー!?」
イエイと、咲希と勝人が二人で盛り上がる。
ふふ、こんなに賑やかなお墓参りは初めてです。
「ていうか、そもそもなんで来てるんだよ、お前。勝人はまだ分かるとしてさ」
「んー? そりゃ私、薫の婚約者ですから! なに、まだ文句ある? またその隠してるデカイの揉む?」
「っざけんな! やめろ、こっち近付いてくんな! あとその手やめろ!」
咲希は鷲掴むような手をして樹羅ちゃんに迫る。
はじめて顔を合わせてから、ずっとこんな調子なのです。
喧嘩ばかりして、二人には仲良くしていてもらいたいのですが。
「大体、そっちこそなんで男物ばっか着てるわけ? オレオレオレオレ言って、詐欺ですか~?」
「男がオレっつって何が悪いんだよ」
「いやいや樹羅ちゃん女の子だから」
「ちゃん付けすんな!」
「もう二人とも、お墓の前で喧嘩はやめてください」
賑やかなのは良いですが、喧嘩はいけません喧嘩は。
ご先祖様達の前ですからね。
また、今年からは夜舞家の墓だけではなく、その隣には勝人のお父様のお墓が建立されました。
初めてのお墓参り。
勝人のことが心配でしたが、猿羅の怨面を浄化した一件から前向きになれたようです。
まっすぐな瞳を向け、お父様のお墓にまだ小さな手を合わせていました。
「はぁ……よっこらしょっと」
竜おじ様が近くの切り株に腰を下ろしました。
「おじ様……。お膝が、痛むのですか……?」
「ああ、いや膝は大丈夫だ。単純に疲れただけ」
竜おじ様が御伽装士リンガを引退なされたのは、左膝の怪我によるもの。
日常生活を送る分には支障はないようですが、戦闘には耐えられず樹羅ちゃんに鱗牙の怨面を継がせたとのこと。
「んだよ親父。だらしねぇぞ」
「この歳になると鍛えててもやっぱり衰えてくんだって。もう四捨五入したら50歳だからね俺」
「そう言われると竜さんマジで若いよね見た目」
「いくつになってもモテたいからな!」
「そんなだから独身なんだぞ!」
「独身だから縛られず自由に恋が出来るのだ!」
「またそんなこと言って……」
親子の会話とは、このようなものかと和みながら眺めていると小さく肩をトントンと叩かれる。
咲希が小声で何かを訊ねたい様子。
「ねえ薫」
「はい……?」
「竜さんと樹羅ちゃんは血繋がってるわけじゃないんだよね?」
「はい……。樹羅ちゃんは化神に両親を……。その化神を退治したのが竜さんで、樹羅ちゃんを養子にしたと聞いております」
「そっか……。ふふ、普通にいい親子だよね!」
咲希……。
「なにこっち見てニヤニヤしてんだよ」
「別に~? 薫に樹羅ちゃんの小さい時のこと聞いてただけです~」
「なっ!? 変なこと言ってないよな薫!?」
「泣き虫だったんでしょ~。かわいいでちゅね~」
「こいつ~!」
「きゃ~薫助けて~!」
私の背に隠れる咲希でしたが、樹羅ちゃんは普通に回り込んで、咲希もまた逃げてと……。
「あの……私の周りをぐるぐるするのは……あの……」
「……お前達、遊ぶのはやめだやめ」
これまで、ずっと口を閉ざしていたお婆様が咲希と樹羅ちゃんを注意した。
二人はお婆様が苦手なのですぐ、その場に直立不動の体勢になり、素直に言うことを聞きました。
「はい! お墓じゃ遊びません!」
「お、同じく!」
「……そんじゃ、花火すっぺす」
「花火はいいんだ!?」
そんなわけでお盆のお墓参り恒例の花火が始まりました。
「なんか昼に花火するって不思議。普通夜でしょ。お墓でやらないでしょ」
「お盆といえば、こうでございます……。ああ、勝人。火に気を付けて」
「はーい」
煙の匂い。
溢れ出す火花達。
赤や、緑、黄色と様々な色が咲いては消えて、咲いては消えて。
「……」
────薫。
「お母様……」
眩しく煌めく光の中に、お母様の姿を見た気がした。
「……楓が、花火を好きだったねぇ」
「お婆様……」
「そうだったそうだった。楓の奴、夏は毎日花火するとか言うぐらいには花火好きでよ~。マジで毎晩付き合わされたぜ」
「毎日!? 薫のお母さんすごいね……」
「ふふ、はい……。楽しいことが好きな方でした……」
「薫~! こっちよこっち~!」
「まって、お母様……!」
笑顔で手を振るお母様に向かって、走っていました。
着物は走りずらい。
なのに、お母様はスポーツウェアを着ているかのような軽やかさで、よく突然走り出していたことを覚えている。
「はーいよくここまで走れました~。えらいえらい~ぎゅ~!」
「わっ……。えへへ」
「ほ~ら薫~。あれ見てあれ」
抱き抱え上げられて、木の幹に近付けられるとそこには大きなミヤマクワガタがいた。
「わっ……」
「さあ薫捕まえて!」
「うん!」
手を伸ばし、捕まえる。
大きな、大きなミヤマクワガタ。
「やった! お母様つかまえた!」
「イエ~イ! お母さんのカブト丸とバトらせましょう!」
お母様が飼育していたカブトムシ、カブト丸(33代目)は無類の強さを誇っていました。
近所の子供達が捕ってきたカブトムシ、クワガタが束でかかっても勝つぐらいには。
他にも、駄菓子屋に入り浸る。
夏はいきなり川や海に飛び込む。
冬は雪に飛び込む。
いきなり走り出す。
そこらの木に登りまくる。
猿と喧嘩する。
カラスと友達になる。
花火六刀流。
置くタイプの花火を手に持ってやる。
近所の子供達の間で流行っているカードゲームにハマる。
他にもいっぱいありますが、とにかく楽しいことが好きな方でした。
「な、なんかすごいね……」
「はい……。それはもう、ものすごく……」
「あれはわらす(子供)の時から凄かったからなぁ」
あれはまだ、家の数も少なくて町が田んぼばっかの頃……。
「そろそろ鍛練の時間だぞ楓~? どこ行った?」
学校から帰ってくるはずの時間になっても帰ってこないので探しに行っていたのだが。
「あれは……!」
畦道に楓のランドセルが転がっていたのを見つけた私は嫌な予感がしてたまらなかった。
近くにはため池もあって、まさかとか、化神に襲われたんじゃないかとか。
しかし……。
「ぷはぁ!」
「ッ!?」
すぐ目の前の田んぼから、何かが現れた。
全身泥まみれの、人。
化神の類いかと思い、怨面を取り出したが……。
「あ、お母さん!」
「……は?」
それは、泥まみれの楓であった。
もう何からつっこめば良いか分からなかった。
なので、まず何をしていたのかを訊ねた。
「……何を、していたんだ?」
「ザリガニ!」
あまりに泥だらけなので気付くのが遅れたが、楓は右手にザリガニを掴んでいた。
なかなかに立派な大きさのやつを。
「……まさか、ザリガニを捕まえてそうなったとかではないよな?」
「ザリガニ捕まえてたの!」
この馬鹿者が。
そう怒鳴る寸前だった。
「このザリガニ、お母さんみたい(に強くてカッコいい)!」
「ッ……!」
夏の空に、拳骨の音が響いたのを覚えている。
他にも隣町(約20km離れてる)まで歩いて行こうとする。
学校を脱け出して、近くの川原で昼寝する。しかもどこで覚えたのか川原に靴を揃えるような事までして。
いきなり走り出す。
ガキ大将を泣かす。
入るなってところに入る。
私の枕元にカブトムシを並べる。
凍った川の上でスケートする。
「化神の相手より苦労させられた……。手のかかる娘だった」
「あはは……。ほんと、すごかったんだ……」
お婆様が話し終えるとほぼ同時に花火は尽きて、火もまた消えかかって。
今日のお墓参りはこれでお仕舞いと、後片付けをしてお墓を後にした。
お屋敷の縁側で一人、なんとなく庭を見ていた。
薫は親戚やお客さんの相手をしなければいけないので、樹羅ちゃんと勝人は二人で鍛練だと言って裏山へ。
だから、一人。
頭の中で、ある人のことを考えながら。
夜舞楓。
薫のお母さんの話を聞いてから、色々と夜舞家について知らなくちゃなって思ったりもして……。
けど、そんなおいそれと聞いていいのかな……?
「お、咲希ちゃん。暇そうだな」
「竜さん! ……シャワー浴びてたんですか?」
竜さんは濡れた金髪の上にタオルをかけている。
あと全体的になんかホカホカだ。
「湯治だよ湯治。膝を治すまではいかんが、ケアは大事だしな。ちょっとの間、ここに厄介になる」
「そのうちどっか行っちゃうんですか?」
「ああ、まあな。宛もなく、ぶらりとねぇ。これまで、総本山付きで忙しかった分、羽を伸ばそうと思ってな!」
ハワイでも行こうかな~なんて楽しそうに今後のお休みについて考える竜さん。
……いつか、薫も戦いを辞める時が来るんだろうな。
「どした?」
「ああいや、全然なんにも……」
「そうか。……で、何してたんだ?」
「えっと、楓さんのことを……考えて。いや、想って?」
「ははっ。お義母さんになるわけだからな」
あははと笑って誤魔化すというか、なんというか。
そういう風に言われると恥ずかしいじゃん?
「まあ、お義母さんっつっても亡くなってるからな。会話も出来ねぇし、どんな人かも分かんねぇからな。ああして語ってもらわないと」
「そうですね。……私、薫のお母さんのこと聞いたの初めてなんです」
「……そうか」
「竜さんも楓さんのこと知ってるんですよね! 竜さんからのお話も聞きたいです!」
お願いすると、竜さんはタオルを首にかけ直して、私の隣に座った。
どこか、遠くを見るようにして。
「薫ちゃんとセンさんの話聞いて、人柄は大体分かったろ? 意味分かんねぇ奴だよ。しょうもないことで大笑いして、小さなことで大泣きして……。本能で生きてるような奴だった」
「人間らしい、みたいな」
「ははっ、そうだな、そうとも言う。だが……」
竜さんは言葉を溜めた。
なにか、話すのを躊躇うような迷いみたいなものがあったと思う。
「……あいつは誰よりも人らしいくせして、誰よりも御伽装士だった」
「誰よりも御伽装士……?」
「ああ。あいつの戦いは機械的と言ってもよかった。化神への憎悪だとか、恐怖とか……感情がなかった。誰しも、戦いの時はそれぞれいろんな感情を持つもんだが、あいつにはそれがなかった。蟻を踏み潰すみたいな感じでただ、化神を討つ。それだけ……」
俺が16でこの町に来た時にはもう、あいつはマイヤだった。
え?
なんでこの街に来たかだって?
俺の親父、先代のリンガだが膝をやっちまってな。
ほんと、なんの因果か俺と同じ左膝を。
んで、湯治と修行を兼ねてな。
俺も裏山で修行したんだがそれはそれはキツくて、それまでの比じゃ……って、今は関係ないな。
とにかく、実力差は圧倒的だった。
あいつは既に完成していた。
御伽装士として。
「夜舞神楽・楓」
蝶がひらりと舞うように、化神の破れかぶれの攻撃を難なく回避して背後に回る。
背中に突き刺された槍の穂先。
そして、化神の腹を七本の槍が突き破る。
「────血染紅葉」
噴き出す赤い鱗粉が、鮮血のようだった。
化神は滅し、青い夜の中に立つマイヤは変身を解いて俺に笑顔を向けた。
「見学はどうだった竜くん?」
その笑顔を見て、安堵したのを覚えている。
よかった、いつもの楓だと。
それと同時に恐怖に似たものも感じたよ。
あまりにも強すぎてな。
下手すりゃ、うちの親父よりも強いかもしれないって。
親父は歴戦の御伽装士だった。なのに、彼女の方が強いと思わされた。
無駄のない洗練された動き。確実に化神を滅するために、とにかく合理化されていた。
一言で言えば、対化神用兵器といったところか。
そう、兵士とか戦士っつーよりあれは、兵器って言った方がニュアンスは合ってる。
もし、俺の世代で最強の御伽装士は誰だと聞かれたら、俺は楓の名前を上げる。
それぐらいあいつは強かった。
だって、そうだろ?
兵士は兵器に敵わないんだから。
俺のリンガ継承の修行が終わってからは、楓と共に戦うようになったんだが……。
隣で戦う分、余計に実力の差を感じてな。自信喪失ってやつ?
俺がいる意味ある?なんてこと考えたりな。
意外だって?
俺にだって、脆い時期があったんだよ。
10代なんてそんなもんさ。
月日が経って、ある程度、楓との差ってやつと真っ直ぐ向き合えるようになってからは鍛練に励んだりして、順当に実力をつけてな。そろそろ独り立ちだって、違う地域に転属になって、そっから転がるように総本山付きになったもんだから、無駄じゃなかったな、あいつの隣で戦った経験は。
「おっと、また自分語りになっちまった。やだねぇ、この歳になると自分語りが増えちまう」
「えー、竜さんの話も面白いからいいですよ全然」
「そうか。まあ、咲希ちゃんみたいな若くて可愛い子相手だと話しちまうんだよ、おじさんってそういう生き物だから」
んで、ええと、なんだ?
すっかり総本山付きが板についてきた頃、樹羅を拾ったんだ。
俺に討伐命令の出た化神に両親を殺された樹羅を……。
そんで、いざ親の真似事をしようと思ったんだが忙殺されちまってな。
家はあったけど、全然帰ってねえし、そもそも住所を持っとくためだけの家だったし、そんなとこにちっせー樹羅を一人置いとくわけにもいかねぇし。任務に連れ歩くのも危ねぇしってんで、ここに預けることにしたんだ。
それが楓との久しぶりの再会。
結婚して子供が出来たってのは、風の噂で知ってたんだが……あいつ、親になっても全然変わんねぇでやんの。
薫ちゃんも話してたろ?
ほんと、あんな感じ。
親子ってよりすげぇ歳の差の姉弟って言ってもいいぐらい。
けどまぁ……ちゃんと母親にはなってたんだよ、あいつ。
ある時、薫ちゃんが外で一人遊んでるってんで、二人で迎えに行ったんだよ。
そしたらさぁ。
『男児! 童子! あぁん食べちゃいたい!!!』
なんか、変態な化神と出会してな。バケギンチャクだったか。
薫ちゃんのことを狙ってて、化神の触手がすごい勢いで襲いかかろうとしていた。
間に合わない。
そう、思ったんだが……。
「ッ!!!」
『なっ!?』
あまりの速さに、俺は目を疑った。
隣にいたはずの楓はいつの間にかマイヤになって、槍で触手を全部斬り捨ててよ、次の瞬間には、化神の身体が細切れになってた。
あまりの早業に化神撃破の世界最速記録じゃないかって、今でも思ってる。
しかも薫ちゃんには一切気付かれずにだ。
化神を倒した楓は、変身を解いてな、いつも通りのニコニコって顔で薫ちゃんを抱き抱えてたよ。
「わぁ!? お母様、いつの間に?」
「ふふ、薫を驚かせる作戦成功~。ほら、竜おじちゃんも来てるよ~」
「おじ様……!」
「よ、よう……。そろそろ家に帰る時間だぞ」
呆けてたんで、ちょっとぎこちなかったがそんな感じでな。
変身を解いた一瞬、楓の顔が滅茶苦茶おっかない顔になっててそれで……。
まあ、母は強しってやつだよ。
「なんか、本当に凄かったんですね……」
「母親になって、より強くなってた気がするよ。もう年齢的にはアラフォーだってのに。……ただ、まあ」
竜さんの言葉が再び詰まった。
なにか、言いにくいのか、思うところがあるのか。
「この話のちょい後に、亡くなっちまうんだ……」
ある晩、夜中に目が覚めてな。用足しに部屋を出たら書庫の明かりがついてて、消し忘れかと思ったら楓の奴がなにやら一生懸命調べ物してたんだ。
「なにやってんだ、こんな夜更けに」
「竜くん……。ふふ、ちょっとした研究中なの今」
「研究? なんの」
「この地に封印されてる化神バケゲンブのことは知ってるでしょ? あいつを、倒す方法の研究」
夜舞家が代々守り続けてきた封印。それを封印ではなく完全に滅すること。それが夜舞家子々孫々に伝えられてきた命題。
センさんと共に、あらゆる資料を調べ、封印されているバケゲンブを倒す方法を編み出すことに、あの頃の楓は力を注いでいた。
「薫の代には残さない。私の代で終わらせたいの」
「お前、それは……」
「男マイヤは早死にするって言われている。そのために、男でも女として扱い振る舞わなければならない。女の身体に近付くための処置を行うなんてことも、昔はあったそうよ。私も、母さんも……薫にそんなことはしたくないから」
私が、最後のマイヤになるつもりでいる。
あいつは、本気だった。
だが、それから数日後の事だった。
俺は任務で、福島にいた。
のんきに土産なんか買って、戻ってきたんだが……。
雨の日だった。
腹を貫かれて、お気に入りだって言ってた着物を自分の血で染めていた。
俺が戻ってきた時にはもう、死んでた。
化神と相討ち。
嘘だろ?って、思ったさ。
あの楓が?
相討ち?
ほんと、なにもかもが分からなくってな。
いつの間にか、葬式やって、火葬して、墓にあいつは入ってた。
そっから、色々おかしくなっちまってな。
薫ちゃんの厳しいなんて言葉じゃ収まらない修行と、肉体改造が始まった。
それから、薫ちゃんの親父も家を出ていった。
屋敷にいた装士達の数もどんどん減って、俺も寄りつかなくなっちまった……。
「そんで、考えないようにしてた。ここの事は。けど、まさかバケゲンブ討伐なんて事になるとは思わなかったな……。すげぇよ、薫ちゃん」
「……ほんと、いろんな事があって、成長したんです薫」
「ああ、そうだな……。ほんと、成長したよ。うちのボンクラ娘と違って」
いろんな戦いや、いろんなことを経験して、薫は強くなった。
私はそれを知っている。
ずっと、隣で見ていたから……。
「咲希、おじ様。お二人で何をされているのですか?」
偶然、薫が通りかかった。
お客さん達は帰ったのだろう。
「あ、薫。今ね、竜さんから、薫のお母さんのこと聞いてたんだ」
「お母様の……」
「ああ、悪いな。べらべら話しちまって」
「いえ、お気になさらず……」
「そうだ薫。あれ、まだ持ってるのか?」
あれ?
私が首を傾げていると、薫は「はい」と返事をして袖からお守りを取り出した。
あれは、前に私が貸してもらったお守りだ。
そういえば、薫のお母さんが作って友達にプレゼントして、その友達から薫に手渡されたって……。
「あっ!」
「おお、びっくりした……。どした?」
「ふふ、咲希は気付きましたか。このお守りは、かつてお母様がおじ様にお譲りしたもの。そして、おじ様から私に託されたもの……」
お母様が亡くなってから、私は泣いてばかりでした。
そんな折に、おじ様が……。
「薫、いつまでも泣いてちゃ駄目だ」
「おじ様……」
「……これは、お前のお母さんが昔、俺にってくれたものだ。お前が持ってろ。それがあれば、母さんがお前を守ってくれる。だから、もう泣くのはおしまいだ。な?」
「……はい」
涙を拭うと、おじ様が笑ったのをよく覚えています。
それからは、肌身離さずに持ち歩くように……。
「……立派になったよ、薫ちゃん」
「ふふ……。ありがたき、お言葉……」
「うんうん! 薫は立派だよ!」
お母さんが亡くなったこと以外にもいっぱい、辛いこともあったのに。
それでも薫は、マイヤとして戦って人間を守り続けている。
それは、これからも変わらないのだろう。
私としては心配になることも多いけど……。
「そうだ薫ちゃん。俺、あと数日したらちょいと出るわ」
「それは……。もう少し、ゆっくり湯治された方が……」
「はっはっはっ、湯治もいいが男にはもっと休まる場所があるんだよ。薫ちゃんも成人したら連れてってやる」
「成人したらって、薫を変なとこに連れて行こうとしないでくださいー!」
「おっと、嫁さんの前でする話じゃなかったな。じゃ、また今度詳しい話をな。そんじゃ、俺は部屋に戻るわ~」
こら逃げるな~!と飄々とした背中に叫ぶ。
「薫も、駄目だからね! そんなお店行っちゃ!」
「行きませんから、落ち着いて……」
ふう、と息を吐いた薫が私の隣に座った。
少し疲れた様子でいた。
「御客人の相手は、なかなか疲れるものです……」
「お疲れ様。そういうこともしなくちゃいけないって大変だよね」
「はい……。お婆様が、慣れるようにと……」
薫が正式に夜舞家当主になるのも近い。
高校を卒業するまであと二年。それまでは、そういった家の付き合いだとかはセンさんがやってくれるけど、慣れさせるのも大事。
家は民宿で接客はよくするけど、そういうのともまた違うだろうしなぁ。
……てか、嫁入りしたら私もそういうことしなくちゃいけないってことだよね。
わぁ……わぁ……(語彙力喪失)
「ところで、どうされたのですか? お母様について聞くなんて」
「いやぁ、ほら……。夜舞家のこと、ちゃんと知っておいた方がいいよな~って。こ、婚約者だし!」
「……ふふっ」
「な、なにかおかしいこと言った!?」
「いえ……。きっと、お母様も喜んでいることかと。お母様は、咲希みたいな人、大好きでしょうから」
「そ、そうかな……えへへ……」
「はい……。悪戯し甲斐がありそうで……」
そういう!?
確かによくイタズラとかドッキリとかの標的にされたけどさぁ。
「……咲希は私のお母様について知ったので、私に咲希のご家族のこと、教えていただきましょうか……」
「えー、そんな、普通だよ普通」
「私の普通は、人とは違いますゆえ……」
「え~、じゃあお母さんは……」
談笑に花を咲かせた。
薫がいっぱい質問してきて予想より何倍も話しちゃった。
なんだか久しぶりに穏やかな時間を過ごせた気がして、満足。
きっと、薫はこれからどんどん忙しくなるだろうから……。だから、こういう時間を大切にしていこう。
薫との、二人の時間を……。
猛る闘志。
滲む憎悪。
その牙は何のためにあるのか。
次回 逆鱗
忘れるな、その仮面に宿した意味を。