仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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第二夜 出会い、惑い

 蝶と人の出会いはいつの時代もつまらないものであったが今回ばかりは違ったようだ。

 なんだか、とても面白いことになりそうな予感がする。

 私は面白いことが好きである。

 そして、面白いことには少しばかり自分も加わりたいという欲求が強いのだ。

 さて、まずは二人を覗いていよう。

 最高に面白いことになる瞬間こそ、私の出番である……。

 

 

 

 

 

 月下美人という言葉を思い浮かべた。

 字の如く、月の下に美人がいた。同性の私が見惚れるほどの……。

 同性……だと、思っていた。

 

「い、いやいやいやいや夜舞さん!? よ、夜舞さんは女の子だよね!?」

 

 自身を男と言い張る美少女、夜舞薫。

 そんなはずがない。だって、だって、だって……。

 これまで、女の子として接していた。だって、制服だって私と同じのを着て、学校に来ていたし、まわりのみんなも女の子として接していた。

 

「見て分かるだろ。この身体、どう見ても男だろ」

 

 さも当然といったように夜舞さんは腕を広げて身体を見せつける。

 けど……。

 

「た、確かに胸は平らだけど夜舞さんが奇跡のような貧乳って可能性もあるでしょ!」

「なんか分からねえが、すっげえイラッてきたぞ。とにかく、男だってのは理解しろ。いいな」

 

 強制するような言い方。

 夜舞さんの声は変わらないのに、話し方が変わるだけで違和感と威圧感が私に叩きつけられる。威圧感というより、威厳? そっちの方が正しい気がする。

 

「さて、どうしようか。見ちまったからなあれを」

 

 見てしまった。

 見てしまったというのは、あの怪物とあの姿の夜舞さんのことだろう。

 夜舞さんが男という事実に忘れかけていたけど、あれらも常識から外れた不可解なものたち。

 そして夜舞さんの言葉の意味を考えると、あれらは見られてはいけないようで。見られては不都合なようで。

 それでは、見てしまった私はどうなるのか。

 映画やドラマならこういう場合は大抵、目撃者は消されてしまう────。

 

「え……」

 

 いつの間に、その人はいたのか。

 私の背後に女の人。

 私を逃がさないように腕を掴まれ、首筋には黒い板のようなものを突き付けられていた。その黒い板を凝視するとそれが刃であることに気が付く。

 やっぱり、私はここで……。

 

「やめろ、真姫」

 

 予想外の言葉だった。

 夜舞さんが、恐らく仲間であろう女性に「やめろ」と指示した。

 一体、どうして。

 私を殺すのではないのか。

 夜舞さんの言葉から数秒、私を捕らえていた女性はどこか渋々といった感じで私を解放した。

 解放されたのでその女性から離れる。そうするとちょうど、夜舞さんとその女性の間に立つような形に。

 そして初めて背後にいた女性の姿を見たが、夜でも明るい金髪を左側にまとめたサイドアップにしている。

 だがそれらよりも何よりも強い特徴がひとつ。

 一言で言えばくノ一。少々、ぴっちり過ぎではないだろうかというボディースーツのような忍び装束に白いマフラーを巻いていた。

 

「薫様、彼女をただ見逃すおつもりですか。目撃者の記憶は処理するのが決まりです」

 

 記憶を処理……?

 よかった、殺されるわけではなかったんだという安堵はほんの一瞬。記憶を処理するとはどういうことなのだろう。

 

「……こいつはいいんだ」

 

 くノ一の言葉にそう返すと夜舞さんは私に歩み寄ってきた。

 

「今日見たこと、誰にも言うなよ」

 

 それは命令であった。

 また、この命令を破ったらただではすまないということが暗に伝わってきた。

 

「う、うん! 絶対、絶対言わないから!」

「よし、言ったな。真姫、これでいいな。今日あったことをここの三人が黙ってればなかったことになる。お前も婆さんとかに言うんじゃないぞ」

「……承知しました」

 

 くノ一……マキさんはまた渋々といった感じで返事をする。色々と納得していないようだ。

 けれどそれはそれといったようにマキさんは夜舞さんに近付くと、どこから取り出したのか上着を手にしていた。

 

「それより薫様、お召し物を。暖かくなってきたとはいえまだ夜は冷えます」

「ん……」 

 

 用意された赤いダウンジャケットに身を包むと夜舞さんはマキさんに先に帰るようにと指示を出す。すると一瞬でマキさんの姿が消えた。

 ……本当に、忍者なんだ……。

 

「おい、なにボサッとしてんだ」

「え、な、なに!?」

「なにって、帰るんだよ。家まで送ってく。夜道は物騒だからな」

 

 これまた予想外の言葉に理解が追い付かなかった。

 優しい……のかな?

 

 

 

 

 家までの道中は無言だった。

 何も見なかったことにしているので色々と聞くのはいけない気がして。

 山道から舗装された道に出て少し歩くと家の明かりが。

 それにしても夜舞さんはよく迷わずここまで歩けるな。私には無理だ。

 

「あ、姉ちゃんおかえり!」 

 

 家に着くと啓太がけろっとした顔で出迎えた。

 忘れていたが啓太を探しに行っていたんだった。

 

「こら啓太! あんたどこほっつき歩いてたの!」

「な、なんだよ! ほっつき歩いてなんてないよ! ほっつき歩いてたのは姉ちゃんの方だろ!」

 

 え?

 それはどういう意味かと問いただそうとするとお母さんとおばあちゃんが玄関まで出迎えて説明してくれた。

 

「啓太ったら蔵で寝てたのよ」

「え?」

「咲希ちゃんが家出てすぐに晩御飯は~って出てきたもんだからもうびっくり」

 

 え?

 え?

 じゃあ、私が捜しに出かけたのはまったくの無駄足だったということ?

 

「今度は咲希ちゃんがなかなか帰ってこないからお父さんとじいちゃんは探すの続けてるけど、帰ってきたって連絡しねえとなぁ。……おや、そちらは咲希ちゃんお友達?」

 

 おばあちゃんが外にいた夜舞さんの姿を見つけて尋ねた。

 すると夜舞さんはいつものような笑顔を浮かべ挨拶した。

 

「こんばんは。加藤さんのクラスメイトの夜舞薫です」

 

 やはり、こっちの方が落ち着く。

 いや、だとしても不思議な感覚だ。つい10分くらい前まであんな男口調だったのに。

 

「あ、いやいや夜舞さんところの。孫がいつもお世話になっております」

 

 深々とお辞儀するおばあちゃんを見て、この前の話は本当なんだなと実感した。

 おばあちゃんは本当に夜舞さんのことを敬っている。

 

「こちらこそ仲良くさせていただいています。その、散歩をしていたら加藤さんが迷子になっていたので案内してあげてたんです」

「じゃじゃ! それはまた孫がご迷惑をおかけしました」

「いえ、まだ慣れない土地でしょうから仕方ありません。それでは私はこれで。……加藤さん」

 

 帰るという直前、夜舞さんは私を呼んだ。

 

「な、なに?」

「……また明日」

 

 にこりと微笑んで、家を出た。

 本当に、本当に夜舞さんのことが分からない……。

 

 

 

 

「おはよう加藤さん」

「お、おはよう……」

 

 翌日、夜舞さんはいつもと変わらない様子で私に接してきた。昨日のことなどなかったかのように。

 やはりあれは夢だったんじゃないのかと思うけれど、それはない。

 なにより昨日のあれを経験してから何事もなかったかのように接せられると困惑するし、妙に精神的に疲れるというかなんというか……。

 今日は用事があるとかで夜舞さんは急いで帰ってしまった。

 なので帰りは一人。

 久しぶりに一人で下校している気がする。なんだかんだずっと夜舞さんと二人でいたからか。

 そうだ、普通に友達してたんだ私達は。

 当然のことだけど、実感する。

 ……もしも、もしもだ。

 私も夜舞さんと同じように何かしらの秘密を持っていたとして、それを友達に打ち明けられるだろうか。

 きっと、難しい。

 打ち明けるにしても相当覚悟がいるだろう。

 昨日の夜舞さんもなし崩し的とはいえ自分が男であることを誤魔化さなかった。記憶の処理?とかもしないでくれた。

 もしかしたら、夜舞さんも本当は……。

 

「ちょっと、面貸しな」

 

 いきなり、声をかけられた。

 それも、古風な感じのヤンキーさんが言いそうな感じの。

 恐る恐る振り向くと、制服の上にスカジャンを羽織ったレディースさんが……。

 

「って、昨日のくノ一!」

「しっ! 声が大きい。薫様のご厚意を無碍にする気か?」

「ごめんなさい! けど、一体なんの用ですか……? もしかして、夜舞さんの言い付けを無視して記憶をどうにかする気ですか!?」

「そんなことするわけがない。薫様の指示に反するようなこと」

 

 ……どうやら、本当のようだとくノ一。確かマキさんといったか?

 改めて、用件を尋ねることにする。

 

「それで、何の用ですか……?」

「……ついてこい」

 

 ひとまず、言われたとおり彼女についていくことにする。

 なにか、私にとっても大切な分岐点になるような気がして。

 

 

 

 

 

 屋敷の自室で触診を受ける。

 上は裸で、身体のあちこちを触られる。

 この時間が自分にとってなによりも苦痛であった。

 

「どこにも異常は見当たらないよ。至って良好だ」

 

 かかりつけ医の清水はいつものように微笑みながら話す。

 この男も夜舞の分家筋。この町の病院の跡取りである。

 

「良好なのは自分がよく分かってるよ。大体、戦闘の度にこんな診察なんていらないだろうに」

「まあ、大事をとってね。それに、この町を守れるのは君しかいないんだ。そんな君に倒れられたら大変なことになるからね。町を守る君を守るのが医者としての僕の役目だよ」

 

 ……こういうことを平気で言う。

 だから女とよくトラブるんだ。

 柔和な顔立ちにメガネが似合うこの男は女を自然と引き寄せる。そして、とばっちりを食うのだ。

 

「やっぱり、蝶祭りが近くなると化神の出現頻度が上がるね」

「ああ。あれの封印が弱まって、流れ出る邪気に群がってな。おまけにそこらの化神より強くなりやがるから厄介だ」

 

 蝶祭りとは7月に行われる町の祭りである。

 伝統芸能なんて言われる夜舞神楽を踊るぐらいが特徴のあとは普通の祭りだが、この夜舞神楽に秘密がある。

 かつて、自分の先祖がこの地に封印した化神の封印を結び直すという目的があるのだ。

 毎年、この蝶祭りが近付くと封印が弱まり少しずつ邪気が漏れ出す。それが餌となり化神を育てるのだ。

 

「そうだね。だからこれからはより密に検診を行うからそのつもりで」

「は? 去年はそんなことしてなかっただろ」

「去年はね。今年からそうするんだ」

「俺が身体触られるの嫌いなの知ってるだろ!」

「それとこれとは話が別だよ。自分の身体のことを誰より理解してる君なら分かるだろう?」

 

 ……。

 なにも、言い返せない。

 

「投薬や身体の矯正によって君の身体は本来の成長を遂げられずにいる。それが君の身体に影響を与えないわけがないんだ。僕の研究では歴代の男のマイヤが短命というのはこれが原因だと……」 

「検診は終わったかね、先生」

 

 清水の話の途中、うちのばあ様が割って入り込んできた。

 化神よりも化神らしい風格のばあ様である。

 

「け、検診は終わりました。異常はありません……」

 

 ばあ様の圧の前に清水はたじたじである。まあ、大抵の人間はばあ様の前ではああなるが。

 

「そうか。薫と話があるんでもういいかね」

「え、ええ。それでは、私はこれで……」

「まいど、おおきに」

 

 そそくさと出ていく清水を横目にばあ様に視線を移した。

 

「お婆様、お話というのは」

「嘘だよ。私はあいつを好かんのでな。お前も検診が終わったなら鍛練しな」

「……はい、お婆様」

 

 ピシャリと障子を閉めてばあ様は部屋を出た。

 まったく、嫌なばあ様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 長い石階段を昇る。

 一体どこに連れていかされているのか私には見当もつかない。

 

「自己紹介がまだだったな。私は五十鈴真姫。二年生だ。あと薫様との関係は側近と言えば分かるか? 今風に言えばメイドだ」

 

 メイド……。

 いやいやくノ一でしょと言いたくなったのを堪える。変なことを言ったら怒られそうだからだ。

 なるほど、真姫さんはメイドくノ一ということか。

 いや、格好から察するにヤンキーっぽいのでヤンキーメイドくノ一が正しい。

 属性盛り過ぎでは?

 なんて変なことを考えていると石階段を昇り終えた。

 連れられてやってきたのは古い、大きな神社。

 夜舞神社というらしい。

 立ち並ぶ木々はどれも御神木なんじゃないかと思うレベルで大きく、幻想的な雰囲気が流れていた。

 

「ここは薫様のご先祖様が建立した神社で、蝶祭りの夜に薫様が夜舞神楽を踊る場所でもある」

 

 夜舞神楽……。おじいちゃんが言ってたやつか……。

 

「呼び出したのは他でもない。薫様のことでだ」

「夜舞さんのこと……」

「薫様は高校生になられてから毎日楽しそうになさっていた。これまでこんなことなかった」

 

 こんなこと、なかった?

 楽しそうにしていることが?

 

「薫様は男でありながら女として育てられ、生きてこられた。周りとは違う自分にずっと悩み続けていた。それ故に、他人とはあまり関わらないようにして……。けれど、お前がこの町に来たことによって薫様に変化が訪れた」

「えと、私……?」

「ああ、お前という友人が出来てから薫様は明るくなられた。お前のことを何度聞かされたかもう数えらないぐらいに」

 

 そ、そんなに話していたのか……。

 というか、どんな風に言われてるんだろう私。気になったので少し聞いてみる。

 

「あの、夜舞さんはなんて言ってました? 私のこと……」

「主に、面白い、変わってる、変だ、見てて飽きない。といった感想が多かったと記憶している」

 

 ちょっと待って夜舞さんの中の私ってどうなってるの。

 そんな変なこととか面白いことをしてるつもりはないんだけど!

 

「あと、昨晩お帰りになられたあとは行方不明が疑われた弟を捜しに飛び出して自分が迷子になるなんて傑作だと」

「ちょっと待って私は迷子になんてなってない!」

 

 なってないったらなってない!

 ……多分!

 

「ともかく、お前は薫様に気に入られたということだ。……薫様がああして素の口調で話す相手なんて、片手で足りる数しかいないんだ」

「え……」

「女として育てられている薫様は当然家でも女性として振る舞っている。あの男の口調が出るのは一人きりの時か真に心を許した人の前でだけ……。なのでどうか、これからも変わらず薫様と友達でいてあげてくれ。薫様があんなに幸せそうなのは初めてなんだ。あんな、普通の高校生みたいに楽しそうなのは……」

 

 頭を下げられて困惑した。

 まさか、そんなことを頼まれるなんて思ってもみなかったからだ。

 私は……。

 

「……大丈夫です。頼まれなくたって、私と夜舞さんは友達です。夜舞さんのこと、まだ謎だらけだし本当は男の子だとしても、もう一週間以上も前から友達なんですから! これからもっと仲良くなってみせます!」

「……はは。なるほど、薫様が気に入った理由が分かる気がする。頼むよ加藤」

 

 自然な微笑みを浮かべる真姫さんには最初に会った時のような刺々しさは感じなかった。

 真姫さんも優しい人なんだ。

 しかし、真姫さんの表情が一瞬で険しいものとなる。

 

「伏せろッ!」

 

 突如、爆ぜる地面。

 真姫さんが私の前に躍り出てスカジャンを脱ぐと昨夜と同じ忍び装束に早替わり。どんな仕組みだとかは今はなしだ。くノ一だからという理由にしておく。

 

「化神……!」

 

 黒い靄が少しずつ形を得ていく。

 昨晩のあいつと同じ、生き物が人型になったような怪人……。

 

『力が溢れる……!』

 

 そいつは赤茶色の甲冑に身を包んでいるかのようで、特徴的な角が頭部から生えており、その角と似た剣を握っていた。

 

「バケカブトとでも言ったところか……。結界がやはり脆くなって……」

 

『女よそこを退け。そうすれば無傷でいられるぞ』

 

「誰が退くか! ここは神聖な場所、お前のような穢れが入り込んでいい場所ではない!」

 

『神聖だと? 笑わせる。ここに眠るものを知らないわけではないのだろう』

 

 真姫さんと怪人の会話についていけない。

 なにも知らないから当然だ。

 

「加藤、お前は逃げろ」

「そんな、真姫さんはどうするんですか!?」

「薫様が来るまで持ちこたえる。ここは絶対に守らないといけない場所なんだ」

 

 覚悟を秘めた顔だった。

 夜舞さんが来るまで持ちこたえるということは真姫さんには怪人を倒すことが出来ないのだと理解した。

 時間を稼ぐことしか出来ないのだと。

 

「私も手伝います!」

「なに言ってんだ馬鹿! お前に何かあったら薫様に怒られるのは私なんだぞ! ……だから、お前とここは守りきる。これでも夜舞家を支える五十鈴家の人間だ、五十鈴流忍術の見せどころ」

 

 クナイを手に駆ける真姫さんは速かった。バケカブト?を翻弄し、全方位からクナイが飛ぶ。

 バケカブトはその場から一歩も動けないでいる。

 これなら、時間稼ぎだって容易に……。

 そう思った矢先、バケカブトがその剣の切先を地面に叩きつけると地が震えた。地だけではなく、空間まで震えたようだ。

 その衝撃波を近くで食らってしまった真姫さんは吹き飛ばされてしまった。

 

「真姫さん!!!」

 

『ふん……他愛ない。御伽装士でもない貴様に何が出来る』

 

「ぐっ……」

 

『我が剣の錆びにしてくれよう』

 

 剣を振り上げるバケカブト。

 私は咄嗟に……真姫さんの前に立っていた。

 真姫さんが殺されようとしているのを黙って見過ごしていられなかった。

 しかし、このままでは私が殺されてしまう。その恐怖から視界は塞がれた。

 だが、耳は確かに拾っていた。

 ────バイクのエンジン音を。

 

『ぬうッ!?』

 

 バケカブトの身体に直撃する前輪。

 オフロードバイクを駆る和装のライダーは続けてバイクをスピンさせて後輪をぶつけてバケカブトを下がらせた。

 

「真姫! 加藤! 大丈夫か!」

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、ライダー……夜舞さんは真姫さんに駆け寄った。

 

「薫様……。申し訳ありません……私……」

「謝るな、よくやってくれた。あとは任せて休んでろ。……加藤、お前も……」

 

 夜舞さんは私に何かを言いかけたが途中で目を逸らし、声に出すことをしなかった。

 そして、夜舞さんはバケカブトと対峙する。

 

『また、女か……』

 

「違うな」

 

 そう言うと夜舞さんは上をはだけさせ、自分の身体をバケカブトに見せつける。自分が、男であるということを証明するかのように。

 

「よくも真姫をやってくれたな……!」

 

 夜舞さんは真姫さんに怪我を負わせたバケカブトに怒りをぶつける。怒りのままネックレスを引きちぎるように手に取ると、呪いのような言葉を口にした。

 

「オン・ビシャテン・テン・モウカ」

 

 言葉が紡がれると、ネックレスの装飾が巨大化しお面となった。

 昨晩見た、蝶の面に。

 

「舞え、マイヤ。────変身」

 

 面を被った夜舞さんの身体に赤い、蝶の羽のような紋様が全身に浮かび上がる。どこか、苦しそうな夜舞さんであったがすぐに呼吸を整えバケカブトを睨み付けていた。

 紫色に煌めく蝶の戦士との再会である。

 

 

 

『それが、御伽装士というものか』

 

「御伽装士マイヤ。この名、頭に叩き込んどきな。ハッ!」

 

 駆け出すマイヤ。

 直線的な動作はバケカブトからしたら迎撃しやすいものである。剣を握りなおし、自身の間合にマイヤが入った瞬間、斬る。

 だが、斬ったのは空。

 何故だ、絶対に当たるはずだったとバケカブトは戸惑う。

 マイヤはバケカブトの間合に入った瞬間、バックステップで宙に舞い剣閃を回避。隙だらけのバケカブトの頭部を蹴り飛ばし、着地した。

 更に続けてマイヤの拳がバケカブトの身体に叩き込まれる。

 負けじとバケカブトが剣を振るうが力任せな剣は舞うように戦うマイヤを捉えることは出来ない。

 

『ぬう……これが御伽装士の力……。ここは一度退かせてもらう』

 

 バケカブトは背中の羽根を広げ、森の影へと姿を消そうとするがマイヤがそれを許すはずがない。

 

「逃がすかッ!」

 

 乗ってきたバイク「アラシレイダー」に跨がり加速。

 山道が多いこの町で戦うために開発された高性能マシンである。

 そんな高性能に更にマイヤは性能を盛り付けた。

 

「退魔道具、風神の風袋」

 

 風神の風袋はその名のとおり袋であるが、術により形態を変化させアラシレイダーの後部に合体。ブースターとなり強風を伴い更にマイヤは加速する。

 

「退魔道具、八咫烏の羽」

 

 続けて呼び出したのはクナイである。

 バケカブトに投擲するが躱されてしまう。

 

『どこを狙っている!』

 

「ちゃんと狙ってるさ。その証拠にほら、次の戦場だぜ」

 

『ぬ……?』

 

 瞬間、バケカブトの視界が一気に開けた。

 木々の生い茂る森を抜け、開けた場所へ。旧鉱山跡地である。

 人払いの結界はしているが、普段から人が寄り付かない場所であるし広く開けているのでのびのびと戦えるこの場所にマイヤはバケカブトを誘導していたのだ。

 

「この町は俺の管轄だ。誘導ぐらいどうってことない」

 

 最後のクナイを投擲。

 これは確実に当てるものだと意気込み、バケカブトの羽根を貫いてみせた。

 飛行出来なくなり、地に伏すバケカブトを見ながらマイヤはアラシレイダーを降りる。

 もう、トドメを刺す気でいるのだ。

 

「退魔道具、雷神の雷鼓」

 

 マイヤの背に装備される鼓の輪。

 今のマイヤの姿を人が見たら十人中十人は雷神と言うであろう。

 

「退魔覆滅技法」

 

 右手を空に掲げ、力を高めていく。

 身体に電撃を帯び、空中には雷を凝縮した円状の光が形成される。

 

「────雷電疾走!」

 

 空中で形成したエネルギーをバケカブトの頭上に向け放ち、その後、マイヤは地面を殴りつけた。

 地面は火花を散らし、電撃がバケカブトへと向かう。そして、頭上からは稲妻、足下からも電撃。上下からバケカブトを祓う雷が放たれた。

 

『ぬわぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!!!』

 

 バケカブト爆散。

 マイヤは務めを果たしたのだった。

 

 

 

「……っ」

 

 変身を解除すると、少しよろけてしまった。

 退魔道具を三つも使えば当然か。それにしてもここまでやるとは、自分が思っていた以上に自分は怒っていたらしい。

 それよりも、早く戻って真姫の手当てをしないと……。

 

 

 

 

 夜舞さんが夜舞神社から離れてから真姫さんの手当てをしてあげた。そう言っても薬を塗って包帯を巻いてあげたぐらいだけど……。

 ほどなくして夜舞さんが戻ってくると急いで真姫さんに駆け寄って無事を確かめていた。

 

「真姫、大丈夫か?」

「大丈夫です、これくらい……」

「無理するな。治るまで側近務めも休みにするから……。真姫にいなくなられると困るんだ。話し相手がいなくなる」

「私にはもったいないお言葉です……」

 

 本当に、本当に夜舞さんは真姫さんのことを大切にしているのだとこの光景を見て思わされた。

 真姫さんが言っていた、夜舞さんが素を出せる数少ない人物の中には真姫さんも入っていて、そんな人だから夜舞さんもすごい大事にしていて……。きっと、怖かっただろう。そんな大切な人を失ってしまうかもしれないと。

 

「おい、加藤」

「へ?」

「へじゃない。お前は何をしてるんだ殺されるところだったんだぞ!」

 

 ど、怒鳴られた。

 本気で怒られている……。

 

「あ、あれは身体が勝手に動いて……」

「言い訳するな! もう二度とやるなよ! というか逃げろ! 化神見たら逃げろ! たく、なんでお前は昨日今日と化神に襲われるんだ……。人口が少ない町とはいえそんな奴は初めてだ……」

 

 何か、すごい運の持ち主なのかもしれない。

 あまりいい運勢とは言えないだろうけれど。

 

「薫様そう怒らないであげてください。それに、本当に言いたいことはそんなことではないでしょう?」

 

 真姫さんがそう言うと夜舞さんは怒りを鎮めた。飼い主に叱られたワンちゃんのようだ。

 けど、本当に言いたいことってなんだろう?

 気になって夜舞さんを見つめる。すると夜舞さんは顔を背ける。背けられたので私も移動して夜舞さんを見つめる。背けられるの繰り返し。

 夜舞さんの頬が少し赤みを帯びていることには気付けた。

 そして、ようやく意を決した夜舞さんは口を開いた。

 

「……その、真姫を守ろうとしてくれて、ありがとう……。あと、手当ても……」

 

 小声ではあったが私の耳にはしっかり届いていた。

 言い終えた夜舞さんはそっぽを向いたけれど、その耳が真っ赤になっているのを見逃すほど私は鈍くはないのだ。

 ふふーん。

 このツンデレめ。

 

「え? なに聞こえなかったんだけどー? もう一回大きな声で言ってもらわないとなー」

「んなッ!? お前、ちゃんと聞こえてただろ!!!」

「なんのことかなー? 私には分からないなー」

「く……加藤ぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 夜舞さんに追いかけられる。

 捕まっては恐ろしい目に合うだろうと即座に理解したので逃げることにする。

 けれど、この鬼ごっこはとても楽しかった。

 素の夜舞さんが見れたから、女の子として振る舞う夜舞さんも好きだけど、こっちの夜舞さんの方が親しみやすい。

 だから、きっとそうだろう。

 この時から私は女だろうと男だろうと関係なしに、夜舞薫という人物のことを好きになっていたのだ。

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